【ツアーレポート】
福島県飯舘いいたて村移住定住検討者向けツアー
「はじめてのミチシル旅」に密着! 農業を通じて「までい」な人々の真心にふれる2日間

福島県飯舘いいたて村の暮らしを知る移住定住検討者向けモニターツアー「はじめてのミチシル旅」が、7月22日から23日の2日間にわたって開催されました。第2弾となる今回のテーマは「人と農の豊かさに触れる…飯舘村の暮らし」。TURNSでは2日間の行程に密着し、参加者と同じ目線で飯舘村の魅力ある暮らしを体験してきました。

1日目

[10:00]JR福島駅集合

[11:00]昼食/オリエンテーリング

[14:00]エゴマ畑で摘心作業体験

[17:00]夕食

[18:30]はやま湖花火大会に参加

[20:30]宿泊体験館きこりへ

[22:00]就寝

2日目

[6:00]森の案内人による森林散歩

[7:15]朝食

[8:55]ミニ移住相談会

[10:00]花卉農家にて作業体験

[11:10]「いいたて村の道の駅 までい館」へ

[12:20]昼食

[ 15:00]福島駅で解散

 

【1日目】

福島県が誇る「日本で最も美しい村」飯舘村へ!

飯舘村への旅を通じて、自分らしい生き方の“道しるべ”を見つけて欲しいという思いを込めて企画された「はじめてのミチシル旅」。まずは東北新幹線の「やまびこ」で東京から1時間半ほどの福島駅へ。そこから車で約50分ほどの飯舘村までバスに乗って向かいます。

太平洋側から「浜通り」「中通り」「会津」という3つの地方に分かれる福島県。その中で相馬郡に属する飯舘村は、浜通りと中通りを隔てる阿武隈あぶくま高地にあります。標高450mに位置する村は村域全体の75%を山林が占め、年間平均気温10度という冷涼な環境が特徴で、「日本で最も美しい村」連合に加盟しています。

1956年に大舘村と飯曽村が合併して誕生した村は、2011年に起きた東日本大震災に伴う原発事故により避難指示区域に指定され、全村民が村外への避難を余儀なくされました。その後、2017年に南部の一部地域を除いて避難指示が解除され、村内への帰還が可能に。現在、震災前に6,500人ほどあった人口は、その2割程度の約1,500人まで回復。そのうちの約140人が移住者で、復興と再生のまちづくりが進められています。

午前10時に福島駅を出たバスは阿武隈川を越えて国道114号へ。途中で渡利トンネルを抜けたところから徐々に標高が上がり、右手には福島市の展望が見えてきます。やがて視界に映る緑がみるみると濃くなり、気持ちのいいドライブルートへ。そして「いいたてむら おかえりなさい 首を長〜くして待っていたよ」という看板を横目に飯舘村に到着。さらにしばらくすると長閑な田園風景が見えてきました!

最初のおもてなしで「農」の恵みをさっそく満喫

最初の目的地である「もりの駅まごころ」では、NPO法人・もりの駅まごころ運営協議会(以下、まごころ協議会)の皆さんがツアーの一行を迎えてくださいました。

「ここは村の特産物作りを後押しするための施設です。震災前は農産物直売所として使われていましたが、近年、村内に道の駅ができたこともあり、昨年から加工施設として再スタートしました」


NPO法人・もりの駅まごころ運営協議会・鮎川邦夫さん

施設を案内してくださったのは、まごころ協議会代表の鮎川邦夫さん。館内の加工室にはスチームコンベクションオーブン、大型冷蔵庫、真空包装機など業務レベルの調理機材がひと通り揃っています。ここで作られた加工品は、村の中心部にある「いいたて村の道の駅 までい館」で販売され、なかでも村内産のもち麦を使ったチョコレートや野菜のお漬け物が人気商品とのこと。村民であれば無料で利用可能で「調理や製菓の経験がある方など、移住者の方にもどんどん力を貸して欲しいです」と鮎川さんは言います。


