【地域のミライを考える】
オンライントークイベント vol. 7 開催レポート

企業と地域が共に取り組む、より良い未来のつくり方。
始まりは「人と人」とのつながりから。

地域資源を活かした多彩な新規ビジネスを展開する「一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構」(宮崎県新富町/以下、こゆ財団)と、“これからの地域とのつながり方” を提案するローカルライフマガジン「TURNS」がタッグを組んだオンライントークイベント『企業と地域の繋がり方』が11月30日に開催されました。
第7回となる今回は、いま企業と地域が互いに必要としている “コミュニケーションのあり方” がテーマ。

ゲストは、スターバックスコーヒージャパン株式会社で西九州・沖縄エリアを担当している木村奈穂さんと、株式会社良品計画 の事業開発担当・間野弘之さんです。

リモートワークが一般化し、多くの企業が地方へのワーケーションなどにも目を向けはじめた今、企業と地域はどのように共創できるのか。また、地域の課題を企業はどのように見つけ、解決したらいいのか。

2社の豊富な実例から“コミュニケーションのあり方” を学んだトークセッションのハイライトをご紹介します!

 

【ゲスト】
◆木村奈穂さん
スターバックスコーヒージャパン株式会社 西九州・沖縄エリア担当
1977年生まれ、北海道出身。2005年、スターバックス コーヒー ジャパン(株)入社。
名古屋市内、中部国際空港セントレアなど、計3店舗のストアマネージャーを経た後、福岡県、沖縄県2地区にてディストリクトマネージャーを務める。
2021年10月より現職、九州・沖縄県内の約100店舗の営業を統括する。
好きなドリンクは「アイスのアーモンドミルクラテ」。趣味は植物を育てること。

◆間野弘之さん
株式会社良品計画 事業開発担当
岡山県出身。大学卒業後、(株)良品計画に入社。
店舗経験後、本社で勤務。宣伝販促室の際に地域のよいもの、良い文化を伝えたいという想いからネットストア内にて「諸国良品」を立ち上げる。また、各地の農家さんや生産者の方がとのつながりから店頭で青果販売が始まる際にも携わり、現在は無印良品 銀座店1F食フロアのマネージャーとして勤務。

 

【モデレーター】
◆高橋邦男さん
一般財団法人こゆ地域づくり推進機 執行理事/最高執行責任者

◆堀口正裕
TURNSプロデューサー/株式会社第一プログレス 代表取締役社長

 

地域の一人ひとりの取り組みが、企業とつながることの可能性

イベントは、共同主催者である宮崎県新富町*の地域商社「こゆ財団*」高橋邦男さんより、財団の活動とまちの紹介からスタート。今回は新富町の地域おこし協力隊の活躍について語って頂きました。

※新富町
宮崎県宮崎市の北隣に位置する人口約16,500人のまち。子どもの占める割合が比較的多く、高齢化率は県内で下位から3番目。主な産業は農業。

※こゆ財団とは?
「こゆ財団」とは、2017年に新富町が設立した地域商社。「世界一チャレンジしやすい町」というコンセプトを掲げ、人材育成や商品開発、関係人口創出などに取り組んでいる。中でも、ふるさと納税の運営と人材育成を大きな軸とし、農産物のブランディングを通じて付加価値を高めるなどし、4年間で60億円の寄付金につながっている。手数料などによって得た収益は人材育成に投資し、オンラインなどを通じて学びの場を提供している。

こゆ財団は「世界一チャレンジしやすい町」をコンセプトにまちづくりを行なっています。目指すのは、新富町で夢を実現しようとする人同士がゆるやかにつながって刺激・応援し合い、挑戦しやすい環境やコミュニティが整っているまちです。

挑戦者一人ひとりがビジネスとして、経済的に自立している状況をつくることを目標にしています。

そんな新富町の大きなチャレンジとして、2021年2月、5,000人規模のサッカースタジアム「ユニリーバスタジアム新富」がオープンしました。2021年から宮崎県初のJリーグ入りを果たした地元クラブチーム「テゲバジャーロ宮崎」のホームスタジアムとして、スポーツによる地域振興の起点となっています。

現在J3リーグで優勝争いを繰り広げているこのクラブチームの活躍により、新富町はスポーツのまちとしても盛り上がりつつあり、サッカー女子チームも誕生!ユニークなのが、この女子チームのメンバーの大半が地域おこし協力隊であることです。若い女性たちが都会に流出しているという地域課題に対し、地域おこし協力隊の制度を活用してアスリートを呼び寄せ、地域の大切な人材として定着していただくことを期待しての取り組みだそうです。

