梅の収穫量で全国2位の規模を誇る群馬県。その中で「ぐんま三大梅林」のひとつとして知られる安中市の秋間梅林で、同市の職員が参加する「地域活動応援隊」の梅収穫ボランティアが6月7日に行われた。関東屈指の観光梅林として知られ、地域の重要な観光資源でもある秋間梅林。地元の特産品である梅の収穫を支える取り組みに密着した。



5月下旬から6月いっぱいにかけて行われる梅の収穫を市の職員が応援!
地域の特産品・梅の収穫に市職員の“応援隊”が出動!
今年度から「地域づくり課」を新設し、地域活性化や市民交流の促進にこれまで以上の力を注いでいる安中市。同課が実施する「地域活動応援隊」(以下、応援隊)は、市内で活動する地域おこし協力隊や集落支援員の要請に応じて市の職員から募ったボランティアが出動するという取り組みで、梅収穫の応援は今年で4度目の実施となる。
約3万5千本の木々が花を咲かせる2月から3月の秋間梅林祭の時期と並んで、梅農家が一年で最も忙しくなるこの時期。今回は同地域の集落支援員である黛若葉(まゆずみ・わかば)さんからの要請を受けての出動だ。
高崎市出身の黛さんは、双子の姉・青葉さんが先に秋間梅林で就農していた縁でこの地と関わり始め、地域に魅せられて自身も移住を決意。安中市地域おこし協力隊として秋間梅林観光協会を拠点に梅の栽培や観光誘致に携わり、3年間の任期後も引き続き姉妹で梅の生産、加工商品の製造、梅林を活かした体験の場の提供などに尽力している。

秋間梅林の盛り上げ役として、八面六臂の活躍で日々奮闘する黛さん。
梅を手もぎする初体験に感動の声が上がる
この日は、岩井均市長を含む20名以上の応援隊に、普段からボランティアとして関わる「梅園サポーター」らを加えた約40名が午前の作業をお手伝い。朝8時、予報では雨天も危ぶまれた天候の中、軍手や長靴を装着した面々が梅林山頂近くの集会所に集合した。
冒頭では、「今日はこれまでの応援隊で最もたくさんの方々に集まっていただきました。天気も何とか持ちそうなので良かったです」と述べた黛さんに続いて、岩井市長が「今回は初めて選果とパッキングもお手伝いするということなので、最後までみんなでしっかり応援しましょう」と挨拶し、全員で意気込みを共有。その後、5軒の農家に分かれて収穫作業へと移り、我々も黛さんの農園に同行して参加者の声を聞かせてもらうことに。

岩井市長も作業服に身を包み、応援隊の一員としてお手伝いに参加。
主にカリカリ梅などの加工品用に青梅で出荷される秋間の梅は、実を傷つけないように手もぎでの収穫が主流だ。始めに「木と木が交差していて分かりづらいところもあるけれど、別の品種の実が混ざらないよう気を付けること」「水分を多く含んだ実は割れやすいため、投げたりせずに優しく扱うこと」といったレクチャーがあった後、“ポテかご”と呼ばれる収穫かごを肩にかけて、収穫スタイルが完成。2時間の収穫体験がスタートし、梅を手でもぎ取る初体験に、あちこちで「おーっ!」と歓声が上がった。


この日伺った黛さんの農園では、幅広い用途に使われる白加賀をメインに、小梅、月世界、南高梅などの品種を栽培。
子どもたちも楽しく梅もぎを体験
作業中に話を伺った佐藤茉由美さんは、栄養士として、市内の西部に位置する松井田地区の学校給食センターで毎日の献立作りに携わっている。3度目の参加となる今回は一家4人での参加で、小学一年生と三年生の子どもたちも一緒にお手伝い。
「梅干しや梅シロップなど加工品を給食に使わせてもらっているので、生産者の方のお仕事に興味があって毎年来ています」と佐藤さん。給食センターでは、ひと月に一度は必ず地元の梅を使ったメニューを献立に取り入れているそう。特に収穫時期の今は多い時で週2回、梅料理を提供しているといい、応援隊の活動で深まった梅への思いが表れている。


