日本三大奇勝に名を連ねる妙義山を背に、世界遺産の「富岡製糸場」が往時の賑わいを今に伝える、群馬県南西部の富岡市。
その中心街で老舗洋品店を営みながら、27年間にわたり「まちの元気」を育んできた入山寛之さん。そして、妙義の豊かな自然に惹かれ、移住者として新たな交流拠点づくりに挑んできた水澤充さん・安津美さん夫妻。互いの活動に刺激を受け、「嫉妬する」と笑い合うお三方の対話から、このまちの面白さが見えてきた。

- 「洋品店いりやま」店主、「富岡げんき塾」代表
群馬県富岡市出身。明治34年創業の「洋品店いりやま」の長男として生まれる。大学進学を機に上京し、会社員として約6年間働いた後、1998年に家業を継ぐために帰郷。まちなかを元気にしようと活動する地域団体「富岡げんき塾」を27年前に立ち上げ、誰もが参加できるイベント「げんきフェスタ」を主催。店先で毎週開催している飲み会「げつのみ」をはじめ、日常の延長線上で人がゆるやかにつながる場づくりを続けている。

充さんは千葉県柏市出身、安津美さんは群馬県高崎市出身。安津美さんは群馬で就職したのち、転職を機に東京へ。20年間の東京生活を経て、2018年に結婚・出産を機に充さんとともに富岡市妙義地区へ移住。夫妻は娘、犬2匹、ヤギ1匹とともに暮らしながら、キャンプ場「いとのにわ」を運営。友人たちと一般社団法人いとのにわプラスを設立し、2023年には群馬県の施設だった「旧妙義青少年自然の家」を取得して宿泊・飲食を中心とした「妙義自然の家プラス」をオープン。人が集い、交わる拠点づくりを行っている。
お客さまに近い現場から、地元をもっと盛り上げたい
2006年に旧富岡市と妙義町の合併によって誕生した富岡市。中心街の富岡地区に入山寛之さんが営む「洋品店いりやま」(以下、いりやま)があり、むき出しの山肌が壁のようにそびえる妙義山の麓に水澤充さん・安津美さん夫妻の拠点「妙義自然の家プラス」がある。中心街から妙義までは車で20分ほど。風景も暮らしのリズムも異なるこの2つのエリアで、それぞれが人を引き寄せる磁場を生み出しながら、地域に根ざした活動を育んできた。
入山さん「家業の『いりやま』は私で4代目になります。大学で東京に出て、卒業後は都内の企業に勤めていました。当時はお店を継ぐことはもちろん、地元に戻ることも考えていませんでした。でも、6年ほど会社員を経験するなかで、自分にとって大事なことは、“お客さまに喜ばれてなんぼ”だということに気づいたんです。このまま出世していくと、お客さまに一番近い現場から遠ざかってしまうなと。それで、1998年に実家の洋品店を継ぐことにしました。景気のいい時代が終わり、店も下火になっている時期でしたが、逆に何でも好きなようにできると思ったのも、決断の理由のひとつでした」
富岡市の商店街で120年以上、地域の人々の暮らしに寄り添い続けてきた「いりやま」。
充さん「入山さんと出会ったのは、移住してすぐでした。キャンプ場のクラウドファンディングを始めたら、私たちの活動を知った地元の方が飛び込みで自宅に来てくれて。あの方が入山さんの親戚だったんですよね」
安津美さん「入山さんは本当に笑顔が印象的ですよね。いつもニコニコされていて、周囲の人たちを引き寄せるパワーがあるなと感じています。さまざまな活動に関わっていて、その活動量と幅の広さたるや」

青いエプロンと朗らかな笑顔がすっかりおなじみの入山さん。
入山さん「いやいや、ありがとうございます。親から店を継いで間もない頃は、『商店街を何とかしたい』という思いで、周囲の公園や施設の整備といったハード面を勉強していました。あの時は燃えていましたね(笑)。今はハードよりもソフト。住む人が活き活きと暮らしていけるように、場をどう使うかといったことを整える活動をしています。27年前に『富岡のまちを元気にしたい』と立ち上げた地域団体『富岡げんき塾』も、当初はハード面を考える団体だったのですが、それだけでは活動が見えにくい。そこから市内外の誰もが参加できる『げんきフェスタ』を始めました」
安津美さん「入山さんのSNSを拝見して、『次はどんなことをするんだろう?』といつも楽しみにしています。私たちもイベントに遊びに行ったときは、ちょっとしたお手伝いをさせてもらったりしているんですよ」
入山さん「もともとイベントが好きなわけではなかったのですが、実際に開催してみて、片付けを手伝ってくれる地域の方とか、学生ボランティアだとか、自然と人の輪が広がっていく様子が見える。何より、『来年も楽しみにしているよ』と言ってくださる方が増えてきたことが、無性に嬉しいんです」
充さん「お店を継ぐ時に感じた、『お客さまに喜ばれてなんぼ』という考え方が今も根っこにあるんですね」

