町づくりじゃなくファンづくり
7人のチームと町が本気で挑む、大洗改革

茨城県で活動を起こしたい人を支援するプログラム「STAND IBARAKI」。2020年8月から2021年2月にかけて、茨城県庁主催・茨城移住計画の企画運営で行われました。応募のなかから活動を評価された7組には活動資金が提供され、MVPを獲得した3組は複数のメディアで紹介されます。この記事では、最終プレゼンテーションで参加者から支持され、見事NEW IBARAKI賞を受賞した「大洗カオス」をご紹介。代表の平間さんにお話を伺います。


(左から)あんちゃんこと平間さん、ハリー、かずし、もも、よいこ、ショウ、シモ(敬称略・活動ニックネーム)。7名のメンバーで活動中

『大洗カオス』プロフィール
大洗独自の良さを活かし、街をデザインすることを目的とした集団。海水浴やサーフィン以外にも、日本有数の観光施設、アニメ「ガールズ&パンツァー」、古き良き商店街。さまざまな人や文化が在る大洗をもっと面白く、より良い交流や文化が生まれる地にしていくために。新しい視点でイベントや町づくりを企て、“大洗カオス”な状態をめざして活動する。

 

異なる文化が交われば、町は面白くなる

大洗町に関する情報発信や、イベントの企画運営をおこなう7人チーム、大洗カオス。具体的にはどんな活動をしているのでしょうか。

「普通に観光情報発信をするだけじゃなく、メンバーが大洗町に行って感じたことや、自分たちの目から見て“大洗カオス”だなと思ったことを発信しています」


大洗シーサイドステーションにあるコワーキングスペース、「アライズ コワーキング」。打ち合わせ場所として利用するそう


リーダーのあんちゃんはしっかり者の最年少。メンバーからの信頼も厚い

大洗町は、茨城県の海岸沿い、中央付近に位置する港町です。平成27年度に行われた総務省の国勢調査では人口16886人。お隣の水戸市に比べると10分の1ほどの大きさしかありませんが、年間で訪れる観光客は約440万人。茨城県随一の人気観光地として知られています。

日本でもトップクラスの大型水族館「アクアワールド茨城県大洗水族館」、北関東最大級のビーチ「大洗サンビーチ海水浴場」など、遊びどころ満載。マリンスポーツのメッカとされ、サーフィンも盛んです。

大洗が舞台となったアニメ「ガールズ&パンツァー」、通称ガルパンが2012年に放映されてからは、町の経済にも大きな影響がありました。作中には大洗町内の風景や実際にあるお店が登場しており、町の至るところにキャラクターパネルやポスターが飾られています。


商店街はガルパンだらけ。多くのファンが訪れるが、マナーがよく町の人も歓迎している

「僕たちのホームページやSNSを通じて、『どうすれば大洗が盛り上がると思いますか?』とアンケートを取ってみたんです。そうすると、『海に行きたいけれどサーファーの人たちが多くて近づきづらい』『もっと町にいる人たちと交流してみたい』といった、正直な声を聞くことができて」

地元の人も頻繁に海に行くわけではなく、サーファーは朝からサーフィンを楽しんだらすぐに帰ってしまうのが現状だそう。観光客、サーファー、アニメファン、そして地元民。今はあまり交われていないけれど、交わればもっと楽しく、盛り上がるはず。

大洗に関わる人がもっと大洗を楽しむために。まだ知られていない大洗の魅力を知ってもらうために。『大洗カオス』な状態を作っていこう。

それが彼らの活動の目的であり、コンセプトです。

 

好奇心旺盛な7人で、とにかくやってみる

チームの発足は2019年の冬。

茨城の未来をデザインし、企画を提案する茨城県の関係人口創出プロジェクト「if design project」で、偶然同じチームになったのが今のメンバーでした。意気投合した7人は、2019年の年末にプロジェクトが終わってからも活動を続けます。

彼らが以前開催したイベントがこちら。

「新しい発見の価値を作りたいと思って開催した、写真のイベントです。大洗にとって当たり前にある海を撮ってはいけないというルールのもと、海をテーマにした写真を撮ってもらいました。町の人たちでチームを組んで町を練り歩き、ブルーを探してみたり、海に関するモチーフを探してみたり。普段と違った視点で町を歩くと、新たな発見があったり、いつもと違うものが見えたりするんですよね」

現在は“現代版潮湯治”と称し、海辺でのテントサウナ企画を進行中。コロナ禍もあって関係者メインの縮小開催ですが、今後にも役立てていきたいと話します。


曲がり松商店街の精肉店「鳥孝」の唐揚げを食べるショウさんとモモさん

「それぞれの本業やコロナもあり、イベントはあまりできていなかったんですが、そんなタイミングでSTAND IBARAKIの開催を知って。これを機にまた活動をブーストさせたいなと思っています」

そう語るのは水戸市出身のデザイナー、ショウさん。大学卒業後、13年ほどロンドンで暮らしながら、デザイナーとして働いていたそうです。帰国したら地方創生の事業に関わりたいと強く思っていたところ、if design projectと出会い、今に至っています。