一方、まちの主要産業である農業においても、地域おこし協力隊のメンバーがめざましい活躍を見せています。新富町役場とこゆ財団が、ふるさと納税で得た資金を次世代の担い手育成に投じ、地域経済の活性化と人材育成をリンクさせる循環型モデルを推進しています。そうして挑戦者をさまざまな仕組みで支えてきた結果、町内のコミュニティ内では次々と新たなチャレンジの連鎖が生まれました。

持続可能な農業を目指し、全くの未経験者でありながら新富町で起業家として農業の世界へ飛び込んだ「みらい畑」の石川美里さんは、苦労の末、糠漬け用のミニ野菜がヒット。

「パパイア王子」の屋号で活動中の岩本脩成さんは、移住前から着目していた青パパイアの栽培と商品開発に邁進し、多彩な加工品展開や販路拡大を行なっています。

松浦牧場2代目の松浦ちひろさんは、口蹄疫で乳牛全てを失ったところから奮起し、以前の倍の頭数まで拡大した循環型酪農に挑戦。健康的でおいしい牛乳の自社ブランド「Matsuura Milk」を完成させました。

農業一筋43年の宮本恒一郎さんは、「オーガニックファームゼロ」という新たな会社を立ち上げ、丹精込めて育てた有機米のおむすび専門店をオープンさせています。

小さなまちの、一人ひとりのこうした懸命な取り組みが企業とのつながりを得ることによって、成長が加速・拡大する現象も起こりつつあると語る高橋さん。企業と新富町との共創の一つである「ユニリーバスタジアム新富」の周辺では、2023年に基幹産業である農業の新たな開発拠点や直売所の建設が予定されており、まちが大きく進化していく機運も高まっています。

そんな状況だからこそ、企業と地域とのさらなる繋がりを求めたい。新富町の想いを受け、ゲストのお二人から、これまで地域と一緒に取り組んできた活動の事例と、その根底にある企業のミッションをご紹介いただきました。

 

スターバックスが地域コミュニティを大切にする理由

新富町の話を聞いて「危うく移住しそうになりました」とスターバックスの木村奈穂さん。歴任の店舗で地域の人々と一緒にコミュニティをつくり上げてきた木村さんは、そもそもなぜスターバックスが地域での活動を大切にしているのか、根底にある企業のミッションについてお話頂きました。

「『人々の心を豊かで活力あるものにするために、ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そして一つのコミュニティから』というこの言葉が、私たちの存在意義そのもの。それを体現するのが、私たちが“パートナー”と呼ぶ店舗スタッフです。ビジネスと社会貢献を両立するというのが創業当時からの変わらぬビジョンで、企業の規模が大きくなったいまだからこそ、そのインパクトはより大きいと思います。ビジネス成長しながらも、地域に根ざした企業として世の中に前向きなインパクトをもたらしていく。これを両立するからこそ企業として存続できるし、地域にとっての良き隣人になり得ると考えています」

そのためにも、今後は店舗のある地域とのつながりをいっそう深め、人にも地球にもより良い状態を追求していきたいとのこと。スターバックスでも地域とのつながりづくりは重要なフェーズを迎えているようです。

そんなスターバックスでは、各店舗で地域の人々と一緒に多様なコミュニティ活動が行われています。

ある店舗ではヨガを教えられるパートナーが地域の人にヨガ教室を開いたり、廃れていく民謡を盛り上げようとライブを開催したり、コロナ禍では医療従事者の方々にコーヒーの差し入れをしたり、ウミガメの産卵が行われるビーチで地域の人とゴミ拾いをし、最後にコーヒーを一緒に飲んだりと、その内容は店舗によって実に様々です。

「私たちがやりたいからやるのではなく、地域の困り事やニーズに対して何ができるかを自分たちで考えて実行していくのが基本。1,600店舗あれば1,600通りのつながり方がある。それが企業スケールを活かした意義ある成長と活動だと感じています」と木村さんは語りました。

 

