岩手の暮らしから“自分だけのほんとうの幸せ”を探る
「”いわて暮らし”を学ぶ学校」開催レポート

「“いわて暮らし”を学ぶ学校」は、いわての暮らしや暮らす人の姿を通して、“自分だけのほんとうの幸せ”を見つけるプログラム。

月1回の講義では、テーマに合わせてゲストを呼び、ファシリテーターの佐藤柊平さんとともにトークを展開。各回ごとに岩手のおいしい食材を「給食」として提供し、ゲスト・参加者ともに交流を楽しみました。

今回はセミナーの様子を抜粋してお届けします。

1限目:いわての「食」

1限目のテーマは。広大な土地を持つ岩手には、風土に即した豊かな食文化があります。

岩手にはどのような食があり、そこにはどのような文化があるのか。

岩手の食をめぐる情報誌「地から」を制作・出版している編集者・ライターの佐藤利智子さんと、料理人の植村美里さんをゲストに迎え、TURNSプロデューサー堀口とともにトークを行いました。

まずは岩手の食をよく知るゲスト2人に、その魅力を伺いました。

「四季の移り変わりがくっきりしていて、それに伴って季節ごとに旬を取り入れた暮らしが必ずあることですね。あとは、水が本当においしいです」(佐藤さん)

「柑橘以外、なんでもある。フルーツも野菜も魚も肉もすべて揃っていてクオリティが高いです。田んぼや畑が暮らしの近くにあるからスーパーでも他県の野菜が並ぶことが少なくて、農家からの産直品もめちゃくちゃ安く手に入ります。農家から直接買うことも増えましたね。

それと、関西出身の私にとってとても新鮮だったのが、寒さの厳しい冬に向けて、蓄える文化があるところです。冷凍したり、塩漬けにしたり、干したり……関西では冬でも畑で作物が当たり前に採れるので、すごく興味深いなと思いました」(植村さん)

「東京にはさまざまな食材がある。種類だけで言えば、豊富に揃っているのかもしれない。しかし、高い金額を出さなくても当たり前に旬の食材が食卓に並び、食材で季節を感じることができる喜び。それが、一次産業と密接に結びつく岩手の食の魅力ではないか」
との堀口の総括に、一同大きく頷いていました。

また、岩手の暮らしには「余白」があり、そこが魅力のひとつになっているとの意見も。

「都会では私がこれをやりたいと思っていても、すでにやっている人がいたり、もっとうまくできる人がいたりする。でも、岩手にはまだ余白があるので、そこにぴったりハマれば自分なりの働き方を作っていけるように思います」と植村さん。

ファシリテーターの佐藤さんも、「ハマったときにどこまでも伸びていけるような感覚がありますよね」と、自身も一度東京で働いたからこそわかる感覚を共有してくれました。

2限目:いわての「仕事」

8月に行われた2限目のテーマは仕事。岩手にはどのような仕事があるのか。岩手ではどのような働き方が叶うのか。岩手で自分らしい働き方を叶えているゲスト2名を迎えてお話を伺いました。

手塚さや香さんは、さいたま市出身。新聞記者として働いていましたが、復興支援員として関わったことをきっかけに岩手へ。現在は取材ライターとして活動しながら、若者のキャリア支援や県内の地域おこし協力隊向けの研修事業の企画・運営なども行う「複業フリーランス」として活躍しています。

神奈川県出身の古川明洋さんは、大学在学中に岩手県陸前高田市でまちづくりを行うNPO団体に参加。そこでの経験からローカルで自己実現を行うことに大きな可能性を感じ、花巻市で創業110年を超える老舗木材店「小友木材店」に新卒で入社しました。

最初のトークテーマは「都市と地方の『仕事の仕方・働き方』の違いとは?」。

「いろんな意味で距離感の近さなのかな」と話し始めた手塚さん。

「どこに行っても同じ人に会うし、距離が近いからこそ、仕事のことや家庭環境などお互いの事情を理解しあえる。でも、そこに息苦しさを感じる人もいるのかも。自分はそれを面白いを思えるから、地方が向いているのかな」。

それを受けて古川さんも

「人もそうですし、暮らしと働くことが交わりやすい。陽が昇れば働いて……というのもそうだけど、雪が多い地域なら冬になると除雪の仕事が増えたりとか、暮らしのために働いているという実感が得やすいですよね」

と続けました。

次のパートでは「岩手でライフワークを形成するために何が必要か?」をテーマに、自分らしく過ごすためのライフワークづくりについて伺いました。

古川さん曰く「岩手は東京と比べてのんびりしていて、暮らしに余白がある」とのこと。いかにそこを楽しめるかが、暮らしを豊かにする大切なポイントなのだとか。古川さんは走ることが好きなので、花巻のランニングチームに所属し、マラソンなどにも出場しているそうです。

