“周回遅れ”、だからこそ尊い
地域おこし協力隊の活動で触れた、
土の近くに暮らすことの意味【鳥取県鳥取市】

鳥取市河原町西郷地区は、鳥取市の市街地から車で約30分、中国山地の山あいに位置する人口およそ1,000人の山村だ。いくつかの窯元が全国的にも知られており、2013年には「やなせ窯」の前田昭博氏が人間国宝(重要無形文化財「白磁」保持者)に認定された。

この村に、2020年に地域おこし協力隊としてやってきたのが山川良子さん。東京の出版社で秘書、編集、マーケティング等の仕事に就き、編集企画として『農山村再生』(著:小田切徳美)などに携わった経験から、地方移住や地域おこし協力隊にはある程度イメージがあったという。

山川さんの人生が大きく動いたのが、2016年。勤務先の出版社が早期希望退職者を募ったことだ。生活を変えるきっかけと感じ、それに応じた。

「勢いもありました。それまで退職することを現実的に考えていなかったので、辞めてから右往左往しました(笑)」(山川さん)。

職がなくなったことで「そもそも東京にいる必要はないのでは?」と考えた山川さんは、全国各地の地域おこし協力隊に応募。ところが結果は連戦連敗だったという。年齢制限のためにそもそも応募自体できなかったり、東京暮らしでは不要だった運転免許が当然必要だったり、「場所はどこでもいい、なんでもやる」というスタンスが「この町に来たい」という人を求める自治体と食い違っていたり……。「一言でいえば、準備不足でした」と山川さんは当時を振り返る。

「本当に行きたい場所」を模索する期間が必要と考えた山川さんは東京でいくつかの仕事を掛け持ちしながら、週末に地方を訪ねるという生活を送った。仕事にもやりがいを感じ、「このままでもいいか」と思っていたある日、出版社時代に交流のあった鳥取出身のエッセイストから西郷地区を勧められた。

西郷を訪れてみて最初に気づいたのは、女性が生き生きしていること。

「それまで見てきたほかの地域では、地区の集まりで食事をする際に、女性が準備だけをして別室に移動し、男性が食事を楽しむ……ということもありました。西郷地区ではそんなことはまったくなく、地域の行事でも、女性たちがごく普通に意見を出していました。西郷地区は地理的には『行き止まり』の場所ですが、そこに住む人々の雰囲気からは閉塞感をまったく感じなかったんです」

行きたい場所は見つかったものの、ここで仕事をして食べていくのは難しいというのが、山川さんの西郷に対する第一印象だった。編集の仕事をオンラインでこなすにしても、準備期間がかかる…などと移住後の職について考えているうちに、西郷地区での地域おこし協力隊募集の情報を知る。

早速応募したところ、今度は無事採用となった山川さん。受入団体は、「いなば西郷むらづくり協議会」と「一般社団法人西郷工芸の郷あまんじゃく」。主なミッションは、西郷地区の「工芸の郷構想」を推進することだった。2020年2月の着任早々、西郷むらづくり協議会の10年史を3月末までに作るという仕事に着手。出版社での経験を生かしながら、西郷地区のことを学ぶことができた。

「主な業務は、むらづくり協議会や工芸の郷あまんじゃくのお手伝いです。イベントが開催された際の運営サポート、情報発信サポートなど。西郷の皆さんは本当にお元気で、毎月何度もイベントがあるため、任期中は日々忙しく過ごしていました。また、2021年にオープンした「ギャラリー&カフェ okudan」では、ギャラリー内の展示や西郷地区の窯元についての説明も担当しています」

もともと西郷地区では3つの窯元が古くから製作を続けていた。そこに、2007年に木工房、2009年にはガラス工房が加わる。これがちょうど「いなば西郷むらづくり協議会」が立ち上がったころのこと。むらづくり協議会が10歳以上の全住民にアンケートをとったところ、西郷の魅力について「小さな村なのに工房が多い」という声があがった。ここから、西郷地区の「工芸の郷構想」がスタートしたのだった。

この動きを加速させたのが、2013年に前田昭博さんが人間国宝に認定されたこと。鳥取県や鳥取市が協力を申し出、さらにむらづくり協議会の文化部を母体にして「西郷工芸の郷あまんじゃく」が誕生。あまんじゃくは、年一回の「工芸祭り」の開催、ワークショップの開催、フォーラムや講演会の開催、工芸作家さんの移住募集などを行ってきた。今では10の工房が活発に活動を続けている。「okudan」も、あまんじゃくの活動の一環だ。

地域おこし協力隊としての山川さんのスタンスは、「あえて『よそ者』という視点で、言うべきことは言っていきたい」というもの。

「地域おこし協力隊を採用する背景には、地域を変えたいとか、何か足りないものがある、という想いがあるはず。そういった場で、『よそ者』の協力隊員が言った、という形にすれば、地域の人同士で意見がぶつかって角が立つ状況を避けられますよね。『よそ者』の機能を、そんなかたちで利用してほしいと思って活動していました」

今では「受け入れる側の方が大変だったと思う」と振り返る。

「西郷地区で一番古い窯元の『牛ノ戸焼』さんの先祖は、200年くらい前に今の島根県から移住してきた人たちで、西郷はその頃から外から来た人を受け入れていたんです。西郷地区の人たちには昔からオープンマインドなところがあったのかもしれません。私のような外から来た人間を受け入れてくれ、見守ってくれたことに感謝しています」

山川さんの地域おこし協力隊の任期は2023年の1月末まで。

「『土の近くに暮らす』ということを、実践している人たちと一緒に生活していきたい。自分たちが食べる野菜を自分で作る、水道などの公共インフラを自分たちで管理するなど、いわば“周回遅れ”の部分が、今となっては貴重で尊いこと。でもその価値に、住んでいる方々はなかなか気づかない。そんな西郷地区の魅力を、これからも伝えていきたいと思っています」

各地を巡って見つけた暮らし、そして人の魅力。
山川さんは、任期を終えた後もこの暮らしを続けていきたいと考えている。

文・深水 央  写真・谷口雄一

 

 

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