林業を極めたいなら、 高知県梼原町 へ!
先人たちが紡いできた森林を若者たちと未来へつなぐ

高知県梼原町は、標高1,455mの四国カルストに抱かれた人口約3,200人が住む山間の町。坂本龍馬が梼原の志士たちと脱藩をした「脱藩の道」や伝統芸能「神楽」が残る歴史ある土地で、町へと一歩踏み入ると空気がしんと鎮まりかえり、神聖な空気を感じることができる。
住民の生活は、過去から現在まで常に「山」「森林」と隣り合わせ。先人たちが大切に紡いできた山々を今、地域おこし協力隊を中心にした若者たちが動かそうとしている。

森林づくりは人づくり

「林業」と聞き多くの人がイメージするのは、山へと入り、チェーンソーで木を伐り、機械で大木を運ぶ人たちの姿だろう。山に囲まれた梼原町でも同様の光景が見られる。しかし、梼原町の林業はそれだけではない。山を守り、育て、それは同時に人づくりへとつながり、「森林(もり)づくりは人づくり」として町の財産を未来につないでいく取り組みが行われている。

梼原町の林業がめざしている「森林づくりは人づくり」では、高齢化や人口減少が進む中、持続可能な町づくりに向け、町の「森林」という財産を紡いでいくと同時に、その財産を用い町全体や若者たちを育てていこうとする活動が推進されている。中でも特徴的なのが、「ReMORI(りもり)」「CoMORI(こもり)」による森林づくり。そして、地域おこし協力隊(以下、「協力隊」)制度を活用した取り組みである。

森林の担い手「ReMORI」


ゆすはら地域おこし協力隊

「ReMORI」とは、「Re(再生)」と「守り、森」を合わせた造語。地元の林業技術者や建設事業体の人々がメンバーとなり、次世代の林業の担い手を育成するために2020年に立ち上がった組織だ。長年林業に携わってきた方々が師匠となり、林業技術者をめざす若者の技術習得・向上や資格取得のサポートを行う。また、林業の魅力を広め、「林業技術者になりたい」という人を増やすための発信も行なっている。

梼原町では、現在5名の協力隊が林業分野で活動しているが、彼らの雇い主も実はこの「ReMORI」である。通常、協力隊制度を全国の自治体が活用する際、各自治体が雇用主となり、「市役所の一員」「町役場の一員」として活動することがほとんどである。しかし、梼原町では、町役場ではなく外部組織である「ReMORI」で雇用するという選択を行なった。

梼原町役場森林の文化創造推進課の立道斉課長は、「協力隊をReMORIの一員として受け入れることで、地域住民や事業体の皆さんとのよりよい関係づくりにつながるのでは、そう考えました。彼らのおかげで、今まで以上に林業技術者の方々と接する機会が増え、さらに町として林業の魅力発信をしていこうとする機運も育まれてきました」と話す。


立道斉課長

現在、協力隊として活動する下村智也さん(2021年着任)と長谷川夏輝さん(2022年着任)は、ともに林業未経験者だった。「ReMORI」に所属し、親方たちから森林で必要な技術を学んでいる真っ最中だ。

彼らに技術を教える一人、「ReMORI」の副会長を務める川上周一さん(76)は、この道55年。

「中学校を卒業して、長野県や栃木県など、ここ(梼原町)よりももっと壮大な山々へ出稼ぎで林業の仕事をしに行っていました。それから戻ってきたけれど、その頃、梼原町で生きていくためには、どこかの会社に雇用をされるか、林業事業主か。そのどちらかでした」(川上さん)


川上周一さん

昔から森林づくりが梼原町の主要産業であったことがわかる。選択肢が多くはなかったことから選んだ「林業」という道だったが、76歳の今もなお現役の川上さんは、この仕事にプライドを持っている。

「金無し、機械無し、資材無しだったけれど、生きるため、子育てのために頑張ってきました。林業はやっただけ身になるところが良い。今、林業を学びに来てくれている協力隊の若い子たちとは、やっぱり世代の差を感じるけれど、一生懸命やってくれています。林業は奥深い。3年間の任期を頑張ったら自分の力になってくると思いますよ」(川上さん)

