仕事や住処に縛られず、森を楽しむオンライン講座 「INA VALLEY FOREST COLLEGE」受講生募集!

都市に暮らしていても、森を近くに感じたい。
環境問題にポジティブなアクションをしたい。
地方移住を考えている。
そんな人に知ってほしい、森と親しむ講座です。

 

伊那で見つける、森と私の「関わりしろ」

南北に広い長野県の右下あたり。中央アルプスと南アルプス、二つの山脈に挟まれた盆地「伊那谷」に位置する伊那市。特徴は、何をおいても豊かな森林。市の面積の83%を森が占め、その広さ東京都の1/4!まさに、森のフィールドです。

ここ伊那市で2020年、森と暮らしをつなぐ担い手づくりを目指すオンラインスクール「INA VALLEY FOREST COLLEGE(以下フォレストカレッジ)が始まりました。

コンセプトは「森に関わる100の仕事をつくる」。

ここで学ぶのは、林業やバイオマス発電といった関わり方だけではありません。仕事も年齢もさまざまな人が自由な視点で森を楽しみ、自分らしい「関わりしろ」を見つけるための試みです。

たとえば2020年のある回のテーマは「森と教育」。

登場したのは、『小さくて、頑丈な暮らしをつくる』をキーワードに、人材を育成している農業高校の先生、子供から大人まで一歩踏み出して自然を楽しめる体験プログラムを提供しているキャンプ場オーナー、学生から大人までのキャリアを考える場づくりをされているキャリアコンサルタントのみなさん。

彼らが普段どんな仕事をしているのか、森の教育的要素の可能性、生きる力やサバイブ力。
体験と実感から話してくれる彼らの言葉に、コロナ禍で外出制限がなされる中、森での体感を得たい人が続出しました。

2020年のフォレストカレッジの様子。

 

今年度のプログラムは全5回。
講師には林業に携わる人だけでなく、建築家、香りプロダクトの開発者、地域文化商社の主宰者など、さまざまなプロフェッショナルに登場してもらう予定です。
「森と住まい」「森と手仕事」「森と暮らしぶり」など、森を身近に感じられるテーマを用意しています。

例えば、第3回目に開催される「森と都市」。
都市生活をしながら、森とつながるにはどうすればいいかという問いについて、TABEL株式会社代表の新田さんとサステナブルアクションの社会実装を目指すアプリサービス「slowz」のプロデューサー田中さん、都市から伊那に移住してきたランドスケープデザイナーの吉岡さんとのクロストークを通して考えていきます。

 

森との多様な関わりが、森の多様性を守る

伊那地域の森には、アカマツが多く生えています。

フォレストカレッジ立ち上げの背景には、山の担い手不足という厳しい現状があります。伊那の暮らしは、古くから森とともに営まれてきました。しかし、時代とともに森との暮らしが離れてしまい、所有者が分からなかったり、手入れが行き届かない森が増えるなど、いろんな課題を抱えています。

伊那市農林部「50年の森林推進室」の相馬夏美(左)さんと伊藤満(右)さんが話してくれました。

「海外に比べて、日本の山は圧倒的に傾斜が急なんです。大型機械ではなくチェーンソーで一本ずつ木を伐り出すためコストがかかり、外国産材に勝てない。林業が衰退して山の手入れが行われなくなると山の保水機能が低下し、土砂崩れや洪水が起きやすくなったり、植生や生態系が崩れたりと、多くの影響があります」(相馬さん)

8割の面積を占める森林は、伊那市の大切な資源です。森を有効に活用することは、地域の未来を変えること。
伊那市では2016年、「伊那市50 年の森林(もり)ビジョン」を掲げました。
森が豊かな自然環境を育み、環境、エネルギー、 雇用、教育の場として活用される社会を目指すというもの。「山(森林)が富と雇用を支える50年後の伊那市」を合言葉に、市民を主役にした自立的な経済の循環を構築する新しいビジネスモデル創出を目指しています。

「木のサイクルで考えると、50年は短いという考え方もあります。けれど今の小中学生が現役世代の間に、地元で木を循環させるサイクルをつくりたい。市民の皆さんを巻き込んで一緒に取り組むために、さまざまな試みを始めています。その一つが、減少が進む山の担い手育成です」(伊藤さん)

そこで手を挙げたのが、伊那の企業「やまとわ」の奥田悠史さんでした。
やまとわは「森をつくる暮らしをつくる」を理念に、農林業のほか地域材のアカマツに新しい価値を生むプロダクト開発、薪ストーブや地域材を生かした家づくりの提案など、幅広い事業を行っています。奥田さんは事業を通じて「木を伐って売るだけでは森を維持するのは難しい」と実感していました。そして発案したのが、「業界を超えて森の価値を再発見、再編集できる学び舎」フォレストカレッジです!

