【小千谷市×出雲崎町 地域おこし協力隊 対談】
「やりたい」を地域でカタチにするために、必要なこと

地域おこし協力隊には夢がある。最大3年間という任期の中で地域のために働きながら、理想の暮らしをつくることができる。

新潟県は、地域おこし協力隊の「やりたい」の実現に向け様々な隊員のサポートを行っている。
その一つが「Jobインターン」隊員の希望に合わせ、1~3日のインターンプログラムをオーダーメイドでつくり、実施している。

起業意向のある隊員も少なくない。ノウハウのない隊員も事業計画づくりなどができるよう、「起業研修」も行っている。

また、隊員が起業する際の補助金もある。

退任を間近に控えた2人の現役隊員が語る任期終了後の「やりたいこと」の見つけ方実現するために必要なこととは。

 


小千谷市 地域おこし協力隊
豊田裕樹さん
(プロフィール)
大阪府出身。家業である訪問介護の影響を受け、医療・福祉業界で13年働く。副業として物販業・ECサイト運営などの事業に挑戦。32歳で結婚。コロナ禍での子育てに不安を感じ、新潟県小千谷市に移住。100世帯ほどが暮らす塩殿地区で耕作放棄地の活用、介護経験を活かした高齢者支援などをミッションとして活動。

 


出雲崎町 地域おこし協力隊
石坂優さん
(プロフィール)
大阪府に生まれ愛知県名古屋市で育つ。大学卒業後はマーケティング会社で企画・ディレクション業に従事。その後「本に関わる仕事」をするため、東京都内で書店づくりや本と人の関係性をデザインする「ブックディレクター」に転職。2020年、出雲崎町に移住し「関係人口創出」をミッションとした地域おこし協力隊に着任。

 

着任後、最初の1年が重要な理由

地域おこし協力隊の1年目は、今後の新潟での暮らしを左右するとても重要な期間だ。

石坂「私のミッションは『関係人口をつくること』以外には決まっておらず、自由過ぎるくらいに活動の裁量がありました。なので、これまでの経験を活かして『本のある空間』を創って人を繋ぎたいと提案したところ、出雲崎町に賛同してもらい、地域おこし協力隊として採用されました。蔵を見つけ、図書館にしたいと企画書をつくり、移住後5ヶ月で『蔵と書』をオープンしました」

出雲崎町の地域おこし協力隊として着任した石坂さん。縁のない町で1人、これまでの経験やSNSを駆使して、人口4,000人(市HP 4,016人/11月時点)の本屋のない町に私設図書館を立ち上げた

「本だけで人が来るとは思えない」と言われながらも、プレイベントを重ね、発信を行い実績を積み上げて成果を示した。


本屋のない町に生まれた私設図書館「蔵と書」


今回の対談場所は本に囲まれた蔵の中

 

豊田「すごいスピード感ですね。私のいる集落は100世帯ほどで、顔も人となりも分かるほどの小さなコミュニティだったので、まずは地域に馴染むことで精一杯でした。農産品をECサイトで販売してみたいとか、東京や大阪で販売会をやろうとか構想はありましたが、1年目はとにかく、地域の人に言われたことを愚直にやり続けました

小千谷市の集落に着任した豊田さん。郷に入れば郷に従えと余計なことはせず、言われたことだけに専念して、集落の人々と交流をすることに時間を使った。行事には全て参加し、頼まれごとがあれば身体を動かした。

 

石坂「やることが明確にあるのはいいですよね。出雲崎町だと私で2人目の協力隊だったので、役場もどういう風に仕事をしてもらったら良いのか、当時は掴めていなさそうでした。町の人も『地域おこし協力隊?』って感じの反応で、近しい人には理解してもらえたのですが、遠巻きに見てる人も多くて、1年目は苦労しました」

豊田「私の場合は農業で生活していきたいという気持ちがあったので、既にロールモデルがあったのですよね。地域おこし協力隊の活動として、まずは分かりやすく『農業』を覚えていけば良かったので、着任当時によくある “何から手をつけたら良いか” という悩みはありませんでした」

1年目から前例のない仕事を自らつくっていった石坂さんと、まずは目の前の作業を続けた豊田さん。対照的な地域おこし協力隊としての1年目を過ごしながらも、着実に地域の信頼を得ていった2人は、その後、どのような過程を辿っていったのだろうか。

 

