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広島県三次市 地域おこし協力隊募集

 

広島県三次市では、2015年に地域おこし協力隊を募集しました。協力隊の一人、岡田アントニールイス(アントニー)さんの、任期中の奮闘記と、今後について紹介します。先輩が残した軌跡から、あなたができることがきっと見つかるはずです。

 

動画で地域の魅力を発信

広島県広島市出身のアントニーさん(32)。大学を卒業後、広島市安佐南区に、友人と一緒にホームページ制作の事務所を構えました。アルバイトも雇い、2年間がむしゃらに仕事に励みましたが、友人が「飲食店を持つ夢をかなえたい」と言ったのをきっかけに、会社を解散しました。

 

アントニーさんは、学生時代からホームページ制作に関わり、クライアントの思いを形にする仕事をしてきましたが、この頃から「今度は、自分が創造する側になりたい」と思うようになっていました。

当時、地域おこし協力隊という制度が発足して3年ほどで、ネット上でも何かと話題になっていました。偶然、三次市地域おこし協力隊の募集を見つけたアントニーさん。三次市は、自身が卒業した広島新庄高校の同級生がたくさん住んでいる、馴染みの地でした。しかも10月スタートという任期は、アントニーさんが「何か始めたい」と思う時期と一緒でした。当時の募集内容は、定住対策の手伝いがメイン。今回の募集内容のように細分化されてなく、「自分なりに思ったことができるのではないか」と思ったそうです。

「僕は面接で『動画で三次市を盛り上げたい』とはっきり言いました。当たり障りのないことは言わず、この気持ちが届かないならしょうがない、と思っていました。市の担当の方の中で『面白そう。何かやってくれるかも』と僕のことをプッシュしてくれる人がいたと後で聞き、うれしかったです」と振り返ります。

 

アントニーさんは、2015年10月、三次市の地域おこし協力隊として着任。最初に「やりたい」と思い描いた通り、自ら三次市の魅力を取材、編集、加工し、動画で発信し続けました。1年目は実に82本の動画を制作、10000回以上の再生数を誇ります。2年目は川西郷の駅完成に合わせたプロモーションビデオを制作するなど、より地域に密着した動画を発信しました。

 

新たな事業が見えてきた、パートナーとの出会い

任期が残り1年になった頃、アントニーさんは退任後のことを考え始めました。

「このまま三次に残るほうがかっこいいに決まってる、ってね」

しかし、現実問題、YouTuberとして生きていくのは、都会でも困難なこと。ここ三次市では、なおのこと容易ではありません。

そんな時、アントニーさんに大きな転機が訪れます。
同じ地域おこし協力隊の真以さんとの出会いです。

 

真以さんも、アントニーさんと同じ広島市出身。祖父宅が野菜作りをしていることもあり、手伝いをしていた経験から、農業は身近な存在だったそうです。長く大手飲食店に勤務し、店長も務めた真以さんは、満足感や達成感を感じるとともに、次は商品開発関連の仕事がしたいと考えるように。「これからは農業に関連する仕事がしたい」と、三次市の地域おこし協力隊になりました。

真以さんは三次市内で農業に従事するとともに、メロンやトマトのハウス栽培をスタートさせ、加工品開発にも着手。また、この地でたくさんの人脈を広げ、今につなげています。そんな中で出会った一人、アントニーさんと2017年8月に結婚し、長男にも恵まれました。

 

農業や加工品の経験と知識を持つ真以さんと、ウェブの知識やデザイン力があるアントニーさん。二人の力を合わせれば「一気に六次産業化ができる」と気付きます。

現在、トレッタ三次やゆめランド布野で、真以さんが手掛ける野菜や果実の加工品販売、庭になっている柚のドレッシングの販売などを開始。大量に作るのではなく、付加価値の高いものを生み出して利益を上げていこうと考えています。

現在はアルバイト程度の売上ですが、徐々に増えて手応えを感じているアントニーさんと真以さん。2019年4月の本格スタートを前に、周囲の人や市役所の人、JA担当者が協力体制をとっています。特に専門家のJA担当者には、土壌分析や肥料の知識をもらったり、「どれだけ作ったらどれだけの売上につながるか」という指標を示してもらったりと、とても心強く感じているそうです。

 

 

