地域おこし協力隊リレーTALK Vol.15
​「​クラウドファンディングのリターンで知り合った協力隊OBの存在がきっかけ 」

千葉県 いすみ市 地域おこし協力隊 現役隊員
玉尾和也さん 

活動内容:いすみ鉄道の活性化

 

自他ともに認める〝かなりの鉄道好き〟という玉尾和也さんは、専門学校の鉄道サービス学科を卒業後、大手私鉄会社で駅員として働いていた。特に鉄道の写真を撮るのが好きで、休日にはローカル線の撮影をするために様々な場所に出かけていたという 

「2019年に千葉県内を走る小湊鐵道(こみなとてつどう)というローカル線で、菜の花畑のなかを電車が走る景色を守るためのクラウドファンディングがあり、とてもいい活動だなと思いすぐに支援しました。プロジェクトは無事に成立し、そのリターンとして参加させてもらった懇親会で、この活動を中心となって進めていた高橋洋介さんという方と知り合いました。彼が市原市の地域おこし協力隊だったことから、協力隊への興味が芽生えていろいろと調べていくうちに、いすみ鉄道の活性化をミッションとする協力隊の募集を見つけました。いすみ鉄道は小湊鐵道とは隣同士の路線なので、もしかすると高橋さんたちとも一緒に何かできるかもと思い、応募することにしました。」 

当時、社会人3年目を迎えていた玉尾さんは日々の仕事に不安を感じていたが、高橋さんと出会ったことで「これだ!」と感じることができたという。 

「鉄道が好きで選んだ職場でしたが、高橋さんに出会ったことで『自分がやりたかったことはこういうことだったのではないか』と気づきました。安定した職場を辞めることは両親からも反対されましたし、自分自身にも躊躇する気持ちがありました。でも、自分にもできることがまだまだたくさんあるはずだから、これからは駅員とは違うポジションで好きな鉄道に関わって頑張ってみようと覚悟を決めました。」 

 

左)あじさいの横を走るいすみ鉄道 右)菜の花の中を走り抜けるかわいらしい黄色い車両

 

「沿線撮影スポットロケハン&マナー講座」は過去3回とも満席の人気イベントに

いすみ市に地域おこし協力隊として着任した玉尾さんは、自身の長年の趣味だった鉄道の撮影をひとつのテーマに据え、いすみ鉄道の活性化を目指して様々なイベントを企画していった。そのひとつが『いすみ鉄道沿線撮影スポットロケハン&マナー講座』だ。 

「いすみ鉄道沿線の撮影スポットを案内するほか、最近問題になっている写真撮影を趣味とするお客様のマナー向上を目指したイベントです。これまで曖昧だった撮影時の安全に関するマナーについて運転士さんにヒヤリングして資料をつくり、いすみ市の協力隊OBで現在もこちらに残って活動している方に講座を担当していただきました。これまでに3回開催して、毎回定員の20名が満席になるほどの人気です。」 

玉尾さんはほかにもバスツアーなどの企画を開催しているが、ちょっとユニークな取組として注目されたのが、島根県奥出雲町の地域おこし協力隊とのコラボ企画である『国吉駅しめ縄プロジェクト』だ。 

「東京駅の近くにある『移住・交流情報ガーデン』に常駐する地域おこし協力隊サポートデスク相談員の方に、奥出雲町の協力隊が同じローカル線の活性化に取り組んでいると教えていただいたのがきっかけです。彼らが活動しているJR木次線の出雲横田駅に大きなしめ縄が飾られていることを知り、いすみ鉄道の国吉駅にもしめ縄を飾るというアイディアが生まれました。」 

このプロジェクトには「いすみ鉄道応援団」という地域住民のボランティアも協力しており、玉尾さんは「国吉駅をパワースポットのような場所にしていきたい」と意気込む。協力隊着任3カ月目からいすみ鉄道の公式SNSを社長直々に任されている玉尾さんは、Twitter、Facebook、Instagramを使って日々情報発信を行っているが、最初の頃は失敗の連続だったという 