毎年5月に開催される「げんきフェスタ」。飲食店の出店や手作り体験ゾーン、ステージイベントなど多彩な催しが並ぶ。
市街地と山麓、それぞれの人が集まる場とは?
ゆるやかな「げつのみ」と本気の「夏祭り」
27年間にわたり、地域を盛り上げる活動を続けてきた入山さん。「げんきフェスタ」のような年に一度のイベントを主催する一方で、日常的に人が集う場も大切にしている。それが、「いりやま」の軒先で毎週月曜日に開かれる持ち寄りの飲み会「げつのみ」だ。水澤さん夫妻も、この集まりを楽しみにしているという。
安津美さん「私は何度か『げつのみ』に参加したことがあります。市内外の人が雑多に集まっていて、とにかく楽しい。なんだかつい足を運びたくなってしまう不思議な引力がありますよね」
入山さん「飲むのが好きなだけですよ(笑)。私から見れば、妙義は山があっていい場所だなって羨ましく見ています。水澤さんたちの活動もそうですし、妙義というフィールドを活かした幅広い取り組みには、こちらが嫉妬してしまうほどエネルギーを感じていますよ」

月曜日の夜に誰でもゆるく集まって楽しむ自由な飲み会「げつのみ」。仕事終わりにふらっと立ち寄って、顔なじみも初対面も一緒に乾杯。
充さん「富岡の町中から見た妙義は、少し遠い山麓のまち。商店街があるわけでもなく、民家が点在している地域です。私たちが企画を動かす時は地元の人がコアメンバーになるのですが、それはやりやすさがある反面、他のエリアに広がりにくいという課題もあります。だから、入山さんのように学生を巻き込んだり、外の人たちと軽やかに関われたりできるのは、羨ましいなと思っています」
入山さん「富岡地区では、それぞれの集落の神社でお祭りがあったり、地区ごとに集まりがあったりしますが、妙義はどうなんでしょうか?」
充さん「妙義には商店街のような中心部と呼べるところがないので、夏祭りも学校で小規模に行われる程度です。路上に屋台が並んだり、盆踊りの櫓が立ったりするような“ザ・夏祭り”と呼べるものはありません」
安津美さん「そこで、『自分たちでつくろう!』ということになり、3年前から『妙義自然の家プラス』で夏祭りを始めました」

「妙義に来てよかった」と、移住から8年が経った今も水澤さん夫妻はこの土地の自然に魅了され続けているという。
入山さん「それにしても、水澤さんたちの夏祭りは看板や屋台のつくり込みがすごいですよね」
安津美さん「まず大人が本気でやらないと、子どもも本気で遊べないですからね。だから、看板ひとつでも手を抜かず、ステージも自分たちで組みます。一緒に全力で遊びきることが大切なんです。なかでも、子どもしか入れない『こども縁日ルーム』という場所を設けているのは、私たちのこだわりですね」
充さん「『こども縁日ルーム』は、大人は立ち入り禁止。屋台の店員もすべて地元の中高生です。ここでは専用の通貨を使ってもらうのですが、この通貨には増やす仕組みがあるんですよ。交換所に設けた『自慢話コーナー』で自分の意見をしっかり言えたら、通貨と交換することができます。内容が曖昧だと『もう少し考えてみて』とやり直しになることも。自分のいいところを言葉にするって、大人でも難しいですよね(笑)」




入山さん「おもしろい! 子どもたちも、したたかになりそうですね」
充さん「そうなんです(笑)。子どもたちも年を重ねるごとに賢くなって、通貨を獲得するための話し方がどんどん上手になっています」
安津美さん「子どもたちが話した内容は、『縁日ルーム』にあるボードに貼り出すんです。最後は大人も部屋に入ることができるのですが、親御さんが自分の子どもの新しい一面を知ったり、成長する様子を目の当たりにできるので、企画してよかったなと思います。私たちも一緒にそのボードを見ると、なんだかジーンときてしまいますね」




互いの取り組みに「嫉妬するほど」のリスペクトを送り合う姿は、合併から時を経て、富岡市がひとつの「面白いまち」へと進化してきたことの証しのように感じられた。
市外の人と地域のつながりを編み直す「富岡まなびステイ」
そのほか、入山さんと水澤さん夫妻は富岡市観光協会が主催する地域留学プログラム『富岡まなびステイ』にも関わっている。県外から参加者を迎え入れ、富岡での暮らしを深く体感してもらうことで、地域との継続的なつながりを育んでいくこの取り組み。単なる「集客」に留まらない、地域の未来を見据えたこの活動に込めた思いを、それぞれに伺った。
入山さん「2024年に始まった『富岡まなびステイ』は、参加者が7日間ほど富岡市に滞在し、地域の人々と交流しながら学び合うプログラムです。初回は3名の応募があり、2名は富岡地区に、1名は妙義地区に滞在してもらいました。それぞれの拠点を行き来しながら、いろいろな人たちと交流してもらいました」