特産のもち米「あぶくまもち」を使ったお焼き作りも体験

この日は村の一大イベント「はやま湖まつり」にお店を出すということで、館内は全員総出の大忙し。そんな最中にありながら、参加者のためにお昼ごはんのおもてなしが。

「特別なものではなく、いつも私たちが食べているものを皆さんにも味わっていただきたいと思って作りました」と調理を担当してくださった細杉今朝代さん。味噌おにぎり、ナスの素揚げ、インゲンのエゴマ和え、じゃがバター、ルバープジャムを添えたヨーグルトなどがメニューに並び、さっそく飯舘村の「農」の恵みを感じるごはんを前に、おはしを持つ手が止まらない!

おなかがいっぱいになった後は、参加者の自己紹介を兼ねたオリエンテーションを実施。

今回の参加した8名は、いずれも東京を中心に関東地方の在住。「大学4年で就職活動が終わり、前から興味のあった田舎暮らしを体験してみたかった」「50代半ばになって移住を検討し始め、農作業ができる場所を探している時にツアーの募集を見つけた」「東京から地元の群馬へのUターンという選択肢もある中で、他の地方の暮らしも見ておきたかった」「テレワークが中心の仕事なので、田舎への移住に憧れている」など参加理由はさまざまです。なかには飯舘村ツアーへの参加は昨年に続いて2度目という方もいて、関心の高さを感じました。

農業体験で「までい」と「結い」の心を学ぶ

食事を終えた一行は、次の目的地である「いいたてい農園(以下、結い農園)」で、本ツアーの柱である飯舘村の農業を実際に体験します。道中の車内では、ツアーのガイドを務める曽田めぐみさんから次のような説明がありました。

「先ほど、食事の際に参加者の方から『今から行く農園は除染が済んでいますか?』という問い合わせがあったのですが、飯舘村では避難指示が解除されていない地域を除き、宅地も農地も除染が完了しています。今、窓の外にちょうど黒い袋が見えますが、あれは畑の除染で出た土の仮置き場です」

そう言われて見た車窓には、フレコンバックという袋に詰められた除染土が城の石積みのようになった景色が映ります。それは青空と緑の風景の中にあって異質な光景であり、村の農業が負った苦難と今も残る震災の爪痕を間近で感じさせられました。

結い農園は、大久保・外内よそうち地区の世帯が共同で管理する農場。毎週火曜日と水曜日を作業日とし、無農薬にこだわった農業を実践しています。避難指示の解除後、有志によって活動が広がり、2021年には一般社団法人として法人化。農作物で作った加工品の販売も行っています。


いいたて結い農園・三瓶政美さん

「飯舘村には古くから『までい』と『結い』という言葉があります。までいとは、両手のことを指す『真手まで』が訛って生まれた言葉で『丁寧に』といった意味があります。例えば、食事の時には『までいに食べなさい』とよく言います。結いは『共同作業』のことで、結い農園の名前もそこからきています」

最初の挨拶の中で、そう語ってくださった結い農園理事の三瓶政美さん。飯舘村の農業は、高地の冷涼な気候を活かした花卉かきや高原野菜の栽培が盛ん。かつては「飯舘牛」というブランド牛の生産地として有名でしたが、震災後に生産が途絶えてしまい、今は復活の途上にあります。近年は村をあげて新たな特産品作りにも積極的で、私たちが作業をお手伝いさせてもらうエゴマも売り出し中の作物のひとつです。

2町歩ほどに広がる畑には、膝の高さほどのエゴマが青々とした葉を茂らせています。収穫期を迎える秋には腰くらいの高さまで育つそう。近所には機械を入れて大規模農業を行う田んぼもありますが、結い農園は栽培から草取りまで手作業が基本。まさに「結い」による「までい」な農業が実践されているのです。

