少子高齢化と人口流出、過疎化に苦しみ、活力を失いつつある日本の地方。
そんな地域の姿、日本の未来を変えるために国を挙げて始まったのが、「地域活性化」への取り組みです。
この記事では、政府もその推進・支援に力を入れている「地域活性化」の具体的な施策、成功事例・失敗事例、取り組みを成功させるポイントについてそれぞれ解説します。
地域活性化への取り組み
政府は2014年に「まち・ひと・しごと創成期総合戦略」を策定し、「4つの基本目標」と「3つの矢」と呼ばれる指針を提示。各自治体に予算を配分し、地方創生、地域活性化への全国的な取り組みをスタートさせました。
「4つの基本目標」と「3つの矢」の具体的な内容は次の通りです。
4つの基本目標 3つの矢(取り組み)
1. 稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
2. 地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
3. 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
4. ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
3つの矢
●経済支援の矢
地方創生推進交付金
●人的支援の矢
地方創生人材支援制度
● 情報支援の矢
地域経済分析システム(RESAS)
地域活性化がなぜ日本の重要課題とされているのか、これらの取り組みを推進すべき理由については、こちらの記事をご参照ください。
(参考)https://turns.jp/53326
地方創生を目的とした政府の施策
地方創生を目的とする政府の施策には、主に次のようなものがあります。
● 地域経済の活性化
● まちづくり
● 農山漁村及び中山間地域等の振興
● 産官学連携
ひとつずつ詳しく解説します。
地域経済の活性化
地域経済を活性化させることで、新しい雇用やビジネスチャンスを生み出したり、定住人口の減少に歯止めをかけることもできます。
今地域にあるものを最大限に活用することはもちろんのこと、都市部から企業を誘致したり、拠点を設置したりすることで、地域に新しい雇用の創出と働き手の移住、及び経済の活性化を図るとも有効です。
そのためには、誘致しやすい環境を整備したり、新たな企業の創業支援をしたりする必要があります。
経済産業省や厚生労働省など、関係省庁が力を合わせ、補助金や各種施策を展開し、地域経済の活性化を支援しています。
地域経済活性化に関する補助金や施策には次のものがあります。
● 成長産業・企業立地促進等事業費補助金
● 地域自立型買い物弱者対策支援事業費
● 起業・創業支援
● 伝統産業の活性化 など
まちづくり
地域活性化には企業を誘致するだけではなく、地域に暮らす人々が住みやすい環境を整える「まちづくり」の施策も欠かせません。人口流出を防ぐとともに、新規流入と定住人口の増加を狙う施策です。
政府主導の支援策には次のようなものがあります。
● 住民参加型まちづくりファンド支援業務
● 地域居住機能再生推進事業
● 空き家対策 など
内閣府が発表した「政府における地域活性化施策について」では、内閣総理大臣を本部長に据えた「都市再生制度」に基づき、全国の都市再生事業を推進することが発表されています。
「都市再生整備計画」によって指定した全国約3,200の市町村・地区に対し、財政支援を実施するほか、民間企業に委託する形での地方創生策として「民間都市再生整備事業計画」を実施しています。
農山漁村及び中山間地域等の振興等
農業や漁業をはじめとする、第一次産業に対する施策も講じられています。
具体的な施策は、次の通りです。
● 農山漁村活性化プロジェクト支援交付金
● 中山間地域活性化資金
農林水産省主導で行われている地域活性化のひとつで、各種第一次産業のPRや後継者不足問題にフォーカスした施策です。膨大な費用がかかる設備投資、管理維持コストの面でも支援を行うことで、第一次産業の担い手を育てる意味合いもあります。
自治体が単独で作成した計画に対しては、農林水産省にその計画をするにあたって掛かる必要経費を申請することで、管轄する国から交付金が受けられます。第一次産業の後継者不足や担い手不足が叫ばれる中、産業を存続・強化させるための重要な施策です。
産官学連携
国と地方都市の組み合わせだけではなく、企業、大学などを絡めた産官学連携による地域活性化も推進されています。
例えば『凸版印刷株式会社』は、自社の推進する地域活性化施策の中で、産官学連携プロジェクトの推進を実施。地域の課題をよく知る大学教授や有識者、関心のある学生とともに、地域の特性に合わせた戦略・組織づくりを進めています。
