海外から移住した二人が見つけた”夢を描く場所”。
いまを楽しむ妙高の暮らし

スキーリゾートとして有名な新潟県妙高市。代表的な場所としては、赤倉や杉野沢など妙高山周辺のエリアです。しかし実は妙高高原以外にも、人気のあるスキーリゾートエリアがあります。年間平均降雪量18メートル、日本屈指のパウダースノーを楽しめる大毛無山。2017年に「ロッテアライリゾート」としてスキー場が再オープンしたことで、国内外から多くのスキーヤーが訪れています。

その麓にある妙高市両善寺の古民家に、2020年8月に移住したのがカナダ出身のジェレミーさんと韓国出身のグさんです。なぜ海外から妙高への移住を決めたのか、言語も文化も違う地域での暮らしに戸惑いはなかったのか、お二人の移住ストーリーを聞いてきました。

【プロフィール】ジェレミー・ヘール
カナダ出身。1982年生まれ。元エンジニア。様々な言語を勉強する中で、日本にも来訪。7年間妙高高原に通い、2020年8月に妙高市両善寺にある古民家を購入し移住。現在は自ら家のリフォームを行う。

【プロフィール】グ・ジョンオン
韓国出身。1982生まれ。釜山で英会話を勉強中に夫と出会い、その後一緒にカナダへ。エンジニアとして働いた後、料理教室に通い、パン屋やカフェで働きながら夫とともに毎冬妙高高原へ滞在していた。現在は建築の勉強をしている。

 

海外から移住する壁。乗り越えられたのは妙高の人との出会い


現在家はリフォーム中。車庫の2階で仮住まいをしている。

「はじめは妙高高原で空き家を探していたんですよ」そう話し始めたのは夫のジェレミーさん。

妙高市に移住する前はカナダのバンクーバーで暮らしていたお二人。元々好奇心旺盛なお二人はそれぞれ世界各地をまわり、他国の言語を勉強する中で出会い仲良くなりました。

ジェレミー「日本語を勉強したかったのと、冬にはスキーをしたかった。それで雪質のいい場所、そして外国人の少ない場所を探している中で妙高高原を見つけました。東京から新幹線で行けるというアクセスのよさも、妙高へ行く後押しになったと思います」

そして2014年の冬に初めて妙高高原へ。それからは毎冬居候をしながら妙高高原に滞在していたと言います。

7年間通う中で人とのつながりも増え移住を考え始めたジェレミーさんは、妙高高原で空き家を探し始めます。しかし、土地も含めて購入できる物件に出会えませんでした。家を借りるにも連帯保証人(*1 )が必要。外国人のお二人には、日本人の保証人を見つけることは困難でした。そういった日本独特の制度の壁にも阻まれ、一度は挫折を味わうことになります。

(*1 )日本では一般的に賃貸契約の際、連帯保証人が必要。外国人が部屋を借りる場合は保証人の要件に「日本人であること(永住権を持つこと)」が加わることが多い。連帯保証人は海外にはあまりない制度。

それから妙高高原以外でも空き家を探し始めたお二人は、ある一人の女性に出会います。

ジェレミー「空き家を探してよく二人でドライブしていたんです。そのときにたまたま出会った地元の女性に今の家を紹介してもらいました。本当にラッキーでした」


リフォーム中の古民家

ジェレミーさんとグさんが紹介してもらった空き家は、その女性の同級生の家でした。

ジェレミー「二人で空き家を探して地域を回っていたけれど、空き家かどうかってわかりづらいんですよね」

家探しは移住者にとって、はじめにぶつかる大きな壁。公に売買または賃貸物件として紹介されている空き家はほんのひと握りです。また空き家を手に入れることができたとしても、いわゆるご近所付き合いでつまずくこともあります。都会と田舎では、地域の慣習も文化も全く異なるからです。国を越えれば、その違いはさらに大きくなることでしょう。

そんなとき、ジェレミーさんとグさんが出会った地元の女性のように、移住者と地域との間に入り関係を取り持ってくれるキーパーソンがいることは、その後の移住生活の充実度を大きく左右するのではないでしょうか。

「移住したはじめの年に、隣りに住んでいる方が自分の畑で作った白菜をたくさんくれたんですよ。その白菜でキムチを漬けて近所の方に配ったら、とても喜んでくれました。この地域の方は私たちのことを家族のように仲間に入れてくれます。ここに住むことを決めて、本当によかったです」

海外からやってきたお二人を温かく受け入れてくれた地域の方、そしていただいた恩を自分のできることで返していくお二人の人柄。双方が寄り添い、この地の暮らしに新たな文化が混ざり合うことで、これからの妙高の暮らしが創られていくのでしょう。

 