理想の環境と、温かな人間関係に包まれて

「仕事をしながら子どもを育て、家族で生活したい。農地が近いことが理想。そんな欲張りな思いを実現できたのが、この家です」と笑顔を見せるアントニーさん。定住を決意し、市の空き家バンクを利用して、12月に農地付きの家を購入したのです。

協力隊の仕事を通じ、空き家バンクを管理する定住対策課の担当者とも仲の良いアントニーさんは、家屋の購入を前に、ネットでは分からない屋内の状態などのアドバイスがもらえたとにっこり。この地で紡いだ縁は、どこかで生きていきます。

「実は、広い農地を購入するには、制約があるんです。農業経験や、どれくらいの知識があるのか等。しかし、妻が協力隊として農業に従事していたので、何の問題もありませんでした」と、真以さんに改めて感謝していました。

 

取材にお邪魔した日は、まさに自宅前の農地で作業をしているところでした。ここで重機を操っていたのは、三次市の専業農家、村本昭二さん(70)。

「アントニーのことを知ったのは、彼が真以さんと結婚してから。もともとわしは真以さんと農業を通じて知り合ったんじゃ」と話してくれました。

村本さんはこの日、かつて田んぼだったという土地を、自ら持ち込んだ重機で掘り起こしていました。土を見ると、深いところまで粘土質の土壌なのだと分かりました。保水力に優れているものの、「農地にするには有機質物質をしっかり入れたほうがいい」とアドバイス。アントニーさんは「一人でスコップで掘っていたら、何日かかったことか……」と感謝していました。

 

「私たちが住む田尻地区は全部で18世帯あるのですが、そのうち4世帯が30代。それぞれ3人ずつお子さんがいるんですよ。本当に子育て環境に恵まれていて、驚いています」と話す真以さん。家すら少なく見えますが、実は子育て世代が多い地域、近隣の人たちと新年会を楽しむなど、一家はすっかり地域に溶け込んでいます。

作業の合間にも、村本さんの奥さんが「迎えに来たよ」とやってきて、アントニーさんと真以さんの長男を、ひょいと抱いて行ってしまいました。
「奥さんがああやって連れ出してくれて、散歩して帰ってきてくれるんです」と、真以さん。
「地域で子育て」の風土がここにあります。

 

努力する人を認め、支えてくれる、三次というまち

定住を決意し、これからも家族でこの地域でやっていける、と確信したアントニーさん。

決意の理由を聞くと「市役所の人を始め、ここで築いた人間関係が素晴らしかったから」と即答でした。
「もちろん合わないな、と思う人もいましたよ。でも、三次って、一生懸命頑張っている人を邪魔しようという人は一人もいない」
地域を盛り上げるため頑張っている人に対して、たとえよそ者でも、若くても、排除するような雰囲気を感じたことはないそうです。
「三次でこんなことをやりたい」と言えば、必ず受け入れてくれる、地域色を出せば出すほど、受け入れてもらえる風土なのだとアントニーさんは分析します。

 

「でも、やはり田舎なのでね。地域おこし協力隊というだけで注目され、いったい何をしているんだろう、と思われるものです。だからこそ『僕はこんなことをしています』とはっきり自己開示していくことが大切。もともと僕は、自分のことをさらけだす性格ではなかったけれど、協力隊の任期3年間で自分をアピールして、成長できたと思っています。自分をオープンにしていくことは、後々この地で暮らすのにプラスに働くんじゃないかな」と、後に続く人にエールを送ります。

 

次なるステージでの目標は、真以さんが代表を務める「なちゅbio」を、補助金が支給される5年間のうちに軌道に乗せること。ネットショップを強化したいとも考えています。その先には、飲食店店長の経験を持つ真以さん主導で、飲食店の展開も視野に。新たな雇用を生み出すことが、三次市への感謝の気持ちの還元や、地域貢献にもつながると考えています。

「三次市を盛り上げる仲間が増えるのは大歓迎。今の協力隊の制度では、アルバイトをすることが可能なので、まずはうちで農業を手伝ってもらう、という選択肢もあります。一緒に三次で頑張ってみませんか」

三次市で暮らし、この地が大好きになった協力隊の先輩が、あなたの挑戦を待っています。

写真・堀行丈治 文・門田聖子

※前編では、「ないものはつくる」道の駅でのプロモーションをご紹介しています。
https://turns.jp/25653

                   
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