トマトやほうれん草など、私たちの普段の食卓で当たり前に食べることができている食材を育てる、農業という仕事。
現在、高齢化による離農が進み、2015年には197.7万人だった農業従事者が、令和2年度には152万人にまで減少しました※1。農業を持続可能なものにしていくために、「きつい・大変・稼げない」といった農業のイメージを払拭し、将来の担い手を増やしていく必要があります。
今回、同じ思いを持つ食べチョク(ビビッドガーデン)やおてつたびなどの民間企業7社が集結し、農水省の補助事業を活用して「農業の魅力発信コンソーシアム」が設立されました。
※1出典:農林水産省
※2農業の魅力発信コンソーシアムについて:https://yuime.jp/nmhconsortium/
「農業の魅力発信コンソーシアム」は、これまで農業に縁のなかった学生が魅力的な農業者のもとで、農業のリアルに「触れる・知る・つながる」ことで、農業に関心を持つ人を増やすことを目指しています。
3/23(水)・3/28(月)に、農業の魅力を発信する取り組みの一環として、学生が生産者のもとで収穫から梱包・発送までを行い、一日生産者として働く体験型農業イベント「食べチョクおたつたび」が開催されました。
(今回参加した学生の皆さん)
・草野 帆乃香さん(20歳)<写真左>
獨協大学所属。外国語を専攻。以前、おてつたびで農業をやったことはあるが、本格的に挑戦するのは初めて。・佐々木 凪さん(22歳)<写真真ん中>
筑波大学大学院所属。食品加工工学を専攻。農業×地域おこしに興味がある。・和久津 寛人さん(20歳)<写真右>
早稲田大学所属。サークルで農産物直売所やマルシェに立ち、農家さんの販促サポートを行なっている。
農業を「憧れの職業」にしたい
今回、学生を受け入れたのは、千葉県我孫子市で有機栽培で野菜を育てる、ベジLIFE!! 代表の香取さん。年間50品目150種類の野菜を育て、産直通販サイト「食べチョク」を通じて全国に販売しています。そもそも、香取さんが農業の仕事に就いたのはなぜなのか。
(ベジLIFE!! 代表の香取さん)
香取さん「私は7年間、商社勤務で海外営業を担当していたのですが、子どもが生まれたタイミングで国内で子どもの成長を見ながら働きたいと思うようになり、実家の代々続く農家を継ぐという選択肢を考え始めました。実際に祖父母からは、”農業はきついし大変”といったことを聞いていて、農業に対してポジティブなイメージをあまり持っていなかったんですよね。でも”人間の健康は食べ物でつくられる”と私は思っていて、その食べ物を作る農業の仕事は、私たちにとって無くてはならない素敵な職業だと思うんです。自分の代で、祖父母が抱いていたようなマイナスなイメージを払拭して、多くの子どもから憧れる職業にしたいという思いで、2016年に農業を始めました。」
香取さんは、若い世代に農業という仕事を体験してもらい、農業に少しでも興味を持ってくれる人を増やしたいという思いで、日ごろから研修生の受け入れや小学生向けの農業体験などを、積極的に行っているそうです。
「きつい、大変、稼げない」のイメージを払拭する、香取さんの農業について聞いてみました。
香取さん「私が農業を始めて一番良かったと思うのが、子どもに農薬を使わない野菜を食べさせてあげられることと、成長を側でみれることです。商社に勤めてた時は、飲み会があり家族との時間をあまり取れていなかったのですが、今は日暮れと共に仕事を終えてみんなでご飯を食べ、21時には就寝しています。おかげで健康的になり風邪を引かなくなりました。今、販売先は食べチョクがメインで、野菜セットを2000〜3000円で出しているんですが、定期購入してくださる方も多いので、どれくらい作るか計画も立てやすく、安定して農業ができています。」
香取さんは、定期購入しているお客さんに直筆のハガキでアンケートを送り、感想を聞いたり、「この野菜を入れて欲しい」などのリクエストをもらったらその意見を取り入れて作る野菜を増やしたりなど、お客さんに喜んでもらうことを一番に心がけています。販売手法の工夫次第で、安定的に売上を作れるという話も勉強になりました。
初めての農業体験と、農業を魅力的な職業にするために何ができるかをみんなでディスカッション
農作業体験では、レタスやパプリカの種を植えたり、ブロッコリーを収穫。学生さんたちは、ブロッコリーのどの辺を切ればいいのかを香取さんから教えてもらいながら、夢中になって作業を行いました。
