2023年9月10日(日)、千葉県唯一の村である「長生村」で移住交流体験ツアーが開催されました。大人から子供まで楽しめる収穫体験、長生村で採れた新鮮な野菜を食す昼食会、スーパーや交流センター、公園、海岸などを巡る村内ツアーなどプログラムは盛りだくさん。先輩移住者との交流会もあり、村での移住生活を具体的にイメージできる機会となりました。豊かな自然の中で行われたツアーの様子をご紹介します。
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長生村はこんなところ
千葉県長生村は、房総半島の九十九里浜に面しており、太平洋の黒潮による影響を受けて年間を通して温暖な気候が特徴です。九十九里浜での沿岸漁業のほか、稲作や野菜栽培など自然に恵まれた環境を生かした産業が盛んに行われています。
東京から約60km、県庁所在地である千葉市から約30kmの距離にあり、「千葉」駅までは普通電車で約45分、「東京」駅まではJR外房線「茂原」駅から特急電車に乗れば約1時間とアクセスが便利。村内にはスーパーやホームセンターがあるほか、近隣の自治体には大型商業施設もあるため、買い物にも困ることはありません。
アイガモ農法のお米を収穫体験
今回のバスツアーの参加者は9組18名。最初のプログラムは、稲刈り体験です。長生村では、アイガモを水田に放し、雑草や害虫を食べさせることで低農薬で安全なお米とアイガモを同時に育てる「アイガモ農法」に取り組んでいます。
ちょうどこの日は、長生村でアイガモ農法による自然循環型の米づくりを行っている「南部アイガモ農法研究会」の収穫イベントが行われていました。ツアー参加者はアイガモ農法のレクチャーを受けた後、見事に実ったコシヒカリの稲束を刈り取っていきました。
田んぼの泥に足を取られながらも、ぐっと腰をかがめて慣れない鎌を振るう参加者の皆さん。バスに揺られた後のいい運動になったようです。
前の週に台風の影響による大雨に見舞われた長生村でしたが、この日は快晴。健やかに実った稲を刈り取っていきました。
千葉県唯一の村は「長くいきいき暮らせる村」
稲刈り体験のあとは、田んぼのすぐ近くにある「長生村保健センター」でオリエンテーションを実施。副村長の田中孝次さんが村の特長などについて詳しく説明してくださいました。
「長生村は千葉県で唯一の村です。自然に恵まれていて、さきほどみなさんが稲刈りをしてきたアイガモ農法の『コシヒカリ』のほか、『長生トマト』や『長生ネギ』、『ながいきそば』といった独自ブランドの農作物が名産品となっています。食べ物がおいしくて環境もいい。”長くいきいき暮らせる村”なんです」(田中副村長)
長生村の南側に広がる一松海岸は、県立九十九里自然公園内にあり、夏場にはサーファーや海水浴客でにぎわいます。村内は高低差が小さく、フラットな地形で、水田や畑の上をさわやかな風が吹き抜けていきます。こうした温暖な気候と平たんな地形を生かして、稲作や野菜栽培、酪農などのほか、九十九里浜での沿岸漁業を中心に発展してきました。
狛江市から来たツアー参加者はオリエンテーションを受けて、「妻の友人がこちらに住んでいて、いいところだと聞いていました。地元の食材が豊かなのは魅力的ですよね。5歳の長男が小学校に進学する前に、こちらに移住できるといいなあ」と笑顔を見せてくれました。
保健センターで長生村について説明する田中副村長。
村で育てた野菜を使ったランチに舌つづみ
村の概要を理解したところで、ちょうどお昼の時間。昼食をいただいたのは「Farm Café Gon」。古い日本家屋を改装したカフェです。村内の直営農場で収穫された新鮮な野菜を味わえる週替わりパスタランチ、ベーグルサンドランチが人気だとか。
参加者のお子さんが「おなか減った!」とみなさんの思いを代弁してくれました。さっそく食卓に案内されることに。
本日の週替わりパスタランチのメニューは、長生村産トウモロコシの冷製スープから始まり、フレッシュサラダ、スモークサーモンとクリームチーズのベーグルサンド、夏野菜のミートソースパスタ&冷製トマトソースパスタと盛りだくさんの料理が並びました。
食事をいただきながら、ツアー参加者同士の会話も弾み、徐々に打ち解けていく様子がうかがえました。
伝統的なスタイルの日本家屋を改装した「Farm Café Gon」。