佐藤さん一家のように地域活動応援隊は家族での参加もOK。特別な技術がなくても参加できるのが、梅栽培のお手伝いのいいところ。
「梅の酸味が苦手な子にも食べやすいよう、梅シロップや梅ジャムで爽やかな味に仕上げるなど工夫しています」と佐藤さん。
給食では、味噌に梅ジャムを加えたタレで豚肉を和えた「豚肉の梅ソースあえ」や、梅パウダーをまぶした「秋間の梅揚げパン」などが好評とのこと。また、「給食で地産地消の食に親しんでもらうためには生産者の顔を知ってもらうことも大切だと思っています」と話し、給食だよりや給食の時間に流す動画のために梅農家を取材するなど、地域の食育に対する思いも聞かせてくれた。
一方、今回を含め4度の出動にすべて参加している岩井市長は、慣れた手つきでポテかごの中を満たしていく熟練者ぶりを披露。「(梅産地の自治体が集まる)全国梅サミットの市長の中でも、毎年こうして収穫をお手伝いしているのは私だけじゃないかな」と満面の笑みで梅の木と向き合い、公務だけでなく収穫でも応援隊のメンバーを牽引していた。
まるで「行政も収穫もスピード感が大切」と言わんばかりの真剣さで、木に黙々と向き合う岩井市長。
継続して地域とつながる梅園サポーターの醍醐味
ハーフタイムの休憩時間には、梅林祭の時期に「梅の家」の屋号で食堂も営む武井晴幸さんの農園を訪れ、梅園サポーターの中山和彦さんに話を聞くことができた。
黛さんを中心に今年で活動3年目を迎える梅園サポーターでは、毎年多くの参加者を受け入れている。その中で市内在住の中山さんは、月に1~2度の頻度で秋間を訪れている活動初期からの常連サポーターだ。
一年の集大成である収穫は、中山さんが好きな作業。長く秋間梅林と関わる中、一人で任される木もでき、「毎回手伝う場所が違って、農家さんごとに特徴があるので、慣れてくるといろんなことが見えてきて楽しい」と話し、継続的に秋間梅林と関わる醍醐味を教えてくれた。
「いつか梅園で雇ってもらいたいと思ってサポーターに…」と冗談を交えて話してくれた中山さん。
また、現在69歳のベテラン農家である武井さんからは、「秋間のために一生懸命頑張ってくれる若葉ちゃんと青葉ちゃんを応援したいと思うし、二人がいてくれるから自分たちも頑張れる」と、移住者である黛姉妹と地域の絆を感じさせる言葉もあった。
「たくさんの人が手伝いに来てくれて嬉しい」と武井さん。
そのほか、農園間を移動しながら歩いていると、遠くにいてもいずこから賑わいの声が聞こえてきて、応援隊の参上が地域に元気をもたらしている様子が伺えた。
梅産地を支える人の輪が地域の未来をつくる
後半戦に入ると、脚立を使った高所の作業も増えてきたことで各員とも徐々に慎重な表情に変わり、前半に聞こえていた笑い声が消える。始めは楽しいだけだった作業も2時間目を迎え、一日中収穫を続ける梅農家の大変さを痛感しているように見えた。それに加えて黛さんの農園は車の乗り入れができない畑もあるため、梅の実を積んだコンテナを坂の上にある軽トラックまで運ぶのは、かなりの重労働に思える。
男性でも一人で運ぶのは大変な、軽トラックまでの運び出し。
全国の生産地の例に漏れず、秋間梅林も高齢化による担い手不足の危機を迎えており、「このままだと30年後にはまったく違う景色になってしまうかも」と黛さんは危機感を募らせる。体力面の衰えで農業を終える人がいる一方、運転免許を返納し、梅の運搬に必要なトラックが使えなくなって、やむなく農園を閉じる人も少なくないそうだ。
地域にそうした課題がある中、「普段の業務とは関係なく、単純に梅もぎをやってみたいという気持ちで参加しましたが、実際に作業をしてみると道路に不便な場所がたくさんあることに気付きました」と語ってくれた土木課・河村直課長のように、身近なボランティアから日頃の業務につながる知見を得られた参加者もいたようだ。

約2時間の作業で、黛さんの農園だけで何と200kg以上の梅を収穫した。
この日収穫した梅は、5つの農家を合わせて推定1.5トン。収穫後は再び集会所に集まって選果作業を実施し、黒星と呼ばれる斑点や傷が無いものを選別して袋詰めを行った。直売所に出荷されるまでの工程を体験し、最後まで作業をやり遂げた達成感とともに、参加者一人ひとりが地域を代表する産業に愛着を深めていた。

普段は機械を使うこともあるが、この日は目と手で実の状態を確認しながら選果を行った。

選果を終えた梅はパッケージ用の袋に入れられ、1kg800円程度で販売される。
「今は農業とは関係のない職員の方でも、もしもいつか農業と関わる課に異動された時に、地域の特産物である梅をもいだ経験があるかないかは非常に大きな違いになると思います。そうした点で、今年も広くさまざまな課の方に秋間の梅のことを知っていただけたことが何よりの収穫です」と応援隊に改めて感謝の気持ちを述べた黛さん。
一方で、黛さんから応援要請を受けた地域づくり課の大野祐司さんも、「農家さんの大変さを知るだけでなく、梅が地域の特産物であるという意識付けの機会になって良かったです。今後は農業だけに留まらず別の取り組みでも応援隊の活動を広げ、行政と地域の関わりを強めていけたら」と話し、同課として初となる地域活動応援隊の出動に充実感を手にしていた。

収穫を手伝った地域活動応援隊の写真をパッケージに入れる、黛さんの粋な計らい。
行政が地域の活動を支えることで、市民協働の新たな形を描こうとしている安中市。今回は行政の取り組みのレポートだったが、市外や県外に住む人でも梅園サポーターに参加すれば地域の力になれるので、ぜひ黛さんと農家の人たちが作り出す優しい風を感じに出かけてみては。

市の職員間の交流も深まる一日になった。
取材・文:鈴木 翔 写真:渡部 聡
▼関連サイト
安中市移住・定住応援ナビ
あんなか日和
https://www.city.annaka.lg.jp/site/annakabiyori/
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