群馬県西部、長野県との県境に位置する下仁田町。古くから関東と信州を結ぶ街道が通り、アクセスの良さと豊かな自然、下仁田ねぎをはじめとする農作物にも恵まれ、近年は二拠点生活の場としても人気上昇中だ。この町で移住コーディネーターを務める津金澤英美さんに、下仁田の魅力や日々の活動について伺った。

- 下仁田町移住コーディネーター/一般社団法人下仁田町観光協会CMO
東京生まれ、群馬育ち。約20年間の都内生活を経てUターン。現在は下仁田町観光協会で町の魅力案内や暮らしの相談窓口、移住支援など幅広く担当。来訪者と地域住民の双方を大切に、人と人とをつなぐ役割を担っている。おいしいものと旅が大好き。
移住検討者とは長いお付き合いを前提に
移住先を検討したり、移住後に困りごとが生じたりした時、あのカウンターに行けば、いつも変わらぬ安心感で迎えてくれる人がいる。そんな存在が地域に一人いるだけで、地方移住のハードルは大きく下がる。
津金澤英美さんは、下仁田へ関心を寄せる人にとって、「母」のような存在だ。上信越自動車道からもアクセスしやすい「道の駅しもにた」に併設された下仁田町観光協会の入口には、「暮らしの相談窓口」と書かれており、ドアを開けると木のカウンター越しに津金澤さんが迎えてくれる。
コロナ禍以降、ぐっと増えた移住検討者からの問い合わせに応じながら、観光イベントなどの打ち合わせ、空き家への案内や所有者へのヒアリング、移住者交流会の企画運営など、下仁田の移住と観光にまつわるさまざまな仕事を担う。津金澤さんの周りには、いつでもたくさんの「人との関係」がある。

下仁田町観光協会の事務所に籍を置きつつ、移住検討者の案内や空き家の調査など多岐にわたる業務を担う津金澤さん。
「パッと直感で移住を決めちゃう人もいますが、4〜5年かけてじっくり検討される方が多いです。そうした方が、下仁田に立ち寄るたびに、特に用事はなくても“また来たよ”と、わざわざお顔を見せてくださることもあって、うれしいですね」
サービス業の経験もあり、人のために働くことが好きだという津金澤さん。移住検討者とは年単位の長いお付き合いになることを前提に、ゆっくり関係を育んでいるそうだ。

美しい山並みに囲まれた「道の駅しもにた」には、津金澤さんが所属する観光協会の事務所が併設。
いろいろな移住候補地を見たからこそ分かる、下仁田の良さ
下仁田への移住を検討しているのは、どんな人たちなのだろう? 津金澤さんに尋ねてみた。
「多くが東京、埼玉、千葉、神奈川などにお住まいの方々ですね。実は、“下仁田を第一候補にして来ました”という方はそれほど多くありません。皆さん、ほかの地域も見比べながら検討されているんです。複数の候補地を巡る中で、『希望条件や予算に合う物件が見つからない』『東京との距離感に不安がある』『将来の暮らしやすさも考えたい』といった点を総合的に考えたとき、長野県の手前にある下仁田に立ち寄ってみると、“意外といいかも?”と気づかれるようですね」
津金澤さんによれば、下仁田を気に入る人の多くは、都心の住まいを維持したまま自然に近い空き家を購入し、二拠点生活を始める働き盛りのファミリー層だという。将来、子どもが独立して夫婦二人になったら下仁田の家をメインにすることも視野に入れ、まずは週末や休暇に下仁田の家へ滞在し、そこを起点に群馬各地や長野、北陸方面へ遊びに出かけるのが定番の過ごし方だ。
「皆さん、時間の使い方がとても上手だなと感じます。下仁田なら、金曜日の仕事終わりに都心から来ることができますし、自分の家だからチェックイン時間を気にする必要もありません。広さもあって使い勝手が良い。いきなり完全に移住するのではなく、その準備段階として都心との二拠点生活が無理なくできる場所ということで選ばれています」