若手林業研究会「CoMORI」

長年の経験を積んだ親方の元で学べる体制が「ReMORI」にある一方、これからを担う同世代の林業技術者たちの横のつながりを生み出しているのが「CoMORI」という組織である。普段は別々の事業体、異なる親方の元で働く若い世代の林業技術者がともに活動をすることで、梼原町内でのつながりをより強固にし、互いに技術力を向上していこうという狙いから発足した。

具体的な活動は、高齢者の自宅裏にある危険木の伐採や特殊伐採技術の習得など。月に一回ほどの伐採活動後、メンバーは「木を伐ったらお酒を飲む」という恒例の儀式を楽しんでいる。メンバー同士のつながりが強まってきたことはもちろん、危険木を伐採してもらった高齢者たちも喜んでくれているという。

「梼原町では、危険木の伐採に対して事業費の75%の補助金を支給しています。だから、家計の経済的負担が抑えられ、家の安全性も向上する。しかも、町に若い林業志望者が来てくれる。高齢者の方々にはとても喜んでもらっています」(立道課長)

若手林業技術者や協力隊たちはこの活動がモチベーションとなり、現在では、危険木の伐採や新しい技術の習得だけではなく、イベントの企画、出展などにも活動の幅を広げている。


谷田真吾さん

生まれも育ちも梼原町という「CoMORI」会長の谷田真吾さん(46)は、「CoMORIの活動で、梼原町民の不安をなくすお手伝いができたら良いですね。今は協力隊など町外からの移住者が増え、林業人口も増えてきました。彼らに期待をかけすぎても良くないけれど、この町に残ってくれたら、やっぱりとても嬉しいです」と話す。町内外の若手世代が交じり合い出したからこその期待、喜びがうかがえる。

森林の新たな価値や魅力を創り出す「KIRecub」

「ReMORI」「CoMORI」に加え、梼原町にはもう一つ、新たな組織が存在する。それが「KIRecub」だ。協力隊のメンバーが中心となり、昨年結成された。2023年4月からは、有限責任事業組合(LLP)として活動している。協力隊の業務時間外を使い、造林・育林事業を中心に、苗木の生産や木工製品の製作、アロマの開発、イベントの企画・開催など、協力隊卒業後の独立を見据えた準備を進めている。


下村智也さん

代表を務めるのは、下村智也さん(35)。妻と現在2歳になるお子さんとともに、2021年、それまで住んでいた高知市から両親の故郷である梼原町へ移り住むことを決意した。

「幼い頃から祖父母が住む梼原町へ遊びに来ていました。僕が小さい頃はまだ隈研吾さんのおしゃれな建物も無くて、本当に自然だけでした。でも、自然にたくさん触れられて楽しかった記憶があります。大人になり子どもができてからは、『この町で子育てがしたい』と思うようになりました」(下村さん)


下村さんご家族

下村さんは移住後、協力隊として活動する中で、梼原町の林業について考えることがあった。

「林業技術者がいる中で、木を伐る人の割合が圧倒的に多い。でも、木を植える人は数人しかいませんでした。『森林づくり』と言って推進していくのであれば、伐る人だけではなく、植える人も必要なんじゃないかと」(下村さん)

「KIRecub」は、下村さんのそんな思いから生まれた。最初の活動は、1ヘクタール程の面積を地拵じごしらえし、約1,500本の苗木を植えることから始まった。自らが木を植える存在になっていこうという思いだ。

副代表を務める長谷川夏輝さん(30)は、神奈川県横浜市出身。単身で2022年に梼原町へ移住してきた。元々登山が好きだったという長谷川さん。

「山暮らしがしたくて。林業体験で梼原町を訪れた時に、CoMORIの副会長を務めている川上政志さん(ReMORI副会長・川上周一さんの息子)の人柄がとても良かったんです。それに、梼原町は標高が高い山の中にありますが、町中には小洒落たお店が点在していて、その両方の魅力が共存しているところにも魅かれました」(長谷川さん)

前職では、広告代理店の営業職を務めていた。「自然の中で作業をしているからこそ感じるワクワクや、サバイバルをしているような感じが楽しいです。営業をしていた頃よりも生き生きとしている。仕事をしていて『楽しいな』と思うことが増えました」。そう話す長谷川さんの顔には笑顔がこぼれていた。