当日は福島市で最高気温31.5度を記録する真夏日でしたが、7月の平均気温が22.4℃の飯舘村は比較的涼しく、農作業にも難のない暑さ。

この日体験した摘芯てきしんは、エゴマの先端にある芽を摘み取る作業。これを収穫までの間に2、3回行うことで脇芽の成長が促され、最終的により多くエゴマの実を収穫できるようになるといいます。

シンプルであるものの、普段まったく農業に触れていない参加者にとっては始めは躊躇する作業。それでも農家の方々の指導でコツを掴むと、それぞれスイスイと進めるように。片手いっぱいにエゴマの葉を持った参加者の表情にはキラキラとした喜びが浮かび、芽を摘み取った指先には野生の香りがふわり。畑の畝には結い農園の方々と参加者が一緒に手を動かす「結い」の波ができていました。

避難指示解除後、仕事や子育てなどの都合で若い世代には村に戻れないという方々も多く、福島県内の自治体で最も高齢化率が高い飯舘村。先ほどお世話になったまごころ協議会もこちらの結い農園も、活動を支えているのは60代、70代の方々が中心です。

「10年は守っていきたいけれど、後継者がいないからその先が大変だね」と三瓶さん。その言葉は、村内ではいたるところで新たなコミュニティの担い手が求められている現実を表しているように思えました。

夢のカフェを開業した先輩移住者の体験談に興味津々

農作業で体を動かした後は、草野地区にある「コーヒー屋の食堂」へ移動。今夜はこちらで夕食をいただきます。

古民家をリノベーションした「コーヒー屋の食堂」は、飯舘村で地域おこし協力隊として活動している横山梨沙さんが水曜から金曜のランチタイムに営業している食堂です。土・日曜の10時から17時までは「コーヒー・ポアハウス」という名前でカフェとして営業しています。

横山さんは福島市生まれ。東京の大学を卒業後、飲食業界に勤めた後、オーストラリアのメルボルンに渡ってバリスタの修行を約2年半積んだというユニークな経歴を持つお方。昨年2月に起業型の地域おこし協力隊として飯舘村に赴任し、地域のPR活動やラテアート教室などの仕事と並行しながら開業の準備を重ね、活動開始から1年3か月で念願だった自分のお店をオープンしました。

 

横山梨沙さん

「飯舘村は真夏の時期でもすごく快適で、夜は毛布がないと寒いくらいの気候です。実はこのお店も風通しが良いのでエアコンを付けていません。あと、お店の前を見てもらえば分かるように車の通りが多くないので、渋滞とは無縁なところも気に入っています」

飯舘村の環境の魅力をそう語ってくださった横山さん。手作りの夕食の中には先ほど摘んだばかりのエゴマも並び、食事中には先輩移住者への質問タイムも設けられ、とても有意義な時間になりました。

その後は大倉地区で開催される「はやま湖まつり」の花火大会へ。打ち上げの前には同地区に伝わる伝統芸能の神楽が披露され、全国の神楽の中でも珍しいという演目「太刀のみ」を鑑賞。さらには観衆を前に挨拶に立った杉岡誠村長からツアー参加者に歓迎のお言葉をいただき、飯舘村全体からおもてなしを受けた気分に。

そして、この日は村内唯一の宿泊施設で今年6月にリニューアルオープンしたばかりの「宿泊体験館きこり」に宿泊。曽田さんの提案で当初の予定になかったホタル鑑賞に出かけるというサプライズもあり、都会では体験できない感動とともに飯舘村の夜は更けていきました。

 

【2日目】

自然散策の後は、“いいたて愛”の詰まったベーグルで朝食

2日目の行程は早朝6時の森林散策からスタート。宿泊体験館きこりがある「村民の村あいの沢」に敷かれた散策コースを、福島県認定の「もりの案内人」である高野靖博さんのガイドで歩きます。


もりの案内人・高野靖博さん

「村民の村あいの沢」は、大きなため池を中心に広がる面積50ヘクタールの自然公園です。園内はオートキャンプ場などを備え、アウトドア遊びに最適な環境。散策コースには家族や恋人への愛が詠まれた「愛の句碑」やあずまや付きの「あいの浮き橋」のようなロマンチックなポイントも。

