あなたも「月イチ町民」に。月1回からはじまる寄居町との新しい関わり方

埼玉県寄居町|月1からはじめる “二拠点 × 小商い” チャレンジプロジェクト レポート

地域に通いながら、移住後の暮らしを創造する

移住を検討する上で、『二拠点居住』という選択肢が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか? “移住” というとハードルが高く感じますが、二拠点居住であれば、今の暮らしを続けながら新しいことにチャレンジできたり、自分の好きを探求したり。生活の変化と合わせて、ライフワークバランスや自己実現を考えられるのも、二拠点居住のメリットなのかもしれません。

そんな “二拠点居住” と “小商い” を掛け合わせて、地域で新たなチャレンジがしたい人の一歩を応援することを目的に、埼玉県寄居町ではじまったのが『月1からはじめる”二拠点✕小商い”チャレンジプロジェクト』です。全4回のプログラムを通して、どのような小商いが生まれたのか、その様子をレポートします。


全4回のフィールドワークを通じて、仲間と見つける小商い

埼玉県寄居町は、町の中心を荒川が流れ、市街地を包み込むように山々が広がる、ちょうどいい自然に恵まれている町です。

埼玉には “ちょうどいい” という言葉がよく合います。地球の息吹を感じるほどの大自然ではないけれど、深呼吸をすればさわやかな緑の風が鼻腔をくすぐるし、オシャレなお店が軒を連ねているわけではないけれど、生活に必要なものはおおよそご近所で手に入る。暮らしを営むにはこの「ちょうどいい」という言葉が、甘美な褒め言葉のように響きます。寄居町もその例外ではありません。

プロジェクトは全4回の構成。1回目はまちなかフィールドワーク。寄居駅周辺や商店街を歩き、寄居町内で小商いができる場所を見学します。2回目は寄居町の中でも里山方面を回り地域のことをより深く探ります。そして3、4回目ではワークショップをしながら自分が実現したい「小商い」の形を具体化していきます。

全4回のフィールドワークを1本の木でたとえるなら、最初の2回は根っこの部分。寄居町をめぐり、人との出会いの中で五感をフルにつかって「寄居ってどんなところ?」「小商いをするとしたら?」をまるごと体感していきます。3日目は幹の部分。「自分でやるとしたら?」というこれからの活動における根幹を考えていきます。最後は、実の部分。プランを発表することで、小商い実践の第一歩を踏み出します。

 

「今日からスタート!」ができる心強いサポート体制

このプロジェクトの最大のポイントは事務局の心強さ。メンバーには寄居町商工会のみなさまはじめ、寄居で実際に二拠点居住をされている(株)グラグリッドの尾形さん、つばめ舎建築設計共同代表の根岸さん、帰宿隠座オーナーであり、元地域おこし協力隊の大田さんが伴走してくれるだけでなく、寄居町の事業者の方、住民の方もご参加されています。

参加者からでた疑問やアイディアに対しその場で誰かが壁打ち相手となり、次のアクションを一緒に考えてくれる。地域プロジェクトに多数参加してきた筆者も、ここまで実践におとしこめるプロジェクトに立ち会えたことはなかなかなく、そのスピード感に驚きを隠せませんでした。

全体のファシリテーターを務めてくださった尾形さん。最終発表の時も参加者の意欲や想いを引き出してくれました

また、プロジェクトに参加することで自然と、月に一度寄居町を訪問できるという、訪問頻度もポイント。一過性で終わらない継続的なつながりを生み出すには、やはり、訪問回数は切り離せないもの。つばめ舎建築設計・共同代表の根岸さんに二拠点居住のコツを伺ったところ、「とりあえず日を決めて足を運ぶこと!」と教えていただきました。

根岸さんも、最初は行きたい飲食店を見つけるなど楽しい用事を作って、寄居町に行くように習慣づけたそうです。外国人の恋人ができるといきなり英語が上達するように、自分の生活に組み込むと一気に物事が進む。プロジェクトに参加することで寄居町を自分ごと化できるようになるというのも、このプロジェクトの魅力の1つといえるでしょう。