「おもしろいと思って情報をアップしたところ、受け手によっては誤解を招くと言われてものすごく怒られました。最初の頃はとにかくあれこれ怒られていましたが、やめようと思ったことは一度もありません。2020年の2月には数百人ほどだったTwitterのフォロワーが、2022年1月には2万人近くまで増えました。手ごたえを感じながら、いまも楽しんで発信を続けています

 

左)バスツアーの参加者たちと記念写真 右)しめ縄プロジェクトでは地元の「いすみ鉄道応援団」の人たちとも連携

 

協力隊にならなければ出会えなかった人たちと一緒に車両の写真集を制作! 

玉尾さんは、いすみ鉄道が観光列車として走らせているキハ52という元国鉄の車両の写真集を制作する『いすみ鉄道に愛を取り戻せ! 写真による文化拠点構築プロジェクト』という企画にも参加し、クラウドファンディングで250万円を集めることに成功した。 

「いすみ鉄道には本当にたくさんのファンがいるということがわかって、とても嬉しかったです。このプロジェクトではプロのカメラマンの方やカメラメーカーの方、そしていすみ鉄道やいすみ市役所の担当者の方と一緒に活動できたことが、何よりも財産になりました。協力隊にならずに会社員として働いていたら絶対に知り合うことがなかった人たちと出会えたのも、地域おこし協力隊になったからだと思います。毎日がとても楽しいです。」 

クラウドファンディングによって集めた資金で写真集は無事に完成し、発行を記念した写真展なども開催された。 

左)いろいろとお世話になっているいすみ鉄道の方々と 中)いつも支援してもらっているいすみ市役所の方々と 右)観光列車のアテンダントを務めたときの嬉しそうな玉尾さん 

 

心から楽しみながらの活動は収入よりもはるかにやりがいが大きい 

 協力隊としての活動がない休日には副業として、観光列車のアテンダントのバイトやイベントの物販の手伝いなどを行っている。収入の面では会社員時代よりもだいぶ減ったそうだが、「収入と支出はプラマイゼロかな」と玉尾さんは笑う。 

「最初は正直なところどうなるのか怖かった部分もありますが、ここではお金を使う機会もそんなにないのでなんとかやれています。むしろ心から楽しんで仕事ができているので、収入よりもはるかにやりがいのほうが大きいです。」 

 協力隊としての活動期間が残り1年を切ったいま、玉尾さんにはどうしてもやりたいことがあるという。 

「地域おこし協力隊の予算に頼らずに成立するようなバスツアーを企画したいです。春の菜の花と桜の時期は、いすみ鉄道の沿線には本当にきれいな撮影スポットがたくさんあるので、それをテーマにしたツアーなら人を呼べると思います。」 

 任期終了後もいすみ鉄道に関わる仕事を続けていきたいという思いもあるが、現在一緒に暮らしているパートナーの考えも聞きながら、残りの任期の活動を通じて今後のことを決めるつもりだ。 

「前職では考えられないほどいろいろな人とお会いするチャンスを得て、こういう生き方もあるんだということがわかったし、世の中の見方が変わりました。地域おこし協力隊の活動には仕事以外にも学べることがたくさんあるので、やってみる価値は絶対にあると僕は思います!」 

 

千葉県 いすみ市 地域おこし協力隊 現役隊員
玉尾和也さん 

1995年生まれ。千葉県出身。大の鉄道好きで、専門学校卒業後は駅員として大手私鉄会社に勤務していたが、駅員とは違ったポジションで鉄道に関わってみたいと思いいすみ鉄道の活性化をミッションとするいすみ市の地域おこし協力隊に応募。房総半島を走るローカル線「いすみ鉄道」の活性化のため、日々励んでいる。 

いすみ市地域おこし協力隊:https://www.facebook.com/isumi.chiikiokoshi/ 

地域おこし協力隊とは? 

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。 

地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei

発行:総務省 

 

 

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