学生たちのフレキシブルな意見を、最先端テクノロジーなども用いながら企業や行政が形にすることで、新しい方向性から地域活性化に取り組んでいるのです。
地域活性化の成功事例
全国ではどのような地域活性化施策が実施され、どのような成果が挙がっているのでしょうか。
ここでは、地域活性化の成功事例を3つ紹介します。
岐阜県可児市
岐阜県可児市には10個の山城跡があり、山城を活用した地域活性化が官民合同で行われています。具体的には「チャンバラ合戦-戦IKUSA-」を開催にすることでPR事業に成功し、同イベントは参加者1万人を超える大イベントに成長しています。
「チャンバラ合戦-戦IKUSA-」の運営は、地元の若い住民が中心です。若者主導の地域活性化にするために自治体側は企画や運営、リピーター増加の施策を若者に任せています。その結果、若者を主体にした地域活性化が成功したのです。
奈良県大和郡山市
金魚の一大養殖地として知られる奈良県大和郡山市は、金魚関連のイベントで一時的ににぎわうものの、町への誘導策が乏しいという課題がありました。そこで、主に金魚を活用した、時期を問わず楽しめるイベントや企画を町の至る所に配置し、年間を通して地域外から人を呼ぶ仕組みを整えました。
たとえば散策案内を用意したり、金魚鉢デザインコンテストの優秀作品を町のなかに展示する他、地元商店街で使用できるクーポン提供なども開始。集客だけではなくお金を使ってもらう仕組みも構築した点がポイントです。
秋田県湯沢市
秋田県湯沢市では、育児や介護でフルタイム労働ができない女性が多いほか、冬場の農業従事者の就労機会問題、企業の広報活動など複数の課題を抱えていました。
それらを上手く解決するために、クラウドソーシングや在宅ワークをいち早く推進しています。それに伴ってクラウドソーシングの使い方や活用方法をサポートできる体制を構築。新規雇用の創出やUIJターンの促進など、人口流出を防ぐ取り組みとして注目されています。
地域活性化を成功させるために
これらの事例を踏まえ、地域活性化を成功させる3つのポイントを詳しく解説します。
継続できる施策にする
地域活性化への取り組みは短期間・単発では終わりません。
たとえば商業施設の誘致は、比較的簡単に思いつく施策であり、短期的には一定の効果を見込むことができます。しかし、継続的に新規出店者への呼びかけを行ったり、来店客を増やすためのイベントなどを開催したりなければ、その成功は一時的に終わってしまうものも少なくはなく、誘致した数年間しか効果がないケースもあります。
また、商業施設を誘致したからと言ってそこに人が定住したり、関係人口として継続的にかかわる人が生まれたりするとは限りません。商業施設の誘致とともに、定住してほしいターゲットが住みやすい、関わりやすい環境を整えることが重要です。
短期的な成果に捉われ過ぎず、長期的な観点からも事業を見通し、継続可能な形で収益化、事業化させていく必要があります。
今ある資源を活用する
地域に既にある資源を再発見・活用した施策を講じることも、地域活性化には重要です。「目新しいものを」と意気込む気持ちも大切ですが、その町にある観光資源や産業、魅力を再発見してからでも遅くはありません。
資源は「もの」である必要はなく、地域固有の歴史や文化、自然、人など、でも良いでしょう。とにかく、その地域の魅力となるものを再発見し、それをどのように活用していくのかを検討することが優先です。
もちろん新しい施策がまったく良くないわけではありませんが、まず優先すべきポイントとして、今ある地域資源を活用することを念頭に起きましょう。
行政・住民の連携が必須
地方創生・地域活性化を推進するうえで、行政と住民の連携は必要不可欠です。双方が地域の現状を直視し、足並みをそろえて協業することで事業を成功に導くだけでなく、相乗効果も生み出すことができます。
過去には行政が先行して地域活性化に乗り出したものの、住民がついてきておらずに失敗してしまったケースもあります。その逆も然りで、住民が問題解決を急ぐあまり行政との連携が図れず、バックアップが得られなかった例もあるようです。
行政と地域住民の代表者は綿密な打ち合わせを行い、どんな方法なら双方が納得いく形で施策が実施できるか、無理はないかを検討しなければなりません。
事業を継続的に運営していくためにも、担い手や協力者の理解は欠かせません。
地域活性化の成功・失敗事例を分析した施策を
地域活性化の第一歩は、地域に眠っているヒト・モノ・コトを資源として見直し、それらを最大限に活かすところから始まります。
その担い手は、地域社会を構成する私たち一人ひとり。
先駆者たちの失敗・成功事例を教訓に、身近なところから取り組んでいきましょう。
文:久保田幹也