一方、「私は余白があると不安になっちゃう(笑)」という手塚さん。「おもしろい」と思うことには積極的に関わっているそうですが、たとえば仕事外の活動で出会った人から「こんな仕事を頼みたい」と改めて仕事の話が来ることも多く、“複業”というスタイルにもぴったりハマっているのだそうです。

「こうやって暮らしと仕事がうまく繋がり、循環していくと、自身の成長を感じる機会も増えますよね」と、ファシリテーターの佐藤さん。暮らしと仕事、そして人同士が近くにある岩手では、自分なりのバランス感を見つけることが大切なのだとわかりました。

 

3限目:いわての「コミュニティ」

3限目はコミュニティをテーマに、2人のゲストから岩手のコミュニティ事情やローカルにおける人との繋がり方・関わり方についてお話を伺いました。

ゲストは一関で100年続く染物屋「(株)京屋染物店」の専務取締役・蜂谷淳平さんと、千葉県出身で地域おこし協力隊として遠野市に移住したタナカミキさん

蜂谷さんは家業のかたわら地域の盛り上げや地域文化の継承に取り組み、タナカミキさんは関東での経験を岩手に合う形にアップデートしながら地域文化のプロデュースや発信を行っています。

蜂谷さんは地元出身者の目線で、タナカミキさんはヨソモノの目線で、ローカルの魅力や人との繋がり方について意見を交換。

「地域コミュニティは、間口は狭く、裾野は広い」と語る蜂谷さん。自身も伝統芸能である鹿踊りや地域文化継承の活動を通して地域のコミュニティに深く入り込み、地域の信頼や協力を得るきっかけになったのだそう。

「ある地域で信頼を得て『私はこういうことをやっている人間です』という話ができると、それは他地域で信頼を得ることにも繋がる。“通行手形”みたいなもんです。そして、その通行手形を得られれば、協力してくれる人がどんどん広がっていきます」。

タナカミキさんも「ローカルで何かをするには何よりも信頼が第一」と続け、

「信頼を得られれば自然と協力してくれる人も出てくる。私も来たばかりの頃は“地方のために”と思っていましたが、実際に中に入って働くようになって、なんて烏滸がましい考えだったんだと気付かされました。地方には地方のやり方で素晴らしいことをしている方がいる。こっちに来て学ぶことばかりです」と、自身の経験を語ってくれました。

そのほか、「地域コミュニティのよしあし」についてもトークを展開。

「地域の目があるというのは何かあったときの安心感に繋がるから、私は好きです」というタナカミキさん。

「そうですね。何か仕事を頼むにしても、その人の顔やキャラクターが見えるから頼みやすいところもあります。ただ、やっぱり面倒だなと思うこともありますよ。

それに、良くも悪くも変化に対してネガティブに捉えられがちな部分はあると思う。特に、地域文化を継承することとそれで経済を回すことは並行していいことなんだけど、どうしてもお金が動くことに対して『悪』と捉える人もいる。そういうところは難しい部分ですね。

そこで理解を得るためには、説明したり顔を合わせて話をしたり……という活動を丁寧に行っていかないといけないな、と思っています」

と、蜂谷さんからも実感値としての地域コミュニティの“よしあし”を伺うことができました。

4限目:まとめ

食、仕事、コミュニティと、暮らしに関わる3つのテーマで講義を行ってきた「“いわて暮らし”を学ぶ学校」。10月には岩手でフィールドワークを行い、“いわて暮らし”の空気感を肌で感じることができました。

最終回となる4限目では、これらの学びを踏まえて“自分だけのほんとうの幸せ”を探るワークを行いました。

岩手出身のメジャーリーガーが目標達成のために行っていたことで有名な曼荼羅チャートを使い、それぞれが自分にとっての“ほんとうの幸せ”とはなんなのか。そこに至るにはどうすればいいのか、を視覚化。

完成したチャートを発表する際には、自分とは違う“幸せ”の軸を共有しながらエールを送りあった参加者たち。“いわて暮らし”を通して、さまざまな考え方や価値観に触れ、岩手の魅力を再発見できたのではないでしょうか。

プログラムの最後には、

「これまでなんとなく、ただ好きで遊びに行っていたけれど、このプログラムを通して初めて知ったことや新たな出会いもあり、ますます岩手を身近に感じられるようになりました。これからもっと繋がりを増やして、深く入っていくのが楽しみです」

「これから岩手に住むことを考えるにあたり、とても貴重な経験になりました。まだやってみたいことは明確化できていませんが、岩手なら何か始められそうな気がしています」

との声も聞かれ、“ほんとうの幸せ”の実現に向けた一歩を踏み出すことができたようです。

                   

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