京都府 京丹後市 現役隊員
八隅孝治さん
活動内容:E-bikeを活用した観光振興、環境保全活動など
京都市生まれで、中学から大学までは滋賀県で学んだ。その後は京都市消防局に入り、消防士として活躍。2010年に結婚し、奥さんの実家がある京丹後市の自然美に強く惹かれた。
「同じ京都でも、京丹後市のことはあまり知りませんでした。自然がとにかく素晴らしくて、妻の実家に行くことがずっと楽しみでした。定年退職したら京丹後市に住みたいとも思っていましたが、子供も生まれ、子育てのためには自然豊かな土地がいいと感じ始めて、次第に京丹後市へ移住したいという思いが強くなっていきました。」
それでも消防士の職を辞めることには、家族も職場の同僚も当初は難色を示したそうだ。
「私がなんとか説得するという形で、納得してもらい消防局を辞めることになりました。ただ、この時点では仕事の目途はついていませんでした。そこで京丹後市での職探しを始めたところ、たまたま地域おこし協力隊の募集をしていることを知りました。」
それが2019年夏のこと。応募締め切りの2日前でギリギリ間に合ったという。八隅さんは、これまで自分の気持ちに素直にやりたいことをとにかくやるという生き方を信条としてきた。
「消防士になるために大学も中退しました。京丹後市の魅力を世の中の人に知ってもらうために活動するということは、まさに自分にうってつけだと思いました。それほど京丹後市には思い入れがありました。公務員の職を辞してまで京丹後市のために貢献したいという自分の熱意をしっかり伝えれば、採用されるのではないかという期待もありました。」
そんな熱意が実り、地域おこし協力隊に採用された八隅さん。同年10月末に消防局を退職し、2019年11月に着任した。
左)タケノコ掘りを楽しむ八隅さん親子 右)雪遊びを楽しむ八隅家の子供たち
e-bike(電動自転車)を観光振興の目玉に据えた
当初、八隅さんに課せられたミッションは、スポーツと観光、歴史資源の3要素を掛け合わせて地域活性化に取り組むというものだった。
「消防士時代にも街の様子を細かく知るために自転車で見て回るという習慣がありました。そこで、マウンテンバイク(MTB)に乗って京丹後市内を隅々まで見て回ったところ、波の音や鳥のさえずり、潮の香りなどを肌で感じられ、これは素晴らしいと感じました。京丹後市の観光には、自転車が最適だと確信しました。」
しかし、市内には勾配が急な坂道なども多く、体力自慢の八隅さんでもきついと感じる場面があった。
「ちょっと悩んでいた時に、隣の伊根町の地域おこし協力隊の仲間から、e-bike(電動自転車)を勧められました。伊根ではe-bikeを活用した観光が好評だと聞き、私も借りて実際に乗ってみました。スポーツタイプなので、電動アシスト自転車よりパワーがあり、上り坂でも楽でした。さらに適度な運動にもなることを実感し、まずはe-bikeを活用した観光振興をやっていこうと決めました。」
e-bikeを活用した観光コースを設定する上で、寺院などの歴史的スポットも重要ながら、やはり八隅さん自身を惹きつけた自然の魅力をより強く打ち出したいと考えたそうだ。
「移住して衝撃を受けたのは、素晴らしい海に漂着する大量のゴミの姿でした。夏場はそうでもないのですが、冬は潮の流れの関係で多くなります。海水浴シーズンには海岸清掃活動も頻繁に行いますが、回数が少ない冬はゴミが目立ってしまいます。京丹後の観光振興を進める上では、この現実は無視できないと思いました。」
左)冬のe-bikeツアーの様子 右)市内の景勝地・八丁浜の美しいビーチ
ゴミに汚された海を見て環境保護にも取り組むと決意
人間が捨てたごみが巡り巡って海に流れ着いて、美しい海を汚してしまう。その現実を目にして、このままでは子供たちの将来に美しい海を残せないという危機感を持った八隅さん。
