スマート農業DXサミット2021
開催レポート

\企業・行政・研究者・経営者・スマート農業推進協会、多岐にわたるトークゲストが集合/
100年先まで持続可能な農業を実現するために、
これからの農業の可能性を考えよう!

7月17日(土)、宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構。以下こゆ財団)が設立したスマート農業推進協会とTURNSのコラボレーションによるオンライントークイベント『スマート農業DXサミット2021』が開催されました。

スマート農業推進協会が毎年開催していた「農業サミット」が、今年は装いを新たにしてパワーアップ!農業分野における、企業・行政・研究者・経営者・スマート農業協会など多岐にわたるメンバーが集合し、未来の農業についてじっくり語り合い、気づきを共有する場となりました。

 

【プログラム&登壇者】

1. スマート農業推進協会とは

2. キックオフトーク「農業が抱える課題解決に向けて、いま必要なこと。」
齋藤 潤一さん (一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事)
堀口 正裕 (㈱第一プログレス 代表取締役社長/TURNSプロデューサー)

3. トーク①「農業DX つくった後の売り方。農産物のブランド化、商品開発」
横田 修一さん (農業生産法人 有限会社横田農場 代表取締役)
堀口 大輔さん (鹿児島堀口製茶/和香園/ハチドリ電力 広報拡散部長)
猪俣 太一さん (就農11年目/施設園芸 きゅうり 28a)

4. トーク②「農業DXのミライを語る。AIは仕事をつくるのか?減らすのか?」
尾原 由章さん (尾原農園 代表取締役)
関 悠一郎さん (ENEOSホールディングス株式会社 未来事業推進部)
高橋 慶彦さん (AGRIST(アグリスト)株式会社 取締役 兼 最高執行責任者)

5. トーク③「農業×データ分析で稼げる農家を生み出す方法」
生駒 祐一さん (テラスマイル株式会社 代表取締役)
上原 郁磨さん (SBテクノロジー株式会社 公共本部 副本部長/リデン株式会社 代表取締役)
松井 加奈絵さん(東京電機大学 システムデザイン工学部 情報システム工学科 准教授)
安藤 光広さん (株式会社 安藤商事(セキド宮崎中央) 代表取締役)

 

【全体司会】
高橋邦男さん (一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 執行理事/最高執行責任者)

※以上、登壇者プロフィール詳細はこちらから

 

“100年先まで持続可能な農業を実現する”
「スマート農業推進協会」とは?

開催にあたり、司会の高橋さんからこのサミットを主催する「スマート農業推進協会」について説明がありました。

「2019年発足の「スマート農業推進協会」は、“100年先まで持続可能な農業を実現する”をテーマとして活動する、地域発の産官学連携のネットワークです。現在農業は事業者の高齢化、担い手不足など様々な課題を抱えていますが、フードバリューチェーン全体を見てみると「農産物を必要とするユーザー」が確かに存在する大きな市場を持っています。それを踏まえ、IT技術テクノロジーの導入などで持続可能な農業を実現し、農業の可能性を切り開いていこうとするのが、この協会の活動主旨です」

高橋さんの所属する宮崎県新富町の「こゆ財団」(※)は、「スマート農業推進協会」の事務局を務めており、協会における様々な企業と技術のビジネスマッチングサポートや発信活動を担当しています。

「DXやスマート農業と聞くと、ITテクノロジー分野の方しか協会に加入できないように思われるかもしれませんが、農業は生産から消費者の手に渡るところまで非常に幅広い市場があります。その過程に関わるさまざまな分野の方に参加いただくことが可能です」と、高橋さんは語りました。

ITテクノロジー分野だけではない企業や団体が、スマート農業の未来に可能性を感じているのです。

 

\INFOR MATION/

「スマート農業推進協会」入会のご案内
https://smart-agri.co/

ご入会いただいた会員様向けに、様々な特典をご用意しております。宮崎県新富町や全国の自治体と連携した共同企画の実施、プレスリリースやオウンドメディアによる情報発信の支援、主催のイベントや勉強会でのネットワーキングやマッチングの強化などを行いながら、会員の皆様とスマート農業を推進します。

【会費:月額50,000円(税抜)】
●スマート農業サミット(年2回/東京・宮崎県新富町)登壇
●スマート農業推進協会ウェブサイトへの記事掲載
●スマート農業推進協会会員限定オンラインセッションへの参加
●コワーキングスペース「新富アグリバレー」(宮崎県)新富町ドロップイン利用
●採用及びビジネスマッチング支援
●共同企画の実施(プレスリリースや勉強会の企画など)

 

