【企業と地域の繋がり方】「多拠点生活」の効果を最大限に高める方法!いま、企業が実践する“場所や時間に捉われない働き方”を学ぶ

オンライントークイベントVol.11開催レポート

宮崎県新富町で地域資源を活かした多彩な新規ビジネスを展開する地域商社「一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構」(以下、こゆ財団)とTURNSがタッグを組んだオンライントークイベント『企業と地域の繋がり方』Vol.11が3月7日に開催されました。今回は、“多拠点生活” がテーマ。

ゲストは、自ら多拠点生活を実践しつつ、働き方の自由化や地域プロジェクトに取り組むパソナJOB HUBの加藤遼さんと、データドリブンに移住やワーケーションなど地域課題を解決する事業・サービスを開発している博報堂DYメディアパートナーズの片岡遊さんです。

企業人も場所や時間を問わず働けるようになりつつあるいま、地域との関わり方はどう変化していくのか? 「都市と地域」、「移住」という概念が過去のものになりつつある兆しを感じたトークセッションをご紹介します!

 

【ゲスト】

◆加藤遼さん
パソナJOB HUB ソーシャルイノベーション部長 兼 事業開発部長

全国各地を旅するようにはたらきながら、タレントシェアリング、サーキュラーエコノミー、サステナブルツーリズムをテーマとした事業開発に従事。IDEAS FOR GOOD Business Design Lab.所長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、NPOサポートセンター理事、サステナブルビジネスハブ理事、VISIT東北取締役、多摩大学大学院特別招聘フェロー等を兼任。

 

◆片岡遊さん
㈱博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス推進センター 戦略企画部 部長

兵庫県出身。ITコンサル、映画製作を経て、広告・マーケティング業界で15年目。 データサイエンス・テクノロジーを活用した企業のデータマーケティング支援が専門領域。2019年にデータを活用して地域課題の解決を図る「地域創生DMP」を独自に開発し、地方自治体の移住や観光などのマーケティング活動やEBPMのサポートを行う。趣味はサーフィン。

 

【モデレーター】
高橋邦男さん
一般財団法人こゆ地域づくり推進機 執行理事/最高執行責任者

堀口正裕
TURNSプロデューサー/株式会社第一プログレス 代表取締役社長

新富町
宮崎県宮崎市の北隣に位置する人口約16,500人のまち。子どもの占める割合が比較的多く、高齢化率は県内で下位から3番目。主な産業は農業。

こゆ財団とは?
「こゆ財団」とは、2017年に新富町が設立した地域商社。「世界一チャレンジしやすい町」というコンセプトを掲げ、人材育成や商品開発、関係人口創出などに取り組んでいる。中でも、ふるさと納税の運営と人材育成を大きな軸とし、農産物のブランディングを通じて付加価値を高めるなどし、4年間で60億円の寄付金につながっている。手数料などによって得た収益は人材育成に投資し、オンラインなどを通じて学びの場を提供している。

 

多拠点生活が生む相乗効果

イベント冒頭は高橋さんより、新富町にも現れ始めた「次代のウェルビーイングなライフスタイル」の兆しや実践者をご紹介。新富町は「世界一チャレンジしやすいまち」をビジョンに掲げていますが、それは「一人ひとりに居場所と役割があるウェルビーイングなまち」と同義であるとしています。

「幸福学」研究で知られる慶應義塾大学の前野隆司教授が提唱する、持続的な幸せを実感するための心の4因子を指針に、地域住民であるかないかに関わらず全ての人が多様な生き方・働き方を積極的に受容できるまちでありたいと考える新富町。いろいろな人が地域に関わる仕組みとして「地域おこし協力隊制度」を積極的に活用し、現在30名余りの協力隊メンバーが活躍しています。新富町にやって来る人材が最適な活躍の場や役割を見つけられるように、こゆ財団がハブとなって地域と結ぶコーディネートをしています。

