秋田県大館市にスリー株式会社を創業、大館と東京のそれぞれで事業を行う奥村裕之さん。妻の故郷である大館での移住生活と、仕事と暮らしのバランスについて、TURNSプロデューサー堀口がお話を聞きました。
僕は、秋田の夏がとても好きなんです。
堀口:ご出身から前職、経歴みたいなものをお話しいただけますか。
奥村さん:埼玉県越谷市出身で、三人兄弟の次男に生まれました。大学から東京に住んで、東京の会社に就職して、25歳の時にWebマーケティングの会社を立ち上げて、3年くらいやってから譲渡しました。
20歳からお付き合いしていた人が秋田県大館市出身で、子どもが産まれたタイミングでこっちに移住し、スリー株式会社を立ち上げました。
元々はWebの仕事をしていたんですけど、今はVRやARなどの先進技術の開発もしています。東京にも一応籍を置いてある会社が一つあるんですけど、自分の会社は秋田にあるという感じです。
秋田に住んで全国からの案件をこなしつつ、これからはITの技術力で秋田県に貢献したいと思っています。
堀口:東京と秋田を行ったり来たりされてるんですか?
奥村さん:基本的には月に一回東京に行って、1週間くらい滞在をして、また戻ってきてって形ですね。
堀口:パラレルワークをされながら、拠点も2つあるっていう感じなんですね。クライアントさんは東京が多いですか?
奥村さん:今はそうですね。やっぱりVRやARは東京が圧倒的に多いです。やっていることが特殊なので、あんまりまだ地方にはきていないかなあと。それにニーズがまだそこまでないっていうのは思っていたので。基本は東京の仕事がまずメインかなと。
ただ、こっちへきて会社を作って3年目ですけど、だんだんと認知していただけるようになって、市や県の仕事もいただけるようになってきたので、少しずつ秋田の仕事の割合も増えてきているところですね。
堀口:秋田での暮らしは、都市での暮らしと比較してどこが一番違って、何がいいですか?
奥村さん:僕は、秋田の夏がとても好きなんです。
今日は雨なんですけど、いつもはすごいカラっとしていて。東京だとじめじめしていたりするんですけど、秋田の夏はずっと気持ちよくいられる。
夜も星が綺麗だし。今住んでる家は地下水を汲み上げていて、蛇口をひねると冷たい水が出るんです。それもすごくおいしい。そういった環境にもとても満足しています。
それから今、2歳と0歳の娘がいるんですが、保育園にもすんなり入れました。家から歩いて1分くらいのところの保育園に通っていて、朝8時半くらいに歩いて連れていって夕方になったら迎えに行って。
東京だったら保育園に入りにくいとか色々あると思うんですが、全然そういうこともなくて、生活もしやすいですね。
堀口:町や、周りの人も子どもの世話をしてくれますか?
奥村さん:この辺の地域の人は、小学生も中学生も通りすがりに挨拶してくれるんです。ここにくるまではそんなのはなかった。
そういうふうに挨拶されていると、自然と僕も知らない人とでもこんにちはって挨拶するようになって。近所の人がみんな知り合いになっていくっていうのが東京では全くなかったなと。知らない人でも大体知り合いの知り合いだったりするんですよね。結びつきが強かったりするのはいいですね。
お金だけじゃなくて、みんなの幸せや生活を大事にする組織でありたい
堀口:そうすると、みなさん近い存在になっていくじゃないですか。大館で暮らしていて、生活や仕事する上で、周りの人たちへの配慮や、コミュニケーションで意識していることはありますか?
奥村さん:うーん……特に注意していることはないですね。結構、入りにくいとか聞くけど全然そんなことはなくて、みんなよくしてくれているので。
堀口:では、移住してきて苦労したことや、地方に対してネガティブな感想はあまりないですか?
奥村さん:それが本当にないんですよ。妻の実家に住んでいることもあって、環境が整っている、というのもあります。
お義父さんとお義母さんが畑をやってるので、夏になるとおいしい野菜がたくさん食べられる。普段家で働いているので、子どもとも一緒にいられる。不満はあまり無い状態です。
堀口:このリモートの時代だから移住しやすい、という文脈で、今色んなところで移住が勧められていてハードルも下がっている中、慎重派の人もいれば、行って失敗する人もいたりすると思うんですけど、奥村さんは今の移住というものをどんなふうに捉えていますか?
奥村さん:移住だ、とそんなに身構えては考えてなくて。
今、僕がいる大館市は大館能代空港まで30分で、そこから1時間ちょっとで東京に行けますし、青森空港まで行けばそこから大阪にも福岡にも名古屋にも行けたり、もちろん羽田も行けます。なにかあれば行くことはできるので、それを踏まえて、僕はまず来ちゃってから考えてもいいんじゃないかなって。やっぱり来てから知ることの方が圧倒的に多いので。
住んでみてから、雪は大変だなって思ったりもしましたけど、そのぶん春と夏と秋は素晴らしいなと知ったりとか。雪も他の秋田の地域に比べると極端に多いわけじゃないとか。なので、来る頻度を増やすとか、来てから考えるくらいで移住してみてもいいんじゃないかなと思います。
堀口:移住して事業をされている方との繋がりもあったりするんですか?
