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もっと地方の経済学入門 初級編➀
「儲けることよりつながること」
資金もないし、料理も苦手。でも、お弁当屋やってます

地方という大海原での経済活動は無限の可能性を秘めている。いま現在、自分はどんなフェーズにあるのかを左の図(p41掲載)で知ってから“学び”をはじめよう。初級編では「知る」「つながる」、中級編では「実践」「トライ&エラー」、そして上級編は「みんなを巻き込む」。段階的に経済の回しかたを知ることで、あなたが地方でいきいきと生きる方法がきっとみつかるはずだ。そして地方の可能性を感じるに違いない。また、地方のイノベーションはブルーオーシャンであることを併せてお伝えしたい。


儲けることよりつながること

資金もないし、料理も苦手。でも、お弁当屋やってます

小商い 北海道長沼町
ごはんや野歩(のほ)
黒川文恵さん

 

農家さんとの出会いがはじまり

札幌市からキロほど東に位置する長沼町の商店街に、近郊農家の野菜をふんだんに使い、無添加調味料で味つけしたお弁当屋「ごはんや野歩」がある。店を営む黒川文恵さんの開店までの経緯は興味深い。飲食店でアルバイトの経験はあるものの、本人曰く料理は苦手。しかも自己資金もほとんどない状態からのスタートだった。にももかかわらず、お店をオープンさせ、続けることができているのはなぜなのだろう?
ここではローカルな地域ならではの小さなお店のありかたを探っていこうと思う。

黒川さんがお弁当屋を始めるきっかけは10年ほど前。当時、札幌にある北海道有機農業協同組合に勤めており、農薬と化成肥料を使わない有機栽培を行う生産者と知りあい、心が動かされた。

「頑固で真っすぐすぎる、気持ちのよい人たちでした」

この出会いから、自分も生産者の側に立ちたいと、組合を辞めて農家の手伝いを続けるうちに「有機や無農薬農家の野菜をもっと買ってほしい、流通させたい」という気持ちが芽生えていった。

その後、カット野菜を個人スーパーで販売してみたり、友人の自然食品店に、季節の野菜を混ぜこんだ稲荷ずしを置かせてもらったりと模索の日々が続いた。しかし、これらの小商いでは利益は上がらず、小さくても自分らしい店舗を構えられる方法はないだろうかと思い悩む日々を送っていた。

 

つくりながらみんなに育ててもらいました

応援したい気持ちが共鳴する

「お弁当屋を始めようと思ったのは、知り合いの農家さんが、繁忙気になるとチェーン店のお弁当を食べていると知ったことです」

毎日の食事を買う選択肢を増やしたいと考えていたところ、長沼でカフェを営む友人が「向かいの物件が空いている」と教えてくれた。大家さんは誰かに貸すつもりはなかったそうだが、黒川さんのこれまでの経緯を聞いて「どこをどう改装してもいいから好きなようにやってみな!」と背中を押してくれたという。

「実際に借りることになるまで、大家さんは私がどこの誰かも聞きませんでした。長沼は、突然やってきた人間を大らかに受け入れてくれる温かさがありました」

家賃は手の届く範囲だったが、開店資金はほとんどなかったため、改装はできるかぎり自分で行った。DIYは初体験。バールで台所や壁を壊してみたが、内装には頭を悩ませていた。

「あるとき地元の大工さんが現場を訪ねてくれました。そして、材料選びや取りつけ方法を教えてくれて、道具まで貸してくれました。地元の友人や大家さんが食事を差し入れてくれたりも。何かを新しく始める人に手を貸そう、横につながろうと考えている人が、このまちには多いことに驚きました」

資金が必要だったのは厨房設備の購入費や水回りなどの工事費。資金を集める方法として考えたのは「ローカルファンド」というしくみだ。身近な人に資金協力をしてもらって、稲荷ずしや野菜と交換するというものだった。

2017年4月、「ごはんや野歩」は静かなスタートを切った。まずは予約注文を受けることのみ。最初は、お弁当を5個つくるのも精一杯で、十数個の注文が入ったときには、配達の予定時刻から1時間以上遅れてしまうこともあった。

「実はお弁当屋ってどうやってやるのか、よくわかっていなくて。日替わり弁当をつくるって決めたけれど、料理は得意じゃないから、図書館で料理本をかたっぱしから借りてレシピを考え、泣きながら日々をこなしていました」

ときには、ぶっつけ本番でおかずをつくることも。戸惑いながらのスタートだったが、友人の言葉が支えになった。

「やるかやらないかを迷っているより、お弁当をつくりながら育ててもらうのもいいんじゃない?」

お弁当を注文してくれるのは友人か、友人が紹介した人たち。顔見知りの農家さんたちは、どんなに少量の野菜でも笑顔でわけてくれた。取引先やお客さんという言葉以上の関係がそこにはあった。

ごはんや野歩
黒川文恵 FumieKurokawa
北海道岩見沢市出身。東京の大学に進学後、陶芸活動を行う。30代になって岩見沢に戻り、北海道有機農業協同組合に勤務。退職後の5年間は、農家のアルバイトを続けつつ食品加工の仕事を模索。2017年4月、長沼町で「ごはんや野歩」をスタートさせる。

(文・編集:來嶋路子 写真:佐々木育弥)

 

続きは本誌にてご覧ください。
初級編のほか、中級編・上級編合わせて12組の方々を掲載しています。

ごはんや野歩
長沼や近郊の顔見知りの農家さんから直接仕 入れた食材を中心に、 無添加調味料で味つけするお惣菜とお弁当を販売。
北海道夕張郡長沼町銀座北1丁目5-22
TEL:0123-76-7483
OPEN:11:00〜18:00 土日祝