多種多彩なメンバーが集結、北海道を変える経済コミュニティ。
「えぞ財団」EZO SUMMIT(えぞサミット)開催レポート

「さあ、つながろう。学ぼう。動こう。北海道は、今から変わる」というキャッチコピーで6月に発足した、北海道の新しい経済コミュニティ「えぞ財団」。11月28日、さまざまな分野で活躍する若手キーパーソンがオフラインとオンラインの両方でつながり、2030年に向けて北海道を盛り上げていこうと、カジュアルで熱いトークセッションを行いました。その模様をレポートします。

 

北海道の新しいつながりと学びの場をつくる
豊かな自然と食物の宝庫、北海道。「都道府県の魅力度ランキング」では常にトップの座にありますが、高齢化や人口減少でも国内上位にあり、限界集落といわれる地域も多いなど、日本が持つ課題にいち早く直面している地域でもあります。北海道に住み続けたいと思う若者が多い一方で、進学や就職をきっかけに東京圏へ出ていく、つまり若年層の流出人口が多いというシビアな現実があります。

若い人たちにとって、また北海道に住むすべての人たちにとって、将来にわたって安心して住み続けられる、魅力的な大地にしよう。そのためにも、サスティナブルな新しい北海道経済を創るコミュニティが必要と、3人の主要メンバーによって立ち上げられたのが「えぞ財団」。
若手経営者や同じ想いを持つメンバーによる経済コミュニティで、メディア事業、教育事業、投資事業の3つを柱に活動を行っています。団長はマドラー㈱CEOの成田智哉さん。大学卒業後は大手自動車メーカーに勤務、海外駐在員を経て、地域解決型の会社をつくろうと厚真町で起業しました。北海道で挑戦したい人を、缶ビールなどの売上金の一部を使って支援する活動「ほっとけないどう」を立ち上げた仕掛け人でもあり、現在は、地方でも持続可能な交通インフラを開発中です。

「えぞ財団」団長でEZO SUMMITの司会を務めた成田智哉さん

さらに、北海道内を中心にドラッグストアチェーンを経営するサツドラホールディングス㈱社長の富山浩樹さん、まちづくり専門家である、エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下齊さんが、発起人に名を連ねています。

メイン会場のサツドラホールディングス本社「EZOHUB SAPPORO」

今回のEZO SUMMITトークセッション第一部は「2030年北海道の未来に向けて」と題して、富山さんと木下さん、そして余市町長の齊藤啓輔さん、オンラインで参加したさくらインターネット㈱社長の田中邦裕さんと、組織のトップで活躍する4人がディスカッションしました。

 

トークセッション①.【2030年北海道の未来に向けて】
今までにない持続可能な社会のつくり方を考える

左から木下さん、齊藤さん、富山さん

トークイベントはカジュアルな雰囲気で進みました。サツドラ社長の富山さんは、ちょうど1週間前、この場所でえぞ財団の「チームえぞオフィス」による高校生、大学生との連携イベントにも参加しています。

北海道の10年後について語る富山さん。2030年には北海道新幹線が札幌まで延伸され、札幌市が招致活動をしている冬季オリンピックの開催年にも当たります。その一方で、出生率の低さや半世紀にわたる若者の流出から同年には人口が10%減少し、労働力の不足が見込まれています。

また、高齢者医療費が拡大していることなどから、「このままでいけば、北海道は2030年には望ましくない姿になる。全国共通の課題を解決する先進地として、持続可能な社会をどうやって作っていくか、どのような稼ぎ方をしていくかが大切になります」と語りました。

 

マーケティングで収益を伸ばした余市町のワイナリー

ワインツーリズムが注目されている余市町の町長、齊藤さんは、海外の例を挙げながら戦略的なマーケティングの必要性について語ります。ワイン特区として新規参入の農家を支援し、ワイナリーを増やしている余市町。世界的には有名な品種のワインが好まれることから、ブドウを「ソービニヨン・ブラン」にかえて成功したニュージーランドの例を挙げて、余市でも「ピノ・ノワール」に品種を転換しているそうです。また、ブドウ栽培やワイン製造にとどまらず、観光客向けのレストランなどもつくり、米カリフォルニア州のナパ・バレーや長野県のようなワインツーリズムにつなげることで、家族経営のワイナリーの収入を増やしているといいます。「オランダは九州ぐらいの国土面積しかないのに、農業輸出額は世界で第二位。グローバルな視点でマーケティングを行い、狭い国土や家族経営でも効率的な農業を行っていけば、十分な利益をあげることができます」

左から3番目、余市町長の齊藤さん

まちの活性化に取り組んできた木下さんは、「江丹別の青いチーズ」で有名な旭川市・伊勢ファームの例を挙げて、少頭飼いの酪農も、質の高いチーズを製造することで付加価値がグンと上がり全国に売れていると話します。齊藤さんは、ヨーロッパの酪農では管理システムを利用することで、5千頭の牛でも社員3人が週休2日制で合理的な経営をすることが可能だと言います。

 

