【企業と地域の繋がり方】東京の仕事を地方で!
“サケモデル”から学ぶ「テレワーク」のあり方

オンライントークイベントVol.12開催レポート

宮崎県新富町で地域資源を活かした多彩な新規ビジネスを展開する地域商社「一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構」(以下、こゆ財団)とTURNSがタッグを組んだオンライントークイベント『企業と地域の繋がり方』Vol.12が3月8日に開催されました。2021年度、計12回に渡って開催してきた本シリーズの最終回となる今回は、“テレワーク” がテーマ。

ゲストは、北海道の北見市役所で企業誘致に取り組む工業振興課の松本武さんと、テレワークをきっかけに縁が深まり、昨年ついに北見市に事業所を開設した株式会社要(かなめ)代表取締役の田中恵次さんです。

どこでも働き暮らせる時代の企業と地域の繋がり方の総決算をお届けします!

 

【ゲスト】

◆松本武さん
北見商工観光部 工業振興課 係長

2000年入庁。2013年より企業誘致を担当。 地元志向の強い北見工業大学の学生を、首都圏のIT企業本社で採用し育て、北見進出時のスタートアップ人材として、地元に戻ってテレワークで働く「サケ(鮭)モデル」での企業誘致を推進。 また、Uターンが見込める地元出身の人材に、帰省時でのテレワーク体験やインターンシップを展開するほか、官民協働でテレワーク施設を整備するなど、首都圏の人と仕事の誘引による地域活性化に取り組む。

 

◆田中恵次さん
株式会社要 代表取締役

1970年生まれ、東京都墨田区出身。早稲田大学卒業後、フリーター経験を経て、26歳にして社会人デビュー。 未経験からプログラムを習得し、プログラマーの道を歩み出す。 2010年、リーマンショックを転機に株式会社要を設立、同社代表取締役に就任。 2017年、北海道北見市と地方創生に係る連携協定を締結、2021年に北見事業所を設立し、WEBメディア「北見経済新聞」を立ち上げ、地域活性に貢献。

 

【モデレーター】
高橋邦男さん
一般財団法人こゆ地域づくり推進機 執行理事/最高執行責任者

堀口正裕
TURNSプロデューサー/株式会社第一プログレス 代表取締役社長

新富町
宮崎県宮崎市の北隣に位置する人口約16,500人のまち。子どもの占める割合が比較的多く、高齢化率は県内で下位から3番目。主な産業は農業。

こゆ財団とは?
「こゆ財団」とは、2017年に新富町が設立した地域商社。「世界一チャレンジしやすい町」というコンセプトを掲げ、人材育成や商品開発、関係人口創出などに取り組んでいる。中でも、ふるさと納税の運営と人材育成を大きな軸とし、農産物のブランディングを通じて付加価値を高めるなどし、4年間で60億円の寄付金につながっている。手数料などによって得た収益は人材育成に投資し、オンラインなどを通じて学びの場を提供している。

 

新しいチャレンジや企業との取り組みが加速する新富町

新富町と言えば「世界一チャレンジしやすいまち」。イベント冒頭で高橋さんが毎回ご紹介してきたこのキャッチフレーズを覚えてしまった方もいるかもしれません。このビジョンを噛み砕くと、「自らやってみようと挑戦する“幸せな個人”同士が“弱いきずな”でつながる」コミュニティがあるまち。安心して失敗もでき、再起も応援し合えるコミュニティが実現できれば、外から新富町に来る方にとっても取り組みやすい機運につながるとこゆ財団は考えています。

先進的な教育で知られる海士町から、2019年に教育イノベーション推進専門官として着任した中山隆さんは、新富町の特徴について「チャレンジしようは誰でも言えますが、それに対するパートナーや資源が見える化されていて、スピーディーかつ効果的に動くことができるのが突出した所」と述べています。これこそ、こゆ財団が培ってきたこのまちのカルチャー。

