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地域のもったいないことを、もったいなくするために。
地域の人と同じ熱意で汗をかき、知恵をだす。

日本の真ん中の地、岐阜県関市。
そんな“真ん中の地”にビジネスの拠点をつくり、居住地を移した中田誠志さん。それまでまったく縁もゆかりもなかった場所で、どのように人とつながり、どのように仕事をつくっていったのか。中田さんが経営している古民家コワーキングカフェ「そばのカフェおくど」でお話を伺いました。

 

“水と空気がきれいな場所”を求めて、東京から岐阜へ

東京で鑑賞魚の仕事をしていた中田さんが岐阜に移住したのは9年前。恵那市に7年住んだのちに、関市へと引っ越しました。東京生まれ、札幌育ち。それまで岐阜に縁がなかったという中田さんが、家族の住む場所として、なぜ岐阜を選んだのか。それには自然環境が大きかったといいます。

「環境のいい場所で子育てをしたいと思っていたなかで、東日本大震災があったんです。水も買わないと飲めない、ガソリンも1ヶ月ほど入れられない、という状況でライフラインの大切さを実感しました」

鑑賞魚の仕事で水質に詳しかった中田さんが重視したのは、“水と空気がきれいな場所”。そして、自分たちが食べるものを自分たちでつくれるような環境が揃っている場所を探していくなかで、岐阜を居住地に選んだのだそうです。


▲「手つかずの森林からフィルターを通された水は、岐阜の魅力ある資源です」と中田さん。ホタルやトンボなどの生き物からも、自然環境のよさを感じるのだとか。

 

恵那市では地域おこし協力隊としてまちづくりに携わっていくなか、事務所を法人化するタイミングで拠点を関市にしたのだとか。

「事業を一緒にやっている仲間に、『拠点がどこにあるといいかな?』と聞いてみたら、『日本の真ん中がいい』と。真ん中探しをしていくなかで最初は郡上市美並町の日本真ん中センターに辿りついたのですが、今は関市の武儀地域が真ん中だと聞き、関市の空き家情報バンクの窓口を訪ねたのが、関市と縁がつながるきっかけになりました」

 

明治9年に移築された古民家との出会い

はじめは恵那市に住みながら関市の事業所へ仕事に通っていた中田さんですが、通勤時間のことも考え、関市で住む家を探すように。そのとき出会ったのが、現在中田さんが経営している古民家コワーキングカフェ「そばのカフェ おくど」です。

「25年くらい人が住んでいない“特殊でもったいない建物”があるよ、と空き家情報バンクで教えてもらったんです。カフェか蕎麦屋として使ってくれる人、隣にある家に住みながら使ってもらえる人、という条件で。変わった物件だったので興味がわき、現地に見に行きました。とても大きな建物で、かなり古くなっていましたが、おくど(=かまど)があり、ごはんを炊いてみたらちゃんと炊けたんです。かまどでごはんが炊けたことも、引っ越しの決め手の1つです」


▲「そばのカフェおくど」にある、かまど。3つ並んでおり、昔は地域の人のごはんを炊いたりもするような場所だったとか。

 

関市に引っ越しをし、「そばのカフェおくど」を経営しながら、武儀地区に事業所を設立した合同会社「地域と協力の向こう側」の代表として、さまざまな活動をする中田さん。

「そばのカフェおくど」はワーキングスペースとしてもカフェとしても利用できる場所。「地域と協力の向こう側」は、“地域のもったいないことをもったいなくする”という理念のもと、空き家や地域資源、農業などを、今までとは違う視点からデザインし直したり、人の関わりを構築していくようなことを仕事にしています。


▲「そばのカフェおくど」は明治9年に移築された旧豪農屋敷。和室の奥にある襖は、昔から代々伝わっているものがそのまま残されている。


▲近くにある「おくどファーム」。ここで有機野菜を育てている。

 

また、月に3日は東京の「移住・交流情報ガーデン」に勤務し、全国の地域おこし協力隊のサポートも。「恵那市から関市に引っ越したことで、東京までの移動時間が短くなりました。以前は泊まりで東京へ仕事に行っていましたが、今は日帰りで行けるようになったので、時間的にも金銭的にもうれしいです」

