だれも疲れさせず、楽しんでやろう
100年後の阿字ヶ浦海岸づくり

茨城県で活動を起こしたい人を支援するプログラム「STAND IBARAKI」。2020年8月から2021年2月にかけて、茨城県庁主催・茨城移住計画の企画運営で行われました。応募のなかから活動を評価された7組には活動資金が提供され、MVPを獲得した3組は複数のメディアで紹介されます。この記事では、最終プレゼンテーションで審査員6名から支持され、見事審査員賞を受賞した「イバフォルニア・プロジェクト」をご紹介。創設メンバーの小池さんにお話を伺います。

『イバフォルニアプロジェクト』プロフィール
『100年先も豊かに暮らせる海(街)をつくる』をコンセプトに活動。海と共に暮らすライフスタイルを提案し、海岸の通年利用を図る。近隣の飲食店や雑貨屋が参加する「イバフォルニア・マーケット」の企画運営を中心に、ビーチクリーン、コワーキングスペース「イバフォルニア・ベース」の運営、地元事業の支援などを行う。2021年からは「Living Anywhere Commons」の拠点として、個人や企業の定住受け入れを行っている。

 

かつて栄えた阿字ヶ浦を、美しく拓けた場所へ

“イバフォルニア・プロジェクト”

茨城県の海岸をカリフォルニアのビーチように、誰もが自由に使える場所として長く残していく。そのために、2018年の2月に立ち上がったプロジェクトです。小池さんを含めた4人で立ち上げ、7〜8名の中心メンバーや、その時に関われる町の人たちも一緒に活動をしています。

茨城県ひたちなか市は、音楽フェス『ロック・イン・ジャパン・フェスティバル』や、春には広大な丘がネモフィラのブルーで一色になる『国営ひたちなか海浜公園』で有名な場所。茨城県を代表する特産品のひとつである『干し芋』は、全国一位の生産量を誇ります。

都心から車で1時間半、電車でも2時間ほど。茨城県屈指の海水浴場として人気の阿字ヶ浦海岸の目の前にあるのが『イバフォルニア・ベース』です。

夏の海水浴客だけが使う場所じゃなく、通年いろんな人が使える場所にしたい。コワーキングスペース、イベントスペースとして誰でも利用できるよう、元あった海の家『朝日屋』を改装して作られました。


撮影日、仕事をしに訪れていたSTAND IBARAKIファシリテーターの鈴木さん

基本は小池さんや他のメンバーが立っていますが、時にはコミュニティ・マネージャーとして、ゲストに立ってもらうこともあるそう。

「海=夏の海水浴だけじゃありません。それ以外の季節も来てもらえるよう、いろいろやってみています。これまではキャンプ場の開拓や運営をしていましたが、今はマーケットの運営を定期的に行いながら、ワーケーションや企業合宿の誘致を目的に『Living Anywhere Commons』の拠点を立ち上げたところです」

Living Anywhere Commonsは、個人または企業でメンバーシップ登録をすれば、全国の13拠点*で仕事&宿泊ができるサービス。

地域に長期で滞在できることが魅力で、ひたちなかではワークスペースとして『イバフォルニア・ベース』、宿泊施設として『民宿 満州屋』もしくは『阿字ヶ浦クラブ』を利用することができます。

*2021年3月現在

「年に一度行っている『イバフォルニア・マーケット』は、2019年の初開催時にクラウドファウンディングを行い、150万円を超える支援が集まりました。当日は50店舗ほどの飲食店や雑貨屋に出店していただき、ヨガや音楽ライブなども行いましたが、想像を絶するほどたくさんの人に来ていただいて。あの光景には驚きました」


阿字ヶ浦海岸に多くのファミリーや若者が訪れた日(提供写真)

大規模なイバフォルニア・マーケットは年に一度、15店舗ほどが出店する『阿字ヶ浦サンデーマーケット』は年4回ほど開催。2020年はコロナ禍の影響で2回ほどしか開催できなかったものの、少しずつ根付いてきているといいます。

「阿字ヶ浦って、昔はすごく栄えていたんですよ」

阿字ヶ浦をはじめとするひたちなか市の海岸沿いは、1980年代はひと夏で300万人以上もの海水浴客が訪れるスポットでした。2年連続、日本一人が集まるビーチだったそうです。


1980年代、海水浴客で溢れていた阿字ヶ浦のビーチ

90年代のサーフィンブームまでは多くの人が訪れていたものの、2000年代に入って激減。防波堤が作られたことで潮の流れが変わり、砂浜がまるごと無くなってしまったんだそうです。波もなくなり、サーファーも寄りつかなくなってしまいました。

「今は毎年10万人弱が海に訪れていますが、それでもピーク時の30分の1です。近年の海水浴離れもありますが、そもそも海に入りたい人ばかりじゃない。夏の海水浴以外の新しい活用法が必要なんです」

 

海の新しい価値を、みんなで創っていく

イバフォルニア・プロジェクトの発足は、2018年3月に行われた勉強会『ひたちなか市の海岸のあり方を考える会』がきっかけ。

観光協会の呼びかけで、宿泊や観光業に関わる人が召集されます。阿字ヶ浦をはじめとする海岸エリアをどうしていくか、話し合いが行われました。

「この会合、最初はハッキリとした目的も知らされず、なんとなく地域の若手(30〜50代)が集められたんです。後々知ったんですが、毎年お金をかけて行われている海岸の整備を抜本的に見直し、国から予算をもらってきちんと改修できるよう、提案の準備をしていこう。そんな目論見があったみたいで」

しかし、町に人が訪れていて活気がある状態じゃなければ、国から予算をもらうのは難しい。どうすれば海岸沿いを盛り上げていけるのか、初回の会合では良い案が出ず、なんとなく話し合いは終わってしまったそうです。

