宮崎県新富町に本拠地を置く一般財団法人「こゆ地域づくり推進機構」(以下、「こゆ財団」と記載)と、“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン「TURNS」が実施する、企業と一緒にめぐる “新富町フィールドワーク” 第2回目が開催されました。
今回新富町にご招待したのは、インフラ構築からネットワーク工事、アプリケーション構築まで広くITソリューションを提供している株式会社エー・アール・シーです。
新富町の魅力とともに、当日の様子をたっぷりとご紹介します!
《メンバー》
視察メンバー
株式会社エー・アール・シー
代表取締役 太田貴之さん/取締役 尾崎健一さん/イノベーション部 黒澤高さんTURNSプロデューサー 堀口正裕
現地案内人
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 執行理事 高橋邦男さん
こゆ財団 オフィスにて
まず最初にご案内を頂いたのは、地域商社「こゆ財団」です。
もとは観光協会だったという「こゆ財団」。“未来に向けて新しいことを仕掛けていきたい” という、新富町役場の熱い想いから立ち上がりました。
“いかにスピーディーにテストして実装していくか”
この言葉を念頭に、「こゆ財団」はじめ町民全体が一体となり、様々なプロジェクトを立ち上げています。
新富町のキーワードとなる一つが「農業」です。「農業」を中心に、4年間累計60億円以上の寄付につながっているふるさと納税や『こゆ野菜カフェ』の誕生、テクロジーを使った農業ロボットの開発など、素晴らしい新規事業が次々と立ち上がっています。
今でこそ「農業」を中心にチャレンジしているメンバーはたくさんいますが、元々は「農業」に精通した人は誰もいませんでした。
では、なぜそのような新規事業を立ち上げることができたのでしょうか?それは、新富町役場も理念に掲げている「高い自由度」と「スピード感」に秘密がありました。その魅力について、今回の視察を案内をしてくれた「こゆ財団」の高橋さんは次のように語りました。
「新富町では、“世界一チャレンジしやすい町” を目指して、何でも挑戦できる気運を高め、様々な取り組みをスピーディーに実装してきました。また、町外の人に仕事を外注するのではなく、地域おこし協力隊を雇用に結びつけるなどして町内の専任体制を強化することで、地域内雇用をつくり上げています」(「こゆ財団」高橋さん)
新富町ではその他にも、ENEOSホールディングスやユニリーバ・ジャパンなどの大手企業とコラボレーションするなど、新しい可能性が生み出されています。
地元の芋を、もっと良いかたちで打ち出せないかと考えた結果できたのが “焼酎「新富」”。先行販売で予約受付中!
新富町チャレンジショップ『おにぎり宮本』
昼食で向かったのは、チャレンジショップとして今年6月1日にオープンしたおにぎり専門店『おにぎり宮本』。トラックステーションだった休憩所を改装してできた場所です。
お米を作っているのは、“農家一筋43年”の宮本恒一郎さん。何度も失敗を繰り返したそうですが、「安心安全なお米を作りたい」「どうしても有機農業をやりたい」と諦めきれず試行錯誤を繰り返した結果、13年前に有機JASを取得することに成功しました。
現在は、台湾への有機米輸出に向けて準備を進めていたり、「令和2年度うまい米作りコンクール」では早期水稲の部県知事賞1等賞を受賞するなど、その価値を高めています。
どれも美味しそう…!選ぶのに目移りしてしまう視察メンバー。
ほかほかのご飯と具材の美味しさが絶妙なおにぎり。豚汁も絶品でした!