農業をもっとスタイリッシュに

マーケティングのエビデンスによって、合理的に収益を上げる。農業をスタイリッシュにしていけば若者も増えるというのが、一致した意見。しかし、木下さんによれば、農業を営む道内の高齢者の人たちが、変化を嫌っているのだとか。

「例えば、最近北海道のコメもおいしくなっていますけれど、正直なところ値段は安いんですね。しかし、そういったことを言うと、北の地で苦労しながら何十年も農業を続けてきた高齢者の人たちは、今までの自分を否定された気持ちになるようです。決して否定しているわけではなく、そのご苦労はとても尊敬していますけれども、歯をくいしばって働いてもそれに見合った収益にはならないという構造を変えていかないと、若い人たちはやはり“イヤだな”と思ってしまう。そこの部分をスタイリッシュに変えていくことが大切だと思います」。

 

幸せな暮らしのために、経済を回していく

オンラインで参加した、さくらインターネット社長の田中さんは、札幌市に隣接する石狩市内に東京ドーム1.1個分という、日本最大級のデータセンターを運営しています。「寒冷地である北海道の外気を利用することで、エアコン代を8割減らすことができました」と田中さん。住まいの広さや車でのスムーズな通勤など、北海道の住みやすさを実感しているという田中さんはこう語ります。

田中さんはオンラインで参加しました

「北海道ってシンプルに良いところだと僕は思っています。良い場所で幸せに暮らすというのが、人生にとって素晴らしいと思うんですよね。いちばん大切なのは幸せに暮らすことですが、やはりお金がないと幸せには暮らせません」
石狩データセンターは、人の働きやすさを第一に考えてつくられた施設。スタッフは全員が正社員です。田中さんによれば、最初はコストダウンのために業務委託をしていましたが、辞めていく人が続いたため、徐々に正社員にしたところ、誰もやめることなく生産性も高まり、自分たちの会社を良くしていこうという気運も生まれたそうです。

 

人口が減少しても地元で暮らしていける社会へ

さまざまな事例を話し合うなかで浮かんだのは、「北海道の人口が減っていくことは、特に悪いことではない」ということ。

インフラの変化やコストの減少、そして新型コロナの影響でオンライン化が急速に広まったことにより、たとえば5000人以下のまちであっても、物を売るだけでなく生活サービスや教育・コミュニティスペースを兼ねた、そこに行けばほとんどの用が足りるようなお店をつくる。または、北海道に住みながら東京の会社にオンラインで就職できる。さらに、オンラインで教育も受けることができるようになれば、若い人たちが東京圏へ流れていくこともありません。

そんな可能性を実現して魅力的な北海道をつくるために、えぞ財団のようなネットワークでつながることの重要性、また、社会で実践的にチャレンジできるような子どもたちへの教育、そして、意思決定ができる上の世代にテレビや雑誌ではない学びの場を提供することで、みんなで新たなムーブメントをつくっていきたいと話が弾みました。

 

2030年に向けてのチャレンジを熱くブレスト!

トークセッションの第二部は、NoMaps実行委員会事務局長を務める廣瀬岳史さんを司会進行役に、本州から北海道に移住したGOOD GOODの野々宮秀樹さん、ピクシブ創業者の片桐孝憲さん、そして木下さんが、「時代の変化、地方の可能性。大事なものの変化」をテーマに、好きなことを仕事にしていくことのメリットと、地元の人には見えづらい北海道暮らしの魅力をトーク。

その後の「えぞコン!北海道のチャレンジをみんなで応援」では、6名の方がオンラインやオフラインで、それぞれの挑戦を語ってくれました。

●「北海道のスタートアップ業界を盛り上げたい」 D2 Garage/STARTUP CITY SAPPORO事務局 藤間恭平さん

●「北海道の電力・インフラの将来ビジョンを考えたい」北海道電力 経営企画室 幾世橋 歩さん

●「北海道のエンターテイメントを盛り上げたい」ウエス ディレクター 村田雅宏さん

●「大学と地域、パートナーシップの時代へ」北海道大学 高等教育推進機構CoSTEP 特任助教 西尾直樹さん

●「どの地域に生まれても平等に教育をうけさせたい」tomonasu代表社員/あしたの寺子屋 ​嶋本 勇介さん

●「北海道で2030までスポーツを盛り上げたい」日本フィギュアスケーターズ協会代表理事、フィギュアスケーター 小塚崇彦さん

 

北海道で新しい経済のムーブメントが始まる!

挑戦者たちの発表が終わった後は、オンライン・オフライのン参加者が、興味ある人のブレイクアウトルームへ行ってブレスト。直接話を聞いたり意見を出し合ったりと盛り上がりました。

SUMMIT閉会の後もブレイクアウト!熱い想いを持つ登壇者、参加者たちの話は尽きず、これからどんなムーブメントが巻き起こっていくのか楽しみです。

 

北海道をアクティブに盛り上げていく“熱気”と“本気”が感じられた、 EZO SUMMIT。えぞ財団ではいま、道内に限らず「北海道に愛を持ち、盛り上げたいという想い」を持つメンバーを募集中。興味のある人は、こちらのサイトをチェックしてみては。

●えぞ財団 note
https://ezozaidan.com/

 

文・高橋明子

                   

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