神奈川県西部にある小田原市は、「森里川海オールインワンのまち」。
新幹線で都内へも楽々通勤できる。
地元愛にあふれた住民の方々に、魅力をうかがいました。
東京駅から小田原駅までは、新幹線で約30分。新宿駅から小田急やJRの特急を利用しても、1時間10分ほど。神奈川県小田原市は、都心からのアクセスが抜群によく、通勤できるのだ。
小田原と言えば、歴史ファンにとっては、難攻不落の要塞「小田原城」。しかし、温泉好きにとっては、箱根への通り道というイメージが強く、わざわざ小田原で下車する人は少ないかもしれない。
ところが、小田原に住む人は小田原を愛している。もう、ゾッコンだ。
地元の人も移住者も、会う人、会う人、小田原の魅力を語り始めると、話が尽きない。小田原が好きだ、もっと盛り上げたいという団体も大小無数に存在する。
その理由としてよく耳にするのは、自然とまちと人の距離感がちょうどいいこと。小田原駅から3キロ圏内には、海、山、川がある。駅を挟んで北へ進めば丹沢山地、南は相模湾、町の中心に酒匂川が流れる。海、山の幸も豊富で地産地消の意識も高い。
小田原出身の人は、都会へ出ても、居心地のよさから戻ってくる人が多い。そのため、人口約19万5000人ながら、親が知り合い、友だちの友だちが知り合いといった具合に、誰かしらとつながっていることがよくある。とは言え、近所づきあいがものすごく密接なわけでもなく、無関心でもない。東京駅からもっともハードルが低く、田舎らしさが味わえる移住先かもしれない。
【01】小田原市企画部 企画政策課企画制作係主事 中川あゆみさん
がんばっている商店街やまちの人を応援したい
小田原愛が止まらない。
28歳の若きスーパー公務員に出会いました。
「おはようございます。小田原大好き人間の中川です!」
人々が行きかう小田原駅で、明るく、ハキハキと、個性的な自己紹介をしてくれたのは、小田原市役所企画政策課の中川あゆみさん。
地域の魅力を発掘し、事業化に結びつける県西地域活性化プロジェクトなどを担当している。まだ28歳と若い。
お会いした日は、仕事ではなく、中川さんの自主企画イベント「小田原まちあるき」の開催日で、『ブラタモリ』小田原編の取材協力者・山本篤志さんを招き、小田原市民や東京など市街からやってきた知人と天守閣や総構
「まちなか市場実行委員会」であり、「小田原ラボラトリー」で小田原の公共空間を活用、さらに、おもしろいイベントや祭りがあれば、積極的にかけつける。それゆえ、顔がとにかく広い。こうした活動を始めたきっかけは、商店街好きから。
大学時代に商店街を専門に研究し、地域やまちのことを思い、行動している人にたくさん出会う。やがて「がんばっている商店街やまちの人を応援したい」と思うようになった。最初はまちづくり、という言葉に惹かれ不動産やディベロッパーなどを考えていたが、ちょっと違うなと感じた。
「支えたいのは、建物ではなく、人だったんですよね」
そこで、就職先に市役所を思いつく。大学時代は、京都に住んでいたが、当時つき合っていた彼が、東京に就職したいと聞き、都内に通勤できるまちを探した。きっかけは乙女だが、場所選びは緻密だ。
人口規模があまりにも大きすぎると、人との距離が遠くなってしまう。小さすぎると、まちの要素や財政規模が限られてくる。地方自治の適正規模は、人口30万人と聞いていたので、20〜30万人と決めた。
商店街がありいろんな魅力があるけれど、突出したものがなく、でもこれからおもしろくなるんじゃないか。その条件すべてをクリアしたまちが小田原だった。
「研究していた彦根市も城下町だったので、これはもう運命なんじゃないかと(笑)、勝手に思うようになりました。」
それからは、SNSで小田原関係でつぶやいている人をどんどんフォローした。多くの人がおもしろそうなイベントの企画や情報発信をしていて、この輪のなかになら、入っていけそうかなと思った。
そして、見事小田原市役所に就職が決まったが、配属されたのは、水道局だった。そこで、仕事は仕事で頑張り、プライベートで商店街にかかわることにした。小田原好きが集まる「オダワラブ」の知り合いに、商店街で働く人を紹介してもらったり、遊びに行く日々がしばらく続いた。
転機は、知人から「風のたより」という、各地の地域づくりを発信するイベントの主催を任されたことだった。利根川にある、旧片浦中学校で開催される予定で、市役所の企画政策課に足を運び、メディア対応などの相談をすると、全く畑違いの新人相手にていねいに対応してもらえた。翌々年、今の部署へ異動になった。
尽きぬ小田原愛、活動のモチベーションについて聞いてみると、
「一緒にいて楽しい人が大勢いるので、みんなで何かおもしろいことをやりたいから、でしょうか」
と肩ひじ張らない答えが返ってきた。中川さんのスタンスは一緒に楽しむこと。そんな市役所職員がいるまちは心強いに違いない。
文:上浦未来 写真:服部希代野
全文は本誌(vol.21 2017年2月号)に掲載