キックオフトーク
「農業が抱える課題解決に向けて、いま必要なこと。」

キックオフトークに登場したのは、TURNSのイベントではでおなじみ「こゆ財団」代表理事の齋藤 潤一さんと、TURNSプロデューサー堀口正裕です。

自らの働く目的を「ビジネスで地域の課題を解決する」として宮崎県新富町を中心に活動をしている斎藤さんは、知を結集して農業課題を解決しようと「スマート農業推進協会」を設立した人物です。
TURNSプロデューサーの堀口とは、農業課題や地域課題について、これまでもたくさんの場面でトークセッションをしてきました。

今回のキックオフトークで主に語られたのは、「地域課題はビジネスチャンス」であるということです。農業の未来について、斎藤さんからは「これからの農業は、 “デジタル化” によって世代交代を迎えます。そのような点に大きなビジネスチャンスを感じるんです」とお話されました。

齋藤さんが立ち上げたアグリストという会社はピーマンの自動収穫ロボットを開発していますが、これは農家からの「農作業の効率化を図れるロボットが欲しい」という声をもとにして開発がすすめられたものです。

近年のSNSやインターネットの発展により、誰でも情報を収集し発信できる時代。プロジェクトは、どこにいても、誰でも立ち上げることができるからこそ、課題が多い地方にチャンスがあると語られました。

「農家の方、生産者の方と組んで一緒にビジネスを作っていくのは本当に面白い。生産者の方は往々にして発信や販売が得意ではありません。その分野をテクノロジーの力によってサポートすることができれば、そこにビジネスが生まれる。だからこそ、農業×テクノロジーには大きなチャンスがあるんです」(齋藤さん)

「農業課題をテクノロジーで解決していく事例は、これからどんどん出てくるはず。そういった事例をTURNSでもたくさん紹介し、よい縁を作っていきたいと思っています」(堀口)

農業の可能性を大きく感じたキックオフトークとなりました。

 

トーク①
「農業DX つくった後の売り方。農産物のブランド化、商品開発」

続いてトーク①では、800年以上前から続く米農家の横田修一さん、宮崎県新富町で積極的にスマート農業に挑戦しているきゅうり農家の猪俣太一さん、鹿児島県堀口製茶・和香園・ハチドリ電力の広報拡散部長と多くの肩書を持つ堀口大輔さんの3名が登場し、生産販売におけるそれぞれの幅広いチャレンジや課題などが語られました。

ディスカッションの中では、「スマート農業に関する初期投資」について疑問が投げかけられました。

164haもの田んぼを持つ大規模米農家である横田さんからは、「米作は比較的古くからコンバインの導入など自動化が進められてきた領域」としつつ、初期投資の回収に苦労する農家も多いとの課題があげられました。これに対して、猪俣さんや堀口さんからは下記の考えが述べられました。

「現在、ハウスの環境をデジタル化しており、スマートフォンで温度湿度、窓の開閉、潅水などのコントロールができるようにしています。正直なところ今の規模では必要ないかもしれませんが、今後は3倍規模にしていきたいという目的があるからこその先行投資。今から始めて規模を大きくしたとき、スムーズに展開できるようにしています」(猪俣さん)

将来的な見込みがあっての投資だそうです。先に大きく展開することで、町を潤し、地域貢献をしていきたいとも猪俣さんは語ります。

「私たちの会社は昔から先行投資をして、多くの失敗も成功も経験していますが、未来を描くためには先行投資は必要な挑戦だと考えています。その中の成功事例を伸ばしていくことで企業は成長すると思うんです」(堀口さん)

また、進行役の高橋さんからは、「未来を描くこと」を考えている3人に対し、「これから、どのような未来を目指したいか」という質問も投げかけられました。

「米農家の長男に生まれて、今までやっていた作業は当たり前と捉えていたが、友人が会社に入社し、何のためにやるのか、何の意味があるのかを逐一聞かれ、その問いの大切さに気づきました。今、私の会社では、そういった質問を社員同士でし合えることが強みです。その環境を活かし、どんなふうに農業を持続していけるかを考えていきたい。そして、私達の米のブランド化に力を注ぎ、ファンをたくさん作っていきたいと思います」(横田さん)

「型にはまりたくないと思っています。失敗することがあっても、次の糧になると捉え、どんどん挑戦をしていきたい。人生においては、農業がすべてではないし、きゅうりがすべてではない。人生の選択肢としての農業がある、というように考え、農業に囚われるのではなく、自分の可能性をこれからも広げていきたい」(猪俣さん)

「直近では、和香園において、新たなお茶ブランドをローンチしました。レインフォレスト認証を受けた農地で生産したシングルオリジンを楽しめるお茶です。こういった新たな挑戦をどんどんし続けていきたい。その他にも、農業に自然エネルギーを活用するなどの取り組みによって、“農業が地球を守る”ことの実現も!またアスパラガスを鹿児島の特産品にするプロジェクトも動いているので、この実現も目指していきたいです」(堀口さん)