「環境保護は地域課題だと認識し、地域おこし協力隊としても取り組んでいくことを決意しました。そこでe-bikeによる観光ツアーに加え、環境保護の啓発活動を行うことにしました。後者については、まず何からすべきかと地域の方に相談したところ、ビーチクリーン(海岸清掃)から始めるのがいいだろうと助言をいただいて、さっそくスタートしました。」
それまでボランティア活動の経験は皆無だったという八隅さん。初めて海岸清掃を行った日のことを鮮明に覚えているそうだ。
「当日は天気も快晴で、大勢の方が集まって挨拶をしたり、声を掛け合ったりしながら清掃を行いました。海岸もきれいになって本当に清々しい気持ちになりました。『海岸清掃って、めちゃめちゃ面白いな』と感じました。その時の感動が大きかったので、それからは、海岸清掃が楽しみになりました。」
ビーチクリーン(海岸清掃)活動をSNSで発信したところ、取組が広がって100人以上もの人が集まるようになった。市内に駐留しているアメリカ軍関係者からも参加の申し出があったそうだ。
「市役所の方も私を各所に紹介してくれるなど、私の活動に対してとても柔軟に対応してくれます。じつはe-bikeのレンタサイクルを開始するために、起業させてほしいと市にプレゼンして「丹後エクスペリエンス」という個人事業を立ち上げることを許可してもらいました。資金は自分が負担してe-bikeも購入しましたが、着任してわずか半年での起業を認めてもらえたことは本当に感謝しています。」
左)ビーチクリーンイベントの様子 右)漂着したゴミに覆われた京丹後市の海辺
ゴミを再生するプレシャス・プラスチック活動を推進
観光でも環境保護においても、地域の方々によるサポートには本当に感謝していると語る。
「私のような移住してきた人間が目立った動きをすると、一部には批判的に見られることもあります。そんな時には、ビーチクリーンを一緒に行っている団体リーダーの方が間に入って誤解を解いてくれるなど、私を守ってくれました。生活する上でも近所の方が獲れたての野菜を分けてくれたり、おかずを持ってきてくれたりと、都会にはない温かみを感じながら暮らしています。ビーチクリーンの際には地元のご婦人方が参加者に味噌汁を振舞ってくれたりと、本当に温もりのある支援の力を感じて、私の活動の原動力になっています。」
前職は消防士だったということもあり、生活が不規則になりがちで体調を崩すことも少なくなかった。移住してからは、以前とは比べものにならないほど健康的になったと実感しているそうだ。
「風邪もほとんどひきませんし、常に旬の食材を食べられるせいか、本当に健康になれたと実感しています。以前は環境問題にもあまり関心を持っていなかったので、環境保護運動を率先して行うことになるとは思いませんでした。それも豊かな自然の恩恵を感じながら生活しているからだと思います」
地元の子供たちにも自然の素晴らしさを知ってほしいという思いが強くなった。
「2022年からは、子供を対象に自然の豊かさを教えるような活動をスタートしたいと考えています。さらに今、力を入れて取り組んでいるのが、ビーチクリーンで集めたゴミを資源としてグッズなどに再生する『プレシャス・プラスチック活動』です。いずれは、この活動も収益化できるように任期終了後も引き続いてやっていきたいです。」
左)プラスチックごみを再生して作ったグッズ 右)プレシャス・プラスチックのイベントにも参加
京都府 京丹後市 現役隊員
八隅孝治さん1986年生まれ。京都府出身。京都消防局に所属して消防士として活躍。結婚後、妻の実家がある京丹後市の自然美に魅せられ、移住を決意。同市の地域おこし協力隊の募集を知り、採用されて2019年11月に着任。E-bikeによる観光ツアーと環境保護活動に取り組む。
京丹後市地域おこし協力隊:https://www.facebook.com/kyotangocok/
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省