2050年に都農が世界の真ん中にくる未来を目指して

株式会社イツノマ 代表取締役CEO 中川敬文さん

宮崎県の中央部に位置する都農町。豊富な農畜水産物の特産品を生かした「道の駅つの」ふるさと納税、町規模でのプロサッカーチームの誘致など、人口1万人の小さな町の枠に収まらない取り組みは、地方創生のモデルケースとして注目を浴びている。

一方、他の地方自治体と同様に少子高齢化の影響は深刻で、2040年には老年人口が生産年齢人口を上回ることが予想され、2021年3月には町内唯一の高校が廃校に。

そんな都農町は2020年4月に町制施行100周年を迎えた中、次の100年を見据え自ら提案したグランドデザインを推進・実行するために同町に単身移住した人物が中川敬文さんだ。

町の未来図を描くべく活動している中川さんに地方のまちづくりの話をお伺いした。

【プロフィール】
中川敬文さん
1967年、東京都生まれ。大学卒業後、株式会社ポーラ、コンサルティング会社を経て、新潟県上越市に家族で移住。新潟では当時国内最大級のパワー型ショッピングセンターの立ち上げに関わる。30代の頃に東京に戻り、UDS株式会社に入社。良品計画の「MUJI HOTEL」など国内外の数々ホテルの企画・運営や職業体験施設「キッザニア」の立ち上げなど、地域の場作りや子どものキャリア教育を幅広く手掛ける。2020年に代表取締役を譲り、宮崎県都農町に単身移住。2020年4月に都農町で株式会社イツノマを創業。町制施行100周年のグランドデザインを提案。現在、同町のまちづくりを官民連携で担っている。

 

人口1万人の小さな町への移住きっかけは人

「相当せっかちな性格で、人から『いつの間にやったの』と言われるのを喜びに感じるタイプです。それとイツノマという社名には『“今(いま)”の時代の真ん中に“都農(つの)”がきますように』と願いを込めています」と話すのは、宮崎県都農町のまちづくりスタートアップ「株式会社イツノマ」代表の中川敬文さん。

新潟や東京などで約30年間まちづくりに関わり続けてきた中川さんが、人口1万人の小さな町への移住に至るきっかけは、前職UDS時代に提案していた町制施行100周年のグランドデザイン策定に携わったことだった。

「新潟にいた頃に、地方のまちづくりには住むのが一番だなという原体験がありました。イツノマが『人からはじまる、まちづくり』をミッションにしている以上、本当に人で移住を決めました。まず、外からみると町長が強烈に面白かった。口蹄疫で甚大な被害を受けた中での道の駅の立ち上げや、キウイ事業など次々と手掛けるその経済センス、明るく楽しく振る舞うキャラクターがすごく魅力的に写りました。50代を、都農で出会った人達と全力で働けたら超面白いなと思ったんです」。

そして中川さんは、自ら提案したグランドデザインが絵に書いた餅に終わらないように単身移住を決意する。

 

コロナ禍の苦境から生まれた「デジタル・フレンドリー宣言」

「移住直後から流行した新型コロナウイルスの影響で、楽しみにしていた500人規模のワークショップなどの活動は一切できず、移住直後はほぼ失業状態でした」

そうした中、コロナ禍で販路を失った生産者の救済策として直販ECサイトへの登録を進める。そこで目の当たりにしたデジタル化が全く進んでいない町の現状が、2021年のグッドデザイン賞ベスト100に選ばれた「デジタル・フレンドリー宣言」に繋がっていく。

「デジタルと友達になって、デジタルで友達を増やそう」という中川さんが名付けた宣言の中身は、「全世帯がインターネットに接続できる環境を整え、高齢者や子どもがいる世帯にタブレットを配布し、会津若松市を参考に個人IDを埋め込んで双方向型のホームページを作成すること。そして一番大事にしているのは、孫世代が祖父母世代にボランティアベースでタブレットを教えること」だという。