「飯舘村の村の木はアカマツ。村の花はヤマユリで、村の鳥はウグイスです。今、見頃を迎えているヤマユリは一年で1つずつ花を増やしていくので、例えば、あそこに見えるのは2年目のヤマユリです」

「飯舘村の林業では、木を炭にしたり椎茸の原木にして売って生計を立てていた人が昔は多かったです」

「ここにはキツツキが多くて、園内の施設もよく突かれます。ほら、今もキツツキの音が聞こえるでしょ?」

時折りユーモアを交えながら飯舘村の自然や林業について解説してくださった高野さん。道中では、今では自然の中に自生していることが珍しくなったキキョウやクルマユリ、サギソウも見ることができ、綺麗な植物に心癒される朝に。


希少なサギソウを発見!

そして、たっぷり体を動かした後は、お待ちかねの朝食。この日は「村カフェ753なごみの田中久美子さんが、参加者のために看板商品のベーグルと村の特産カボチャ「いいたて雪っ子」のスープを届けてくださいました。

国産小麦粉と天然酵母を使ったもっちもちのベーグルは、多彩なフィリングが入っていて中を開ける楽しみも魅力のひとつ。「いいたてブルーベリー」「いいたていちご&クリームチーズ」「いいたてよもぎクリームあん」など、飯舘村の農産物とコラボしたベーグルも人気商品です。

また、「いいたてズッキーニのピザコッペ」は、村内の建設企業が取り組む農園で作られたズッキーニのほか、臼石地区の三坂さんが有機栽培で育てたトマトや草野地区の大渡さんが育てたアスパラガスを使った、飯舘村の農の豊かさを詰め込んだ逸品です。

田中さんも2018年から飯舘村で暮らす移住者の一人です。東京生まれの田中さんは、2011年に福島県立医科大学の大学院を修了後、その直後に起こった東日本大震災の支援で福島県内の避難所で活動。その後、関東の医療機関で5年ほど働きましたが、3.11から時が経つに連れて支援の手が減り続ける被災地の現状を知って福島に戻ることを決め、前職の医療系NPOがある相馬市へ。


村カフェ753・田中久美子さん(右)

その職場で訪問看護士として飯舘村に訪れるうちに村とのつながりが強くなり、村への移住を決断。相馬市のベーカリーでパン作りを習いながら、3年前に「村カフェ753」をオープンしました。店舗は震災前がカフェがあった場所の居抜きを利用。現在は通販でもベーグルの販売を始め、村の外にも販路を広げています。

「飯舘の食材を使う時には、生産者のもとに伺って収穫などのお手伝いをさせてもらいます。そういう機会を通じて、今でも風評被害がある中で、それを払拭するために皆さんがどれだけ努力しているかを身を持って感じさせられます」

村の農業とつながる中で感じる思いを語ってくださった田中さん。その上で「商品ができあがった時に生産者の方が喜んでくれる顔を見るのが嬉しい」とも言います。

一方、移住を決めるのに最もネックになった点は経済面の不安だったといい、憧れの移住生活を叶えたように見える現在も「このあたりは冬になるとお客さんが来なくなってしまうので、今もその時期は不安です」と本音で答えていただき、先輩移住者のリアルな話に耳を傾ける参加者たちの真剣な眼差しが印象に残りました。

「いいたて移住サポートセンター」で移住生活の理解を深める

続いて一行は、飯舘村に隣接する施設・までいな家にある「いいたて移住サポートセンター」へ。

2022年7月のオープンから開所1周年を迎えた、いいたて移住サポートセンター。ここでは平日は午前9時から午後5時30分まで、土・日曜と祝日は予約制で、対面のほかオンラインでも移住相談を受けており、これまでに100世帯以上の移住者の相談に応えてきました。