現在、新富町には地域おこし協力隊が30名以上活躍し、そのうちこゆ財団に所属する7名は起業家人材。初めての町で起業するという高いハードルを、こゆ財団が地域のパートナーや資源とつなぐサポートを行うことで多様な事業が生まれています。東京から移住し、青パパイヤの栽培や商品開発を行なっている岩本脩成さんや、鹿児島から移住して未経験でありながらフォトグラファーとして町内の空き店舗に写真館をオープンした中山雄太さんなど、これまでまちにいなかったような人材が新たに活躍の場を広げています。

こうした多様な人材を今後もまちに増やすべく、新富町は地域おこし協力隊制度をフルに活用し、継続して人材を募集中です。現在は、人材育成プログラムの企画実施人材(修学旅行含む)や、観光民泊運営人材(新しい人が集まる場をつくりたい人)を特に求めているとのこと。

また、新富町では企業との取り組みも加速しており、企業による町民への知識・技術・世界の最新動向のシェアや、シェアサイクルの実装など、地域課題の解決につながる活動が行われています。2021年には駅から10分の場所に企業と共創したサッカースタジアムや次世代農業の研究拠点も誕生。ますます新時代の豊かさが創出され続けるまちへと進化中です。

 

テレワークから地域の大学との共同開発、事業所設置へ

続いて、2010年に創業し、東京に本社を構えるITサービス開発会社「要」の田中恵次さんより、北見市に事業所を開くに至った経緯やそこで行われている活動についてお話しいただきました。

北見市に2015年から関わり始めた田中さん。北海道出身でもなく、北海道にビジネスがあったわけでもなく、雪も大嫌いという田中さんが北見市を最初に訪れたきっかけは、2015年に総務省が行った「ふるさとテレワーク」への参画でした。テレワーク実証実験の場としてオホーツクに用意されたのが斜里町と北見市。ここから要と北見町のつながりが生まれ、発展していきました。

北見市は北海道の道東エリアの中核都市。道東の人口30万人のうち約3割が集中し、流通・文化・経済の中心。基幹産業は水産業と農業で、ホタテの水揚げ量日本一、玉ねぎ生産量日本一を誇る。住民1人当たりの焼肉屋の軒数が日本1、2位を争うという特徴も。

2016年には市内にある国立北見工業大学の卒業生の採用も始め、2017年には北見市と「ICT環境を活用した地方創生に係る連携協定」を締結、2018年には市役所の松本さんの紹介で知り合った北見工大の富山教授と、道路等の凹凸を測定するセンサー&データを活かす共同研究をスタートしています。そして2021年に市と「企業立地協定」を結び北見事業所を開設、社員を常駐させて「北見経済新聞」による情報発信を開始しました。事業所ができる前までは市が用意しているサテライトオフィスに入居し、夏場の東京の猛暑からのエスケープや、開発合宿をする際などに利用していたそう。

「なぜ北見に? という理由は、食べ物がおいしく、マイナス20℃という想像もつかない大自然があるという環境面と、やはり“人”が良かったから。市役所の方も、地域の方も、大学の方も、名も無い会社である僕らを歓迎してくれて、僕自身が『北見って楽しいなぁ!』と好きになってしまったのが大きい」と田中さん。

テレワークから始まった北見工大との共同研究では道路管理のための新システムが生まれ、北見市での実証実験を経てゆくゆくは全国や海外にも広がっていくサービスになる可能性もあるそうです。

また、北見事業所に常駐し「北見経済新聞」を作成しているスタッフは、以前は東京で働いていたけれどライフステージの変化で出身地の北見市に戻ることになり仕事を探していたという人材。バックオフィス業務と広報業務を兼務し幸せそうに働いてくれているとのこと。

要では今後も北見市が推進している“サケモデル”(北見工大生を採用し、東京で育成してから北見に戻す)を採用に活かしながら、地域に埋もれている人材も積極的に北見事業所で雇用していきたい考えです。

 