軌道修正をしながら進める2年目

それぞれの1年目が終わり、地域での生活にも慣れてくる2年目の任期。3年目に向けてやりたいことを実現するための道筋が少しずつ輪郭を現してくる頃だ。

石坂「蔵と書をオープンしてから、メディアからの取材が一気に増えました。遠くから来てくれる本好きな人たちが常連さんになってくれて、紹介やSNSで広がって。応援してくれる人が増えていったので早く形にできて良かったと思ってます」

豊田「手探りだった1年目とは違い、信用を得られた2年目は活動がしやすかったですね。『お前さんが言うなら』とイベント出店や商談会への参加にも着手させてもらえました。小千谷市内の他の協力隊と任意団体を組織して活動を始められたのも、私の中では心強いところでしたね」

石坂「出雲崎は同期や先輩後輩も少ないし、途中で辞めてしまった人もいて、2年目も孤軍奮闘って感じでした。幸いにも、私は関係人口の創出がミッションだったので、外の人と積極的に繋がりを持ちやすく、なんとかやってこれました。町内の木工作家さんとイベントをしたり、地域外のマルシェに出店したり、コロナが終わってからは外に出ることも積極的に行いました

地域の中と外との関係、同期や先輩後輩のつながり。それぞれの立場で悩み、手探りで自分の道筋をつくっていく作業は孤独な側面もある。我を通せば、地域との軋轢を生んでしまうことにもなりかねない。しかし、リスクを取らなければ、ただ時間が過ぎてチャレンジする機会を失うかもしれない。

 

豊田「全員がやりたいことを持っている訳ではないと思いますが、目標や目的を持たないと心が折れるときが来るかもしれないですよ。地域おこし協力隊を田舎に逃げるための手段として使うと上手くいきません

石坂「そうですね。田舎暮らしって理想のスローライフってイメージもありますけど、都会からでは見えないこともありますからね。環境や文化が変わって大変なことも多いです。出雲崎に来た時は、まだ内見もしてないのに人生初の一軒家生活が始まって、免許取得後初めて8年ぶりに運転をして、雪や虫と格闘しながら暮らしています。私は慣れるまで大変でしたし、雪や虫は慣れません」

豊田「地域おこし協力隊って、これまで持っていたものを手放して来る人たちなので、石坂さんのように、胆力や色々な能力を持っている人たちだと思うのですよ。そういう人達のやりたいことと、地域のやりたいことが上手く重なったとき、すごいパワーになると思うのですよね」

ミッションの達成に向かって、着々と歩を進めていった石坂さんと豊田さん。そうして、迎えた任期最後の1年。任期終了後の暮らしを考えはじめた。

 

起業研修とJOBインターン

豊田「新潟県では、県内で活動する地域おこし協力隊が参加できる色々な研修やJobインターンの制度があります。起業を志す隊員は『起業研修』に参加して、学びたい分野があれば『Jobインターン』を使って、県内の他団体での活動を体験することもできます」

石坂「私は起業研修に参加したのですが、目の前のことに追われて先延ばしていたことを考える機会になりました。地域おこし協力隊が終わった後のこと、先輩隊員の起業の実態創業計画書の作成方法お金の借り方まで。外部からの刺激を受けられる機会になりましたね」

豊田「Jobインターンで柏崎市のaisa(アイサ)という、まちづくりの中間支援組織に行かせてもらいました。小千谷市には地域おこし協力隊を支援する団体はまだなくて、任期終了後は農業をやりながら、地域おこし協力隊を支援する中間支援組織を作るのも良いのではないかというキャリアの選択肢も広がりました」

石坂「ずっと同じ地域にいたら分からなかったことも、地域おこし協力隊の横のつながりをつくる機会や先行事例を学ぶ機会があると、視野や視点は広がると思います。起業研修で地域おこし協力隊のためのクラウドファンディングのことを知って、私はこれまでの活動を本にするための資金集めをやってみようと計画しています」

豊田新潟県の地域おこし協力隊は、着任後の活動や目標設定の軌道修正のサポート、起業のサポートが手厚いと思います。地域おこし協力隊の卒業生も多いですしね。色んなチャンスに溢れていますよ」

 

地域おこし協力隊としての任期は3年間しかない。その短い期間の中であっても、新潟には「やりたいこと」を実現させるためのチャンスやサポートは数多く用意されている。先人たちから学び、チャンスを最大限に活かすこと。軌道修正しながら、前に進むこと。地域の信頼を得ながらも、まだそこにない新しい価値を生み出すこと。

新たな一歩を踏み出した先は、きっと明るい。

 

文/大塚眞
撮影/ほんまさゆり

                   

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