突然だが、「高校生株式会社」という言葉をご存知だろうか?言葉のとおり、高校に通う生徒が主体となり、運営する株式会社のことである。
今の日本には全国に3つの高校生株主が存在している。岐阜県立岐阜商業高等学校の株式会社GIFUSHO、鹿児島県指宿市立指宿商業高等学校の株式会社指商、そして、今回ご紹介する茨城県立常陸大宮高等学校商業科によって設立されたHIOKOホールディングス株式会社だ。
学生でありながら、株主となり会社を経営する。学校に通いながらも株主となることは生徒にとってどのように作用しているのか。今回は株主である生徒5人、そして教師であり、会社の顧問でもある横山治輝先生に、それぞれの視点からお話を伺った。
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Profile:HIOKOホールディングス株式会社(高校生社長ホールディングス株式会社)
茨城県立常陸大宮高等学校商業科の生徒が株主として「地域貢献」と「地産地商」を掲げ企画・運営しビジネスを展開している高校生ベンチャー企業。本物の株式投資を行い、起業家教育と金融教育の最先端を学んでいる。社名の由来は校名の英語表記である「Hitachi Omiya Koukou」。頭文字の「HI・O・KO」をとって生徒が命名。
HIOKOホールディングス株式会社の株主である商業科の皆さん
(左から)
・HIOKOキッチン 三上 想良
・HIOKOプランニング 小田倉 美咲
・HIOKOファイナンス 杉山 美歩
・HIOKOビジネス&アドバイザリー 黒澤 徳之伸
・HIOKOビジネス&アドバイザリー 秋山 世名
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現在HIOKO ホールディングス株式会社では、特産品を生かして商品開発を行い、生徒が素材から生産・加工・販売まで行う “ 6次産業型高校生株式会社 ” として活動している。
HIOKOホールディングス株式会社は現在5つの子会社がある。
・400本以上のブルーベリーの自社農園を栽培・管理する「HIOKOファーム」
・地元の食材を活用し、商品開発・調理販売を行う「HIOKOキッチン」
・観光ツアーの企画・運営を行う「HIOKOプランニング」
・地元ハンドメイドや特産品とコラボし物販販売を行う「HIOKO堂」*
・財務管理・確定申告の他に投資事業を行う「HIOKOファイナンス」
企業理念は「地域貢献」そして「地産地 “ 商 ”」だ。
*4月以降HIOKO堂はプランニングに踏襲、新たにHIOKOビジネス&アドバイザリーが設立予定。
それぞれの夢をカタチに
「小さいころから将来は社長になりたいと思っていた」「地域課題に対して真剣に考えていて、いずれ起業したい」とそれぞれ話す秋山さんと黒澤さん。
その夢を叶えるために茨城県立常陸大宮高等学校商業科に入学、2年生まではHIOKOファームの取締役だったが、今年の4月から新たに立ち上がるスタートアップ事業のHIOKOビジネス&アドバイザリーに移動する。
活動のモチベーションはどこからくるのかと秋山さんに尋ねたところ「最初はお金が好き。という単純な理由でした」と照れくさそうにはにかんだ。だが、HIOKOホールディングスで活動を続けていくうちにそのモチベーションは変化したという。「地域に貢献したいという思いが強くなってきました」会社での活動をとおして、普通の高校生では出会うことのできない方々の考え方に触れた。利益を出すことの難しさも日々実感しているが、その経験も全て夢につながっている。
新たに立ち上がるスタートアップの会社、HIOKOビジネス&アドバイザリーではオンラインで全国の高校生にビジネスプランを考える。起業資金を投資いただける仕組みを考えており、シリコンバレーに研修する構想も練るなど起業への第一歩を力強く踏み出している。
HIOKOツーリズム&プロダクトの小田倉さんは、地元の特産品や工芸品を高校生の力でPRしたいという動機からこの会社を選んだ。想いが先行して入ったものの、実際取り組んでみると「つくりたいものと売れるものは必ずしも一緒ではない」と理想と現実のギャップを突きつけられた。実際に描いたビジョンに対してどのように計画し、アクションし、利益を得るか。単純にプランを練るだけでなく、それを会社の事業として行うからこその難しさもあるが、そのおかげで責任と覚悟をもって商品開発に挑むことができているという。ツアーを組んだり商品の開発を行う中で地域の方や専門家、たくさんの方と触れ合う中で、地域の活性化に繋がる職に就きたいという明確な夢ができた。