中川さんは今後の最大の課題に、「タブレットを使ったら面白いよね」というコンテンツの開発を挙げる。

「デジタル・フレンドリーの本質は、コロナだけでなく、高齢化で町民が集まれなくなっている状況で、人口1万人のコンパクトさを生かし、デジタルを通して、町で起きていることをリアルタイムで共有できること。現在、公式YouTube『つのTV』で自分たちが取材した地元のニュースを毎週一本配信しています。また、デジタル化推進でシニア世代の買い物難民を救うことが結果的に孫世代の負担を減らすことにもなる。そのために町独自のECサイトの構築に向けて実証実験も行っています」

デジタルインフレを整えるだけに留まらない、多世代がデジタルで繋がっていく環境づくりに向けて動き出している。

 

次世代がつくる都農のまちづくり

そんな地方のまちづくりの最前線で奮闘しているのが県外から都農に移住してきた30歳以下の4人の若者たちだ。

「やりたかった地方でのキャリア教育ができるよという言葉で来てしまいました(笑)」と話すのは、ベトナムで日本語教師などを勤めていた吹田あやかさん。現在は同社の執行役員として、ワークショップのファシリテーターやライターなど一人何役もこなす。
吹田さん以外にも都内の元カフェ店長や元フォトグラファーなど出身もキャリアも異なる個性的な人材が集まっている。

中川さんが自宅兼事務所としている場所は、2軒の空き家を再生した「まちづくりホステルALA」。もう一軒には吹田さんが住み込み、日本中のまちづくりに興味のある人の出会いの場や宿泊施設として中川さんの愛犬と共に出迎える。

「移住を決めた時から、“学生が出入りする所”に住みたかったんです。夜通し学生たちのトークを盛り上げて、『都農おもしろいからとにかく来てみたら』という話をしていきたいですね。」と住まいへの想いを中川さんは語る。

「吹田が立ち上げたオンラインコミュニティーの『まちづくりカレッジメンバーなど、僕らの話に興味を持った学生が訪れてくれていて、今度都内の大学生2人のインターン生も決まっています。他にもALAでは吹田主催で地元の若者が集まる『若者ひろば』がスタートしています。そこで若者たちだけで何かやるチャンスがあった方がいいかなと思い、地元の経営者6人と一緒に作った会社『つのBASE』で計画していた「一之宮マルシェ」を、おじさんは足りないお金を出すだけにして、後は若者に丸投げしました(笑)。27歳の実行委員長を中心に、これからの文化の担い手である若者のためのマルシェになればと思います」

地方創生という言葉だけではない、自らの行動で地域を元気にしたいという若者たちの新たな息吹が徐々にだが確実に育ってきている。

 

大人たちの使命は将来を担う世代へのインフラ作り

中川さんがまちづくりにおいて最も大事にしているのが子どもたちへのキャリア教育だ。

「僕のターゲットは常に子どもです。情報がパラレルになった今、僕らもきて東京からも人がくるようになれば、都農にいながら東京の子となんの変わりもなくなります。小中学生がみんな授業の中で、『二酸化炭素(CO2)を削減するアイデアをレゴで作って』といえば『二酸化炭素を作り過ぎた人を入れる刑務所』などの考えを次々と子どもたちは形にできる。小中学生の頃から二酸化炭素を減らすアイデアを300個出したりとか、選抜チームを作って議会に提言するように準備を進めているような町って他にはあまりないと思います。子どもたちがゼロ・カーボンでリテラシーが上がってくれば、町全体が良くなるんじゃないかなと思わせてくれる、都農の小中学生ですね」

2021年の4月、廃校になった都農高校でイツノマのキャリア教育を受けた卒業生が同社に入社している。

「自分みたいに町に残って町を良くしようと思ってくれる人を増やしたいという彼女の3年間の目標を聞いた時は、けっこうジーンときました。都農の子どもたちがあんな人になりたいなというモデルを10代20代でたくさん作りたいですね」と話す中川さん。今彼女は、母校の小中学校のキャリア教育や卒業した高校跡地の活用の企画など大活躍中だ。