久しぶりの再会に嬉しそうなあんちゃんと、都内のIT企業で企画営業として働くシモさん


ランドスケープデザインに携わるモモさんは、東京での多忙な日々を大洗の海で癒やす

「カオスでの活動は、インプットとアウトプットが両方できるなと感じています。こんなにもばらばらな業種の人たちと動くのがすごく面白くて。例えば人材コンサルやベンチャーの創業支援を仕事にしているかずしさんは、ビジネスや資金繰りの視点で地域創生を考えている。私は普段ランドスケープデザインとして場作りやイベント企画をしていますが、お金やビジネスの分野は自分にもっと必要な視点だと思っているので、良い学びがあります。自分ももっとアウトプットしなきゃと思わされますね」


左から、人材コンサル業のかずしさん、旅行会社勤務のよいこさん。砂漠や北極圏で働いた経歴をもち、現在はIT企業で事業戦略に携わるハリーさん。アクティブなメンバーが揃う

「それぞれが専門分野を持ちながらも、お互いのスキルについて『知りたい・学びたい』思いが強いんです。それに、専門分野だけれど、過去に少しかじっていた経験があったりするので、互いに任せすぎないのが良いところ。例えば、私も大学でデザインの勉強をしていたことがあるし、あんちゃんはイベント運営の経験があって、もっとやってみたい気持ちがある。自主的に、積極的に関わり合うのがすごくいいんです」

そう話すよいこさんは、現在旅行会社に勤務。より深く地域観光に携わりたいと、今後は三重県で仕事をしながら大洗カオスの活動を続けていく予定と言います。

年齢も職業もばらばら。でも、茨城が好きで、自分ができることで地方創生事業に関わりたい。どんどん新しいことを試してみたい。そんなメンバーで構成されています。

 

積極的に町に関わることで、声がかかるように

「今後はさらに、大洗町と連携したイベントの話が進んでいます」

平間さんは、大洗駅の隣にある観光情報交流センター「うみまちテラス」で働いており、唯一大洗町に住んでいるメンバーです。

「if design project に参加した頃はまだ東京に住んでいたんです。プロジェクトをきっかけに地元大洗の魅力を再認識できて。帰りたい気持ちが高まっていたときに、うみまちテラスの人員募集を見つけました。締め切りの4日前で、気付いたら応募していましたね(笑)」

平間さんが大洗町に拠点を移したことで、カオスチームの活動にスピード感が出ました。何かプランや相談事があったとき、役場や関係各所に声をかけやすいといいます。


大洗のゆるキャラ「あらいっぺ」とあんちゃん

STAND IBARAKIに出たことも、活動の後押しになったそう。

「『カオスチーム、頑張ってるね』『どんなことやってるの?』と声をかけてもらう機会が増えたんです。細々と、でも積極的に町の人に関わり続けてきて、ようやく認知してもらえるようになってきたのかなと。3月には、町から相談を受けて僕たちで企画したイベントを実施するので、今後も連携していけたらなと思っています」

曲がり松商店街にある、創業130年を超える老舗割烹旅館「肴屋本店」。ガルパンの聖地でもある肴屋本店の社長・大里さんは、大洗観光協会の会長を務めます。

「ガルパンのプロモーションは私たちがずっとやってきましたが、それ以降は、大洗の若い世代から新しい動きがあまり生まれていなかったんですよ。町のことにカオスチームが関わってくれるのがすごく嬉しいです。新しい切り口で盛り上げていってほしいですね」

コロナ禍でまだ思うようには動けないものの、平間さんを中心に町の人たちとコミュニケーションをとり、少しずつ動き出しています。

「僕たちがこうして、自分たちが楽しんで活動を続けていくことによって、『大洗ってこんなことやっちゃっていいんだ』って次に続いてもらえたらいいなと思っていて。チャレンジできる場所として、体現していきたいです」

「自分を表現したいとか、何かやってみたいという人が選ぶ場所であればいいなって思います」

 

彼らが理想に描くのは、旅行先として選ばれる大洗とも、観光地として一度遊びに来るだけの大洗ともすこし違います。

「僕らの活動って、いわゆる“ファン作り”に近いのかなと思っているんです。旅行に行きたいんじゃなくて、大洗に行きたいと思ってもらいたい」

最近面白そうな地域といえば大洗。
大洗だったら好きなことがやれそう。
大洗で自分も何かチャレンジしてみたい。

異文化を認め合うことも素敵だけれど、異文化をもっと楽しめる、そんな土壌がある町へ。彼らの実験は続きます。

 

ーーー取材後記

事前にオンラインで取材をした際、“面白いことをやりたい!尖っていきたい!”と、熱く伝えてくれた彼ら。撮影時、初めはすこし身構えてしまいましたが、お会いしてからも良い意味で全く印象が変わりませんでした。

「大洗のために何ができるか」「普通にやっても俺らがやる意味がない」「私たちに続いて、挑戦したい人が増えればもっといい」

純粋な熱い思いを胸に、自分がやりたいからやる。7人にはそんな真っ直ぐさがあります。

「『カオスに相談したら解決できる』っていう、何かあったときの相談窓口っていうのも、ひとつの姿として良いなと思っています。実際一件、カオスの活動を通じて知り合った会社さんのコンサルに入ることになったんです」

そうかずしさんが話してくれたように、華やかに見える彼らは積極的に町の人と関わり、実直に突き進んでいます。

 

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文・編集:古矢 美歌
写真:黒崎 健一