自分らしい暮らしを手に入れるために、
住まいを変えるという選択肢があります。
住まいを変えると暮らしも変わる。
地方には、都会ではできない住まい方があります。
住まいと暮らしのカタチに決まりごとはありません。
そこに必要なのは、自由な発想と、ほんの少しの勇気だけ。
あくまでも無理なく、気負わず、自然体で、楽しむことを忘れない。
そんな身の丈にあったちょうどいい住まいと暮らしを
手に入れた先輩たちが、地方にはたくさんいます。
自分たちのめざしたいホンモノの暮らしを手に入れた人たちを紹介します。
写真:庄司直人


【TURNSな人々】
漫画家ひうらさとる


人気漫画『ホタルノヒカリ』の作者のひうらさとるさんは、2011年に東京都から兵庫県豊岡市へ移住。20年以上東京のど真ん中に住み、活躍してきた漫画家の移住は、驚くほど軽やかだった。
「移住のきっかけは震災でした。子供がまだ小さかったこともあって、夫の実家がある兵庫県豊岡市へ行くことになりました。一時滞在のつもりが、神鍋高原という別荘地にいい物件が見つかって『じゃあ住んじゃおう!』とそこを改装して家族で住むことになりました」
仕事に関しては、作画を従来の原稿用紙に描くアナログから、パソコン上で描画から仕上げまで行うデジタルへの過渡期だったことも暮らしの自由を後押しした。
「産休中、子育てしながら少しずつやり方を覚えていき、休み明けの一発目が『ヒゲの妊婦』というエッセイ。試しにフルデジタルに挑戦したらなんとかできて。そこでアシスタントを毎回家に呼ばなくても大丈夫になりました」
どこでも仕事ができる身となって、東京から豊岡市の神鍋高原、神戸市内との二拠点など暮らしを模索。
「神鍋高原の別荘を改装している最中は、駅前のホテルで2週間暮らしました。そこで仕事もして、私はどこでも生きていけると思いました」とひうらさん。そして2015年からは、豊岡市城崎に家を持つことに。

観光地・城崎温泉に暮らす醍醐味とは
兵庫県随一の名湯・城崎温泉。そして城崎のアイデンティティである木造3階建ての宿が軒を連ねる美しいまち。ひうらさんが城崎に移住したのは夫の田口幹也さんが「城崎国際アートセンター」の館長に就任したためだ。


城崎温泉は、旅行者が多く、よそ者も居心地がいい。のんびりした田舎の良さと観光地なのでクオリティの高い飲食店があるというバランスが絶妙です」とひうらさん。夫の田口さんは「彼女がしみじみ『このまちはいい町だ〜』と言うので、どうして?と訊いたら『観光客が多くて、昼間からビールを飲んでいるから、自分も紛れて飲めるのがうれしい』って(笑)」と楽しいエピソードをそっと教えてくれた。
「観光客のみなさんにとって城崎温泉に旅行に来ることは、非日常の“霽れの日”じゃないですか。だからいつでもまちがすこし浮かれている、その雰囲気が暮らすこちらにも感じられて、楽しいです」
ひうらさん一家の“マイ風呂”は城崎温泉の外湯。家族で下駄を履いてカラコロ鳴らしてお風呂へ行く。特別が日常、日常が特別の日々が垣間見える。

地域の文脈を生かしつつ、 理想のわが家に改修
ひうらさんが住む家は川沿いの風情ある一軒家。その昔は「検番」という、座敷に出る芸者の控え室や、玉代(芸者や娼妓などを呼んで遊ぶための代金)を計算する事務所だった。時代の流れとともにその役割が廃れ、空き家になっていたものを購入し、改修して暮らしている。住み心地と並行して、地域の文脈を消さずにそのまま暮らしに取り入れているのが印象深い。


城崎に移住して大きく変わったことがもうひとつある。家族の役割分担だ。田口さんが「城崎国際アートセンター」の館長になったことでワークバランスに変化が生じた。 「子どもが生まれてから、主人には家の仕事をメインでやってもらっていましたが、いまはわたしが三分の一、主人が三分の二の役割分担になりました。いままでやっていなかったせいか、わたしが家事をやっていると主人に『ありがとう』と感謝してもらえるので、うれしいし、ストレスがたまらないです」
住む場所が変われば、暮らしの役割も変わる。柔軟に生きる一家に風通しのいい城崎のまちはぴったりだ。

写真:中川正子 文:アサイアサミ
※記事全文は、本誌(vol.24 2017年8月号)に掲載

 

【もうひとつのフルサトを見つけよう!地方とつながる暮らしの施設&体験13選】

いま、全国各地に「その土地の暮らしを知る!味わう!」が気軽にかなえられる、
お試し住居や滞在施設、ツアーなどが次々に生まれています。
ただの旅では味わえない「旅以上移住未満」のなかから、いきつけの「フルサト」を見つけてみませんか?