いまあるものの価値を生かしたい

そんなお二人が購入した家は、現在リフォームの真っ最中。築60年のこの家は改修しないと住むことができない状態だったのです。

ジェレミー「現代の日本の家は数十年だけ使って新しいものを建てるでしょう。私はもったいないと思います。新しいものを買うときは、どれくらい使えるのか、いつ捨てるのかがいつも気になります。この家はリフォームが必要だけれど、柱や梁には価値がありますよね。まだ使えるもの、価値のあるものを生かしていきたいんです」

基礎と床をやり直し、外壁も全て取って断熱材を入れ、現在は外壁材を貼っている最中。お二人はこの工程全てを自分たちで行なっています。

ジェレミー「ペースはすごく遅いですよ。2020年の秋から始めたから、1年半くらいでこの状態。その間、妙高に住んでいる友達や近所の大工さんが手伝ってくれることもありました。大工さんの仕事は早いですし、とても勉強になります。数日手伝ってもらうことで、もっとこうしたらやりやすいとか段取りがいいとかがわかるようになるんです。全て大工さんに頼むのではなく、数日手伝ってもらいながら自分たちで直していくやり方はおすすめですよ。大変ですけどね」

リフォーム中の家の中には新しい断熱材や木材に加え、年季の入ったノコギリやカンナなどの道具類、知人からもらってきた暖炉や風呂釜なども置かれていました。「まだまだ使えますよ」とお二人は笑顔を見せます。

完成の目処が立ってきたという一部屋を見せてもらうと、新しい壁材の間からは立派な梁や柱が見えました。壁には大きな窓が取り付けられ、外の大自然と調和する心地よさを感じます。

「日本の家はカナダと比べても改造しやすいと思います。梁と柱を中心に作られているから、壁も壊しやすいですしね。この部屋からは妙高山がきれいに見えるんですよ。」

一見価値がないように見える、ずっとそこにあったもの。その価値は、自分の目で見て、手で触れ、使ってみること、そしてその経験を全身で感じとることで初めて見出すことができるのだと、お二人のありようが物語っています。

 

妙高で描くこれからの夢

バンクーバーにいた頃は、エンジニアとして働いていたお二人。その頃と今を比べて、グさんはこう話してくれました。

「あの頃は毎日働いてばかりで、とても忙しかったんです。競争社会の中でストレスがいっぱいありました。毎日の暮らしに意味がないような感じがしていて。今はこうして自然の近くに暮らすことができて、とても幸せです。競争もないし、ストレスはありませんね」

妙高に移住してからは、仕事は一旦休憩し自然の近くでの田舎暮らしを満喫しています。今雪に覆われている畑では、玉ねぎやニンニクを育てているそう。

「下手くそですけど、なんでもトライしています。土地も広いから、好きなことをできますね」

そんなお二人に、これから妙高でどんなことをしたいか聞いてみました。

「今考え中です。空き家がたくさんあるので、カフェとか民泊もやってみたいですね。実は今建築士の勉強をしているんです。上手くいくか、本当にやるのかはまだわからないけれど、いろいろトライしたいです」

ジェレミー「この辺りは大きなホテルはあるけれど、民泊はないんです。海外から観光客が増えたら、ホテルに泊まったあと自分のスペースが欲しくなると思います。滞在するところが増えれば、地域のお店も賑やかになるでしょう。そうしたら面白いですよね。そういった地域づくりにも貢献できたらいいなと思います」


「除雪機大好きです」というジェレミーさん、その姿がすっかり板についている

なんでもやってみること。お二人からは「トライ」という言葉が何度も出てきました。

挑戦できる環境、じっくり考えられる時間、感性揺さぶられる圧倒的な自然、お二人にとって妙高はこれからの夢を描くには最高の場所だったのです。

「enjoy everyday」

グさんは自身の暮らしで大事にしていることを、そう表現してくれました。その日そのとき、目の前にあることを楽しもう。簡単なようでとても難しいことです。


窓からは妙高山が見える

以前のお二人のように、毎日忙しく働く生活の中で「いま」を犠牲にして、なんのために生きているのだろうと自問自答している人、先の見えないコロナ時代に目標を見失っている人もいるかもしれません。

そんなとき、あなたならどうしますか。

行ってみたい場所へ行く。
感覚に導かれるままにやってみる。
人の温かさに触れる。

自分自身の心の声に素直に、一歩ずつトライする。

ジェレミーさんとグさんの生き方は、これからの人生を考える全ての人に夢や希望を抱くために必要な「源泉」の大切さを教えてくれます。

そしてその「源泉」は、心を解放できる場所で初めて湧いてくるものなのかもしれません。

お二人が見つけた、夢を描く場所。
真っ白な妙高の雪景色に、あなたも夢を描いてみませんか。

 

編集:大塚眞
文:諸岡江美子 写真:川村章子

                   

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