長谷川夏輝さん

月に5日程度、協力隊として活動している時間外に造林・育林やイベントの開催などを進めるKIRecubの面々。

「協力隊としての山仕事は、朝が早いんです。早朝5時から始まって、午前11時に終わり、午後はフリーになることも。自由な時間も増えたので、KIRecubの仕事も並行してやっているけど、そこまで大変ではないんです。自分たちの収入にもなるし、適度な量でやっていこうって話しています」(下村さん)

下村さん、長谷川さんを筆頭に、協力隊員たちはReMORIで技術を学び、CoMORIで地元の若手林業家たちとのつながりを育み、KIRecubで協力隊卒業後の未来を見据えた開拓を進めている。協力隊着任後すぐ、そして卒業後まで、これほどのサポートが準備されている町は珍しいのではないだろうか。

企業との協働プロジェクト

梼原町の「森林づくりは人づくり」の取り組みが新しい団体組織や協力隊により推進されている一方で、その活動に賛同し、町へ参入する企業も増えてきている。亡くなられた作曲家の坂本龍一さんの意志を継ぎ活動を広げている一般社団法人more treesが発表したのは、「TREES FOR SAKAMOTO」という植樹のためのドネーションプラットフォームの寄付地に、梼原町が選ばれたというニュースであった。第一弾の寄付地として梼原町は、日本で唯一選ばれた町である。

また、昨年には、「森林クレジット創出」の実証を目的として、東京都に拠点を置く長瀬産業株式会社と協定を結び、森林資源の管理支援、技術知見や最新ICT 技術を活かした地域活性化への貢献のため協力関係を締結するなど、持続可能な社会の実現に向け、今、梼原町の森林づくりは企業にとっても目を離せない、注目すべき的となっている。

梼原森林づくり大学構想

梼原町では、2021年から「梼原森林づくり大学構想」を始動している。このプロジェクトでは、森林をフィールドに、環境先進企業や大学、専門機関、町内技術者が協働して、林業を志す方に森林づくりに関するあらゆる知識や技術を学ぶ機会を提供している。大学構想で学べることは、例えば伐倒技術や造林技術、特殊伐採技術など、林業技術者に欠かせない技術の習得、向上。また、造林技術に関する研修では、植林プロジェクトとして企業とコラボレーションをすることで、町外から森林に人を呼び込み、協力隊や梼原町民が外部の関係者と交流するきっかけづくりへとつながっている。

「この取り組みは、地域の林業関係者や地域おこし協力隊に加え、大学等の研究機関、町外の先進事業者や環境先進企業の皆さまとともに森林づくりについて考え、学び、実践することを目的とし、『技術者の育成』『人財の保存』『技術の継承』を図ろうとするものです。先人から託された本町の豊かな森林を、人づくりと交流の拠点として、次世代に託せるよう取り組みます」(立道斉課長)

梼原町が目指す未来

最近では、協力隊員が梼原高校へ出向き、林業に関する授業を行うことも。梼原町がめざすのは、森林というフィールドの中で人間性を育んでいくこと。そして何十年、何百年と続いてきた森林を未来に紡いでいくこと。それこそが、「森林づくりは人づくり」なのだ。山に囲まれ、森に生きる若者たちがともに山を育て、この歴史ある豊かな森林を未来へとつなげていく。

ゆすはら地域おこし協力隊募集!

ReMORIでは、山での新しい生活を求める方を温かく受け入れ、必要な技術習得や資格取得をサポートし、卒業後のビジョンを共に描ける環境を用意しています。地域を元気にするために精力的に森林づくりに取り組んでくださる方をお待ちしています。自然に囲まれ、山を育てながら、自己実現をめざしてみませんか?

「令和5年度ゆすはら地域おこし協力隊募集」はこちら

〈お問い合わせ〉
梼原町森林の文化創造推進課
高知県高岡郡梼原町梼原 1444-1
TEL : 0889-65-0811
FAX : 0889-65-0812
E-mail:80-yusuhara@town.yusuhara.lg.jp

取材・文:岡本里咲 写真:鈴木優太、釣井泰輔

                   

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