様々な未来が語られる展開に、司会の高橋さんは「様々な選択肢を持って、挑戦をすることが大切だと感じますね。その挑戦の先に、農業の未来が開けるのではないでしょうか」と述べ、トーク①は幕を閉じました。

 

トーク②
「農業DXのミライを語る。AIは仕事をつくるのか?減らすのか?」

トーク②では、高知県でピーマンの雇用型農業を営む尾原由章さんと、ENEOSで脱石油型の新規事業を考える未来事業推進部に所属する関悠一郎さん、そして、宮崎県新富町でピーマンの収穫ロボットの開発をしているアグリスト㈱の高橋慶彦さんが登場しました。
「テクノロジーは農業を豊かにするのか」をテーマにディスカッションが展開されました。

冒頭に出た「テクノロジーを農業に取り入れている理由は?」という問いに対して、まず尾原さんが下記のように回答しました。

「農業人口が減少し、自らが背負う面積が増えるに従い、テクノロジーの導入を進めてきました。目的は、収量を増やし売上を増やすこと。環境制御からスタートし、スマートフォンで設定管理は可能になりましたが、完全自動化にはできていません。データを集積してデータ駆動型農業を目指しているところです。産地を背負う立場として、栽培方法は進化させていく必要があります。今は、トライアンドエラーで挑戦を楽しんでいるんです」(尾原さん)

これに対し、テクノロジー開発サイドの高橋さん、関さんからはこのような声が上がりました。

「私達が手掛けるテクノロジーは、農家さんの実現したいことを実現するためのツールでしかない。それを使っていくかどうかは、農家さん次第です。現状への危機感と未来への思いが掛け算されると、“挑戦”につながるのではと感じます。すでに尾原さんの農地は見学させてもらいましたが、やはり開発に現場の声は欠かせないんです。ぜひ、たくさんの農家の方に、テクノロジー導入への挑戦をしてもらいたいと思います」(高橋さん)

「新富町では、農地の上で太陽光発電を行うソーラーシェアリングに取り組んでいますが、絶対条件として、ソーラーパネルの下で行われる農業が成り立っていないといけない。スマート農業推進協会を通じて、こういった農家の方の現場の声が聞けることがとても有り難いんです。農業×ENEOSのように、まったく別の産業が融合してプロジェクトを進行しています。それぞれの課題に共同してアプローチしようという取り組みを、農家の皆さんと一緒にどんどん探っていきたいです」(関さん)

また、最後には「テクノロジーを使うことによって農家は幸せになるのか?」という問いに対しては、それぞれが下記のように答えました。

「いつの時代も、農業は先端技術を取り入れてきました。それが今はスマート農業と言われているだけです。先端技術の発展とともに今がある。開発に関わる私達も何ができるのか考えていますが、農家のみなさんもぜひ、他分野の先端技術に興味を持ち、視野を広く可能性を見出してほしいです。その先に幸せがあるのではないでしょうか」(関さん)

「私たちは収穫ロボットを作っていますが、それを完成させることが私達の目的ではありません。農家さんの望みを叶えるサポートをすることが目的です。ロボット開発を通じて、農家の皆さんが効率的に生産できる環境を作り、生産性の向上と収益UPの実現を目指しています。そのために、自社ビニールハウスを作り、社会実装を目指しているロボットを見てもらえるようにしていく予定です。農家の皆さんには、それを見て、もっと幸せな未来を想像してほしい。それを叶えるために開発をしていきたいです」(高橋さん)

「いいピーマンをつくり、消費者に美味しいと言ってもらえることが我々生産者の本当の目的です。それを実現するめの方法としてスマート農業がある。テクノロジーの活用によって、消費者の笑顔と、生産者、スタッフの笑顔をともに作っていきたいです」(尾原さん)

進行を務めた堀口からは、「近い将来、尾原さんの農地でENEOSの自然エネルギー活用や、高橋さんの収穫ロボットが活動している風景が見られるかもしれませんね。それをとても楽しみにしています!」と今後の展開への期待が寄せられました。

 

トーク③
「農業×データ分析で稼げる農家を生み出す方法」

トーク③は、スマート農業推進協会の会員である4つの団体から4名のゲストを招いてのパネルディスカッションとなりました。
ここで主になされたのは、「農業にデータはどのようにいかされるのか」、そして「それは農業にとって有効なのか」という議論です。

