温泉のまち・群馬県中之条町の山あいに抱かれ、草津温泉、伊香保温泉と並ぶ「上毛三名湯」に数えられる四万温泉。有名旅行サイトの「レトロな温泉街」ランキングで全国トップに輝いたことのある温泉地は、懐かしい魅力に溢れている。この地で観光の発展や関係人口の創出を含む地域活性化に取り組んでいるのが、四万温泉協会で事務局長を務める宮﨑博行さんだ。

- 四万温泉協会 事務局長
群馬県中之条町生まれ。四万温泉で土産物店&カフェ「まるみや」を代々営む家庭に生まれ育ち、埼玉県の大学で観光情報学を学んだ後、2008年にUターン。四万温泉協会に就職し、広報・マーケティングマネージャーとして観光プロモーションや情報発信を担う。2019年から現職に就き、かつて自身の父親も務めていたポジションで、観光事業者、行政、観光客、地域住民のハブとして地元・四万温泉の地域発展に尽力中。
“終着地的な環境”がつくり出したレトロな温泉街
「今の温泉街って、お店と店主の家が別の場所にあって、夜にはシャッターが下りて真っ暗というところが少なくないと思います。その点、四万温泉では大半の店で『職』と『住』がまだ同じ場所にあり、昔ながらの温泉街の景色を残しているのが魅力です。もちろん夕方になれば商店は閉まりますが、その後に店の家族が桶を持って共同浴場に出かける風景がある。暮らしの中に温泉が溶け込んでいるんです」
そう語る宮﨑さんは四万温泉で生まれ育った生粋の“四万温泉人”だ。家庭を持った今は温泉街の外で暮らしているが、実家の「まるみや」から現在の職場までは歩いて3分ほどの距離。自身も子どもの頃から共同浴場で汗を流してきた一人で、昔を知る間柄では「宮﨑さん」よりも「ひろちゃん」という呼称の方が定着している。

温泉と昔ながらの街並みを地域の魅力に挙げる宮﨑さん。愛する地元の発展のために日々奮闘している。
「中之条町は町内に8つの温泉地が点在し、その中で四万温泉はまちの中心から15キロ以上離れた国立公園内にあります。山を越えて30キロほど北に行けば新潟県の湯沢町ですが、そこに抜ける道はありません。仮に道がつながっていたら、もっと開けた観光地になっていたかもしれませんが、行き止まりの環境だったことによってひなびた風情が保たれてきました」
ワーケーションに積極的な四万温泉
「交流人口という言葉しかなかったひと昔前は、ただ単純に来訪者数を増やせばいいというイメージでいましたが、関係人口という言葉が生まれて、これからの観光はここでしかできない特別な体験、例えば地域との関わりや地元の人との触れ合いが重要だという考え方に私たちもシフトしてきました。今後のためには、観光地の四万温泉を“地域”として捉えてくださる方を呼び込むことも重要だと考えています。コロナ禍により、いろいろなことが一旦ストップしてしまった面もありますが、このレトロな温泉街をガイドと一緒に歩き、地元の人と触れ合って地域について知ってもらうツアーを行うような旅館も出てきました」
平安時代からの歴史を持つ四万温泉。四万川の清流沿いに42本の源泉を擁する温泉街には33軒の宿が並び立ち、三方を山に囲まれたひなびた環境が昔ながらの温泉街の風情を作り出している。移住や二拠点居住への関心が高まる時勢の中で、宮﨑さんのもとに寄せられる問い合わせにも変化が起こっているそうで。
「最近は『毎日温泉に入れるなら住んでみたい』と、二拠点居住や長期滞在を視野に入れた問い合わせをいただくことが増えました。そういう時は共同浴場の利用についてお伝えしたり、実際に住む場所を探すとなると我々では案内できることに限りがあるので、宅建資格を持つ中之条町の移住・定住コーディネーターを紹介しています」
また、住むとまでいかなくても四万温泉と継続的な関わりを持ちたいという人に、宮﨑さんはワーケーション施設の利用を勧める。
「四万温泉は群馬県が行うワーケーション推進の取り組みに参画していて、和室にワークデスクとチェアを置き、独自のプランを打ち出している旅館も多いですし、ワーケーション利用を想定して3年前にオープンした『ルルド』のような宿泊施設もあります。“現代版の湯治”をコンセプトにしている宿にはコワーキングスペースやシェアキッチンがあり、利用者間で交流を図れる仕組みがつくられているのもポイントです。余談ですが、四万温泉のキャッチフレーズで、上毛かるたにも使われている言葉に『世のちり洗う四万温泉』という句があります。『世のちり』には『心と体の疲れ』という意味が込められているので、リフレッシュという点で四万温泉はもとより、ワーケーションに向いている場所だと思っています」