しかし、2回目の会合でひと筋の光が。

イバフォルニア・プロジェクトの発起人である小野瀬さんが、構想案を持ってきたのです。

「小野瀬くんは同じひたちなかの生まれ。今は地元に戻ってきているけれど、一度海外に出て暮らしていた経験があるんです。オーストラリアや各国のビーチと、地元茨城の海を重ねて、感じるものがあったようで。阿字ヶ浦の海岸をもっと美しく過ごしやすい場所にしたいと考えていたプランを持ってきてくれました」

現状に即した案しか出てこないなか、世代も若く、地域のしがらみにも捉われない小野瀬さんの自由な提案にみんなは前向きに。

「実現可能かどうかはさておき、壮大で夢があるプロジェクトだったんですよね。じゃあ、それを目標にコツコツやってみようかと、動き出すことになりました」

こうして地元の若手経営者が集い、イバフォルニア・プロジェクトが始まります。

2年ほど活動を続けてきて、阿字ヶ浦に訪れる人は少し増えてきたと話す小池さん。

マーケットへの参加を機に阿字ヶ浦に足を運ぶようになった、グラント合同会社の澤村さんも、阿字ヶ浦の変化を感じるといいます。


グラント合同会社で営業部長を務める澤村さん

「会社も僕も、普段は隣の勝田エリアにいるので、阿字ヶ浦に頻繁に来ることはなかったんです。マーケットを機に足を運ぶようになって、小池さんや、他の出店者とのつながりもできて、すごく拓けましたね。まだ海水浴シーズンじゃないのに海岸に若い子が座っていたりしますし、最近阿字ヶ浦が楽しいらしいとよく耳にします」

個人では海外古着の輸入販売もおこなう澤村さん。近々、イバフォルニア・ベースの場所を借りて古着のイベントをする予定だそう。

個人としても会社としても、マーケットに参加したことは大きかったといいます。

「周りの海の家もそうですが、少しずつ阿字ヶ浦で商売をしている人の意識も変わってきていると思うんです。ただ、人を呼ぶアイデアがなかったり、悩んでいたりする部分もあるので、一緒に考えて、アドバイスできることはしていきたいなと思っています」

周囲のサポートはしつつも、何か動き続けなければ状況は変わっていかない。マーケットを含め、自分たちが先陣を切ることで、後に続く人が増えていってくれたら嬉しいと話します。

「実店舗を出したいという相談もあったりするんです。でも、このあたりの物件は規模が大きくて、家賃も高くなりがち。例えば大きな物件の中を改装してテナントを分けて貸せるようにするとか、若い人が出店しやすい環境を整えていかないとですね」

家業として、阿字ヶ浦で民宿を営んでいる小池さん。

「海での商売に長く携わる身として、海をもっと拓けた場所にして活用させながら守っていきたいなと。そんな使命感があります」

 

町のためじゃなく、自分のためにやっていい

新しい取り組みを進めながら、既存のビーチクリーンやマーケットの開催を継続していく。

常に動き続けるイバフォルニアチームですが、活動において大切にしていることがあるか、伺ってみました。

「僕たち結構自分のためにやってるんですよ。利己的なんです」

小池さんが営む民宿では、お母さんが料理を担当しているそう。自身は料理ができないことを考えると、今後、阿字ヶ浦一帯に飲食店が増えてくれないと困るといいます。

プロデューサーを務める小野瀬さんも、根底には、自分の理想の生活や環境を作りたい、楽しく生きたいという思いがあります。

「だから僕たちは、それぞれの自己都合も含めて、やりたいからやっている。これが、海のため、茨城や阿字ヶ浦のためと頑張りすぎちゃうと、疲弊してしまうんです。町づくりや地域活性に携わるプレイヤーが疲れて、プロジェクトが続かない問題はよくある。実際に阿字ヶ浦でもそんな姿を見てきました。イバフォルニア・プロジェクトは、そんな風にしてはいけないと思っています」

 

地域活動は、どうしてもボランティアになりがちです。しかし、続けていくと行政から予算が出るようになり、イベントが継続できるようになってくる。誰もが無理のない状態で続けられたらいいですが、トップで頑張る人の負担はどんどん大きくなってくるといいます。

「疲弊するくらいならやらない方がいいんです。だから僕たちは、あくまで関わりたい人が関われるように間口を開いておくだけ。強制はしません。参加したいときに参加するくらいのゆるい状態で、持続していく方法を考えていきたい」

時代が良いときも悪いときも、阿字ヶ浦の海をそばで見てきた小池さん。

決して楽ではない長期のプロジェクトですが、ゆるやかに、自分たちが楽しみながら、“イバフォルニア”をめざしていきたい。そう語ってくれました。

 

ーーー取材後記

海岸には木々やフードカーが立ち並び、ギターを奏でる人や、コーヒーを片手に散歩をする人々の姿が。まるでリゾート地のような、快適で自由な海・街をめざすイバフォルニア・プロジェクトですが、実現した姿を想像すると心が踊ります。

澤村さんや私たち取材陣、STAND IBARAKIの他のチームにも、積極的に耳を傾けてくれる小池さん。気になる場所には足を運び、良いと思ったことはやってみるその姿はとても自然体でした。

100年後に向けてゆっくり、でも確実に変わってきている阿字ヶ浦。夏を待たずして、海を訪れてみるのも面白いかもしれません。

 

STAND IBARAKIhttps://standibaraki.jp/
イバフォルニア・プロジェクトhttps://ibafornia-project.jimdosite.com/
└ Instagramhttps://www.instagram.com/ibafornia.project/

 

文・編集:古矢 美歌
写真:黒崎 健一