安津美さん「『富岡まなびステイ』のように、富岡と妙義でつながれるものがあれば、喜んで協力したいです。お互いのまちの人たちも、県外や市外から来た人たちも、世代を越えて自然に交われたら素敵ですよね」
入山さん「『富岡まなびステイ』もそうですが、ゆくゆくは『募集締切』という概念すらなくしたいと考えています。企画として人を集めるのではなく、富岡に来たい人がいつでも来られて、やりたい人がいつでも活動できる、そんな土台をつくりたい。単発で終わらず、ちゃんと続いていく“文化”にしていきたいです」

地元の人たちの気質を、親しみを込めて「おせっかい」と表現する三人。「そうした関わりを心地よく感じられる人なら、富岡はきっと合うと思います」と充さん。
安津美さん「私たちも入山さんも、『まちづくり』や『教育』というキーワードを軸に活動しているところは共通していると思います。『こども縁日ルーム』や『富岡まなびステイ』も、その延長線上にある取り組みです」
入山さん「子どもたちは、地域のいろいろな大人と関わりながら育っていきます。昔は、近所のおじさんやおばさんと顔なじみになり、特別なことをしなくても自然と関係が生まれていました。でも今は、そうした日常的なつながりが減ってきています。だからこそ、地域に住んでいる人だけでその役割を担うのではなく、継続的に関わってくれる人、いわゆる関係人口の存在が、これからはより大切になってくると思うんです。イベントのような一度きりの関わりではなく、何度も顔を合わせるなかで、「あの子、今日は元気がないな」といった些細な変化に気づける人が増えれば、地域はもっとあたたかく、豊かな場所になっていくのではないでしょうか」
富岡市に興味を持つ方へのメッセージ
充さん 私たちが富岡に移住してきたとき、外から来た人間だからと構えられるようなことはありませんでした。もちろん、自分たちのことを理解してもらえるよう丁寧にコミュニケーションを重ねましたが、富岡の人たちは基本的にとてもおおらかです。富岡に少しでも興味がある人、あるいはローカルな暮らしや関わり方に惹かれている人は、まずは気負わず、一度富岡を訪れてみてほしいですね。
安津美さん 「妙義自然の家プラス」は、昨年11月で一旦区切りをつけ、今後の活用方法を再検討中です。ただ、人が集まる場所としての機能はこれからも続けていきたいと考えています。例えば、「妙義山ファンミーティング!」は妙義地区の魅力や雰囲気を感じるのにぴったりです。興味があればぜひ来てみてください。もちろん「げつのみ」もおすすめです。入山さんとも話せるし、市外から来ている人たちへの雰囲気も感じられます。華やかなイベントだけでなく、その裏側にある日常が見えると、より地域への解像度が上がると思います。ここには、面白い活動をしている“変な大人”がいっぱいいますよ(笑)。
入山さん 「げつのみ」はいつでも歓迎します! 毎週開いているので、気軽な気持ちで覗きに来てください。そうやって日常的にゆるやかに富岡と関わる人が増えると、もっと楽しいことを一緒に企んでいけるはず。そんな新しい出会いを楽しみに待っています。
洋品店いりやま
世界遺産・富岡製糸場のすぐ近く、富岡商店街で1901年から続く洋品店。肌着、靴下、シルク製品を中心に、普段着や学生服、体操着など、日常生活に必要な衣料品を幅広く取り扱う。「いりやまで服を買うと笑顔になっちゃう」が店主・入山さんのモットー。単なる衣料品販売にとどまらず、お客さまとの温かい会話を大切にしている。
群馬県富岡市富岡1040
電話:0274-62-0149
営業時間: 9時 〜 19時
定休日: 水曜日
ホームページ:https://iriyama-tomioka.net/
インスタグラム: @iriyama.tomioka

一般社団法人いとのにわプラス(妙義自然の家プラス)
妙義町を拠点に、自然と人、人と人をつなぐ活動に取り組む地域づくり団体。廃止された「旧妙義青少年自然の家」を、キャンプや宿泊、交流スペース、カフェ(現在休業中)が融合した拠点「妙義自然の家プラス」として再生。現在は利用方法を再検討中。
群馬県富岡市妙義町諸戸1106
電話: 050-3138-3028
ホームページ:https://lit.link/itononiwaplus
インスタグラム:@itononiwa_plus @az_itononiwa