ゲスト4名は、すでに農家のみなさんに向けた様々なサービスをデータを活用して展開中。

まずは、AgumiruというスマートフォンによるLINEを使った経営データ管理サービスを展開する上原郁磨さんと、ドローン撮影を利用して植物の生育状態を観察し、管理のアドバイスなどを農家にしていくサービスを展開している安藤光広さんから、「農家のデータ活用における目的意識の重要性」が語られました。

「実はIT否定派で、データ集めても目的がなければ意味がないと考えています。データ活用においては、いつまでに何をどうしたいという目的を持っているかどうかがとても大切。その意識改革がなければデータ活用はできません」(上原さん)

「ただデータがあるだけでは活用できない。どう活用したいかを考えて、目的を達成するためにデータを使っていく必要がありますよね。目的の共有があってのデータ活用。肥料の経費削減や生産性の向上など、具体的な農家さんの目的を果たせるように開発に力を注ぎたいです」(安藤さん)

また、大学の農業IoT研究チームにて、農家に必要なデータの収集・活用を研究、展開している松井加奈絵さんからは、稼ぐという目的の他に、テクノロジーの利用においては地域課題にも目を向ける必要があるという意見を頂きました。

「長野県で棚田の課題解決にあたった事例では、里山としての景観を守る観点と、棚田が防災面で川の氾濫を防ぐという役割を果たしているという観点がありました。それを踏まえて、ただ経済的な理由だけで棚田をなくすのではなく、どうしたら水位を少ない人手で管理していけるかということを考え、水位計というソリューションを用いで課題を解決しようとしました。農業はただ経済的な面だけではなく、広く地域課題、環境負荷などを考えていかなくてはなりません。そのためには、地域課題に対するデータ収集も必要になります」(松井さん)

また、農業計算データを一元化するテラスマイルというサービスを展開している生駒祐一さんは、データ活用の効果について下記のように語りました。

「以前は、データを活用によって単収をあげたい、産地を強化したいなどの粒度の粗いオーダーをもらうことが多かったのですが、今シーズンは具体的なオファーをもらうようになりました。これは、データ化により、農業経営者の伝えたいことが具現化し、理解速度がはやまった証拠です。データ化によって、目的が明確なる、戦略実行するスピードが早まるなどの効果があったのではと考えています」(生駒さん)

その他、視聴者からの「生産現場に入っていきたいとは思わないのか」という質問には、全員が「入っていく予定がある」また「入っていきたい」と回答。生産者との連携と現場の意見が、データ活用や開発において重要であることが裏付けられる結果となりました。

また、「今後叶えたいことは?」という問いには下記のような回答がありました。

「漁業でいうオーシャンtoテーブルのように、データ収集と解析によって、このような生産方法でこれを作りましたという情報を、デジタルで消費者に届けることができる未来は、もうすぐそこです。その実現を目指していきたい」(松井さん)

家にいながら、虫、病気から作物を警備することができるようにしたい。それにより余暇を作ることができればと思っています」(安藤さん)

「実現したいのは、データが “価値” に変わってワクワクする社会を作ること。ただ記録するだけでは面白くないので、ワクワクする世界を作りたいと本気で思っています」(上原さん)

「スマートシティ構想の中に農業を組み込んでいくか、都市近郊農業のデジタル基盤をどう実証していくか、農業のデジタル基盤をどう構築していくか、東南アジアからのオファーなどにどう応えていくか。未来につながるこれら4つを、ぜひ実現したい」(生駒さん)

 

さまざまな意見が飛び交った、農業DXサミットはこのトーク③のセッションをもって終了。司会の高橋さんからは、閉会にあたり、このようなメッセージが送られました。

「技術開発は、現場の課題からスタートしています。トーク③では、皆さんが現場に参入することを考えていることが象徴的でした。トーク①の猪俣さんが言うように、“農家はこうでないと” という枠を外すことが大事です。いろいろな役割の人が境界線の再編集をできる時代なので、今後も枠を飛び越えて、さらにワクワクできる農業の展開を作っていきたいと思いますね」(高橋さん)

さらに堀口からは、「あっという間の3時間。パネリストの皆さんが農業DXにおける選択肢をたくさん見せてくれたように感じます。TURNSでは、こういったイベントでの効果、影響などを今後も追いかけ続けていきたいです!」と述べられ、この農業DXサミットは幕を下ろしました。

 

次回の『スマート農業DXサミット2021』は、12月上旬に開催を予定しています。ぜひお楽しみに!

今回のアーカイブ動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=CU6OEf3ZM0M&t=1385s

 

\INFORMATION/

今回のゲストの大半が所属する「スマート農業推進協会」には、生産からエネルギー、データ分析をしている団体まで幅広いメンバーが所属しています。興味を持った方は、ぜひ、WEBサイトからお問合せください。

「スマート農業推進協会」のHPはこちら
https://smart-agri.co/

                   

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