根岸さんが運営するシェアキッチン「rutsubo」

10/15(日)に開催された第1回目のフィールドワークでは、自分がやりたい小商いを見つけるために、寄居町で事業をされている方々にお話を聞きました。ご協力いただいたのは、かけはしレコードの田中さん、アトリエリカの加藤さん、そして寄居町商工会のうめちゃん。

翌月、11/5(日)の第2回目フィールドワークでは、みかん栽培の見学や有限会社カヌーテ代表の谷さんにお話を聞きました。さらには、寄居を代表する歴史的建造物「玉淀館」の再生プロジェクトを見学し、寄居の資源や環境を参加者自身の中で認識、定義する機会に。この日はちょうど「寄居秋祭り」の日で、たまたま町長とも交流でき、「行く先々で寄居の方々に出会い、素敵な方が多くて、より一層好きになった」と参加者からは笑みがこぼれます。

寄居秋祭りを見学する道中で、寄居町の峯岸町長からもお話を伺えました

 

これから小商いをはじめる仲間同士の相互理解

こうして迎えた第3回目は、過去2回の情報をもとに自分のアイディアを発散する時間。1日かけて、参加者同士の絆を深め、小商いの内容を具体化していきます。ファシリテーターをつとめるのは、(株)グラグリッドの尾形さん。はじめにプロフィールシートを活用しながら、参加者同士の相互理解を深めていきます。

「お仕事の内容」「自分がやりたい小商い」「普段考えていること」「好きなこと・嫌いなこと」「得意技・自分が持っている資源」「あなたを一言で表すと」が書かれているプロフィールシートをもとに、グループ内でシェア。ワークショップがはじまる前よりも、笑い声や笑顔が会話のキャッチボールが増え、緊張していた空気が和らいでいきます。この時点ですでに「自分がやりたい小商い」をほとんどの方が記載をしていたものの、どうやるかの手段までは決めきれていない印象でした。

参加者からの提案で生まれた “ちゃんたま体操” で体も心もほぐしました

 

想いをもった参加者と事務局、寄居町のみなさんの灯台となるコンセプト

「現状みなさんそれぞれやりたい方向性があり活動していく中で、やはり仲間がいないと、一人でやろうとしてもなかなか難しいところがあるんですよね。今ここに想いをもって集まっていただいているみなさんは、これから小商いをする時の仲間であり、お客さんでもあります。」と話す尾形さん。

同じようなことを目指す人達で一体感を作るために必要なのがコンセプトです。コンセプトをもってベクトルを合わせることで、やりたい小商いを仲間同士で助け合える。これから活動の幅を広げる参加者、事務局のみなさん、さらには寄居町に住む・関わっていくみなさんの灯台となるコンセプトが「月イチ町民」という考え方です。

”月イチ町民”

いま住んでいる地に住みながら、
月に一度だけ、寄居町民になれるとしたら
どれだけ自分の可能性が拡がるだろうか?
自分の”好き”を探求し、
時間と場所を共有する仲間と共に
自己実現へのチャレンジを始める人。
それが、月イチ町民。

 

どんな「月イチ町民」になるのか、大喜利妄想!

「月イチ町民」としての関わりはさまざま。毎月第◯土曜日「月イチ小商いの日(月イチ市)」と決めて、参加者が出店する場所に応援しに行ったり、「月イチ町民交流会」を設けて、時にはカヌー山登り、BBQなど季節を感じられるアクティビティを開催しても良いかもしれない。その他にも「月イチ町民大学」「月イチ町民ハウス」という考え方もできます。こうして「月イチ町民」があふれる寄居町はどんな寄居町になるのでしょうか。そこで、「フィッシュボウル」という対話ワークショップを用いて妄想を膨らませていきます。