「83%が森林の伊那に生きる僕たちにとって、森という資源を生かすことは生存戦略です。『山が富と雇用を支える』を実現するには、新しい視点で森の使い方を考えることが必要です。森のことを森の人たちだけではなく、もっといろいろな人が関わることでチャンネルを増やして、たとえば『森×教育』『森×都市』といった、今までにないものを組み合わせたら森の可能性が広がっていくと考えました。それが『森に関わる100の仕事をつくる』というコンセプトにつながっています」(奥田さん)

「山の担い手育成は、市にとっても大きな課題です。伊那は森林の活動が盛んで、若手林業家も多く活躍しています。でも、さらに裾野を広げていくことも必要だと感じていました。奥田さんの新しい提案を受けて、一緒に始めようと賛同したんです」(伊藤さん)

2020年の受講生はデザイナーや建築関係者、学生、教師、主婦、IT業界で働く人など年齢も肩書きもさまざま。カリキュラムを通して想像以上にディスカッションが活発化し、個性豊かなアイデアが生まれました。例えば、伊那の森の恵みを毎月届ける定期便サービスや、社内研修や環境学習のフィールドとして森を活用するアイデアが、現在進行形で進んでいます。

「1つでも新しい事業が生まれたら、本当にすごいと思います。森林業界では当たり前のことも、外から見ると新しい発見があるんです。例えば山の木を伐って製材すると、最終的に製品になるのは全体の30〜40%。もし、残りの60%を新しい視点で資源化できたらすごくおもしろい!森の資源の出口を増やす場になれたら」(奥田さん)

 

木を伐ることで山に貢献する仕事

講座は、講師2名と伊那で活躍する地域プレーヤーとのクロストーク、そして、受講生同士のディスカッションメインです。その地域プレーヤーの一人が、伊那市で木こりとして働く北原淳史さんです。

北原さんは昨年、森の仕事を見てみたいという受講生の要望に応え、講座が始まる前の時間を使って、森で働く様子をライブ中継されたそうです。このライブ中継は、受講生から大好評でした!

急斜面の森で木を切り、時にはロープ一つで木に登ってチェーンソーを操る。危険と隣り合わせの仕事ですが、「週8日働きたいくらい、山の仕事が好きです」と笑う北原さん。

新卒で電子部品メーカーに就職しましたが、会社員時代に山づくり講座で学んだことが本格的な契機となり、林業を始めました。

木こりの仕事は、基本的に依頼を受けるところから始まります。山の持ち主(山主)に頼まれて間伐や草刈りを行う「森林整備」と、住宅街などで伸びてしまった樹木を家主などから依頼で伐る「特殊伐採」が主な仕事。森林整備では伐った木を運ぶ道を森に作り、重機で運搬し、最後に地ごしらえをし、新しい苗木を植林するところまで、山づくりに一貫して取り組んでいます。

北原さんの仕事風景。重機を操り、伐った丸太を運搬。

「間伐の場合、どの木を伐るか自分で決められるんです。僕の理想は、いろいろな木が生きる多様性のある山。それが自然で健全な姿だと思うし、災害にも強くなるから。だから、珍しい樹種は伐りません。たとえばアカマツの森にモミの木があれば、どれだけ伐りやすい場所にあっても絶対に残します。倒しにくい位置でも、うまく隙間に倒れるように計算したり、ロープで木を固定して場所を空けたり。見る人が見れば、非効率だって呆れるでしょうけどね(笑)」(北原さん)

意外だったのが、間伐で出た木材をどこに売るかも、木こりである北原さんらが決めるということ。伐った木を見ながら仲間同士で相談して「これはあそこの建材屋に持っていけばフローリング材になる、これは製紙会社へ持っていこう」と売り先を決めるのだそう。

「売り先を考えることも楽しいですよ。できるだけ高く売って山主さんに還元したいから、今どの地域でどんな需要があるか、どの木がいくらで売れるのか、常に頭に入れてあります」(北原さん)

「北原さんのように、しっかり市場を見て考えている木こりがいてくれると、心強いです。積極的に林業を楽しんでいる人が集まっている環境が、伊那の魅力です」(奥田さん)

