奈良県 曽爾村 地域おこし協力隊 現役隊員
村山泰視さん
活動内容:曽爾高原トマトの栽培
奈良県明日香村の棚田オーナー制度に参加して米づくりを経験したことで、農業のおもしろさを知ったという村山泰視さん。大阪で建築関連の仕事に従事し、現場監督として忙しい日々を送るなか、棚田で土と触れあった時間が忘れられず、いつしか農業をやってみたいという気持ちが大きくなったという。
「ちょうど40歳を過ぎて人生も折り返し地点を迎えたこともあり、将来を考えて職を変えるのもありかなと漠然と考えていました。そんなとき、とても意欲的に棚田でインストラクターをしている人に出会い、考え方や生き方に触発された部分も大きかったかもしれません。」
新規就農したいのなら、地域おこし協力隊という方法もあるとその人からアドバイスをもらい、村山さんは明日香村で協力隊に応募しようと考えたが条件が合わず、残念ながら断念せざるを得なかった。
「すると「曽爾村というところで高原トマト栽培をしている人を紹介するよ」と言われ、いろいろと調べたところトマト農家の後継者候補として地域おこし協力隊の募集があることを知りました。それまで曽爾村のことも高原トマトについても、まったく知りませんでしたが、高校卒業後に調理の専門学校で学び、その後1年ほどイタリア料理の店で働いていたので、トマトには特別な思いがありました。協力隊としてトマト栽培をやると考えたとき、点と点がつながった気がして、もしかするとこれは運命かもしれないと思い、すぐに応募しました。」
奈良県南東部の標高400mの山間に位置する曽爾村は、冷涼な気候を利用した高原トマトの栽培が昔から盛んな土地だが、近年は過疎化と高齢化によって後継者不足が進み、トマト農家も一時は数軒ほどまでに減少していた。この〝曽爾高原ブランドのトマト〟を守りたいという地元の思いに応えるべく、村山さんは一家で村に移住し、2020年4月から地域おこし協力隊としてトマト栽培に取り組むことになった。
曽爾村では品質の安定している「麗夏(れいか)」という品種のトマトを多く栽培している
活動3年目はいよいよ自分の畑を持って独り立ち
棚田で米づくりを経験していたとはいえ、家庭菜園もやったことがなかったのでトマトづくりを始めるのは簡単ではなかったそうだ。
「村のトマト部会の部会長さんが直々に僕の研修補助として指導してくれて、一からすべての技術を教えていただきました。ただ、トマトは水分に反応しやすい作物なので、成長の様子を見ながら水の管理をしなければなりません。その年によって気温が異なるので、やるべき作業は同じでも管理の仕方は毎年異なります。こうした〝見る目〟は教わるだけではわからないので、自分自身で養っていくしかありません。」
約2年間研修を積んできた村山さんは、協力隊の活動3年目となる2022年には部会長のもとを離れて「リースハウス」という制度を活用して独り立ちする予定だという。これはトマト栽培に適した土地に村がビニールハウスを建ててくれて、それを10年間無利子で分割返済していくという村の事業だ。資金力のない人でも無理なく自分の畑を持ってトマト栽培を始められるので、新規就農者にはとてもありがたい制度だ。
「いま暮らしている家の近くでほうれん草を作っている農家さんが、畑の規模を縮小するので、そこにリースハウスを建てて頑張って欲しいと、土地を提供してくれました。部会長に教えていただいた栽培のノウハウをしっかり実践すれば、かならず結果は出ると信じて、あとは勇気を持ってやるだけです。」
左)トマト栽培を一から教えてくれた寺前部会長(中央)と 右)トマトの収穫期は夏だが、土づくりや苗づくり、接木などの作業は一年中続く
地域の活動にも積極的に参加して地元の役に立ちたい!
現在、村山さん一家が暮らしている古民家は借家だが、将来的にはそこを買い取るつもりだという。村山さんには6歳、3歳、1歳半と3人のお子さんがいて、今年5月にはもうひとり生まれる予定。今の家は1階だけで8畳の部屋が8つもあり、子ども部屋に困ることもない。
「子どもが4人いるというのは村でもかなり珍しいみたいで、何かにつけて子どもたちのことを気にかけていただいています。村も子育てに力を入れているので、村営の保育園では、学年によってほぼマンツーマン状態という感じで面倒をみてもらえます。子どもがのびのびと遊べる環境があるというのは、親としても嬉しいです。」
村山さん自身も農業研修だけにとどまらず、積極的に地元の活動にも参加している。そのひとつが、雄大な景色が広がる曽爾高原で2月初旬に行われるダイナミックな「山焼き」だ。
「冬に枯れたススキを一斉に燃やすのですが、曽爾高原の山焼きはスケールも大きくて見にくる観光客もたくさんいる一大イベントです。ただ、高齢化でススキを刈る人手が減り続けているので、僕のような新参者もお役に立てればということで、率先して参加させていただいています。山を保全するためにも、こうした作業は絶対に欠かせないものです。」
左)ダイナミックな曽爾高原の山焼きの様子。なかなかの迫力だ 右)山焼きに参加して率先して動き回る村山さんは、地域にとっても頼もしい存在だ
協力隊の先輩のアドバイスももらいながら独力でチャレンジ!
地域おこし協力隊として曽爾村に移住するにあたって、トマト農家としてやっていく覚悟を決めた村山さんだが、もちろん不安がないわけではない。
「農作業には人手が必要なので、何人が作業に従事できるかでやり方も変わってきます。将来的には妻に手伝ってもらうことも考えていますが、当面は自分ひとりでやるしかありません。すでにトマト農家として独立している協力隊の先輩もひとりでやっているので、アドバイスをもらいながら独力でどこまでできるかチャレンジしてみます。」
そして、村山さんには別の夢もあるという。 「トマト栽培では形が悪くて出荷できないトマトがどうしても出てしまうので、それを使ったピザを提供する軽食の店を開けたらいいなと考えています。まだ先の話ですが、これも地域を元気にすることにつながればと思います。」
自分の将来に〝確実につながる活動の場〟として地域おこし協力隊を選んだ村山さんは、地域おこし協力隊に関心がある人に向けて次のように話してくれた。
「曽爾村はトマト栽培の後継者を本気で育成するために協力隊を募集しているので任期終了後のサポート体制も整っていますが、すべての自治体で同じようなサポートが受けられるとは限りません。まずは自分が移住先で何をしたいのかということを明確にして、協力隊を受け入れる自治体に先々のサポートのことも聞いておくことは、とても大事だと思います。」
何かにつけて一家のことを気にかけてくれる地元の人たちのやさしさに支えられながら、村山さんはこの村でトマト農家としてこれからも頑張っていきたいと力強く話してくれた。
すっかり地域の一員となった村山さん(前列右から2人目)
奈良県 曽爾村 地域おこし協力隊 現役隊員
村山泰視さん
1971年生まれ。三重県紀北町出身。高校卒業後は首都圏で暮らし、カウンセラーの資格を取得し個人事業主としてメンタルサポートなどの仕事をしていたが、母校の閉校をきっかけに故郷へのUターンを決意。紀北町の地域おこし協力隊に採用され、2020年5月より活動中。
きほくる|紀北町魅力ナビ:https://www.town.mie-kihoku.lg.jp/kakuka/kikaku/kikakukakari/2_1/kihokuchotte/3365.html
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省