全国第2位の梅の生産量を誇る群馬県。なかでも「ぐんま三大梅林」のひとつに数えられる安中市の秋間梅林(あきまばいりん)は、約50ヘクタールの丘陵地に3万5千本の木々を擁する名産地だ。2月から3月の花見シーズンには、紅白の花が丘一帯を染め上げ、訪れる人の目を楽しませている。

- 安中市集落支援員/安中秋間地域RMO推進協議会事務局長
群馬県高崎市生まれ。前橋市で広告代理店や国立の青少年教育施設などに勤めた後、地域おこし協力隊として安中市に移住。受け入れ先の秋間梅林観光協会で梅の栽培や観光誘致に携わる。3年間の任期後も安中市に残り、秋間梅林で無農薬・化学肥料不使用の梅作りに関わりながら、外部に向けて梅林を活かした体験の場を提供。同じ市内に住む双子の姉・青葉さんと協力隊任期中に現在の会社を立ち上げ、自らの農園で育てた梅を使用した食品の製造販売にも取り組む。
地域おこし協力隊卒業後は、安中市初の集落支援員として秋間地域の見守りや集落支援、移住定住支援にも携わり、現在は群馬県で初となる農村型地域支援組織「安中秋間地域RMO推進協議会」を地域と一緒に立ち上げ、事務局長として奮闘中。
当初2年限定のお手伝いのはずが、人情に惚れて定住を決心
「梅の木は、それぞれの農家が自分の出荷したい梅が取れるような形に育てていくものですが、私たちの農園ではいろいろな方がお手伝いに来てくださることから、子どもたちでも無理なく作業ができるよう、できるだけ低い木を作るようにしています」

梅の花カラーに染めた髪は、ご本人曰く「ずっと梅と関わり続けていく覚悟」の表れ。作業服を選ぶ時も自然と赤色を選んでしまうと言い、秋間梅林への愛を全身で表現している。
冬の訪れを感じる頃、すっかり葉の落ちた木々が整然と並ぶ静かな梅園で、農園作りのこだわりを語ってくれた黛さん。成長に必要のない枝を黙々と切り続ける剪定は、見た目こそ地味ながら翌年の実の出来を左右する、とても重要な作業だ。
「協力隊時代に農家さんのもとで修行を積ませてもらい、だいぶコツを掴むことができました。剪定は職人技みたいなもので、農家さんごとにこだわりがあります。4年後、5年後の梅の木の姿を見据えながら何も言わずに次々と枝を切っていくベテランの方の作業を見ると、今でも凄いなって感じさせられます」


姉の青葉さんが先に秋間梅林で就農していた縁から、秋間梅林に関わり始めた黛さん。当初2年間の予定だったが、その期間中に地域に強い愛着が芽生え、引き続き関わり続ける方法を模索する中で、安中市地域おこし協力隊の募集を知った。さらに任期後も秋間地区に残り、現在は担い手のいない耕作放棄地を借り受け、10ヶ所以上の畑を管理している。
「秋間に来て何より感じたのは、ここで暮らす人たちの素敵さです。双子だと姉妹で間違えられるのが“あるある”なのですが、秋間では最初からそういうことがなくて。まずはそこにびっくりさせられて、一人一人のことをしっかり内面で見てくれる気風を感じました。それに、応援してくれることは全力で手伝ってくれる反面、ダメなことは、はっきりダメだと言ってくれる。そういう人柄に触れるうちに、ここにずっと住み続けたいと思うようになりました」


また、協力隊の3年間を経て、秋間梅林を守り続けたいという使命感も生まれた。
「ここは後継者がいない農家ばかりなので、例えば30年後に今と同じ景色が残っているかと聞かれても、現状だと明るいことは言えません。このまま行けば大部分の畑は荒廃していくだろうし、食堂も減っていってしまうと思います。そう考えたら、ここで私のことを本当の娘や孫のように可愛がってくれるおじいちゃんやおばあちゃんたちが大切にしてきたものを何としても守りたいと思うようになりました」
地域と人の結びつきを強くする“推しの木”の存在
梅の栽培と加工、市の集落支援員の活動など多忙な日々を過ごす黛さん。そんな彼女が秋間地区の関係人口拡大に向けて取り組むのが、秋間梅林観光協会と協力して行う「梅園サポーター」の活動だ。県内外からボランティアを募り、夏季と冬季の剪定、花の時期の秋間梅林祭、そして収穫・出荷という梅農家の年間サイクルを体験できる場を提供している。
「剪定や収穫の時期は農作業を手伝ってもらい、梅林祭の時期は駐車場の交通整理などを助けてもらっています。今年で3年目を迎え、最初の頃から参加されている方の中には『自分の畑を持ちたい』という方も出てきたので、畑を貸したい農家さんとつなげることもしています。電波は多少通じますが、作業に夢中になっているとスマホを触ることもないですし、『普段とは違う達成感が得られて良いリフレッシュになった』とおっしゃる方が多いです」

