【求人】「ないものはつくる」。地域プロモーションの鍵は、企画力と情熱

広島県三次市 地域おこし協力隊「道の駅 ゆめランド布野」

中国地方のほぼ中央に位置する三次(みよし)市は、古くから、山陰と山陽を結ぶ交通の要地として機能してきました。現在も、島根と広島を結ぶ大動脈の国道54号をはじめ、中国自動車道、中国やまなみ街道、芸備線、福塩線などの交通網が三次市を経由しています。

中心市街地は標高150~250メートルの盆地。まちの中央で3つの川が合流し、江の川として日本海へと流れます。豊富な水量により霧が生じやすく、秋から冬にかけて幻想的な「霧の海」が見られることで知られています。

 

道の駅を拠点に、地域資源の発掘を

自然豊かで交通の利便性も高い三次市ですが、人口減少に伴い地域が衰退。農業の後継者不足や耕作放棄地が増加しています。いま必要なのは、農業を支援し地域を活性化させること。
三次市では、農産物や農産加工品の販売、商品開発、営業活動など、新たな発想と能力で、まちを元気にしてくれる「地域おこし協力隊」を募集しています。

 

今回、地域おこし協力隊を募集する施設が、「道の駅 ゆめランド布野」。

国道54号沿いにあり、レストラン、ジェラートアイス店、野菜市場などがあります。充実した施設に加え、180台収容の駐車場があり、ドライブがてら立ち寄るスポットとして定着。週末を中心に、多くの人が来場します。

 

主な活動内容は、この施設のPR活動や、地域活性化に関わる企画立案。現在、この業務を一手に引き受けている業務課長の升井淳(ますいじゅん)さん(46)。

升井さんは広島市生まれ。広島市でスーパーやデパートの企画等に従事してきました。15年前に両親の故郷である三次市へ「Iターン」。以来、道の駅 ゆめランド布野のスタッフとして、いわば「よそ者目線」で地域の資源を発掘し、新たな取り組みを次々に打ち出してきました。今回の募集で、どんな人にどんなことを期待しているのか升井さんに聞きました。

 

新鮮で種類豊富な野菜に、都市部からのリピートも

最初に案内してもらったのは、新鮮野菜が集まる「ふれあい野菜市場」。
市場と名が付くだけあって、近隣の農家さんから届いた、新鮮な旬の野菜がずらりと並んでいます。葉がしっかりと茂った大根、大きなキャベツ、しいたけなどがずらりと並び、品定めをしながら買い物を楽しむお客さんが見られました。

ドライブするのが好きだと話す男性は、何と80km離れた広島市内からの来店。
「国道54号は信号が少なく、走りやすい道。ここは安くて新鮮な野菜がたくさんあるので、毎週のように立ち寄っています」と話してくれました。

野菜を納入する契約農家は約150。
集まってきた野菜は、大きさや種類もさまざまです。これだけあれば、用途や好みによって選ぶことも可能。遠方から訪れる人、リピーターが多いのもうなずけます。

 

ふれあい野菜市場で販売されている広島菜漬けは、実はこちらの施設内にある「加工場」で製造されています。今が旬の広島菜が、地域の農家さんから届けられていると聞き、加工場を見せてもらいました。

3年前から、こちらの人気商品「広島菜漬け」を作っているのは、地元に住む石田辰子さん。自宅ではもう数十年にわたって広島菜を漬けてきた、大ベテランです。
「大きいのもあれば、小さいのもある。農家さんによって違うよねぇ」と、素材の大小はさして気にならない様子。「防腐剤はなし。天候や気温、そして今までの勘で味を調えるんよ」と話す石田さん。「この漬け物の味は、石田さんによって守られているんです」と、升井さんは絶大な信頼を置いています。

 

道の駅ゆめランド布野には、季節の野菜をふんだんに使った郷土料理が楽しめる「ふるさと惣菜ランチバイキング」もあり、「これだけの種類の野菜を一度に食べられるのはここだけ」とお客さんからも好評。素朴で懐かしい地域の味を、伝承する場にもなっています。

 

企画力のベースには、積極的な農業の実践

地域おこし協力隊がやってきたら、どんなことを担ってほしいのかを、升井さんに聞きました。

「道の駅 ゆめランド布野という施設のPR活動、そのための企画立案、営業活動。契約農家から集まる農産物や加工品、特産品等の販売。ほぼ、全部ですね。そのためにも、ぜひ、自分で野菜を栽培する経験はしてもらいたいのです」

実は、升井さん自身が、赴任後に素人ながら農業に取り組んだそう。
「といっても、玉ネギを2,000本、ニンニクを3,000本くらいですよ。私は、農作物に関わる仕事をする人には、ぜひ、農家さんがどうやって野菜を作っているか、その苦労や過程を知ってもらいたいと思っているんです。最初は私の畑で一緒に農業をしてもいいと思っています。私の農業の師匠から、農機具を借りることもできますし、指導を仰ぐこともできます」

