新富町を、世界一チャレンジしやすいまちにしたい
“既成概念を超えてつくる” 新しい地域のかたち

宮崎県新富町に本拠地を置く一般財団法人「こゆ地域づくり推進機構(略称:こゆ財団)」が、2月17日に「地方創生DX塾withコロナ時代の働き方」と題してオンライントークイベントを開催しました。

こゆ財団は、2017年に設立。新富町の地域資源を生かした人材育成、商品開発、関係人口創出などに取り組んでいます。なかでも、希少な国産ライチを「一粒1000円の新富ライチ」としてブランディングし、地域の名産品に育てました。また、運営を手掛ける同町のふるさと納税事業では財団設立の前年度比で2倍以上となる約9億3000万円の寄付金を集めるという実績も上げています。

モデレーターは、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構の執行理事 高橋邦男さん。ゲストスピーカーは、株式会社LIFULL LivingAnywhere Commons事業責任者の小池克典さん、東邦レオ株式会社の吉田啓助さん、そしてTURNSプロデューサーの堀口正裕の3名です。

「地方創生DXとは、今はやりのデジタルトランスフォーメーションのことではありません。行動する『Do』と、掛け算の『X』。『Do かける』と読んでください」という高橋さんのオープニングトークから始まったこのイベント、まさに「行動」の大切さをさまざまな角度から再確認するものとなりました。

 

地域の既成概念とどう向き合うか?

まずはこゆ財団の活動、そしてゲストスピーカー3名の自己紹介からスタート。

LIFULL小池さん、東邦レオ吉田さんがそれぞれ実行している地方での取り組みには、高橋さんも興味津々。一方で、東邦レオ吉田さんの「行政から地域社会まで多くのステークホルダーがいるなかで、こゆ財団がこれだけの実績を5年間上げ続けてきたのはすごいこと」という言葉には、高橋さんは思わず「そんなにうまく行っていたら、僕の髪もこんなに白くなっていないと思うんですけど……」と苦笑いする一幕も。

まずテーマとして挙がったのが、「既成概念とどう向き合うか」。地方には、都会からの視界には映らない障壁があります。もともとは地域での営みに紐付いたしきたりや習わしだったものが、動かしにくい「既成概念」として、新しい試みを妨げてしまうことがあるのです。

「僕らが『一粒1000円のライチを作ろう』と言い出したときも、やっぱり『何を言ってるんだ』という反応でした。でも、そのライチが空港に並んだときから風向きが変わった。そこで既成概念が変化して、日常の光景になった」という高橋さんの経験談が、その難しさと乗り越えることの意味を物語っています。

 

〝このままではいけない〟という共通認識をもってもらう

ゲストスピーカーは、こうした問題にどう向き合っているのでしょうか。

吉田さんは「地域に入っていくときには、自分のキャラクターも生かしながら『あ、そういうことまでやっていいんだ』と意識を変えてもらうこと。一方で何かを始めるときに『まず誰と誰に話を通すか』をしたたかに考えます」と硬軟両面の「必殺技」を披露。大前提として、「今の状態のままでは、この地域の状態は悪くなっていく」という共通認識を持ってもらうこと。さらに、「既成概念を超えるという意味では、企業側もそれまでやっていた枠から出なくては」と提言します。

「以前は営業マンとして既成概念の塊だった」と自分自身を振り返ったのは小池さん。アウトプットだけしかしていない自分に危機感を覚え、インプットの機会を求めて組織を飛び出して活動をスタートさせました。現在は「社内では変わり者って見られるけど、外にはもっとすごい人達がたくさんいる」という認識の上で、外部の人達とコラボしながら新しいチャレンジを続けています。

 

ランニングコストも低く、競合も少ないローカルにこそチャンスがある

また、小池さんは事業開発やスタートアップ支援を行う立場から、「都心部は、家賃などのリビングコストの高騰ですでにスタートアップを生みにくい構造になっている」と指摘。「たとえば、東京の六本木でいきなりパン屋さんをやろうとするのは現実的ではない」という例え話には一同が納得。だからこそ、ランニングコストも低く競合も少ないローカルにこそチャンスがあると訴えます。

吉田さんも「(都心に比べると)ローカルは初期コストが安く、会社の体力勝負ではなく送り込む人材勝負になる。そうなると、決済のGOも出しやすい」とローカルでチャレンジするメリットを挙げました。

「あと、本社からは遠いので、こっそりいろんなことができる」という本音には、小池さんも「めちゃめちゃわかる(笑)」と思わず笑顔に。

TURNS堀口から「こゆ財団から企業に対しての営業活動はどうしていますか」という問いには、高橋さんは「本来なら、九州の端っこにいる我々は営業活動では不利。しかし、昨年のコロナ禍以降、直接対面できないことを逆手に取って、オンラインでどれだけ接点を作れるかを戦略的に取り組みました」と、種まきに徹していると回答。今回のようなオンラインセミナーもその機会になるとか。「新富町もこゆ財団も、県外での知名度は低い。それで情報発信をしていなかったら、存在していないのと同じです」とシビアな認識も示しました。

 

次の50年はどうなっていくのか?

最後に高橋さんが小池さん、吉田さんに投げかけられたのは「次の50年はどうなると思いますか」という問い。

小池さんの答えは「技術の進歩で、どんどん人間が働かなくてもいい時代が来る。そのとき、自分の人生を豊かにするための『ライフワーク』が大切になる」。

吉田さんは「自分の子どもたちが、私が二拠点生活したり地方で活動する姿を見て『ああなりたい』と思ってもらえるようにしたい。仕事第一の人生、という時代ではなくなっていくなかで、それぞれがどんなテーマをもつのか、それを見せることができれば」。

ライフスタイルが変化することで、人と人のコミュニケーションや地域コミュニティの重重要度は高まるため、「地方創生後の50年後の未来は明るい」と推測しているのです。

これを受けて、TURNSプロデューサーの堀口は、
「吉田さんや小池さんがおっしゃるように、今後は仕事の概念が大きく変わっていくと思います。地方創生の先に、働き方の明るい未来が待っていると考えると、今からワクワクしますね」と締め括りました。

 

DXを、単純な「社会のデジタル化」ではなく、「Do」=行動の変容と捉えることで、知らず知らずのうちに染みついている既成概念の枠を離れることができる。そして、そこで改めて問われるのはやはり「ひと」ではないか……。

ゲストの皆さんが、それぞれの地域のなかでの実践から編み出した学びの一端に触れることができた、貴重な時間でした。

 

文・深水央

                   

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