いいたて移住サポートセンター・後藤晃治(右)さんと山田郁子さん(左)

ここではまず、相談員の後藤晃治さんから次のような話がありました。

「飯舘村には20の行政区があり、それぞれの区が個性的な独自の活動をしています。移住者の方々にも住む地区の活動に参加していただくのも飯舘村ならではの特色です」

続いて「移動には自家用車が必須で、冬は雪が降るので4WDがおすすめ」「村内にスーパーマーケットはないが、移動スーパーや宅配スーパーが利用できるほか、近隣の川俣町や南相馬市など、村の中心部から30分圏内の範囲に何店舗かのスーパーがある」「医療施設については、総合診療科の『いいたてクリニック』が週2日午前からお昼まで診療を行っている」「村内には30近いサークル活動があり、スポーツ活動に使える環境も整備されている」といった生活に不可欠なポイントの説明も。

一方で、移住時の住まい探しの手段として、空き家バンクと村営住宅が紹介され、「特に避難指示解除後の竣工で比較的新しい村営住宅は人気が高く、タイミングによっては順番待ちになることもあります」とのアナウンスが。

さらに就業については、近年、飯舘村では新規就農者への育成支援に力を入れていているとのこと。また、鍛治職人やキャンドル作家として起業されている方も多いといい、現在2名が活躍する地域おこし協力隊の採用にも積極的な自治体であるという説明がありました。

そのほか、福島県外からの移住の場合、新築購入は最大500万円、空き家購入は最大200万円の補助が受けられる「飯舘村住宅補助金」、飯舘村で生業を始めようとする方を応援する「スタートアップ補助金」、今年の春からスタートした新しい子育て支援事業という飯舘村独自の補助金や支援事業も紹介され、飯舘村の暮らしをより深く理解することができました。

花卉農家でカスミソウとヒマワリのブーケ作り

続いては、伊丹沢地区にある花井農園の「しえるふぁーむ」で、飯舘村の基幹産業である花卉栽培の現場を見学。こちらでは生花を使ったブーケ作りにも挑戦しました。


しえるふぁーむ・花井由貴さんと娘さん

福島市出身の花井由貴さんは、農業高校で草花栽培を専攻した後、飯舘村出身のご主人と出会って今から10年前に結婚。福島市では別の仕事をしていましたが、復興支援の一環で温室が建つのを機にご主人の実家に入り、2018年に花卉農家として就農しました。現在は約1万株のヒマワリと約2千株のカスミソウを栽培し、東京の卸売市場などに出荷しています。

伺ったのはヒマワリの出荷がピークの時期。開花前のつぼみの状態で出荷するヒマワリは少しでも気を緩めると花が咲いてしまう繊細な作物のため、惜しくも開花してしまったものは「いいたて村の道の駅 までい館」で販売しています。

この時期は朝4時起床で朝と夕方に収穫、その間に箱詰めや出荷をこなすというハードなスケジュール。本当に忙しい毎日ですが、それでも「一年の出荷を終えて、毎年小さな前進を感じられた時が最高にうれしいです」と花井さんは言います。

一方で「出荷の最盛期は子どもの面倒をちゃんと見てあげられないことも多く、『こんなはずじゃなかった』と思うことはたくさんあります。夢と現実は少し違うところもあるので、就農を目指す方はそれなりの覚悟が必要だと思います」と参加者へのアドバイスも。

花井さんの指導でプロレベルにできあがったブーケを手に満面の笑みを浮かべる参加者の表情から、人を幸せにする花のパワーを改めて認識しました。

飯舘村の「母の味」を囲みながら、2日間のフィナーレ

さて、2日間のツアーもそろそろ終盤に入り、次は「いいたて村の道の駅 までい館」でお土産探し。

いいたて村の道の駅 までい館は、飯舘村で唯一のコンビニがあるほか、村営の多目的広場やドッグランとも隣接し、村で暮らす人々の生活にも密着した施設です。

館内の売り場には、もりの駅まごころで作られた食品や結い農園で収穫体験をしたエゴマの加工品、そしてしえるふぁーむのヒマワリなど、これまで作り手の顔を見てきたものが商品に変わって流通されていく流れを垣間見た気分に。食堂では、特産品のナツハゼを使った「なつはぜソフト」を食べて、暑い中でたくさん歩いた体をクールダウン。