木材流通を川の流れに例えて、「川上・川中・川下」という呼び方があります。

川上にある山で木を伐り、川中で製材して、川下で販売をする。木こりの仕事は川上に当たります。山の担い手が多い伊那市では、川上から川下まで互いの顔を見ながら仕事ができる環境があります。

「一番嬉しいのは『自分の山の木を伐って家を建てたい』という依頼です。なかなかないんですけどね。仲間と伐った木を囲んで『この1本から梁と土台が2本取れるな、ここは柱になるかな、いや曲がっているからダメか』と相談したりして。自分が伐った木がどう使われるか見えるのは、やっぱり楽しいです」(北原さん)

 

地域のハブとなる製材所の役割

北原さんのように山から木を供給する「川上」と、最終的なユーザー「川下」をつなぐのが製材所です。森から伐り出された丸太を製材し、住宅や家具に使うために加工するところまでを担います。

伊那地域で90年以上の歴史を持つ有賀製材所の3代目社長を務める有賀真人さん。
製材業と地域材を使った住宅建築業の両輪で、森と暮らしをつなぐ取り組みを行っています。いわば、伊那の木材流通のハブ的存在。フォレストカレッジ協議会の代表も務めています。

「私の祖父の時代はどの家も自分の山を持っていて、家を建てるときは自分の山から木を伐り出すのが当たり前でした。木を伐る人、馬で材木を運ぶ馬方さん、製材所、大きなノコギリを使って手で丸太を挽き割る木挽きさん、大工さんと、木材を中心に地域経済が回っていたんです。うちも昔は、持ち込まれた丸太を1本単位で製材する『賃挽き』の依頼がひっきりなしで、収入の中心でした。奥田さんが掲げた『森に関わる100の仕事』というテーマは昔を取り戻すことでもあるし、山の価値を再発見することにもつながる。おもしろい試みだと感じています」(有賀さん)

 

現在有賀製材所で扱う材木は、ほぼすべて伊那谷で育った地域材。とはいえ時代の流れに合わせて、安価で安定した量が手に入る外国産材を扱った時代もありました。方向転換したのは30年前。きっかけは、有賀さんのお母様の言葉だったそう。

「母がね、あるとき『まわりにこんなに山があるのに、どうして地元の木をもっと使わないの?』と言ったんです。地域で暮らすなかで実感があったんでしょう。確かに、地元の木を地元で使うことは理にかなっているんです。海外から船で運ぶより輸送燃料の無駄がないし、気候風土にも合っているから。当時、シックハウス症候群が問題になって自然素材の家に住みたいと考える人、特に女性からの声に耳を傾けながら、当時はまだ珍しかった地域材だけを扱う製材所に舵を切ったんです」(有賀さん)

伊那の山で切り出された、アカマツの見事な丸太(右)

時代の流れで地域の製材所が減っていくなか、有賀さんはかつてのような賃挽きも地道に続けています。それが、地域の製材所の役割だと考えているから。地域材を扱い始めてから、木こりや家具職人とのコミュニケーションも深まりました。

さらに「開かれた製材所」として、一般の人の見学も受け入れているのが有賀製材所の特徴。昔から地元の小学校や保育園の子どもたちの見学を受け入れているほか、昨年はフォレストカレッジ受講生の有志が独自に企画をした視察ツアーの受け入れも行いました。

「フォレストカレッジに参加して、都市で暮らす人もこんなに森に興味を持っているのかと驚きました。違う視点をもらうことで林業の可能性を開拓できるのではないかと思うし、それを実行する体制づくりが、僕らの使命だと思います」(有賀さん)

 

北原さんや有賀さんのように、森の仕事を積極的に楽しむプレイヤーがいること。彼らが互いに協力し、森の未来を真剣に考えていること。伊那市のそんな土壌が、奥田さんが「伊那でなら森の仕事ができる」と確信した大きな理由でした。

「ここには森の入り口から出口まで、おもしろいプレイヤーが揃っています。そこに行政である伊那市がビジョンを掲げ、未来を目指して動いている。双方が協力しながら未来に向けて動くことで、もっとおもしろくなっていくと思います」(奥田さん)

森を自由に楽しみ、森の可能性を探ってみませんか?
フォレストカレッジを通して、暮らしと森を少しだけ近づけてみましょう!

文・石井妙子 写真・林光


「INA VALLEY FOREST COLLEGE」2021年受講生募集中!

【定員】40名
【参加費】無料
【会場】オンライン(オフライン参加可能な講座もあります)
【募集期間】9月1日~30日まで

詳しい内容とお申し込みはこちらから
https://forestcollege.net

                   

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