ここチャレンジショップでは、新富町の新たな価値が創出され、有機農業の魅力も発信されています。
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有機米農家『おにぎり宮本』
■住所:新富町大字三納代1765-1(旧宮崎トラックセンター跡地)
■営業時間:11時~14時30分
■定休日:毎週火曜日
■電話:0983-32-1525
新富町役場 訪問
この日は、小嶋町長ともお会いすることができました。
実は、小嶋町長とエーアールシー の太田さん、尾崎さん、TURNSの堀口は同年代!そんな共通点も見つかり、和やかな雰囲気で役場訪問はスタートしました。
話の冒頭では、エー・アール・シーの尾崎さんより、改めて会社の取り組みについて説明を頂きました。
「弊社の企業理念は“義理と人情、仁義とケジメ”です。ITと聞くと、どうしてもドライなイメージがあるかもしれませんが、我々は人と人との繋がりがあったり、困っている人を助けようとする人間力を大事にしている会社です。技術の面では、インフラといわれているネットワークやサーバーの構築などを含め、“IT”と名がつくものは一通りのことができます」(尾崎さん)
尾崎さんからはITにまつわる基本的な事業について伺いましたが、それだけではなく、ITを活かした「地域の教育事業」にも力を入れているのがエー・アール・シーの特徴です。
“石巻から1000人のエンジニアを育成”をコンセプトとした『イトナブ』、移住フェアなどのオンラインイベントで使用できるプラットフォーム『BizMeet』、滝沢市と県立大学と連携して行っている研修プログラム『Linux』など…、エー・アール・シー が行う「地域×IT」の取り組みは実に様々です。
そうした話を聞くうちに小嶋町長は、「いま新富町は、とにかく常識の枠に囚われずに頑張っているところです。ですが、IT人材はめちゃくちゃ少ない。これだけITが必要だと言われているのに、人材が足りないんです。黒澤さん、新富町にこない?笑」と、4月からエー・アール・シーの滝沢支店に入社した黒澤さんをヘッドハンティングをしながらも(笑)、現状の課題をお話いただきました。
小嶋町長は「地域の教育」をより良くしていきたいと、とても熱い想いを持っています。
「宮崎県のセンター試験の結果を見ると、東京と大きく差が開いています。この教育格差をなくすために、ITを使えないかと考えています。教育の多様性というのは、選択肢が多ければ多いほど良いと思っているんです。新富町の中学校も、進学校、地域教育、農業教育といった感じで、それぞれに専門性を持たせ、子供たちが自分の意思で学校を選ぶことができる。そんな風にしていきたいんです」(小嶋町長)
それを受けてエー・アール・シーの黒澤さんは、東北の事例も交えながら以下のように解決策を話しました。
「企業版ふるさと納税の人材派遣型というのがあります。企業をプロジェクトメンバーとして行政に受け入れ、役場の中にITプロフェッショナル人材を設置する、というのも一つの手ですよね。DXシステムも行政パッケージとして1回作ってしまえば、他の地域に売ることもできます。実際、滝沢市で生まれたDXシステムは、全国でものすごく使われているんですよ。保育園向けのDXシステムは、全国で1,000園以上導入されており、それらが地域の雇用に跳ね返ってきているんです。ITの力を使い、市内で地域課題を解決したら、他の地域にも販売する。そいった良い循環を生み出していけるのが理想ですね」(黒澤さん)
小嶋町長も、「そういうスタートアップをまさしくやっていきたいと思っていたんです!DXの力で、新富町モデルを作りましょう!きちんと収益を出していけるビジネスモデルをやっていきたいです」と意気投合しました。
エー・アール・シー代表の太田さんも「我々も色々挑戦していきたいし、地域で取り組みをする上でもビジネスになることをやっていきたい」と賛同。
新富町とエー・アール・シーが手を取り、ITをキーワードにしたプロジェクトを立ち上がる日もそう遠くはなさそうです。
ロボット開発の AGRIST(アグリスト)株式会社
次に訪ねたのは、農業の収穫の担い手不足の課題を解決するロボット開発会社・AGRIST(アグリスト)。お話をしてくれたのは、取締役兼最高執行責任者 の高橋慶彦さんです。
農家が稼ぐようになるためには、「安定的に収穫できること」が第一条件です。しかし、収穫のために従業員を雇うのもハードルが高い…。そこで考案されたのがアグリストが開発する “収穫ロボット” です。
アグリストは、自分たちが持っている技術を使って何ができるか?ではなく、「農家の課題を解決するためにはどのような技術が必要か?」といった発想からこのプロジェクトをスタートさせました。テクノロジーを使って「地域の課題」をビジネスで解決するのです。
「最初に農家を訪ねたときに、まずは全体の20%を収穫できるようにして欲しいという声をいただきました。現在はそれを目標にして開発中です。今後は全体の収穫量50%を目指し、収穫の取りこぼしを減らしていきたいと考えています」(高橋さん)
「農業をアップデートしていくためには、エンジニアを100人雇用していきたいです。世界の食糧問題をテクノロジーで解決していくことを目指しています!」と語る高橋さん(左から3番目)
どのような農家が対象となりうるのでしょうかと尋ねると、高橋さんはこのように答えました。
「やる気のある農家、収益を高めたいと考える30〜40代の農家を対象としています。まずは500人くらいの農家に購入してもらい、収益が高まることを体感してもらいたいです。農家としては、「量」がないと売れない。農作物のブランディングよりも、まずは「量」が大切。だから収穫ロボットが必要なのだということを、多くの農家に知ってもらいたいです」(高橋さん)
収穫ロボットを導入するには、国の補助金を活用するのがスムーズだそうです。補助金を活用できたら、農家の負担は1/2になります。
これからは、農家もIT技術をうまく取り入れることで、もっと稼げるようになります。テクノロジーの未来と希望を感じられた訪問となりました。
お茶とおもてなしの貸切宿『茶心』
新富町のまちなかから少し車を走らせてたどり着いたのは、お茶とおもてなしの貸切宿『茶心』です。
開業したのは2019年5月1日。地元の名士が大切に遺していたお屋敷を、「こゆ財団」がリノベーションしました。
扉を開くと、茶香の心地よい香りが…!