香取さん「できるだけ根っこの方を切るのがポイントです。なぜかというと、根っこと茎の間に出てる脇芽からできるブロッコリーは小さくなってしまうので、大きなブロッコリーが育つよう根元から切るようにします。」
協力してブロッコリーを収穫(左:佐々木さん、右:香取さん)
オデッセイの種を植え付け(左:草野さん、右:和久津さん)
収穫したブロッコリーを梱包・箱詰め(左:佐々木さん、右:草野さん)
野菜の上には、香取さんが書いたおすすめのレシピやメッセージを書いたお手紙とチラシを同封し、封を閉じます。
さっきまで畑に生えていたブロッコリーが、他の野菜と一緒にきれいに箱詰めされました。
梱包作業のあとは、「農業を憧れの職業にするには?」をテーマに、みんなでディスカッション。
香取さん「今、子どものなりたい職業の70位に漁師さんは入っているのに、農家は入っていないんです。若い人の職業の選択肢に入れてもらうにはどうしたらいいか、みんなでアイデアを出し合ってみましょう!」
草野さん「都会に住んでいる人や、どの場所にいても農業ができるようにするのはどうですか?」
佐々木さん「ファーマーズマーケットのように、若い農家さんがマルシェなどの売り場に立つとか?」
和久津さん「子どもと一緒に農作業をやる姿など、農家さんの普段の生活を1分くらいの動画にしてYouTubeにアップするのもいいんじゃないかと思います。」
そのほか、SDGsに貢献する農業としての取り組みについてもディスカッションしたところ、「梱包をビニールではなく天然由来の素材を利用する」「B品野菜を流通させる」など多くの意見が飛び交い、とても盛り上がりました。
農業のイメージが「人手不足だからこそ、人との関わりが深い職業」に
今回参加した学生さんの中には、農学部所属の方もいれば、全く農業に縁がなかった方も参加していました。今回参加した理由と参加してみて農業のイメージがどう変わったか、香取さんには今後の展望について聞いてみました。
佐々木さん「香取さんが、脱サラして農家になられた方ということで興味があり、イベントに参加しました。一緒に働かせていただき、“この人についていきたい”と思える農家さんでした。農業に対する熱い想いもあり、自分のことだけではなく農業全体を見据えている方で、生き方がかっこいいなと感じました。」
草野さん「将来やりたいことがわからず、いろんなことに挑戦してみていて、今回もその一環で参加しました。自分自身、職業を選択する上で仕事内容だけではなく関わる人との関係の深さを重要視したいと思っていて、農業は人手不足だけど、だからこそ人同士の関係が深くていいなと思いました。香取さんも、野菜を食べてくれるお客さん一人一人に向き合っている姿が素敵で、イメージが変わりました。」
香取さん「自分が農業を始めた時は、やめときなよという反対意見が多くてなかなか賛同してもらえなかったのですが、若い方に農業に興味を持ってもらえるのはとても嬉しいです。農業を憧れの職業にしたいので、多くの人に身近に感じてもらえるよう、農作業やジャム作りなどの体験を通して、遠方から来てもらった人にも楽しんでもらい、野菜の生育の仕方や加工品の作り方など、ものづくりのプロセスを学んでもらえるような体験学習型の農業ができる場所を作っていきたいです。」
今回のイベントは、今後全国各地で展開されます。
前向きに挑戦する魅力的な生産者のもとで農業を経験できる機会をもっと作ることで、「きつい・大変・稼げない」といった農業のイメージも少しずつ変わっていくのではと感じました。
【食べチョクについて】
⾷べチョクは、こだわり⽣産者から直接⾷材や花きを購⼊できる産直通販サイトです。日本の産直通販サイトの中で認知度や利用率などの6つのNo.1を獲得しています。ユーザー数は63万人、登録⽣産者数は6800軒を突破し、4万点を超えるこだわりの食材や花き類が出品されています。
URL:https://www.tabechoku.com/
【おてつたびについて】
『おてつたび』は、お手伝い(仕事)と旅を掛け合わせた造語で、地域の短期的・季節的な人手不足で困っている農家や旅館などの事業者と、「知らない地域へ行きたい」「仕事をしながら暮らすように旅したい」など地域に興味がある若者をマッチングするwebプラットフォームです。『おてつたび』参加者は、お手伝いをすることで事業者より報酬を得ることができるため、旅費自体の削減が可能です。
URL:https://otetsutabi.com/