広々とした開放的な空間でいただくランチ。まるでおばあちゃんの家に遊びに来たようなリラックスしたひとときとなりました。
素材の風味を生かした優しい味付けが特徴。新鮮な食材はどれも滋味深く、体に広がっていくような美味しさでした。
Farm Café Gon
住所:長生郡長生村本郷3237
アクセス:JR茂原駅から車で10分
電話:050-5479-1500
HP:https://longevity.gift
村の土壌に育まれた野菜の美味しさを実感
昼食後はしばし休憩の後、徒歩で畑へ。こちらでは野菜の収穫を体験しました。まるまると見事なツヤを見せるナスをもぎ取っていきます。
こちらの畑のオーナー、黎さんも移住者のひとり。村内にある「長生農業独立支援センター」からサポートを受けながら、農業のノウハウを少しずつ身に付けてきたそうです。「みなさんがいらっしゃるので、あえてナスの収穫を手控えていたら、台風でたくさんの実が落とされてしまいました。残念ですが、自然にはかないませんね」と苦笑。
ナスを収穫するツアー参加者たち。
見事なナスを収穫して思わずにっこり。
畑のオーナーの黎さん。トウガラシの出来栄えに目を細めます。
公園、海など暮らしを豊かにするスポットもたくさん
一行は尼ヶ台総合公園へ。総面積10.5ヘクタールの広大な敷地には、球場や運動広場、テニスコート、冒険子ども広場などがあります。自然の地形を生かした公園内は散策路で結ばれ、シンボルの時計塔や花壇、せせらぎなどが設けられています。春は桜の名所としても人気の公園です。
週末は駐車場は車でいっぱいに。四季折々の花々や緑が広がり、誰もが健康づくりやスポーツを楽しむことができる、長生村のオアシスと言える場所です。お子さんたちも元気よく公園内を走り回っていました。
広い公園内には遊具も。開放的な空間でのびのびと遊べます。
自然な地形を生かした園内には桜並木や池などのスポットも。のんびりとくつろげる公園です。
尼ヶ台総合公園
住所:千葉県長生郡長生村本郷5366-1
アクセス:JR外房線茂原駅から小湊バスで尼ケ台総合公園入り口下車
電話:0475-32-0997
HP:https://www.vill.chosei.chiba.jp/0000000170.html
公園近くの「JA長生ながいき市場」にも立ち寄りました。こちらはJA長生の直売所。その日に採れた「朝採り野菜」など、地域の農家の方々が心をこめて育てた安全で安心でおいしい農産物がたくさん並びます。
JAに出荷されているトマト、ネギ、メロン、梨などのほか、近隣地域の名産品、こだわりのお米、精肉、加工品なども。この日は地元産のコシヒカリ「ながいき美人」の新米が出始めたということで、多くの来客が。ツアー参加者も負けじと地元食材を物色していました。
「JA長生ながいき市場」。
農家から直送される新鮮な野菜やこだわり素材を使用した加工品が、所狭しと並べられた店内。
お買い物を終えた後、2021年に完成したばかりの「長生村交流センター」を見学。この施設には、観光案内のラウンジコーナー、フリースペース「ふれあいルーム」、乳幼児とその保護者が遊ぶことができる「子育てルーム」などが備えられています。2階には、パソコンも使える「学習室」、音楽活動を楽しめる「防音室」「ダンスルーム」などもあります。
長生村では、公的施設の多くがWi-Fiを完備しており、どこでもインターネットにアクセスすることができます。「田舎だと思っていたけど、素晴らしい施設ですね」と、川崎市からの参加者も驚きの声を挙げていました。
世代間交流や生涯学習を行う場となることから「寺子屋」をイメージしたという「長生村交流センター」。建物の屋根は九十九里浜の波をイメージした形になっています。
多世代の交流を育む「ふれあいルーム」。奥には乳幼児とその保護者が遊ぶことができる「子育てルーム」も。
長生村交流センター
住所:千葉県長生郡長生村岩沼874-1
アクセス:JR八積駅より徒歩約4分
電話:0475-32-3770
HP:https://chosei-koryu.com
次はみなさんが楽しみにしていた一松海岸へ。ここはサーフィンなどのマリンスポーツも楽しめる海水浴場です。地元では、お正月の初日の出の名所としても親しまれているのだそう。