「うちの会社で足りていないのは広報活動」と言い切る升井さん。
では、升井流の広報とは、どんな内容なのでしょう。

升井さんは、まずは三次市外から、外部の魅力的な物を持ち込む企画を打ち立てました。
「島根が広島の市場を狙っているのは分かっていました。ならば、こっちから島根の魅力的なものを集めてはどうかと、島根県浜田市との協同企画を立てたんです。ふれあい野菜市場の前にテントを建て、浜田市の鮮魚、干物、加工品を集め、『鮮魚朝市』を開催しました。地域の野菜の他にも、世羅町のキャベツをトラックで買い付け、マーケットのように高く積み上げて見せる工夫も。元・地域起こし協力隊の岡田さんが作るウリの漬け物の試食、即売もし、見事完売しました」
町外との物流交換は、お客様へ市場の活気を伝える、うってつけの広報。地域や生産者への良い刺激にもなり、まさに、「内・外」共に市場の存在をPRする手法といえるでしょう。

地域おこし協力隊の活動は、エリアに制約があることが多いと思っていましたが、升井さんの考え方は、従来の枠、普通の道の駅の概念というものに捉われません。
「三次を出て、広島、島根へもどんどん出ていきたい」
「必要なのは、企画力ですね」
現在は、広島の大手百貨店等へも働きかけも行っているところ。都市部へのプロモーションを積極的に行っていこうと思っているそうです。

 

必要なのは、トライする勇気と継続するパワー

2015年12月のイベントは、升井さんにとってとても思い出深いものだそうです。それは、道の駅 ゆめランド布野で開催した、第1回「DISCO PARTY」でした。

こちらに移住してきてから、夜の大人の遊び場を作りたい、安心して遊べる場所がない、と思っていた升井さんの、「ほしい」「ないなら作ろう」がきっかけです。

「もちろんいいことばかりではありません。失敗もたくさんあります。そのたびにトライ&エラーを繰り返してきました」と笑顔で振り返る升井さん。思い付きのようなDISCO PARTYの初回は、宣伝不足もあり、たったの7人しか来場がなかったそう。しかし、参加者の口コミで人気が出て、今では毎回60人以上が来場するイベントとなっています。プロのDJを起用する他、自分自身もDJを担当したり、会場の照明を担当したりして、パーティーはどんどん盛り上がっていきました。いつしか月1回開催するほど人気を集めるように。参加者が次回は友人を連れてくる、の繰り返しで、三次市や広島市、呉市からも、距離をいとわず参加があるそうです。「次はいつ?」という声を聞くと、開催してよかったなと思うと同時に、「次はどう盛り上げよう」とやる気にも。現在は年4回、通算26回開催。何と、参加者同士でカップルができた実績もあるそうです。

同時期に始まったのが「三次ベジタブル(地産地消野菜)ピザ」と銘打った「三次ベジピザ」バイキング。

この企画は、広島市から三次市へ越してきて、最初に升井さんが抱いた「宅配ピザ店がない」という不満がきっかけでした。
「ないなら作ればいい」という単純明快な発想から、地元食材で作るピザまで開発してしまった升井さん。今はイベントを中心に店外でのPRで提供していますが、ゆくゆくはピザの宅配もできたら、と夢が広がります。


チラシの制作も、もちろん升井さんの自作。

一方で、内側への発信も大切だと考える升井さん。
見せてくれたのは「ポジティブアクション~プロジェクトY(ゆめ)~」と名付けたA3サイズのチラシでした。野菜の生産者や来場者、社内へ向けての報告を兼ねたチラシです。
「先人が築き上げた農業文化を継承するために、30~40歳代の若い層が中心となってチームを編成し、行動を起こしている」との一文が、全てを代弁しているようでした。

気を付けないといけないこともあるのだそうです。
「市内で、行政に近いところで行動しているうちに、いつの間にか行政マンのような行動になってしまう協力隊が多いと聞きます。それではいけない。協力隊の立ち位置は、あくまで『民』。民間に寄り添った考え方で、行政ともうまく連携してもらえたら」と期待します。
「こんな私の気持ちに賛同し、乗っかってくれる、アツい人に、ぜひ地域おこし協力隊として来てもらいたい。やる気さえあればしっかり鍛えます。自分がやりたいことをやりつつ、探りつつ、決して諦めず、ここ三次の地域活性化につなげていってもらえたら」と、求める人物像を語ってくれました。

「協力隊のあとの受け皿がない」とよく聞きますが、「そこもカバーするのが受け入れ側の役割」と受け止める升井さん。
「こちらで私たちと共に活躍してもらい、任期終了後はそのままわが社に就業してもらってもよし、新たな夢に向かって起業されてもよし。われわれは大きな受け皿を準備する覚悟で募集しています」

 

道の駅 ゆめランド布野では、「任期の3年の間に、自分自身の将来を見極め、決めてもらえたら」と、他にはないとても柔軟な姿勢で応募者を待っています。
ないものがあれば作る、そんな風土の三次市。この施設も、2人いればもっと大きく変わっていけるはずです。

写真:堀行丈治 文:門田聖子

※後編では、地域おこし協力隊OB:岡田アントニールイスさんの取り組みをご紹介します。https://turns.jp/25713

                   
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