福島県×副(複)業人材で広がる、新たな地域とのつながり

2020年5月、福島県は「副業人材マッチングサイト」をオープンさせた。副業という形で築く地域と人材の関係性について、対談から解き明かしていきたい。

 


馬場康徳さん
特定非営利活動法人あたご
(福島県南会津郡会津町)
福祉施設職員。主任販売責任者として、あたごで作られた製品、野菜などの販路拡大、販売管理などを担当している。
近藤 武さん
近藤武デザイン事務所
(三重県四日市市)
事務所代表として、普段は三重県をメイン に Web を中心としたデザイン業を営む。
藤田尚将さん
福島県
企画調整部地域振興課主査
副業人材マッチングサイトの担当として数多
くの企業と副業人材の橋渡しを行っている。

 


 

−−−まずは副業人材マッチングサイトについて教えてください。

藤田:
昨年、福島県が立ち上げたこの副業人材マッチングサイトでは福島県内の企業が持つ事業課題と副業人材の専門スキルとのマッチングをしています。特徴は事務局の担当が福島県内の企業に直接出向き、現状と課題を抽出。求人票作成や選考、契約なども含めてお手伝いをするという完全伴走型のサービスです。月末時点で141件のプロジェクトが立ち上げられ、833人がエントリー。現代社会においてニーズのあるサービスだと感じています。

 

−−−地域振興課がこういった事業を担当しているのは珍しいように感じます。

藤田:
地域振興の部署で担当することで、副業人材が仕事を通して地域でより一歩深い体験をし、そこからさらに継続的につながっていける関係性を築いていくところまでサポートしていきたいと考えています。

 

−−−副業人材マッチングサイトがきっかけで出会ったのが、馬場さんと近藤さんですね。

馬場:
そうです。私の勤めている特定非営利活動法人あたご(以下、あたご)では、HP制作の計画があったもののノウハウが全くなくて。悩んでいた際にマッチングサイトの話を聞き、挑戦してみることにしました。そこに応募をしてくださったのが、近藤さんです。

近藤:
応募当時は、コロナ禍で働く環境が大きく変化し、リモートでも十分仕事ができることを実感していました。オンラインミーティングが中心になり、これならば三重県以外でも仕事ができると、インターネットでいろいろな情報を検索していたんです。
その際たまたまたどり着いたのが福島県のマッチングサイト。そこであたごのプロジェクトを見つけ、さっそく応募してみました。

馬場:
最初は本当にこれでいい人材に出会えるんだろうかと、不安がありました。でも、近藤さんに出会ってHP制作プロジェクトが一気に動き出し、こういった課題解決の仕方があるのかといい意味で驚きました。

 

−−−あたごとしてはなぜ、HPを作ろうとしていたんですか?

馬場:
障がい者の活動をサポートする場所として、あたごでは南会津産杉割り箸の製作や野菜、無添加にこだわった加工食品なども作っていますが、どれも丹精こめたいい品ばかり。せっかくだから、もっとたくさんの人に届けたいと、広報・販路拡大のためにHPを作ろうと考えていました。

メイン製品の南会津産杉割り箸や、野菜、加工食品など。どれも丹精込めて作られている

近藤:馬場さんの「純粋に上質な商品を作っていることを伝えたい」という思いに私も深く共感し、そこからインスピレーションを得てデザインを作っていきました。

 

−−−打ち合わせなどはすべてリモートですか?

近藤:
最初はそうだったんですが、だんだんと行ってみたくなって、昨年あたごを訪問しました。そこでスタッフの皆さんの熱意に触れ、一つひとつの商品がとても丁寧に作られていることを実感しました。課題や展望も共有でき、訪問後からプロジェクトの進行が一気にスピードアップしましたね。

実際に作られている現場に足を運ぶことで、 商品をより深く理解する

藤田:
副業案件の多くはリモートでのプロジェクト進行です。それでも近藤さんは現地に足を運んで下さり、それが、あたごの活性化にもつながっているんですよね。

馬場:
そうなんです。近藤さんとの意見交換では活発な意見がたくさん出て、身内であるスタッフの「障がい者とともに作ったものを売りたい」という熱意に、私が感動してしまいました。

近藤:
2度目の訪問では、スタッフの方が商品のプレゼンをしてくれたり、ブランディングの相談をしてくれたりして。チームの一員になれた気がして、嬉しかったですね。

馬場:
外部からプロが話を聞きに来てくれることが、大きな刺激になっているんです。近藤さんはとても熱心に私たちの思いを汲んでHPを作ろうとしてくださるので、皆、スタッフも話をしたくなってしまうんですよ。

スタッフと談笑しつつ、写真のチェックをする近藤さん

藤田:
近藤さんとの関係性が深まる中で、ただHPを作るのではなく、なにをどう伝えるか、どう発展させるかなど中長期的目標もでき、とてもいいプロジェクトになりましたね。

馬場:
ええ、アットホームな雰囲気が伝わるHPができ、ここからさらにECサイトに発展する予定です。また、都会からのアクセスの良さや体験型プログラムのPRもしたいです。あたごの良さを知っていただき、地域の魅力も感じてもらえたら嬉しいですね。

近藤:
私自身があたごに来て、この施設の良さを体感し、もっとたくさんの方に来ていただきたいと感じました。それを叶えるために、あたごのファンづくりをHPからサポートしていきたいです。

 

−−−副業プロジェクトを通して感じたことは?

近藤:
リモートでできることの多さにも、現地へ出向くことの重要さにも気づくことができました。
実はこの案件に関わるまで福島県に行ったことがなかったのですが、仕事で来たついでに観光したり、温かい人柄に触れたりしたことで、今では毎月通いたいと思うように (笑)。知らない土地の魅力に触れられることも副業の良さの1つだと感じます。

馬場:外部人材が加わることで、あたごの可能性が広がる瞬間を共有し、組織全体が活性化しました。スタッフ同士が同じ方向を向くことができ、絆が深まりましたね。

藤田:
近藤さんのように、また福島に来たいと言ってくださることが何より嬉しいです。副業プロジェクトでは、仕事を通して地域と深くつながりを持ち、コミュニティを広げていくことができるのではと考えています。あたごのプロジェクトをモデルにして福島の様々な地域で同じような事例を展開していきたいですね。

あたごの割りばし・ペレット加工場の前でスタッフと共に並ぶ、笑顔の一枚

 

(文:笠井美春 写真:アラタケンジ)

                   
福島県 副業人材マッチングサイト
NPO法人あたご
※ロゴは近藤さんのデザイン

人気記事

新着記事