そして一行は、このツアーの最終目的地である佐須地区の「氣まぐれ茶屋ちえこ」へ。

こちらは、店名でもある“ちえこ”さんこと佐々木千榮子さんが切り盛りする完全予約制の農家レストランです。「いくつになっても、やりたいことをやらないと後悔が残るから」と一念発起し、還暦を目前に今のお店を開いたという佐々木さん。それから20年以上が経ち、80歳になった今もお店に立ち続ける姿は、まさに“飯舘村のおかあさん”です。「その日の朝から作るから予約じゃないとできないのよ」と語る屈託のない笑顔は、とってもチャーミング。


氣まぐれ茶屋ちえこ・佐々木千榮子さん


盛りだくさんの昼食。左下が凍み餅

こちらでは佐々木さんの手間と心がこもったお料理と、福島の伝統的な保存食である凍み餅をいただきながら、ツアーの締めとなる交流会が開かれました。

「移住しても独立して農業をする自信はなかったのですが、結い農園のようなところでお手伝いから始めてみて、少しずつ自立を考えるのもありだと思えるようになりました」

「今まで観光地を回るツアーにしか参加したことがなかったので、この2日間、村の人たちと密接に関わりながら、一緒に農作業をしたりできたことがとても楽しかったです」

「飯舘村の方の優しさを実感することができました。積んだばかりのエゴマの味はずっと忘れません」

参加者一人一人からそうした感想が聞かれ、飯舘村の農業の恵みで心もお腹もいっぱいに満たされた2日間の行程を終えました。

「はじめてのミチシル旅」を終えて

晴天に恵まれた2日間のツアーを終えて、本ツアーのまとめ役である渡部沙織さんにもお話を伺うことができました。

渡部さんたちが務めるSAGA DESIGN SEEDS は、福島市に本社があるデザイン会社です。ポスターやパンフレットなどの制作で飯舘村の行政や企業と30年近くにわたって関係があり、2020年には震災後、取り壊す予定だった建物を活用して飯舘事務所を設立。現在は結い農園と協力してホーリーバジルを育て、そのエッセンシャルオイルを使った製品でアロマブランドを展開するなど、飯舘村の村おこしに取り組む当事者でもあります。


「はじめてのミチシル旅」マネージャーの渡部沙織さんと添乗スタッフの曽田めぐみさん

そうした縁もあって企画することになったミチシル旅では、「飯舘村の人」に光をあてることを一番のコンセプトにしたと渡部さんは言います。

「住居のことや仕事のことなど移住にはいろいろなハードルがあると思いますが、まず第一に考えるのは人間関係の不安だと聞きます。私たちは普段から飯舘村の人たちと関わりを持っていて、飯舘の人がどんな人たちかすごくわかっているから、まずは私たちが大好きな村の人たちと移住を検討される方たちをつなげることで、そういう不安を払拭できると思いました」

一方で、ミチシル旅のもうひとつの特徴は、全6回のうちの半分を「はじめてのミチシル旅」、もう半分を「つながるミチシル旅」とし、繰り返し飯舘村に訪れてもらうことで村との関係を段階的に深めるプログラムになっている点です。

今回参加した「はじめてのミチシル旅」は“体験”や“出逢い”に重きを置いた内容でしたが、「つながるミチシル旅」では、村の方々と長い時間を共有するイベント、先輩移住者によるトークセッションを予定しているとのこと。より一層“交流”に重点を置いた内容で、少しずつ村に馴染み、2度、3度と村に来てくれるきっかけになるようなツアーを目指しているそうです。