こゆ財団の広報イノベーション専門官を務める有賀沙樹さんは、まさに「ウェルビーイングな生き方・働き方」を体現しているお一人。フリーランスで東京と新富町を行き来しながら、東京での人脈やスキルを新富町に持ち込んだり、新富町で得たものを東京での暮らしや仕事に活かしたりと、2拠点生活がご自身にも周囲にも相乗効果を生んでいます。

「彼女のような人材が地域を選択し始めたことに時代を感じます。彼女がクラウドファンディングの企業と知り合いだったことをきっかけに、新富町ではまだなじみの薄いクラファンのプロジェクトが立ち上がるなど、新たな動きも生まれています。このような人材との関わりが創り出す未来に期待しています」と高橋さんは語りました。

 

旅するように働くことで、地域とつながり豊かな生き方を実現

続いてパソナJOB HUB の加藤遼さんより、ご自身の多拠点活動についてお話ししていただきました。

加藤さんは2006年にパソナに入社し、リーマンショック後に就職に困っている若者と中小企業をマッチングするプロジェクトや、東北被災地で被災者と企業とを結ぶプロジェクトを手掛けてきました。その後、観光インバウンドやシェアリングエコノミーなど、地域の新しい産業や働き方をつくる仕事を経て、現在は「都市と地域の新しい働き方推進」をテーマに活動しています。同時に社外でもNPOや内閣府等の政府機関にも関わるパラレルキャリアの実践者でもあります。

加藤さんが責任者を務めるソーシャルイノベーション部は、「旅するようにはたらくコミュニティ型組織」。住んでいる地域も、働く時間も、雇用形態も十人十色の多様なメンバーが所属し、ネットワークでつながっていろいろなプロジェクトを進めています。加藤さん自身も2021年は25ヶ所以上の地域に滞在しながら仕事をしました。

「“旅するようにはたらく”とは、地域とのつながりによって豊かな生き方を実現する働き方。各地に友達がいるような働き方、地域の仕事を手伝う複業的な働き方、多地域に滞在することによって暮らしの多様性を感じながら自分らしく生きていく働き方の複合体」と加藤さん。パソナJOB HUBでは地域企業と複業人材のコミュニティマッチングや、地域と企業のワーケーションマッチングなどの事業を推進しており、実施地域は全国に拡大しています。

そんな加藤さんが今後目指していきたい取り組みの方向性は、

「働き方の自由化」リモートワーク・複業等

「暮らし方の自由化」ワーケーション・多拠点滞在・2拠点居住等

「豊かな生き方の実現」ライフワーク・ウェルネスライフ等

とのこと。働き方を変えることは、暮らし方を変えることにつながり、ひいては自分にとって最も心地よい豊かな生き方を実現することへつながっていく。加藤さんの多拠点活動の先にはそんな未来が見えているようです。

 

自分らしい働き方・暮らし方の選択肢として

トークゲストのお2人目、片岡遊さんは、ITコンサルタントからアニメやCG映画など1つのものをつくり上げるコンテンツ制作のキャリアを経て、仕事のスケールの広がりに興味を持ち博報堂DYメディアパートナーズへ。企業のデータマーケティングの支援や広告レスポンスの効果予測や効果を可視化する自社の新サービス開発などの仕事をしています。

片岡さんが所属する博報堂DYグループの地域との取り組み事例としては、モビリティ×地域課題解決のプロジェクトであるマイカー乗り合い公共交通サービス「ノッカル」があります。ドライバーの高齢化・免許返納による移動難民の増加、公共交通の赤字という日本全国にある地域課題に対し、広告会社として培ってきたクリエイティビティ、マーケティング、テクノロジーの力を掛け合わせソリューションを提示する新基軸の事業を展開しています。

片岡さんはサーファーでもあり、「旅するように暮らせたら」と学生の頃から考えていたそうで、現在は個人的にワーケーションのような柔軟なワークスタイルを模索中。家族や友人たちと、静岡県の伊豆稲取や淡路島などを訪れています。ご自身はコワーキングスペースやホテルで仕事をしつつ、自然の中で子どもを思い切り遊ばせたり、家族や友人と楽しい時間を過ごたりできるメリットを感じています。