おいしいものが好きという津金澤さんのおすすめは下仁田ねぎとこんにゃく。「ねぎの葉っぱが少し黄色っぽくなっているものが、実はおいしいんです」
現実的な予算で、2軒目の家が手に入る
人気の別荘地や移住地は数あれど、2軒目の家を「購入」するとなると、どうしても予算の壁が立ちはだかる。その点、下仁田なら、価格帯に幅があるものの、300万円前後から検討できるという。津金澤さんが接するお客さまの中では、二拠点生活者が8割、完全移住者が2割ほど。この町なら、2軒目の家を持つことが決して夢物語ではないようだ。
津金澤さんは、移住や二拠点生活を希望する人の条件や要望を丁寧に聞き取り、空き家バンクの物件を何度も一緒に下見して回る。一方で、高齢者であることが多い空き家の持ち主とのやり取りも担い、空き家バンクへの登録支援からマッチングまでサポートしている。所有者と買い手、両方の想いを汲み取りながら、「空き家を売る」のではなく、「人と人をつなぐ感覚」を大事に紹介しているという。

「道の駅しもにた」に並ぶ採れたての地場野菜。酪農や畜産、醤油等の醸造も地域で行われており、海の魚以外の多彩な食材が揃う。
下仁田で叶える「もうひとつの暮らし」
下仁田のアドバンテージの一つが、自然環境の豊かさと都心からのアクセスのバランスの良さだ。上信越自動車道を使えば車で2時間以内、池袋から直通の高速バスもある。電車の場合は新幹線を利用し、JR高崎駅でローカル線に乗り換え、約2時間で下仁田に到着する。待っているのは美しい山々とのどかな田園地帯。そこに流れるおいしい名水や、その水に育まれた新鮮で安全な米や野菜、肉、卵、乳製品。津金澤さん曰く、「海のもの以外はほぼ全て揃う」という。日々の暮らしの質や健康度がぐんと高まりそうだ。
「皆さん慣れてくると、高速道路をあえて使わずに来るんです。車窓からの風景がだんだん田舎っぽくなってきて、時間の速さが変わってくるのを体感したいからって。そういうことを求めて、“もうひとつの暮らし”をしに、下仁田にいらっしゃるんですよね」
こうした下仁田の魅力にハマり、完全移住を果たした人の中には、この町で起業している人もいるそうだ。
蚕の繭の保管場所として使われていた赤レンガ倉庫をリノベーションし、アンティーク家具のリペアや販売を行う「古道具・熊川」の熊川さんもその一人。以前は東京で商売を営んでいたが、この倉庫の佇まいや景色、澄んだ空気や広い空に心を動かされ、下仁田へ移住したという。今では熊川さんの創り出す空間や家具を求めて、海をこえて訪れるお客さんもいるほどだ。
今の時代、クリエイティブな仕事は都会だけのものではなくなっている。環境の良い地域で、自分たちのペースで暮らしを楽しみながら、その日々の営みの中から価値を生み出し、世界中の人々に直接届けることができる。同時に下仁田なら、情報発信や販売の場としての東京にもアクセスしやすい。

観光を通して、まずは下仁田を好きになってもらいたいと語る津金澤さん。自身もUターン経験者だからこそ持てる客観的な視点で、町の魅力を伝え続けている。
また、シニア世代の女性がリタイア後に自然に囲まれた暮らしを求めて移住したケースもあるそうだ。その女性は、かつてご主人と一緒に訪れた群馬の風景や人のあたたかさを「群馬はいいところ」という思い出として心に残していた。群馬県はご主人の出身地でもあり、特別な縁を感じていた場所だった。
そんな折、下仁田町の空き家バンクで見つけた一軒の平屋に惹かれ、初めて下仁田を訪れることに。実際に足を運んでみると、環境の良さに加え、車を運転しない彼女にとっても無理のない駅徒歩圏の立地で、求めていた条件にぴったり合う物件だった。「ここならゆっくり暮らせそう」と感じて、この町に移り住んだという。
下仁田で、その人その人が「もうひとつの暮らし」を見つける。その過程に津金澤さんは日々、寄り添い続けている。大切な人のことを話すように静かに語るその姿は、津金澤さんの接し方そのものを象徴しているようで印象深かった。
年に一度の移住者交流会が好評。次回は大人の遠足へ?
移住者同士のつながりをつくるために、津金澤さんは移住者交流会も開催している。一昨年から始めた試みで、第1回のランチ会には約20名もの移住者が集まり驚いたという。地方では住まいが点在しているため、日常生活の中で移住者同士の接点は生まれづらい。そんな中で、移住コーディネーターである津金澤さんがハブとなって開いたランチ会だ。