奥村さん:結構あります。移住者同士の繋がりも結構多いですし、スリーのみんなも、大体そういう感じなので。
まだ成し遂げられてないんですけど、今って仕事もお金だけじゃない時代になっていってるじゃないですか、間違いなく。僕は幸せって、お金よりもバランスだと思っていて。生活とか、色々なことがあって、幸せって成り立つんじゃないのかなって思うんです。
スリーも週5でがっつり働くっていう会社じゃなくて、ちょっと休みが多くて、お金よりもどちらかというとみんなの幸せというか、生活を大事にするような感じを推奨するような組織にしていきたいなと思っています。
堀口:移住して地方で事業されている方のお話を聞く機会がとても多いんですけど、本当に効果的な移住施策って、今おっしゃったような理念や、働き方を斬新に変えていくというところだなと思っています。
そのうえ仕事もめちゃめちゃおもしろがってやって、町にも配慮したような企画をやったりとかするわけですよね。そこに若い人が集まってきてというようなことが、継続的な移住施策だと思っているんですけど、奥村さんのお話を聞いて改めてそう感じました。
堀口:スリーを立ち上げられたときは、いまの会社のメンバー揃うのも想定済みだったんですか?
奥村さん:いえ、単身のイメージでした。個人にくる案件が多かったので、最初は小さくやっていこうかなと思っていたんですけど、住んで一、二か月たった頃から少しづつメンバーが増えてきましたね。
堀口:出会うきっかけってどういったものだったんですか?
奥村さん:人伝に紹介してもらったりしました。20代中盤くらいで出会った大館と東京の両方でお仕事されている方がいて、東京で色々教えてもらったりしていたんですけど、その人に大館に住むタイミングで挨拶にいったら、ちょうどIT系で同い年のやつがいるよって言われて、紹介してもらったり。そんなふうにして出会っていきましたね。
旅行先としては素敵でも、住みたい場所って人によって違うんじゃないかな
堀口:時間の使い方も変化したと思うんですけど、今はどんな生活をしていますか?
奥村さん:まず朝、長女を保育園に送って、それから家でパソコン開いて仕事をする。夕方になったら娘を保育園に迎えにいって、そこからはあんまり仕事はしないというか、できる環境になくて(笑)。部屋があまりないんですよ。だから基本的には18時以降は仕事せず、まあ、できないっていうのが僕はいいと思ってるんですけど。子どもをお風呂に入れて寝かしつけてっていう、普通のパパですね。
僕はそういう生活がしたいと思ってこっちに移住してきたので、だから合ってるというか。
堀口:とても幸せですね。
奥村さん:今は、そうですね、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。今はすごく周りに支えられて、とても幸せです。
堀口:ご家族が秋田の方だったのでわりとすんなり移住されたのかなと思うんですけど、県や市町村の支援制度を活用することは検討されたりしましたか?
奥村さん:そこがあんまりしてなくて、もうちょっとうまく活用すればよかったなって思いましたね。
堀口:雪国の暮らしはどうですか?
奥村さん:大館の雪に関してはそんなに苦労を感じないかなと。雪かきも一人じゃなくて家族でやってるので、そこまで大変じゃないというのもあるんですけど。
東京とか首都圏だと、ずーっと遊べるというか、一年中自由に外出できるじゃないですか。秋田って雪の時期は色々制限がかかるんですよね。秋田市に車で行きづらくなったりとか。でも、僕はその時期が多少あってもいいと思っているんです。他がめちゃくちゃ幸せなんですよ。
雪の時期は、ちょっと我慢しなければいけないことは確かにある。でも雪解けの景色だったりとか、その春の感じとか。夏の景色とか秋がいい感じとか、それがあるので、冬は多少人によっては合う合わないはあると思うんですけど、僕はその冬があるから、それ以外がとてもいいんだと思っています。
堀口:みんな「日本は四季がある」と言うんですけど、本当に雪がしっかり降って、メリハリのある四季が感じられる地域って少ないと思うんですよね。東京だとまずあり得ないことですし。
奥村さん:それこそ秋田に住む前は、僕は海が好きなので沖縄に住みたいなっていう理想があったんですよ。ああいう暖かいところに住みたいなと。
でも、仕事で何度か行く機会はあったんですけど、やっぱり住み続ける場所としては違うんじゃないかなと思って。旅行先としては素敵だけど、住みたい場所って人によってまた違うんじゃないかなって思ったんです。
堀口:ありがとうございました、たくさん素敵なお話を聞けました。
奥村さん:本当ですか?もっと聞いていただきたいくらいです(笑)。
写真・文/横尾涼
INFIORMATION
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秋田は田舎、というイメージがどうしても先行する。そこでの暮らしは、時々「何もない」と言われることもあるかもしれない。だけど、他にはない“地域資源の恵”がそこにはある。
今、秋田にはそうした魅力を感じ、「理想の生き方や暮らしはここ・秋田にある!」 と信じて移住してくる若者が増えている。
彼ら・彼女らは、秋田のフィールドを存分に活かして、やりたいことにチャレンジし、生き生きと暮らしている。そう、秋田はそれができる場所。
自分らしい生き方が見つかる場所。
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