水平線まで広がる眺めには誰もが言葉を失います。都内からの参加者も「やっぱり海はいいよねえ」とぽつり。「ちょっとサーフィンをかじったことがあるんです。子どもの通学や、私の通勤のことのもあるから、まだ具体的には移住を検討できないけど、長生村は有力な候補になりそうです」と教えてくれました。
雄大な太平洋に面した一松海岸で移住後の生活のイメージをふくらませる家族も。
移住者との交流会。「移住ではなく、引っ越しの感覚」
日が傾き始めた頃、最後のスポット「一松北部コミュニティセンター」に到着。ここでは先輩移住者との交流会を行いました。
お話を聞かせてくれたのは、成田義靖さん。以前は東京の杉並区に住んでいたそうです。
「妻とはずっと、都心ではなく、ちょっと郊外に住みたいねと話をしていました」
そしてある日、知人が「長生村にある別荘を譲りたい」と相談してきたことが転機となりました。「一度、見に行ってみたら、長生村っていいところだなと感じて家を購入することに」と成田さん。
お子さんが幼かったため、1年ほどは都内に住みながら休日に長生村に足を運ぶ二拠点生活を送っていたそうです。通勤や生活のシミュレーションを繰り返して、スーパーや学校などが家の近くにあり、子育てをしながら長く暮らしていけるという確信を持てたことで、家族で引っ越してきました。
「移住というより、引っ越しという感覚ですね」(成田さん)
一松海岸近くの「一松北部コミュニティセンター」。万一の津波災害の発生時には避難所として計画されています。
成田さんは引っ越し前と同様、都内の企業に勤務しています。現在は、週3日出勤し、2日はリモートワーク。
「月水金は家を朝6時半頃に出ます。茂原駅から電車に乗って、飯田橋駅に8時40分ぐらいに着くように出勤しています」(成田さん)
帰りは定時の18時に会社を出れば、20時半から21時に茂原駅に到着。リモートワークの日は、朝9時から18時まで仕事をして、すぐ家族と夕ご飯。休日には、趣味のサイクリングのほか、庭の草刈り、家の手入れ、浜辺でお子さんと遊んだりすることも。
買い物は近隣の茂原などで済ませ、デパートに行きたいときは千葉駅の「そごう」へ。時々、銀座まで車でお出かけすることもあるそうです。
先輩移住者の成田さん。長生村に来て15年になります。
仕事面については、「ここからの通勤は私はもう慣れているので苦痛ではありません。リモートワークが可能な方なら問題ないでしょう。こちらに移住された方の多くは、村でできる仕事に転職したり、ダブルワークをしたりしていますね」と成田さん。
移住したメリットについて成田さんは、「車で15分で海に行けますし、里山も近くにあります。自分をリラックスさせる時間が増えましたね」と言います。
また成田さんは、お子さんの通う学校でPTA会長を長らく務めたこともよかったと話します。
「よそから来た身ですけど、PTAを通じて地元の方々や自治体のみなさんとも仲良くなれて、いろいろな情報が入ってくるようになったんです」
参加者からも質問が寄せられました。「ずっと地元に住んでいる方は、他地域から来た人を受け入れてくれますか?」という質問には、「ゆっくり仲良くなれば特に問題はないんじゃないかな」と成田さん。
「もう15年間住み続けているということは、私たち家族にとって居心地がいい土地だということ。東京暮らしも長かったので、その便利さや快適さもよくわかっていますが、東京と比べて『これは不便だ』と感じることはありません。心配することはないと思います」
穏やかな笑顔を浮かべる成田さん。自分の選択について、納得も満足もしている様子がうかがえました。
成田さんのお話に真剣に耳を傾けるツアー参加者。
交流会の後、「一松北部コミュニティセンター」の屋上へ。ここから村全体の様子を一望できます。夕日に照らされた田園風景が広がり、その向こうには太平洋の水平線が見えました。
長生村で過ごした一日は、参加者のみなさんの心に新たな印象を刻みました。移住という、もうひとつの人生の可能性を具体的に感じる貴重な機会となったことでしょう。
一松北部コミュニティセンター
住所:千葉県長生郡長生村驚507
アクセス:バス停「一ツ松海岸」(小湊鐵道バス)から徒歩8分
HP:http://www.vill.chosei.chiba.jp/0000000630.html
長生村の環境に一日身を置いて、リラックスした様子の参加者一行。
夕日に照らされた水田の様子。
取材・文:渡辺圭彦 写真:中村 晃