「地域の資源を使って商いをする、そしてその資源を用いて地域の貢献をするためにこの会社がある」と話してくれたHIOKOキッチン所属の三上さんは、食べることや料理をつくることが好きで、将来自分のお店を持ちたいという夢を叶えるためにこの高校に入学した。
HIOKOキッチンは自分たちが栽培したブルーベリーを主に、商品開発、販売を道の駅などのイベントで行うことを主力事業としていた。ところが、コロナ感染ウイルス拡大により、今までの活動の主であったイベントの出店はほとんどなくなってしまった。そこで新たな取り組みとして、今年の夏、空き店舗を活用して飲食店を行う計画を立てている。店舗を持ち経営するということは、今まで行なっていた商品開発やイベント出店とは異なり、営業、仕入れ、設備、内装などの業務が新たに発生する。やることは盛りだくさんだ。
不安はないかと尋ねると「いつか自分のお店を持ちたいと思っていた夢がまさか高校生活で叶うなんて。不安よりも楽しみの方が大きいです」と目を輝かせた。
HIOKOホールディングスでは入学後すぐに株主になるわけではない。まずは最初の1年で東京証券取引所協力のもと「起業体験プログラム」を実施し、2年生から本格的に活動に参加する仕組みになっている。リアルなビジネス感覚を養い、起業に対してのリスクよりもチャレンジすることの面白さを伝えている。
HIOKOファイナンスの投資部門で活躍する杉山さんは「株ってなんだろう?大人でも知らないことがたくさんある。知らないことが怖いという感情につながる」とポツリと口にした。「なんでかわからないけど、今の日本の金融教育はリスクの話ばかり。だけど小さい頃から金融教育を楽しみながら学ぶことで、そのリスクを学ぶことで感じる怖さや壁は取り除けると思う。実際私もこの学校で株主となりHIOKOファイナンスで学んだことで社会全体の動向の見方が変わった」と話す。高校生でありながら、すでにお金を運用することの難しさと楽しさを体感しているとは、なんとも心強い。
HIOKOファイナンスでは、今後金融カフェを運営し、大人やこどもも楽しんで学ぶことのできるボードゲームの開発なども視野に入れている。
失敗、成功のその先にあるもの
HIOKOホールディングスは今から6年前、ブルーベリー農園の主であり高校のOBでもある方に苗と農地を寄付いただき高校生農園「HIOKOファーム」を造園、農業経営をはじめたことがきっかけで現在の形が生まれた。
ブルーベリーは苗を植えてから早くて1年、通常2年で収穫時期を迎えるが、HIOKOホールディングスでは5年間収穫せず木づくりをし、一粒が500円玉サイズにもなる大きな実を育てている。商業科でありながらも、苗植え、剪定、収穫を行い、農園の経営、ブランディングまでを全て行なっている。
「商業高等学校とは、日本の主に経済、ビジネスなどの知識を習得することを目的とする高等学校ではあるが、ただ、それを学ぶだけではなく、生徒が生産者の思いを学ぶことはとても大事なプロセスであると考えており、そういう意味で農園経営は根幹ともいえる」と、農園での生徒の活動を見守りながら話すのは、茨城県立常陸大宮高等学校の教諭であり、HIOKOホールディングスの顧問を勤める横山治輝先生だ。
「農園経営だけに限らず、HIOKOホールディングスの活動を通して、高校生のうちに失敗も成功も体験出来うる全てを提供したい。まずは実践し、失敗した場合に何が悪かったのか、次はどうすればいいのか有機的な学びが得られる。逆にいうと、失敗しないことには学ばない。もちろん失敗することでリスクはあるが、その先の楽しさ・面白さを伝えていきたい」
そんな思いでこのホールディングスの顧問として、生徒への活躍の場を常に提供し続けている。
「高校で学びながらも株主となり会社を経営し、キャリアとしての実績を3年間で養う。その経験は、社会にでた時に必ず役に立つと信じています」
HIOKOホールディングスは今年の四月から高校生社長ホールディングス株式会社として名前を変え、今まで以上に活動の幅を広げていく予定だ。
生徒ひとりひとりが、動機をもち、自分の夢をもち、「失敗も成功も経験できる環境」で自発的に活動する。これらを高校生のうちに経験することで、模擬の学びでは決して得ることのできない絶対的リアルな「感覚」、そして「覚悟」と「責任」を得ることができる。
HIOKOホールディングスでしか体感することの出来ない稀有な経験を3年間積んだ彼らが、この先どんな未来を歩んでいくのか、これからの活躍も引き続き見守り続けていきたい。
文・写真/おおもりあい