ディープな人間関係が自然発生する「共同浴場」
「四万温泉では、どんな人が関係人口に求められているか」という会話の中で、地域とのタッチポイントとして宮﨑さんから発せられたキーワードが「共同浴場」だ。
「このあたりの家庭の多くは家にお風呂がなく、みんな共同浴場を使っています。意図しなくても人間関係やコミュニティが自ずと生まれるのが共同浴場のいいところ。それに外ではできない本音の話ができるのも、裸の付き合いならではだと思います。こちらに拠点を持って組合費を払えば、一般利用以外の時間や観光向けに開放されていない浴場も使えるので、いろいろな人と関われる可能性が広がるかもしれません」

「過疎とどう戦っていくかを考える中で、共同浴場をもっとライトに使ってもらえる仕組みも考えていきたい」と語る宮﨑さん。
そう語りつつ「共同浴場で濃い人間関係ができると、地元からもやってほしいことが出てくると思うので、自分の目的だけをやりたいという人には合わない環境かも」と一言付け加えた宮﨑さん。一方で、関係人口の存在が、開湯から千年を超える温泉地固有の文化を今後も守り継ぐ鍵になるかもしれない。
「人口減の影響で四万温泉も組合員の数が減っている中、いずれ共同浴場の維持が難しくなる時が来るかもしれません。そういう将来を迎えないためにも外の方たちを巻き込んで守っていく環境づくりが必要になってきていると感じています。日本の温泉文化をユネスコの無形文化遺産にしようという動きがある中で、共同浴場はとても重要な文化だと思うので、いろいろな人の力を借りながら、それを守り継いでいきたいです」


そして最後に、四万温泉の事務局長……というより地域住民の一人として、この地域に関わりたいという人への思いを語ってくれた。
「全国の調査だと四万温泉を知らないという方は結構多くて、同じ群馬県内の比較でも草津温泉と伊香保温泉は約7割の知名度があるのに対して四万温泉は3割程度。そんな中で四万温泉を知ってくれて、継続的に関わりを持つ場所に選んでくれて、地域のために何かアクションを起こしてくれる。地元を愛する一人として、そういう人を応援したいです」
温泉だけではなく地域の濃い人間関係にも浸かりたいという人にとって、四万温泉はまさにぴったりな目的地かもしれない。
中之条町 四万温泉に興味を持つ方へのメッセージ
宮﨑さん まずは旅を通じて四万温泉を知ってもらうことに力を注ぎつつ、さらにその先を見据えて、この地域にまた来たい、毎日温泉に入りたいと思ってもらえるような魅力づくりに取り組んでいます。四万温泉で生まれ育ち、地域の内情をよく知っているので、いろいろな相談に詳しくお答えできるのが私の強みです。お手伝いだけじゃなく、おせっかいまでしたい性格なので、何かに困ったら四万温泉協会までお越しいただいて、どんどん話しかけてください!
(一社)四万温泉協会
四万温泉の温泉街入り口にある「四万温泉協会」のオフィスは、観光案内所を併設し、各種観光や日帰り温泉の紹介などに対応。レンタサイクルも行っている。四万温泉の気分を自宅に持ち帰れる入浴剤など、四万温泉グッズも豊富に販売。宮﨑さんたちの笑顔に会いに訪れてみては。
群馬県吾妻郡中之条町四万4379
電話:0279-64-2321/FAX:0279-64-2137
営業時間:8時30分~17時15分
定休日:年中無休
ホームページ: https://nakanojo-kanko.jp/shima/