東京へのアクセスが良くなったことはもちろん、関市に来てから、いろんな場所からいろんな人が集まるようになったと感じているそう。「隣接の市町村や、その近郊。また週末になると県外からも多くの人が来てくれます。岐阜は7つの県に隣接しているので、みんな思ったより近いねって言ってくれて」

住んでみて改めて、「市街地が近いわりに、自然がよく残っているのが魅力。農業が盛んで、パッションフルーツや柚子、原木しいたけなど変わった農作物が身近に手に入ります。『そばのカフェおくど』でも、近くの農家さんが持ってきてくれる野菜をメニューに使うことが多いです。新鮮だし、水がきれいだから農作物がおいしいんです」と、関市の魅力を感じているそう。


▲地域の人とともにパッションフルーツを育てているという中田さん。「そばのカフェおくど」でも、パッションフルーツをマドレーヌやドリンクなどに使っている。

 

地域の人と一緒に汗をかき、知恵をだす

地域の人とも地域以外の人とも連携しながら、さまざまなビジネスチャンスをつくっている中田さんに、地域で仕事をつくることのコツをお伺いすると――。

「地域の人と一緒に汗をかくことです。クリエイティブだけでは通用しない。やはり一緒に動いた分しか響かないと思うんです。地域の人と同じ熱意で動けて、でも動くだけでは労働者になってしまうので、その中で現実的なアイデアをだしていく。汗と知恵、そのふたつが揃うと、地域で仕事を生み出していく可能性があると思います」

中田さんも地域に根ざして活動していくなかで、常に苦しみと楽しみがあると言います。「地域の昔ながらの決めごともたくさんありますし。でもとりあえず、何でも1回やってみる。やってみて継続できるものもあるし、『これはやらなくていいよ』っていうのも現場で会話が生まれるので。過去にイベントを企画したときに、料理を準備する予定だった地元のおじいちゃんおばあちゃんが、家に迎えに行ってもいなくて。どうしよう、イベントで料理がふるまえない…と焦っていたら、天気の雲行きがあやしいからってすでに現場で2時間も前から魚を焼いていた、なんてことも。予測どおりに進まないことも多いと思うけど、それも受け入れていかないと」


▲都会の何倍ものコミュニケーションが大事、と話す中田さん

「関市には素晴らしい環境もあるし、刃物などの産業もある。その分、観光や、地域外の人と連携して何かするということは後発的な気がします。資源や人が乏しくなってきたときに、どう補っていくのか。自分は外からきた人間だけど中に住んだ人なので、その役割を生かして、関市のもったいないものが消えていかないよう取り組んでいきたい」
今後の仕事や生活について、中田さんはそう話します。

 


中田誠志さんに質問!

Q.関市のよいところは?
日本の真ん中にあり、人が集まりやすい場所。岐阜の中でも市街地が近いわりに、自然がよく残っていると思います。変わった農作物も多く、おもしろいです。

Q.関市にきて驚いたことは?
虫や生き物が多い。農業でも余分な薬を使わなかったりしているので、生息しやすいのかな。家の近くでホタルも見られるし、トンボの種類も多いです。

Q.移住を考える人にアドバイスは?
地方に行ってからやりたいことを探すのではなく、自分が何をしたいか、ぶれない動機を持っていると、移住してから仕事を発展させやすいと思います。


 

【プロフィール】

中田誠志さん
東京生まれ、札幌育ち。関東の大学を卒業した後、東京で鑑賞魚を扱う会社に8年勤め、岐阜へ。恵那市で地域おこし協力隊として活動した後、合同会社「地域と協力の向こう側」を法人化するタイミングで、日本の真ん中の地を目指して関市へ。2018年8月、築140年の旧豪農屋敷を改装して「そばのカフェおくど」をオープンした。


【店舗情報】

そばのカフェおくど
■住所:岐阜県関市下之保1119-1
■営業時間:
コワーキングスペース(月・水~金曜)10:00~18:00
モーニング(月・水~金曜)8:30~10:30(LO 10:00)/(土曜)8:00~10:00(LO 9:30)
週末(土・日曜)限定ランチ11:30~14:00(食材がなくなり次第終了)
https://www.soba-okudo.com/

 

写真/岩瀬有奈
文/広瀬良子(広瀬企画)