移住者同士の横のつながりをつくる交流会も開催。
「ランチを囲みながら自己紹介をしていただきました。自己紹介が苦手な方もいるので、その場合は私がご紹介したりして。皆さん、こんなにも移住の仲間がいたんだと予想以上に喜んでくださいました。下仁田の良い所・ダメな所を率直に出し合うちょっとしたワークショップもやったんですよ。皆さん思いのほか活発に発言してくださって。真剣なご意見もあり、ありがたかったですね」
昨年開催した第2回目は趣向を変え、下仁田の特産品であるこんにゃくづくり体験を行った。移住者にとって、地域の特産品に深く触れ合う機会は貴重だ。この会も好評で、津金澤さんの元には「次は何をするんですか?」と、この交流会を心待ちにしている声が寄せられている。次回は下仁田の自然を皆で体感しに行く「大人の遠足ツアー」を考えているそうだ。

2024年度の移住者交流会は、地域の交流センターでこんにゃくづくりを体験。
恵まれた環境を当たり前にせず、下仁田でしかできない体験を
津金澤さんに、今後、下仁田で取り組んでいきたいことを伺った。
「さらなる関係人口づくりですね。観光まちづくりという視点から、下仁田の恵まれた環境を観光資源として活用し、多くの方にこの町ならではの体験をしていただきたいと考えています。例えば、こんにゃくづくりや下仁田ねぎの収穫体験、それから数年前にトライした“究極の下仁田すき焼きをつくる”イベントなどもまた企画したいです。下仁田は、すき焼きに使う材料を全て町内で調達できるんですよ。
住んでいるといつの間にか当たり前になって見えなくなってしまう町の魅力に光を当て続け、持続的な下仁田ファン・関係人口づくりに取り組んでいきたいと話す津金澤さん。
「必ず人が人を連れてきてくれますから。私の仕事はどこまでいっても“人”に尽きます。“下仁田に来て元気になったよ”と言われる場面を、これからももっと増やしていきたいですね」
下仁田町に興味を持つ方へのメッセージ
津金澤さん 温暖化で四季が感じにくくなっている昨今ですが、下仁田にはまだはっきりとした四季があります。だからこそ、春夏秋冬、どのシーズンも体験していただきたいですね。何度か訪れるうちに移住に興味が湧いてきたら、ぜひ気軽にご相談いただければと思います。いきなり「絶対下仁田だ!」となる方は珍しいと思うので(笑)。まずは旅をするように訪れていただいて、気に入った場所や何となく自分に合うと感じる場所を見つけていただけたら嬉しいです。
(一社)下仁田町観光協会(移住定住・下仁田町くらしの相談窓口)
「道の駅しもにた」に併設された下仁田町観光協会では、津金澤さんをはじめとしたスタッフが丁寧に観光情報を案内してくれるほか、地元の人と交流できる体験イベントや空き家バンクの活用方法など、下仁田での暮らしを具体的に思い描くためのサポートも充実しています。道の駅には、名産の下仁田ねぎやこんにゃくをはじめ、地元グルメや特産品、お土産が豊富に揃っており、町の魅力を味わいながら気軽に情報収集や相談ができるのも魅力です。観光客はもちろん、地域とのつながりを求める方や将来の移住を考える方にとって、下仁田での新たな一歩を踏み出すきっかけを見つけられる場所です。
群馬県下仁田町大字馬山3766-11
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