01 WEEK神山徳島県名西郡神山町

1999年に始まった神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)をはじめ、ICTインフラの整備など、数々の取り組みで知られる徳島県の神山町。“創造的過疎”というキーワードのもと、持続可能なまちづくりが進む日本有数の先進地域である。2015年7月、そんな神山町に誕生した滞在型宿泊施設が「WEEK神山」だ。鮎喰川を眼下に望む築70年の古民家を再生した食堂棟と全室南向きの大きな窓を持つ宿泊棟を、女将の樋泉聡子さんが笑顔で切り盛りしている。
「せっかく神山に興味を持ってくれる方や企業が増えてきたのに、この町にはほとんど宿泊施設がありませんでした。そこで、ホテルでもシェアハウスでもない“宿”をつくりたいと考えたんです」
WEEK神山の掲げるコンセプトは“いつもの仕事を、ちがう場所で”。隣地にはコワーキングスペースがあり、働きながら神山町での暮らしを体感できる。「職種や業種にもよりますが、仕事を持ち運ぶような暮らし方ができるようになってきましたよね。住んでいる場所から離れ、神山で何日か働きながら過ごしてみる。そういう選択肢の一つになる場所があってもいいと思うんです」
どんな土地でも日帰りでは本当の魅力はわからないと樋泉さんは言う。地域をめぐって人々と交流するためには時間が必要だ。無理にいまの暮らしを変えなくてもいい。旅行でもなく、移住でもなく、日常を過ごす土地だけを変えてみる。その一歩を踏み出すことで、新しい可能性が感じられるだろう。
写真:千葉大輔 文:重藤貴志 


02 Sanson Teracce 山村テラス長野県南佐久郡佐久穂町

「この先に建物があるのだろうか」 と心配になるような細い坂道を登ると、新緑の森を背に一軒の小屋が建っていた。その名は「山村テラス」。看板もないこの場所に、国内外から宿泊客が集まってくる。佐久市出身の岩下大悟さんが、友人たちとつくった小屋をベースに、一年かけて内装を仕上げ、2014年4月にオープン。妻の陽香さん、友人の徳村圭祐さんと3人で宿泊客を迎えている。
「自然や歴史を生かし、地域とのつながりの中で存在するような建物をつくりたい」という言葉の通り、派手さのない簡素な外観が風景によくなじんでいる。関東の大学に進学し、バイクで日本一周する中で、多くの町や風景にふれた。地元を小さくても個性が光る町にするために自分は何ができるか。そんな思いから、卒業後は地元の太陽光発電の会社に就職。3年働いたのち、ずっと興味のあった、小屋で過ごす文化の先進地フィンランドへ向かった。
「フィンランドでは多くの家族が森の中にコテージを持っていて、週末になると家族でのんびり過ごします。普段の便利な暮らしとのバランスをとるかのような、独特のライフスタイルを見てみたくて」
実際にコテージを借りて生活した経験から、家とは違うもう一つの場所を持つことの大切さを実感。
「こんな過ごし方を日本で広めたい」と思うと同時に、未完成のまま放置していた小屋を思い出した。「大工ではないので時間はかかりましたが、ここに住んでいるからこそできた空間だと思います」
文:中里篤美


03 class vesso 西軽井沢長野県北佐久郡御代田町

軽井沢の西隣に位置する御代田町。雄大な浅間山が広がる自然豊かな場所に、全6棟の宿泊体験型別荘「class vesso 西軽井沢」がある。
異なるテーマで建てられた棟は、どれも30坪以内とコンパクトな設計。豪華さを求めるのではなく、その土地ならではの暮らしを楽しむ「新しい別荘の形」として注目を集めている。車で30分圏内に新鮮な野菜やローカルフード、地ビール、ワインが味わえるスポットがたくさん。
「質の高い食材を買い込み、ウッドデッキでバーベキューを楽しむのが定番です」と運営を担う(株)住宅アカデメイアの西沢和浩さん。
定期的にDIY体験や薪ストーブ体験などのワークショップを開催し、ここに滞在しながら暮らしを楽しむコツを学ぶことができる。
また、地元の企業と連携し、都内で移住をテーマとしたイベントのほか、地域をまわるツアーも実施。これをきっかけに、都心から移住した人も出てきているそうだ。
「地域でたがいにつながり、一緒に盛り上げることで、このエリアの魅力をさらに高めていきます」
文:中里篤美 

※記事全文は、本誌(vol.24 2017年8月号)に掲載

                   

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