「もっと深く地域との関わりしろを作りたい」というのが片岡さんの思い。データの力で地域課題を解決するプラットフォーム「地域創生DMP」を数社と共同開発したり、岡山県との「ライト2拠点」のプログラム開発や、GPSデータを活用して地域の人と一緒に観光モデルルートの開発にも取り組んでいます。

 

「働く」「住む」が変わる時、都会と地域の境界線も消えていく

ここからは加藤さん、片岡さん、高橋さんと堀口の4人によるトークセッション。視聴者からの質問も交え、多拠点生活とその先にあるウェルビーイングな生き方について興味深い対話が展開しました。

 

■個人が地域とつながる人脈をつくるには? 

堀口:視聴者からの質問で「テレワーク人材で地域と関わりたい人はたくさんいるが、個人で地域とつながる人脈をつくるのは難しい。どのようにするといいでしょうか?」と。加藤さんや片岡さんはどういうふうにしていますか?

加藤さん:地域のコーディネーター、関係案内人につないでいただいてます。そこへ都市部で地域に関わりたい人を連れていくのが私の役割。

片岡さん:泊まった先の宿の人と話すとか、そういう所から始まることもあるかもしれません。地道に会話していくと発展していくんじゃないかと。

堀口:両方な気がしますよね。コーディネーターも、積極的なセレンディピティも。

高橋さん:僕はコーディネーターをやっているという意識はあまりなくて、地域のいろんな要素を自分自身が面白がりたいと思っていて、面白がっていたら、周りに人が増えていった感じです。地域を訪れる時に「何か面白いことないかな?」というスタンスで入ると、自然とつながるのではないでしょうか。

 

■多拠点生活、どこまで浸透してる?

堀口:2拠点や多拠点で暮らしたり働いたりする人も増えてきた感じはありますが、加藤さんはどのように感じますか?

加藤さん:2019年くらいまでは、多拠点や出張を頻繁にしている人って経営者や起業家、フリーランスが中心でしたが、2019年以降コロナでリモートワークが普及してから会社員の方々がそういう働き方に躍り出た印象。地域と交流したい人が増える一方で、会社にテレワーク制度が整っていないとか、上司や同僚の理解が乏しいといった現実も出会う方々から聞いています。

堀口:新しい働き方を導入したいという相談もあるんですか?

加藤さん:ここ2年非常に増えました。企業が多様な人材に働きやすい環境をつくっていくと、採用力が如実に上がり、離職率は低下し、社員のエンゲージメントが高まるというデータも出てきています。日本は構造上、これから人材不足になることは決まっている。魅力的で多様な人材に自社で継続的に働いていただくために、働きやすい環境づくりに興味を持つ企業が急激に増えています。

高橋さん:企業としては生命線ですよね。なぜ進まないんだろう?

加藤さん:3つの壁があるんです。①ものの壁(DX、テレワークインフラ等)、②制度の壁(人事労務制度等)は対応すれば乗り越えられるけれど、③心の壁ですよね。でも、世代交代含めてこの先10〜20年で価値観は変わり、ワーケーションや多拠点ワークは広がると思います。経営者は取り入れて行った方がいいし、個人はそうなる未来を見据えて動いた方がいいかもしれない。

高橋さん:博報堂さんはそういう未来を見据えてやっているんですか?

片岡さん:僕は自分自身で考えてやっています。会社としてはワーケーションを推進してはいない。でもコロナ2年目から急激に変わってきていて「チームのパフォーマンスが最大になる場所を自分達で考えなさい」と自主性に委ねられている。
個人的には、制度との折り合いは時間の問題で、成功事例がたくさん出てきたらこの働き方が当たり前になるかもしれない。今はその一歩手前という感じでしょうか。

 

■「働く」「住む」が変わるこの先、地域で必要なアクションは?