大学を卒業した人材をテレワーク企業が育成して地域に回帰させる

さて、もうお一人のゲストである松本武さんは北見市で生まれ育ち、北見市役所で2013年から9年間、企業誘致を担当しています。テレワークは目的ではなく手段、北見の場合は目的は「工業振興」と述べた松本さん。運輸面のハンデが原因で立ち遅れている北見市の工業を盛り上げるため、早くからIT企業に着目し、北見市とつなぐ活動を続けてきました。北見工大があるため優秀な人材を獲得したい企業が複数興味を示し、卒業後も北見市に残りたい学生とのマッチングや新卒採用は比較的容易に成立。しかしその後、大きな壁にぶつかりました。

「新卒は採用できたものの、その子たちを育成する中堅社員が北見にはいない。地元にいる中堅人材は地場の企業に所属していて流動性が低い。東京本社の社員を北見に転勤させるにも、移住は高いハードルです。おそらくどの地方にも同じ課題があると思います。

そこで考えたのが“サケモデル”。稚魚が川から海へ出て成長し、また生まれた川に帰ってくるように、採用された北見工大の若者を東京で育成し、ある程度成長したら北見に戻すという形です。「北見工大に限ったサケモデルだと限界もあるので、最近は他の地域や教育機関にも広げています」と松本さん。“1人目のサケ”が誕生すれば、後は雪だるま式に増えていくのではと期待を寄せています。

 

まちごと実証フィールド化。個と個をつなぐコーディネート力が鍵

ここからは田中さん、松本さん、高橋さんと堀口の4人によるトークセッション。コロナ禍を経て大きく変わった企業と地域との関係のつくり方や、テレワークを事業や強固な連携につなげるためのコーディネートの重要性について、熱いディスカッションが繰り広げられました。

 

■サケモデルは循環し始めている?

高橋さん:新富町はスマート農業に力を入れていますが、町内には大学も高校もない中でエンジニア人材が関わる余地を模索するため、近くの都城市にある高等専門学校と関わりをつくったんです。最近では高専の子が新富町のベンチャー企業に採用されるケースも出てきた。北見市のサケモデルで言うと、そろそろ最初のサケが戻ってくる頃ではないかと思いますが、いかがですか?

田中さん:それが、サケの子どもたちはまだ東京ではねていますね(笑)。会社としても北見に戻ってほしい気持ちもありますが、本人はまだ東京にいたいと言う。キャリアというより、個人として好きな音楽やライブに東京ではたくさん触れられる、というのが理由だったりします。でも「戻れる環境がある」ことが大事で、今後ライフステージに伴いいろんな変化が出てきた時に戻れる選択肢があることは安心感につながっていると思います。

堀口:経営者としての視点で言うと、スタッフが北見にいても、自分がいる東京にいても影響はないですか?

田中さん:かつては離れた場所に社員を置くことに躊躇がありました。背中を押してもらったのは総務省のテレワーク実験。一緒に参加していたGoogleさんはその頃すでに当たり前にリモートで米国メンバーと会議していた。それを見て取り入れない理由はないと思いました。北見に限らず、コロナ禍で都会から郊外へ、地方へ移住する流れも出てきています。「リモートワークを許してもらえないんです」って方が転職してきたり、地方移住を認めないと退職していったり。そういうことがすでに起きているので、取り入れられる所は取り入れていくべきだと強く感じますね。

 

■企業と地域の関係のつくり方の変化

堀口:働き方・暮らし方・学び方のスタイルが激変していく中で、企業誘致を9年されている松本さんは、企業へのアプローチの仕方も変わってきたんじゃないかと思うのですが?

松本さん:企業誘致でスタートしましたが、結局ターゲットは個人になってきました。今は会社が「転勤して」と言ってもしない時代。北見に住みたいという人を見つけて、その人から会社にアプローチする流れに変わってきた。例えばYahoo!さんのような会社に「北見に事業所を置きませんか?」と言っても「うちはどこに住んでもいいと言ってるから」となってしまうので。

堀口:個人から入って企業へ、という流れの中で出てくるのが上司や会社の理解という問題。どうやって会社を説得したらいいんでしょう?

