岡山県 赤磐市 現役隊員
戸田洋美さん
活動内容:ITを活用した観光振興、廃棄フルーツを活用したアップサイクルプロダクトの実践
東京に本社を置くIT企業の関西支店に10年ほど勤務していた戸田さん。クラウドソリューションのプリセールスエンジニア(技術営業)や営業職などに従事していたが、40代に入って、自分が本当にやりたいことはなにかと考えたという。
「まず、四季の変化を感じられるような仕事に就きたいと思い、四季で旬のものが味わえる農産物、とりわけフルーツに関わる仕事をしてみたいという気持ちが芽生えました。私は広島県出身なので、最初に思いついたのがお隣の岡山県の名産、ブドウとモモ。そこで、岡山県で自分がやりたい仕事はないかと探していたところ、知人が赤磐市の地域おこし協力隊のことを教えてくれました。」
赤磐市ではITを活用した観光振興というテーマで協力隊を募集していた。岡山市に隣接する赤磐市は、ブドウとモモの栽培が盛んで大手メーカーのワイナリーなどもある。
「ここなら自分のITスキルを活かせるだけでなく、フルーツに関わる活動ができそうだと思いました。私はPR活動にも興味があったため、観光振興というテーマならPRにも携わることになるので挑戦したい気持ちが高まり、協力隊に応募しました。」
戸田さんは無事に採用され、2020年8月に地域おこし協力隊として着任した。
左)共に働く赤磐市役所の職員の皆さんと(左から3人目が戸田さん) 右)自然豊かな赤磐市の風景
桃畑が一面に広がる赤磐市の風景
コロナ禍で工夫しながら観光とものづくりにまい進
赤磐市観光協会の所属となり活動を開始した戸田さんだったが、新型コロウイルス感染症拡大の影響もあり当初のミッションでの活動は難しかった。
「観光振興というミッションを課せられたものの、従来の観光PR活動はほとんどが中止になりました。そこで、地域の人たちに赤磐市の良さをあらためて知ってもらうことを最優先にしようと、マイクロツーリズムの企画として、地元でもあまり知られていないスポットを巡る『赤磐探訪バスツアー』を開催しました。」
また、戸田さんは、赤磐市の農産物を利用した、環境に負荷をかけないものづくりにも取り組んだ。地元の銀行に紹介してもらった東京の企業との出会いから、動き出したプロジェクトだ。
「その企業は、米を発酵させてエタノールを製造して話題になっていました。エタノ―ルを精製した後の発酵粕も牛や鶏の飼料として活用し、廃棄物を出さない循環型プロセスも実現していて、とても感銘を受けました。廃棄するバナナからウェットティッシュを作った事例もあったので、規格外などで廃棄される赤磐のブドウやモモからウェットティッシュを作れないかと考えました。」
プレゼン資料を作成して、企業に対してプロジェクトの意図を懸命に伝えた戸田さん。その熱い思いが先方へ伝わり、赤磐のフルーツを活用したウェットティッシュの製造プロジェクトが正式に決定した。
左)市役所内でデスクワークをする戸田さん 右)「赤磐探訪バスツアー」のチラシ
環境負荷の低い除菌ウェットティッシュが完成
こうして2021年9月に、赤磐産ブドウから生まれた除菌ウェットティッシュが発売開始となった。
「規格外として廃棄されてしまうブドウを活用し、環境負荷の低い生産を可能にした『アップサイクルプロダクト』として作りました。廃棄ブドウを原料として発酵、蒸留、精製したぶどうエタノ-ルを使用した除菌ウェットティッシュです。」
パッケージに描かれているブドウのイラストは、『ハートフォーアートプロジェクト』を介し、赤磐市在住のア-ティスト「カスミン」さんが描いたものだ。『ハートフォーアートプロジェクト』は、障がい者、高齢者、障がい児、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など通常の就業が困難で社会とのかかわりが少なくなった方たちを「アート」を通じて社会との結びつきを深めることを目的として発足したプロジェクトだ。
「地域おこし協力隊の活動は、とにかく人のつながりがなくては一歩も前に進みません。ものづくりに賭ける情熱がどれほどあったとしても、私には技術もなければ資金もない。しかし、人のつながりがあったからこそ、この商品を作り上げることができました。だからこそ、この商品のイラストは、人と人との結びつきを大切にする『ハートフォーアートプロジェクト』に依頼したいと思いました。」
人が人をつなげてくれることを実感しているという戸田さん。それこそが彼女の活動の原動力になっているそうだ。
左)廃棄フルーツで作った除菌ウェットティッシュ(左が白桃、右がブドウ)。赤磐市のふるさと納税の返礼品にも採用された
右)地元ローカル局をはじめ、多数のメディアから取材を受けた
任期終了後は観光DXに向けたしくみ作りをしたい
除菌ウェットティッシュの商品化に際しては、クラウドファンディングで出資を募ったところ、思わぬ反応があったという。
「ある赤磐市出身の方が、故郷を応援するために出資してくれるという嬉しい反応がありました。様々な方に支えてもらっていると実感できた出来事です。市役所の担当者をはじめ、担当者以外の方々もすごく協力的で、私の希望が叶うように可能な限り一緒に考えてくれます。地域おこし協力隊サポートデスクにも気軽に相談できるので、活動に関してひとりで思い悩んでしまうということは皆無でした。」
ブドウを活用した商品に続き、白桃を原料にした除菌ウェットティッシュの商品化も実現した。
「任期中にあと2つくらいは商品化したいと思っています。また、ITを苦手にしている農家の方を支援する活動もしていきたいです。任期終了後は、引き続きアップサイクルプロダクトに挑戦することと、観光DX(これまでの観光振興の態様に捉われない新たな観光コンテンツ・価値を生み出すべく、デジタル技術を複合的に活用しながら、 観光サービスの変革と新たな観光需要の創出を目指すもの)に基づいた仕組み作りに取り組んでいくつもりです。」
人生のターニングポイントで〝本当にやりたいこと〟を問い直した戸田さん。協力隊の経験を経て、自分の新たな可能性が広がっていく手応えを感じている。
「岡山県の地域おこし協力隊は隊員同士やOB・OGとのつながりがあり、情報交換や交流が盛んです。そんな横のつながりをうまく活用して、これからも頑張りたいと思います。私はやりたいことが少しずつ実現できているので、協力隊になって本当によかったと感じています。ぜひ、多くの人に挑戦してほしいです。」
赤磐市の特産品の白桃
岡山県 赤磐市 現役隊員
戸田洋美さん1976年生まれ。広島県出身。IT企業に勤めた後、ブドウとモモの産地である岡山県で働きたいと地域おこし協力隊に応募。2020年から赤磐市の地域おこし協力隊として活動を開始。観光振興に取り組むとともに、規格外で廃棄されてしまうフルーツを活用し、環境負荷の少ない除菌ウェットティッシュの生産を企画し、ブドウ、白桃2種類のティッシュを商品化させた。
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省