無印良品の地域活動事例と、取り組みの根底にあるもの

続いて、「無印良品」でおなじみの株式会社良品計画で地域と関わる新規事業を立ち上げている間野弘之さんから、企業理念と地域活動についてお話頂きました。

企業の使命の一つとして「店舗が、その地域のコミュニティセンターとしての役割を持ち、地域のステークホルダーの皆様と共に、地域課題に取り組み、地域への良いインパクトを実現する」ことを掲げ、その活動は企業の一方的なボランティアではなくビジネスとして利益を出しながら、相手先の地域やそこに住む人々のビジネスとしても自立させていくことを重要視しています。

間野さんによると、これまでの経験から、企業と地域が「対等な関係」で取り組むプロジェクトの方が、成功率が高いと感じているそう。

そんな良品計画では、日本各地で多様な取り組みを行なっています。

【良品計画の地域プロジェクト事例】
・社員研修で耕作放棄地を耕し、小屋を建ててワーケーションを実践
・棚田を保全し、実った米で地元の酒造メーカーと一緒に日本酒づくり
・廃校の校庭を週末用の2拠点目として小屋と共に分譲
・子ども食堂をヒントに、廃校を高齢者を含む村のコミュニティ食堂として活用
・高齢化している団地の空き部屋を使って小さな商店をオープン
・過疎地である山形県酒田市で無印良品の移動販売(女性社員が販売車のドライバーを志願)
・黒字化が難しいといわれる道の駅を運営しノウハウ蓄積
・福岡の店舗で、地元の窯元の方を招き焼物体験
・北海道の店舗で、読まなくなった絵本を読みたい絵本と交換できる「つながる絵本」企画を展開
・畳製造の際に出る畳表の余りを、南池袋公園でレジャーシートとして活用
・銀座店で資源リサイクルの展示 など

その他、間野さんは地域の特産品を無印良品のオンラインストアで直売できる仕組み「諸国良品」や地方の農家から農産物を直接買い付けて販売する事業も手掛けています。

「地域の農家さんからお話を伺い、想いを持って減農薬や無化学肥料で野菜をつくっていても、やはり市場の価格に流されてしまったり、手をかけた分の利益が得られず続けるのが大変だという実態を知りました。そこで、私たちのお店で農産物を直接仕入れることにしました。一般的な市場より販売価格は少し高くなってしまうのですが、その分生産過程でのこだわりの理由をしっかりと伝えて販売しています」と間野さんはお話しされました。

多彩な活動をしているように見えますが、その根底では「それぞれの地域で良品計画がいかにお役に立てるか」ということを会社全体で考えているそうです。

 

スターバックスも良品計画も、目の前の利益追求だけでなく、企業スケールとそれに伴う社会的インパクトをしっかりと自己認識し、地域と手を取り合いながら、これからの社会や世界をより良くしていくための活動に力を注いでいます。

 

“地域の困り事” の見つけ方とは?

後半は、木村さん、間野さん、高橋さん、そして堀口の4人でクロストーク。地域との繋がりをつくりたいと考えている企業や視聴者の質問を代弁した、核心に迫るトークとなりました。

 

Q1:地域との取り組みは、何を基準に決めているのですか?

堀口: 木村さんのお話の中で出ていた、店舗のパートナーさんがやりたいことを形にする時に、企業として見ると全てのアイデアがウェルカムではないんじゃないかとも思うのですが、どういうところを大切にして決定されているのでしょうか?

木村さん: 私たちがやりたいかどうかより、お客様が本当にそれを求めているのかという基本原則に立ち返り、同時に企業のミッション、バリューとも照らし合わせながら決めています。決定は各店舗やエリアのマネージャーに任せています。

 

Q2:地域の困り事やニーズはどうやって見つけていくのですか?

堀口: 良品計画さんも、スターバックスさんも、「地域の困り事を解決していこう、寄り添っていこう」というお話をされていましたが、「地域の困り事」はどのようにして見つけていくものなのでしょうか?