町の中心部に位置し、約46,000㎡近くの広大な敷地の都農高校跡地。中川さんはその場所を、多世代を結び地域の新たな経済の発信拠点としたいと考えている。

「例えばソーラーパネルを設置して、その下をブドウの果樹園にしたソーラー公園の企画もできないかと思っています。そして『おじいちゃんどこ行ってくるの?』『都農高校だよ』って言えるような目的地を作りたい。さらに、都農高校から物を大事にする都農のような地域と相性の良い、サーキュラーエコノミー(循環型経済)ビジネスが誕生していく場にもしていきたい」

「昔、昭和のおじさんたちが一生懸命高速道路や橋のインフラを作ったように、その代わりにデジタルの環境とゼロ・カーボンのベースのリテラシーを作るっていうのが、僕が少なくとも60代までにできることかなと。そのインフラで育った子どもたちが世界中で活躍して、自分たちで作った町の仕上げに帰ってくる絵をみてみたいですね」と嬉しそうに話す中川さんの姿は真剣そのものだ。

人口1万人の小さなまちで、イツノマが仕掛けるデジタル化とゼロ・カーボンという未来への架け橋は世界へも繋がっている。

 

取材・執筆=日高智明 構成=田代くるみ(Qurumu) 撮影=田村昌士(田村組)

 

都農町とは

都農町は宮崎県の太平洋側南北のほぼ中央に位置し、2020年に町制施行100周年を迎えた歴史ある町です。伝統を重んじながらも、日々新たなことにチャレンジしています。現在は「デジタル・フレンドリー」を宣言し、「デジタルと友達になり、デジタルで友達を増やす町」をコンセプトとするデジタル技術を活用した地域づくり(2021年グッドデザイン賞ベスト100選出)に取り組むほか、小・中学生を中心に「ゼロカーボンタウン」を目指す取り組みも始まっています。また、「保育料無料」や「中学生以下の医療費無償」といった支援にも力をいれており、子育て世帯に優しい町です。

 

■食べ物|FOOD
都農町のワクワクが揃う「道の駅つの」

「道の駅つの」は、2013年7月にオープンして以降、年間約60万人以上が訪れる本町のにぎわい拠点となっており、季節ごとにとれたてのフルーツや野菜、地元ならではの加工品といった、ここでしか購入できない食材がたくさん揃っています。特に、本町ではトマトや尾鈴ぶどうが有名で、トマトを使った加工品や尾鈴ぶどうを使用した都農ワインが人気商品となっています。今後「道の駅つの」は、リニューアルが予定されており、ますます目が離せません。ぜひ一度訪れてみてください。

 

■場所|SPOT
チャレンジを応援する拠点の誕生

都農町では現在、続々と新たなスポットが誕生しています。その中の1つ、2021年3月に(一財)つの未来まちづくり推進機構が空き店舗をリノベーションしオープンした多世代交流拠点 「文明(BUNMEI)」があります。様々な人が集うBUNMEIの1階には創業を支援する「BUNMEIチャレンジカフェ」があり、ここでは都農町内での起業を目指す人が一定期間BUNMEIキッチン と客席を使って実践的なチャレンジをすることができます。現在は、都農町の地域おこし協力隊員が「道の駅つの」で仕入れた食材をメインに地産地消料理を提供しています。

 

■暮らし|LIFE
尾鈴山に見守られ伝統と共に生きる

都農町の西にそびえる尾鈴山の周辺一帯は、日本の滝百選に選ばれた「矢研の滝」をはじめ 無数の滝を有しており「尾鈴山瀑布群」として国の名勝にも指定され、四季折々の自然が楽しめます。また、町の中心部には由緒ある日向国一之宮都農神社があり、毎年8月1、2日には 本町の一大イベントでもある夏大祭が開催されます。町外に住む本町出身者がこの日にあわせて帰ってくるほど、とても愛されている祭事です。このように伝統が脈々と受け継がれている一方、神社という空間を利用した新たなまつりやマルシェなどの催しも行われ始めています。

 

【お問い合わせ】
都農町 まちづくり課 移住相談窓口
0983-25-5711

                   

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