「とても小さな飯舘村ですが、震災前には飯舘牛を一流のブランドに育てたり、だいぶ早い時期から父子手帳を発行して男女共同参画みたいなこともいち早くやってきた『ちょっと変わった村』なんです。一度はバラバラになってしまいましたが、今でもそういう気風はあり、移住してきて新しいことを始めようとする方を温かく受け入れる土壌が整っていると思います。ミチシル旅を通じて、今後も飯舘村の魅力をたくさんお伝えしていきたいです」

最後にそう語ってくださった渡部さん。イベントの準備に大忙しだったもりの駅まごころも、出荷の最盛期を迎えた花井農園も、飯舘村の盛り上げに並ならぬ情熱を持つ彼女たちでなければ、きっとこのタイミングで参加者を受け入れてくれることはなかったことでしょう。そんなところに渡部さんたちの熱い思いを感じる2日間でした。

生活の足に車が欠かせない飯舘村ですが、周辺都市と快適な道路網で結ばれ、それでいて県庁所在地から1時間以内の距離でこれだけ鄙びた田舎に住めるという点はとても魅力的に映りました。また、ツアー参加者の方々が揃って言っていた「飯舘村は人が素敵」という温厚な人間力も、こうした土壌だからこそ育まれたのだと感じる場面も数多くありました。

一方で、高齢化と地域の再生が同時に進む村では、“新しい力”へのニーズをひしひしと感じたのも事実です。そうした環境でコミュニティ作りに貢献したい、自分の能力を地域に還元したいという人であれば、きっと第二の故郷が見つかる場所になるでしょう。

取材・文:鈴木 翔 撮影:中島悠二


飯舘村への移住をお考えの方へ

◾️飯舘村でe(いい)village lifeを 飯舘村 移住・定住ポータルサイト

https://www.vill.iitate.fukushima.jp/site/iju/

飯舘村の移住情報は『飯舘村 移住・定住ポータルサイト』へ。住まい・空き家・仕事探し、子育てなどについての支援・サポートのほか、移住体験プログラムや移住支援補助金など、さまざまな情報をご紹介。ぜひご活用ください。


村民と“深い交流”ができる「ミチシル旅」。
皆さんのご参加お待ちしております!

今年度開催予定のツアーは残り3回。

“子育て”がテーマの「はじめてのミチシル旅」第3弾(10/28〜29)では、「いいたて希望の里学園」の学園祭や木の温もりとのびのびした雰囲気あふれる校舎の視察、親子でせっけんづくりのワークショップ、子どもたちの遊べる施設での自由時間など、お子さまも一緒に楽しめるツアー内容です。

「つながるミチシル旅」第2弾(10/14〜15)や第3弾(12/9〜10)のツアーも募集中!よりリアルな飯舘村の暮らしを体感し、頼れる地域の先輩方とのつながりをつくることができる旅にぜひ参加してみませんか?

お申し込み、詳細はこちらから
https://www.vill.iitate.fukushima.jp/site/iju/9536.html

 

▼2023年開催日程

はじめてのミチシル旅

⚪︎第1弾 7月1日(土)〜2日(日)※終了
手仕事、文化…手から生まれる飯舘村の暮らし-「手仕事、文化」

⚪︎第2弾 7月22日(土)〜23(日)※終了
人と農の豊かさに触れる…飯舘村の暮らし-「農業」

⚪︎第3弾 10月28日(土)〜29日(日)
丁寧にゆったりと。飯舘村の子育て暮らし-「子育て」

 

つながるミチシル旅

⚪︎第1弾 9月2日(土)〜3日(日)
未来へつなぐひとりになる-「小宮地区と伝統芸能」

⚪︎第2弾 10月14日(土)〜15日(日)
地域をつなぐなりわいの輪に入る-「大久保・外内地区と農業」

⚪︎第3弾 12月9日〜10日(土)
お母さんたちとつないでいく伝統食(日)-「前田地区と食文化」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   

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