間野さん: いろいろなケースがあります。行政の方からのご相談もありますし、その地域に出張に行って、夜にたまたま農家さんとお酒を飲むことになり「実は…」みたいな形で話が出て、後々一緒に取り組むことになったケースも。最初のご縁の糸口はそういう形でつくれると思いますが、それを社内でプロジェクト化しようとするなら、企業として「今やらなければいけないこと」「この先やっていかねばならないこと」と、その地域の課題を照らし合わせて、どこに可能性があるのかを見ていく必要があると思います。

最初はもちろん利益が出なかったり、赤字だったりすることもありますが、それをどう黒字化していくか、ビジネスにしていくかを考えていくことが、他の地域や国でも役立つ可能性や、10年先、20年先にも無印良品を続けていくための可能性を探ることになるのではないかと捉え、取り組んでいます。

木村さん: やはりその地域で働く人たちが、地域の課題をいちばんよく知っていると感じます。店舗で一緒に働くパートナーの方々やお客様、関わる業者の方など毎日何百人、何千人と出会う人の中からヒントを見つけていくのがいちばん早い。会話の中から探っていって、「じゃあその方を今度お店に呼んでみましょう」みたいなきっかけからどんどん広がっていったりする。真摯に仕事をしていたら、そういう偶発的なご縁がありますし、やはり目の前のつながりを大事にすることが最も重要ではないかと思います

堀口: なるほど。両社共に、「偶発的に出逢う “ご縁” の素晴らしさ」を大切にし、実際に一つ一つ形にしていらっしゃるのですね。

 

Q3:今後力を入れていきたい地域での取り組みはありますか?

高橋さん: 良品計画さんの山形での移動販売のお話は、もしかしたら九州でも可能性があるんじゃないかと思いました。間野さんや木村さんが今感じていらっしゃる、「こういう困り事をもっと解決できないかな」「こういうことに力を入れたいな」ということはありますか?

間野さん: 山形で行っている移動販売などは、過疎地の買い物難民の問題を考えると本当に重要だと思っています。移動販売が企業の効率やコストを鑑みて撤退していってしまうという現実がある一方で、確かに売り上げ規模は小さいですが、そこに行くと地域のおばあちゃんたちが集まってきて会話やふれあいが生まれる。モノを売る立場の我々だからこそ、お買い物という体験がこれからの時代どうあるべきかを考えていかないといけないように思います。利益性だけを追求しているとなかなか手が出ないかもしれませんが、企業が未来へ続いていくためのヒントが、そこで交わされる人々との対話の中にあると思いますし、そうした活動によって次時代の我々のサービスや商品が変化していくのではないかと感じています。
自分自身も生活者ですし、生活者一人一人と同じ目線でお話をして幸せになってくださることを考えていくのが、地道ですが、社会に良いインパクトを与えていくために我々ができることです。

木村さん: 私たちがまずできることは「地域に雇用を生み出す」こと。一つの店舗につき30名〜40名の雇用を生むことができます。そして、そこにはコミュニティが生まれ、地域の人々の居場所やつながりの場所ができますあらゆる世代の人々がつながる場所としてカフェの重要性は増していると感じています。スターバックスを拠点に繋がりが派生して豊かな地域になっていく “人と人とのハブ” みたいな存在になれたらと思います。

高橋さん: 私たちも地域おこし協力隊の採用や活動支援に力を入れているものの、事業をゼロからスタートさせていくのは本当に大変なことです。地域に担い手もいて、ニーズもあって、あとはそのサービスの仕組みさえなんとかできればという課題はよくあるので、そこで企業のお力をお借りできるとうれしいですね!

 

また、視聴者の方から寄せられた、「これだけ大きな企業で、どうやってビジョンを浸透させているのですか?」との質問に、間野さんは「よく聞かれるのですが、木村さんも仰っていたように、何か新しいことをする時に『それって無印なの?』という言葉が社員の間でよく出ます。私も『無印の考えはこうだ』と上司から教わったことは一度もなく、それぞれの立場で、折に触れそれぞれが考えるということを社員皆がし続けている」と答えました。

 

イベントの最後は、ゲストのお二人から視聴者へのメッセージ。スターバックスの木村さんは、「今日のイベントの参加者の方々は、地域とつながることを大事にしたいと思っている仲間だということを感じた。その行動の輪の中でスターバックスもしっかりと手を取り合って、一緒により良い社会をつくりたい」と述べ、良品計画の間野さんは、「各店舗が各地域とつながって、いろんなお話をしながら一緒に未来を考えていきたい。思い立ったらぜひ遠慮なくお声がけいただきたい」と語りました。

今回のイベントを通じて、ゲストのお2人がすごく楽しそうに活動に取り組んでいらっしゃるのが印象的でした。

大きな企業であろうとも、最初の始まりはやはり“人と人”。「企業と地域のつながり」というテーマを超えて、「皆で社会をより良くしていこう」という大きな視点での繋がり・仲間意識が感じられた温かなセミナーとなりました。

                   

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