地域ぐるみで子どもの可能性を伸ばす
常陸太田市の子育てと教育の取り組み

常陸太田市は、地域の人々と学校が一体となって、子どもたちの教育に力を入れている。多年にわたり、自然や文化、食などに関する知識や体験を得るさまざまな機会を提供し、子どもたちの成長を支えてきた。いったいどんな教育が行われ、子どもたちは何をどのように学んでいるのか? ここでは、その一例として、「常陸太田親子自然探索サークル」の活動を紹介する。

常陸太田市ってどんなところ?

常陸太田市は、茨城県の北部に広がる県内最大の市で、人口は約4万6,000人(令和5年11月1日時点)。久慈川流域を中心に田園と街が広がり、周囲には美しい里山が連なっている。

市内には多くの遺跡や古墳群が残り、縄文・弥生時代から栄えてきたことがうかがえる。平安時代の末期からは、常陸の豪族である佐竹氏の本拠地として約470年もの間、繁栄した。江戸時代に入ると、水戸藩領地となり、明治時代には郡役所が設置され、水戸と福島を結ぶ棚倉街道の商業中心都市として発展した。

由緒ある遺跡や寺社仏閣は観光名所となっており、このほか、奥久慈県立自然公園内にある竜神大吊橋は、日本でも有数の長さを持つ歩行者用吊り橋として有名で、多くの観光客が訪れる人気のスポットだ。豊かな自然も常陸太田市の大きな魅力となっている。

地元のことを知り、親子の絆を育む、常陸太田親子自然探索サークル

歴史と自然のまち、常陸太田市で20年以上にわたって行われているのが、「常陸太田親子自然探索サークル」だ。親子が一緒に地元の自然を探索したり、文化財・史跡を巡ったりすることで、親子の絆と郷土愛を育むことを目的としており、毎月第2土曜日に実施している。活動内容は、動植物や昆虫を観察する自然探索活動、文化財・史跡を巡る史跡探訪活動、自然のものを使った創作活動などがある。参加対象は、市内の小学1 年生から小学6 年生までの児童生徒とその保護者。毎年参加している親子も多いという。

このサークル活動は、教員経験者など地域の有志で構成された常陸太田親子自然探索サークル実行委員会が運営し、常陸太田市生涯学習課が事務局を務めるという形で、行政と民間が連携して取り組んでいる。毎年、途切れることなく、着実に活動を続けてきた。

今回、同行したのは10月14日に行われた「中染・西染の里探索」。朝9時30分のスタート時点で約100人以上の参加者が集まった。


集合場所の水府支所を出発! 

いろいろな動植物の存在に気づき、景色の見え方が変わっていく

この日のコースは、「西染」「中染」というエリアを歩く。市の北西部に位置し、自然が豊かで美しい景観に恵まれているのが特長だ。一行は、公道脇を歩きながら、山田川にかかる橋を越えて、里山へと進んでいく。


里山から水府地区の景色を見渡す。このあたりの山にはかつて山城が築かれ、地域の防衛拠点になっていたそう。のどかに見える風景の中にも歴史がある。

道中には実行委員会の方々が事前に調査して、見どころとなる草木などに貼付した目印が。「イノコヅチ」「ニワホコリ」などの名称が記載された目印を見つけるたび、子どもたちは「見て!」と、まるで宝探しのように大騒ぎ。


食用にもなるヤマノイモのムカゴを試食。ちょっと青臭いけど、ヤマイモのような食感。

同行している実行委員の方々も、「あれ、何?」という子どもたちの声が挙がるたびに、あっちに行ったり、こっちに行ったり、大忙し。そこで知った知識を、お父さん、お母さんに報告する子どもたち。

「普段、車で通り過ぎてしまう道ですけど、歩くといろいろなものが目に入りますね。雑草だと思っていた草花に名前があることを知ると、景色の見え方が変わるような気がします」(小学3年生の娘さんと参加したお母さん)


歴史や動植物について専門知識を持つ実行委員が付き添い、道中のポイントで参加者に解説。

子どもたちの好奇心のおもむくままに。ゆっくりのんびり、自然探索

約3kmほど里山を歩いたところで、古くからある「稲荷神社」「淡島神社」を見学。どちらも小さなお社で、ガイドしてもらわなければ気にも止めなかったはず。お社の由来やご利益などを説明してもらった後は、みんなでお参り。


稲荷神社にお参り。こうした経験を通して、地元の文化への関心が芽生えていく。

予定されていたポイント以外にも、山中で柿や栗が自生しているのを見つけて、実を落としてみたり。サワガニやカマキリを見つけては、その生態について即席の講座が始まったり。子どもたちは思い思いに走り回り、なかなか前に進まない…。

「いつもなら早くしなさい!と声をかけていたかも(笑)。今日は思う存分、好奇心を発揮してもらおうと思います」(小学5年生の息子さんと参加したお母さん)