梅園サポーターの参加者は40代から50代が中心。梅の育て方を習いたいという人、耕作放棄地の再生に興味がある人、家族のルーツがある秋間とつながりを持ちたい人など、参加のモチベーションは人それぞれだ。
昨年は収穫時期の5月と6月だけで250人のサポーターを受け入れた。高齢化などで担い手不足が進む現状にある中、完全な移住とまではいかなくても、副業などの形で梅栽培に携わる人が増えることを黛さんは期待している。
「盆栽みたいに自分の木を作っていくことが梅の面白さのひとつです。常連のサポーターさんの中には、一本の木を丸ごと任せている方もいます。その方は頻繁に自分の木を見に来ているようで、私が畑に入った時に確認すると『次はここを切る』という目印のシールが貼られていたり、記録の写真がSNSに上がっていたりして、そこまで梅を好きになってくれているんだと嬉しくなります」
秋間に通ううちにお気に入りの木ができ、やがて愛着が生まれる。愛着を持つと、梅についてもっと知りたくなる。その流れは今風にいうと「推し活」のようだ。そして、その熱意に応えるため、成長の機会を設けることも忘れない。
「梅園サポーターのグループLINEを作ってさまざまな情報を共有しているほか、剪定の時期には本職の農家しか参加できない講習に、サポーターの方々にも参加してもらっています。講習は他の梅農家さんたちに顔を知ってもらう機会にもなっていて、別の場所ですれ違った時に声をかけてもらえるなど、温かい関係性が築かれています」
秋間に来てくれることが、地域のパワーに
また、姉の青葉さんと行う梅の加工品販売も、秋間梅林の名前を広める活動のひとつだ。
「無農薬、化学肥料不使用でも梅が作れることを広めたい思いがある一方、まずは一人でも多くの方に梅の魅力を知っていただきたいと考えています。ジュースやシロップ、ジャムのほか、お菓子作りにも力を入れていて、しょっぱいものから甘いものまでバリエーション豊富に揃えています」


今後は新たな取り組みとして、閉店した先輩農家さんのお店を引き継いで、今年の秋間梅林祭でおむすびと豚汁を提供する食堂を開く予定だという黛さん。そのほか、昨年購入した古民家でのゲストハウス兼交流施設やワークショップも行えるイノベーションスタジオの活用など、さまざまな企画が同時進行中で、「もしかしたら双子じゃなくて五つ子なのでは?」という冗談が浮かんでくるほどバイタリティ溢れる活躍で秋間梅林を盛り上げる。最後に、これほど多くのことに挑み続けられる理由を、黛さんに聞いてみた。
「学校の行事で子どもたちが梅林へ体験に来てくれるだけで、おじいちゃんもおばあちゃんもものすごく張り切っちゃうくらい若い人が少ない地域なんです。だから、遠くから人が来てくれるというだけで、みんな元気がもらえます。多くの方が秋間の梅に興味を持ってくれていると感じるだけで自分の仕事に誇りが持てますし、皆さんが秋間に足を運んでくださることが地域のパワーになります」

旅人や梅園サポーターが、地域の人と交流することもできる古民家ゲストハウスを構想中。
安中市に興味を持つ方へのメッセージ
黛さん 秋間は梅干しひとつをとっても、それぞれの家にこだわりの味がある地域です。秋間梅林祭などのイベントには、各家庭の梅干しが売店にずらりと並びます。まずは見ること、食べることから秋間梅林のことを知ってもらえたら。もし、生産にも興味を持っていただけたら、ぜひ梅園サポーターに加わってもらえると嬉しいです。
安中秋間地域RMO推進協議会
秋間地域における農村型地域運営組織(RMO)として、農地の保全や農業を中心とした経済活動を進めるとともに、生活支援など地域コミュニティの維持につながる取り組みを行う。
主な対象エリアは、農地保全に取り組んできた「秋間梅林里山を守る会」と、環境保全活動や生活支援活動を行ってきた秋間みのりが丘の「いきまち倶楽部」の2団体が活動する2地区。エリアを横断して秋間地域全体で農用の保全、生活支援、地域資源の活用に取り組んでいる。
インスタグラム:@annaka.akima.rmo
結び葉合同会社
無農薬・化学肥料不使用での梅の栽培、梅の加工品製造。梅を使った商品は地域のイベントや秋間梅林祭期間中に食堂で入手できるほか、自社のECサイトを通じて通販でも購入可能。
群馬県安中市東上秋間1020-2
FAX:027-202-0093
E-Mail:musubibamusubiba001@gmail.com
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