実は、宮崎県はお茶の名産地です。新富町には、世界に誇れる茶園が3つもあります。ここ『茶心』は、その3つのお茶である「新緑園」「夢茶房」「もりもっ茶」を常備し、お客様が自由にお茶を愉しめるようになっています。千利休が提唱した“お茶の心”を体験できる宿というのがコンセプトなのです。
縁側やテラスでお茶を飲みながら、自然の美しさや四季の変化を愉しむことができる。また、事前に予約をすれば、庭園で焚き火も可能。
急須で入れるお茶と、冷蔵庫には水出し茶を準備している。
「こゆ財団」の高橋さんから、23畳の大広間で宿の説明を聞くエー・アール・シーの太田さん、尾崎さん、黒澤さん、そしてTURNSプロデューサーの堀口。広々とした畳の空間に、思わず背筋が伸びる。
庭の広さ、リノーベーションされた空間の心地よさ、宿全体のコンセプトなど、随所に散りばめられた『茶心』のこだわりに感動しっぱなしの視察メンバーでした。
普段は、ヨガや瞑想などのイベントが行われることもありますが、企業研修として使われることもあるそうです。コロナ禍以前は、海外からの宿泊や問い合わせも多かったのだとか。
“「TURNS合宿」を、ここ『茶心』で開催したいね!”と盛り上がりました。
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お茶とおもてなしの宿『茶心』
■住所:宮崎県児湯郡新富町新田15499番地2
■タイプ:一軒家貸切(家主居住型民泊)
■広さ:188.90平米(57.14坪)
■お部屋:キッチン・ダイニング・リビング・縁側・大広間・寝室・トイレ・洗面所・脱衣所・浴室・テラス・庭園
■宿泊可能数:1名〜10名(セミダブルベット2台・布団10組)
■設備:冷蔵庫・炊飯器・調理器具・ケトル・食器・テーブル・椅子(6脚)・ソファー・エアコン・無料Wi-Fi・駐車スペース・焚き火&BBQセット
■運営会社:一般財団法人こゆ地域づくり推進機構
茅葺き屋根の家
この茅葺き屋根の家は、元は高千穂峡にあった古民家。なんと、推定120年前に建てられたものだそうです。それを維持するため移築の話が持ち上がり、「こゆ財団」が手をあげ管理することになりました。
子供達を集めて茅葺き屋根を取り付けるワークショップが開かれたりするなど、地域が一体となってここの活用に関心を寄せています。
改築は進行中ですが、そろそろトイレもできるところだそう。
隣の廃校を活用する動きも。
茅葺き屋根の家の周辺には、廃校やグラウンドなど広いスペースも残っており、“子供達の学びの場” にしようと地域住民から様々なアイディアが出ているそうです。視察した黒澤さんからは「廃校はボルダリングに活用できるのではないか?」という楽しい意見も出ました。
様々な活用の選択肢が考えられる茅葺き屋根の家。どんなイベントやワークショップが行われるのか、どんな人が滞在するのか、子供たちがどう関わっていくのか。これからの使い道が楽しみでなりません。
日本茶専門店『新緑園』
最後に、新富町にある3つの茶園の1つ、『新緑園』に来ました。煎茶、玄米茶、ほうじ茶、ぐり茶、白折茶、芽茶、そして季節のお茶が所狭しと並んだ店内には、視察メンバー以外にも途切れることなくお客さんが入ってきました。
『新緑園』は3つの茶園の中でも“職人気質”の茶園です。多種多用な原料から、「味の中心となるお茶」「甘みやコクのあるお茶」「お湯に緑がきれいに出るお茶」「香りが出やすいお茶」などを意識しながら、原料を選んでいるそうです。
この日はとても暑い日だったので、店員さんが出してくれた水出し緑茶をとても美味しくいただきました。そのお茶の香りに感動し、思わず商品の購入も楽しんだ視察メンバー達でした。
\INFORMTION/
日本茶専門店『新緑園』
■住所:宮崎県児湯郡新富町大字新田15530-2
■電話:フリーダイヤル 0120-092650(お茶でくつろごお) もしくは 0983-35-1057
■営業日:平日9:00~17:30/土日祝 9:00~17:00
■店休日:第1・3・5日曜日(5、7、8、12月は変更があります。) 、12月31日~1月3日
訪問する度に、新しい事業が立ち上がっている新富町。今回の視察でも、新たな事業やスポットを訪問できる機会となりました。
一緒に視察を回った「IT×教育事業」を展開する株式会社エー・アール・シーの3名からは、「新富町は、何かを実行するときの寛容性とスピード感が素晴らしい、とても面白い場所ですね!」という言葉をいただきました。
これからも新富町のまちづくり、そして新規事業から目が離せません。