自生している柿を落とそうとする子どもたち。まるで昭和の時代に戻ったかのような光景。


水路で見つけたサワガニ。

家族・学校・地域で取り組む子育て。そのきっかけづくりができればいい

山道をたっぷり歩いて、お腹も空いてきたところで、西染生活改善センターにてお昼休憩。その間に、実行委員長の川松博さんにお話をうかがいました。


「子どもに何かを感じさせることが、興味と関心を持たせるきっかけになります」と川松さん。

「常陸太田親子自然探索サークル」の構想が生まれたのは、1992年のこと。学校週5日制が開始され、第2土曜日が休日になったことがきっかけだとか。「学校が休みになったからといって、子どもたちをそのまま放り出すわけにはいきませんでした。学校とは違う形で何かを伝える場をつくれないかと考えたのです」と川松さん。

川松さんは常陸太田市在住。38年間、小・中学校の教師として子どもたちの教育に携わってきた。「今日も見ての通り、みんな好き勝手に走り回っていましたよね。私たちも同行しますが、子どもたちの発想と感性の豊かさには毎回、感心させられます。大人は固定観念にとらわれていますが、子どもたちはいろいろな角度から自然を観察します。観察眼と好奇心、そして多面的に物事をとらえること。こういう機会を通して、大人もまた学んでいるように思います」


川松さんは子どもたちとも自然体で付き合う。

このサークルが親子を対象にしていることには大きな意味があると、川松さんは言う。「子育てで最も大切なことは、親が子どもにかける愛情です。それはつまり親子の『会話』なのです。子どもを気にかけて、声をかけること。子どもの話を聞いてあげること。このサークルを通して、親子の関係を深めてもらいたいと思います」

子育ての根本は家族。そして家族だけでなく、学校や地域も責任を持って子どもたちを育てるべきだと、川松さんは考えている。社会全体で育児に関わるためにも地域との関わりをつくる、というのもこのサークルの目的なのだ。

常陸太田市の独自の取り組みはほかにも。小中学校と地域とが連携した教育

「常陸太田親子自然探索サークル」のほかにも、地域の特性を活かしたさまざまな教育に取り組んでいる常陸太田市。独自の地域教育・学校教育・食育の取り組みを紹介する。

米づくり・真弓駒づくり(世矢小学校)

米づくりは小学5年生が対象。地域の農家に協力してもらい、田植えから稲刈り、脱穀など一連の米づくりの過程を経験。また、小学3年生では郷土玩具「真弓駒」の製作に挑戦。地域の方々につくりかたを教えてもらい、色付けなどの作業を体験する。

ぶどう栽培体験(誉田小学校)

学校の隣にぶどう畑があるほど、地域の特産物として馴染みのあるぶどう栽培。小学3年生が5月の花摘みから摘粒、袋かけなどの作業を体験。普段、通学路で見かけるぶどう畑での仕事を実地で学習します。

道の駅での交流(峰山中学校)

学校の近くにある「道の駅ひたちおおた」で、吹奏楽部がコンサートを開催するほか、中学2年生を対象に職場体験を実施。道の駅での接客や作業を通して、地域との関わりを学ぶ。

英語教育(市内の小中学校)

小学校6年生を対象に、夏休みに「English Day Camp」という英語学習プログラムを市内の宿泊施設で実施。ALTと一緒に英語でレクリエーションを行い、英語に親しむ。中学校では、2・3年生を対象に福島県の英語研修施設で2泊3日の「English Camp」を実施。外国人講師による授業のほか、入国審査の疑似体験、コースディナー体験などを行う。施設内では英語で対応することが求められる。小学校から中学校にかけて継続的に英語教育の機会を設けることで、英語への関心を高めている。


小学校6年生を対象にした「English Day Camp」の様子。ファストフード店で使用する英会話を習得。/中学校2・3年生を対象にした「English Camp」の様子。

地産地消の日(学校給食センター)

食育の一環として、地元食材にこだわったメニューを実施する「地産地消の日」を設定。常陸太田市の食材(里川かぼちゃ、長ねぎ、きゅうり、白菜、キャベツ、大根、チーズ)を使用した給食を提供している。米飯は、地元産のコシヒカリを使用。夏休み明けの9月1日には地元産巨峰もメニューに加わり、大人気だとか。

恵まれた自然や文化に触れることで、感性や知識を豊かに育んでいる常陸太田市の子どもたち。親子、学校、地域が手をつなぎ、社会全体で子どもたちの成長を応援することで、未来に向けて希望に満ちたまちづくりを進めている。

取材・文:渡辺圭彦 写真:内田麻美

 


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ひたちおおた移住のススメ
常陸太田市の生活情報や、子育て世代向けの支援制度、移住サポートなどを紹介。
https://www.city.hitachiota.ibaraki.jp/page/page008412.html


じょうづるホーム
常陸太田市内の空き家・空き地を「売りたい・貸したい」と考えている人から提供された情報を集め、利用希望者に物件を紹介する空き家・空き地バンク制度。気になる物件を見学することもできる。
電話:0294-72-3111
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