高橋さん:「働く」だけじゃなくて同時に「住む」ことも、ADDressやHafHなど新しい仕組みで人が循環する時代になっていますよね。「住む」や「働く」の概念が変わってきている中、この先地域でどんなアクションが必要だと思われますか?

片岡さん:企業目線で言うと、地域は社会課題の解決や新しい産業構造をつくる「実験場」としても考えられるのでは。その地域でやることが日本中やグローバルにも広がる可能性がある。地域によって社会テーマや技術テーマなど、「このまちでこれをやる」というフラッグが立っていると企業側も関わりやすい。

高橋さん:新富町でも昨年、京都の会社と連携協定を結び、農作物の試験場を設けて取り組みがスタートしています。コワーキングスペースなどでも、いずれはいろんな企業の人が居合わせて多様なプロジェクトが同時進行している状況が生まれるかもしれないですね。

加藤さん:まちづくりというと今までは地域住民中心に考えてきたかもしれませんが、今後はワーケーションに来た人や2拠点生活の人も含めて考えていくことになるのではないかと。ワーケーションで1ヶ月ぐらい滞在しながら、地域の中の人と外の人が一緒にまちの未来を考える機会に参加したい企業の方もいるのではないかと思います。

高橋さん:逆に地域の人間も企業のあるところへ出かけていくことも大事かもしれません。都市と地域、どちらに住んでいるかはあまり重要ではなく、相互にかき混ぜる必要もあるんじゃないか。今までは都市→地域という目線でしたが、これからは双方向性が必要なのかも。

加藤さん:「住所は日本、地球」という価値観や発想の中でサービスをつくっていく感覚ってまだないけれど、そういうものが重要になっていく気がします。

 

■収入が減ったとしても移住する? 相対的に考えるために必要なこと

 高橋さん:視聴者から「今の収入が減ったとしても移住するのか、都市部に住んだまま拠点を増やした方がいいのか?」と質問が来ていますが、もう少し相対的に考える必要があるような気もします。

片岡さん:収入って物差しの一つでしかない。自分が暮らしで何を優先したいのか? ふつうに考えると今の暮らしを維持しつつ2拠点を始める方がハードルが低いですが、それが自分の求めているライフスタイルなのか、という問いがありますよね。

堀口:何を自分の真ん中に据えて、どう在りたいかですよね。お金の価値もそれによって変わる。移住したから収入が減るというのも、また違うのではないかと思います。移住して副業で一棟貸しの宿を始めて、2年目で収入が大きく増えました、なんていう人もいます。お金を稼ぐためじゃなくて、やりたいことを追求したら結果そうなった。

高橋さん:すでに「移住」という言葉って何だろう?という世界になってきている気もします。ADDressの佐別当さんなどには「移住」という概念はないし、都会も地域もない。いよいよ境界線が溶けていく、当たり前になっていくことを楽しく迎え入れたいと思いますね。

加藤さん:自分が居心地のいいまちに素直に住める人が増えたらいいですよね。コロナで顕著になったのが、東京にいたくない人がこんないいたということ。おそらく今まではみんな住みたい場所に住めていなくて、これは社会的な根幹の問題。「住みたいまち」として選ばれる地域になっていきたいですね。

高橋さん:「住みたいまちに住む」という概念にさらに踏み込んでいくと、究極は「一緒にいたい人といる」ということに行き着く気がします。そこにいろんなサービスの可能性があるのかもしれない。

 

イベントの最後に今後やっていきたいことを尋ねると、片岡さんは「多拠点で暮らしていこうとすると教育が課題。どこにいても教育が受けられる、デュアルスクールの発展形について今年から取り組んでみたい」と述べました。

また加藤さんは「いろんな人の働き方・暮らし方の自由化を実現するために政府とも連携しながら政策や制度をパワフルにしていきたい」とコメント。

ウェルビーイングな生き方の選択肢として、ますます当たり前になっていきそうな多拠点生活。まずはいろんな地域に滞在する所から始めてみるといいかもしれません。

                   

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