自然の恵みを享受し、地域の人との交流を楽しむ
山間部での暮らし

首都圏からのアクセスもよく、自然豊かな山梨県は移住の人気スポット。日本一人口の少ない町の早川町に移住した鞍打さん夫妻はこの山深い土地で、自身が理想としていた暮らしを叶えた。自然とともに暮らす毎日について、お話を伺った。

 

山梨県の南西部に位置する早川町は、南アルプスの山々に囲まれた山村。土地の96%を森林が占めており、四季が織りなす美しい景観、澄んだ空気や水など、豊かな自然に恵まれている。鞍打大輔さん、佳子さん夫妻は、この地に古民家を改装した一棟貸しの宿「月夜見山荘」と、蕎麦店「おすくに」を開いた。

在来種の蕎麦を提供するおすくに。11:30~14:00LO、18:00~21:00LO

大阪府出身の大輔さんが、早川町での生活を始めたのは1999年のこと。

「もともと田舎での暮らしに興味があり、田舎の町づくりや地域振興を研究していました。早川町で、山暮らしの文化を研究し地域の活性化を目指す「日本上流文化圏研究所(上流研)」という組織が立ち上がり、卒論を書くためにここに来たのが始まり。大学院生のときは、そちらのお手伝いをしながら東京と早川町を行き来して研究を続けていました。卒業後は、上流研に就職し本格的に移住しました」甲府市出身の佳子さんは、地元紙の新聞記者を経て上流研に就職した。

「山間地の食文化に興味を持ち、新聞社を退職後、3年間県外で蕎麦の勉強をしました。早川町は蕎麦で地域活性化に取り組んでいる町だったので、山梨に帰ってきてから上流研に勤めることになりました」

上流研で出会った2人はその後結婚し、3人の子どもに恵まれる。仕事や子育てをしながら、この地で20年以上生活してきた。山梨出身の佳子さんだが、甲府市と早川町での暮らしは同じ県内でもだいぶ異なると語る。

「甲府市も山に近く、ぐるりと山に囲まれて育ちましたが、こちらは急峻の山の中。買い物など不便なことも多いけれど、山とともに生活をしている豊かさを日々実感しています」

山間に佇む月夜見山荘とおすくに。(撮影・北田英治)

2019年、長らく上流研で働いてきた大輔さんは一念発起して事業を始めることを決めた。

「なぜ自分は田舎に惹かれて、田舎に住みたいと思ったのか。もう一度原点に戻って考えたことがきっかけです。山や川に出かけ、山菜やきのこを採ったり、魚を釣ったり、自然のなかで暮らしたいんだと再確認しました。理想のライフスタイルを実現できるのが、宿と食堂だと思ったんです」

当初は、物件がなかなか見つからず苦労したという。

「開業の目処はついたものの、物件が決まっていないという状況でした。町のいろんな人に相談し、ようやく今の物件に出会えたんです。住まいやお店など拠点となる物件探しをする際は、役所の窓口など地元の人に間に入ってもらうとよりスムーズになるのではないでしょうか」

囲炉裏がある築100年の古民家を改装した月夜見山荘

月夜見山荘には離れが2つある。こちらは壁一面が本棚になっている「ぶんこ」。

離れの「こばこ」は山小屋風。

創造的な人にこそすすめたい、山での暮らし

「宿と食堂を一緒に始めたのは、山暮らしの楽しさを知ってもらうため。上流研で早川町の歴史や文化を研究し、ここで生活をしていくなかで町の誇れる点をたくさん知りました。大自然が育むおいしい食材を楽しんでいただくことや、1日ゆっくりと滞在することで、土地の魅力を多くの人に体験してほしいです」

おすくにでは、佳子さんが打った蕎麦と、ディナーの時間には大輔さんが採った山菜や魚、ジビエを提供。観光客や地元の人たちの憩いの場となっている。この地に移住してきた人が、先輩移住者である鞍打さんに話を聞きに来ることもあるという。佳子さんは、住民として地域に溶け込むことが生活を楽しむコツだと教えてくれた。

「年に2回ほど草刈りや水道掃除など地域の仕事があり、そのような行事には積極的に参加しています。ここでは簡易水道を使い、山から水を引いて各家に分配しているのでタンクの掃除は必要不可欠。もともと冷たくて綺麗な水が豊富な土地なので、おいしい蕎麦をつくるのには最適な場所です。感謝を込めて地域の活動に参加しています」大輔さんもうなずく。

「地元の人と交流することで、情報交換をすることもできます。同じ土地で一緒に暮らしているという意識を持つと、もっと田舎暮らしが楽しめると思います」移住は人生の大きな決断。理想の暮らしをするためにも、まずは現地に足を運び、入念に準備をすることが大切だと大輔さんはいう。インターネットで調べるだけではなく、その地の空気を感じて自分のしたい暮らしがその地にあるかを見極めることが、重要だと語ってくれた。

「本当の田舎暮らしをしたい人には、早川町はおすすめです。自然との共存は厳しい面もあるけれど、この土地で生活する人たちはその分とてもパワフル。自分の力で暮らしをつくっていきたいという人には、向いている場所だと思います」

2021年8月には、東名と中央道を繋ぐ中部横断自動車道が開通し、首都圏から山梨県へのアクセスがさらに良好になった。多様な選択肢のある山梨県内で、自分が理想とする暮らしに合う土地を見つけよう。


文・宮原沙紀 写真・百瀬裕子

                   

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