松本さん:企業がその地域でないといけない理由をつくることですね。北見市では地方創生に向けてIT3社と「連携協定」を結んでいます。彼らに「北見じゃなきゃいけない理由がほしい」と言われました。食べ物がおいしく、景色がきれいで2時間で行ける、というのは全国どこでもある話。それ以外で何かきっかけが必要です。そこに、北見工大と要さんの道路のシステム開発のように、個人だけではなく会社が関わってこないとできないようなプロジェクトをジョイントする。道路の実証フィールドをお貸しし公用車にセンサーをつけて共同研究するなど、何かそこでなきゃいけない理由を地域課題と結びつけ、市がハブになってつくっていく。それがあると個人から企業がつながり、さらにはその企業の中に北見に住みたいという個人も出てくると思っています。

高橋さん:僕らのまちだと、その取り組みは農業分野で進んでいます。先進農業の実験をまちも協力してやれるから、ぜひ新富町で、という企業が現れる。テレワークは正に手段で、企業の実利・ビジネスとしての可能性を地域と一緒に広げる結果として地域課題の解決になるといい。もはや行政と企業という位置づけではなく、一ビジネスパートナーという考え方が今後スタンダードになるのではないかという気がします。

 

■きめ細かいコーディネートの需要性

高橋さん:個人との出会いをどうつくっていくかが重要ですが、田中さんに北見工大の富山教授をご紹介したのは松本さん?

松本さん:そうです。北見市には農業、漁業いろんな課題があるけれど、何に興味がありますか?と田中さんに聞いたら、「何をやるかじゃなくて、誰とやるかが重要。前向きに取り組んでくれる人を紹介してほしい」と言われて富山教授を紹介したんです。

堀口:今治市では地域課題とその解決に興味のある企業とのマッチングサービスがありますし、ワーケーションリピート率70%を誇る筑摩市ではマイクロソフトの社員さんが地元のレンタカーやレンタサイクルの事業者さんと協働し、交通機関利用者とのマッチングアプリを開発したりしています。こうしたまちに共通しているのは、関係者の思いをつなぐ松本さんのような方がいるということ。

田中さん:松本さんが素晴らしいのは、夜も活躍していただける所。昼間に大学や地元企業を案内して終わらずに、夜は地域の若手経営者や住民の方を集めてくださり、いろんな人を紹介してくれるんです。そこからの広がりが楽しい。コーディネートが素晴らしいと思います。

堀口:ひと組ひと組、やりたいことも、人生の背景も違いますし、合わせる事業者や連れていくお店も違うはずですよね。それをひと組ずつ丁寧に設計しているまちは伸びている。手間ひまかけて地域とおつなぎする存在が必要なのかなと思いますね。

 

北見市では、3月7日に宿泊機能を伴ったコワーキングスペース「KITAMI BASE  https://kitamibase.hatarabu-kitami.com/ 」も誕生。テレワークの拠点としてますます環境が充実しつつあります。また、田中さん率いる要は、北見市に「ラーメン屋」を開き、焼き肉に次ぐ新たな名物へ育てる計画も。

最後に高橋さんは「組んで楽しい者同士でどんどんやっていこうぜ、というパワーをお2人から感じました。地域課題はもはや世界課題。地域をフィールドに個人も企業も行政も連携して課題解決していくことで、日本は課題解決の先進国になれるんじゃないか」とコメントしました。

 

これからの企業と地域のつながり方を考える中で、課題解決のヒントもたくさんあった12回。最終的にはやはり“個”と“個”のつながりの重要性が際立ちました。TURNSも、地域や企業と一緒にワクワクしながら課題解決のモデルをたくさんつくり発信していけたらと、今後の可能性をますます感じられたシリーズとなりました。

                   

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