「フィッシュボウル」のルールは簡単。二重丸になるように椅子をおき、円の中の人は話し、外の人は聞く。これだけです。中の人は 自分が話したいことを話しきったら外に移動します。逆に外の人は自分が話したくなったら中に移動します。移動はいつやっても自由。誰かの話の途中で入っても大丈夫です。コツは中の人が外の人を気にせず話すこと。最初に話すメンバーを決め、それ以外の人は外側の円に座り、15分ほどの対話がスタート。

「月イチ町民」があふれる寄居町について、様々な視点や立場から意見が飛び交います。中でも印象的だったのは、寄居町に住んでる人も自分たちの可能性に気がついて、「月イチ町民」になるのでは、という妄想。地元の方と「月イチ町民」が自然に溶け合うことで、自分が営んでいるスペースを寄居町外の方に貸してあげたり、住民の方がこあきないをはじめたり。1人で住んでいるおばあちゃんの家に、「月イチ町民」がホームステイさせてもらうのも面白そう、という妄想もありました。

また、「月イチ町民」になることで、生活のメリハリができるという意見もでました。二拠点を比較し合うことでバランスが取れ、視座があがり、結果的にどちらの良さも再発見できるのでは、という原体験から生まれた発想です。土の人と風の人が上手く混ざると、新しい文化がうまれる。月イチ町民制度が地域に新しい風をもたらし、コミュニティの発展や交流の増加に寄与する可能性があることを、確信できるような対話でした。

 

思いをカタチに!それぞれが考える小商い

いよいよ最終日となる4日目は、それぞれが考えた「小商い」を発表する場。小商いのコツは寄居町で活かせる資源や環境に対し、自分のやりたいこと、スキルをかけあわせ、ターゲットへの提供価値を導き出すこと。プレゼンテーションの場では、高齢化による耕作放棄地を資源と考え、不揃いのみかんを使った入浴剤を販売するといった小商いや駅前のコミュニティ施設「Yotteco」の環境を価値ととらえ、自身の強みを活かしたパフォーミングを行うといった小商いの事業アイディアが披露されました。

ここで驚くべきは、参加者の多くが「月イチ町民」としての次のアクションを決めていたこと。カフェをやりたいという方は1日限定で営業する日取りを決めていたり、近日開催される寄居町内でのマルシェに参加する予定があったり、さらには小商いをする物件まで決まっている方もいました。全4回のフィールドワーク以外にも個人的に寄居町に足を運び、小商い実現に向けて、着々とご準備されていたようです。

関係人口の創出をはかる自治体の多くは、地域と関わるアイディアを出してもらうというところまでは、すでに取り組んでいるところも多いでしょう。しかし、短期間で実現にいたる道筋をここまで鮮明に描くことはなかなかできないように思います。プレゼンテーションが終わった後も、寄居町の方々と参加者のみなさん同士が協議を重ねる場面も。熱量の高さ、そして町としてのバックアップの力強さを終始感じずにはいられませんでした。

 

プロジェクトの終わりが「月イチ町民」のはじまり

プロジェクトの最後には、参加者が考えた小商い以外の月イチ町民としての関わり方を寄居町の方々よりご提案いただきました。

たとえば「月イチ町民のコミュニティ運営」や今年8月に開催される「カオースメント祭り」への出店、「まちの牛乳屋さんアップデートプロジェクト」のほか、「寄居のお祭りサポーター」、2023年12月にオープンした「寄居町商工会イノベーション拠点お試し利用」など、今日から月イチ町民になれるような提案も。

寄居町と関われる余白が多様にあることで、幅広い年代、バックグラウンドを持つ人が「月イチ町民」になれる未来が見えます。かく言う筆者も今回の取材ですっかり月イチ町民のあり方に魅了されてしまった1人。早くも翌週にイノベーション拠点利用を予約して寄居町を後にしたのでした。

文:櫻井智里 写真:赤井恒平・七葉

                   

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