宮崎県新富町に本拠地を置く一般財団法人「こゆ地域づくり推進機構(略称:こゆ財団)」が、2月26日に地方創生スペシャルトークセッション「企業×地域が創るミライ」と題してオンライントークイベントを開催しました。
こゆ財団は、2017年に設立。新富町の地域資源を生かした人材育成、商品開発、関係人口創出などに取り組んでいます。なかでも、希少な国産ライチを「一粒1000円の新富ライチ」としてブランディングし、地域の名産品に育てました。また、運営を手掛ける同町のふるさと納税事業では財団設立の前年度比で2倍以上となる約9億3000万円の寄付金を集めるという実績も上げています。
モデレーターは前回と同じく一般財団法人こゆ地域づくり推進機構の執行理事 高橋邦男さん。ゲストには、地域活性化やまちづくりなどの調査・研究にあたり、「古民家を活かした地域再生」をはじめ、さまざまな調査レポートを作成している株式会社日本政策投資銀行の山野井友紀さん、広報やブランド戦略デザインに携わる傍らVENTURE FOR JAPAN(NPO法人アスヘノキボウ)のPRとのパラレルワークに取り組むロート製薬株式会社の柴田春奈さんを迎え、TURNSプロデューサー堀口正裕とともに「企業×地域」の地方創生について語り合いました。
地域を動かすのはプレイヤーと伴走者
〝企業と地域の関係〟については、前回の「地方創生DX塾withコロナ時代の働き方」でも興味深いやりとりがいくつかありました。
こゆ財団では、すでに大手航空会社などとのコラボレーションで成果を挙げていますが、「学び」や「企業版ふるさと納税(地方公共団体が行う地方創生にかかわる事業に対し、企業が寄附を行う仕組み)」など、企業との関わりに於ける次のステップを模索しつづけています。
「地域にはさまざまな形の課題や問題がありますが、それはそのまま〝チャンス〟とも言えると思います」という高橋さんの言葉でセッションはスタート。さっそく高橋さんから日本政策投資銀行・山野井さんに「地域とのプロジェクトはどのように立ち上がって、誰が動かしていくのですか?」という質問が飛びました。
「『いい古民家があるから活用したい』『酒蔵を経営しているけどジリ貧で……』といったことがきかっけとなり、まず相談する先は地方銀行や地方公共団体が多いですね。とはいえ、いくら周囲が支援する体制があっても、熱意を持った人が地域にいなければ続きません。地元の商店街や地場企業などの出身の若い方が、一度地元を離れたあとに戻ってきて『こんなにいいところだと初めて気づいた』というパターンはよくあります。
しかし、こうした人たちにいくら熱意があっても、ひとりの力で地域を動かすのはとても難しい。熱意がある人をまちづくりにノウハウを持っているNPOが支援したり、伴走したりしながら地域おこしを行っていく事例がよくあります」(山野井さん)
熱意で立ち上げた動きを、どう持続させるか
熱心な地元出身者がUターンしてきて地域おこしに携わる、という事例はTURNS誌上でも多くみられます。
高橋さんは、「地域にいる熱意のあるプレイヤーも、支援する側のリソースもどちらも大事。でも、地域のリソースには限りがあるので、新しい力を入れるフェーズに来ていると思う」と話し、ロート製薬柴田さんの意見を求めました。
「ロート製薬が各地域で行っている取り組みでも、VENTURE FOR JAPANの活動でも、地域の人材不足を感じる場面はあります。でも一方で『そういうところで活躍したい』という人もいるので、その掛け合わせをうまく実現していきたい」(柴田さん)
これに対して高橋さんは、「こゆ財団も実はそうでした。こゆ財団の立ち上げメンバーはほぼ現地出身者で、外での経験値や知見がほぼなかったので、『エイヤッ』とやれる強みがありました」と振り返ります。
とはいえ、立ち上がった取り組みを持続させていくためには、外部の経験や力が必要。TURNS堀口からは、「地域の人たちの強みは、その地域の課題をたくさん知っていること。それを外部の企業やイノベーターに渡すことで、課題が大きなチャンスに変わっていく」という意見も。
「外部の人に見てもらうことで、『自分たちが地域で行っている取り組みは、どういうものなのか』を気づかせてもらえる面もある」と大きく頷いた高橋さん。さらに柴田さんからは、「外から入るからこそ、取り組みの意味を言語化したり、翻訳したりできる」という指摘もありました。
東京も地方も、お互い現場意識を忘れずに
ここから、トークは本題に。企業側の視点から、地域のどこを尊重し、どう関わっていくのがお互いにとっての幸せを生むのでしょうか?
柴田さんは「地方の皆さんを、しっかり〝パートナー〟として意識していくことが企業活動としては重要」と答えてくれました。企業として多くの切り口を考えていくなか、現代では「地域」という切り口も欠かせないという考え方です。
一方、山野井さんからは「やはり、現地に行かなければわからないことはたくさんある。東京にいて毎日オフィスに通っていると、『これが世界のすべてだ』と思ってしまいがちですが、地方の街を歩けば過疎化が本当に大きな問題であることが肌でわかる。東京近辺に住んでいる人たちは、自分たちが食べている食材が地方から来ているという基本的なことも忘れがち。地域とつながることで視野が広がり、人生も豊かになる」という意見も。
その上で、「日本として大切にしていくべきものに対してきちんと投資していくことが金融機関としては必要。木彫や工芸など、何百年も続く素晴らしい文化資源がありますが、地方のリソースだけでは経済的に回していくのが難しいケースもある。そこに、外部の企業のやるべきことがあると思っています」と金融機関ならではの視点でお話ししてくれました。
「人×人」には無限の可能性がある
現在、SDGsなどを含めて地域へのコミットを強めたいと考えている企業は増えています。その一方で、地域側がどんな課題を抱えているかについて、企業は明確にリーチできていない状況。今回のトークセッションでも、最後に企業と地域を結ぶのは、「やはり人対人」の関係性という結論に。
高橋さんは「こゆ財団と企業とのコラボレーションも、最初は一人と一人の関係性からスタートしたもの。それを今、改めて大事にしたい。人対人の関係性には無限の可能性がありますし、都市部よりも地域のほうが、繋がるスピードも速いはず」としみじみと語りました。
「今は、企業としての立場だけでモノを言わなくてもいい。関係性ができていれば、地域の人が発信してくれますし、むしろその方がいい企業なんだと多くの人が気づき始めている。こうしたことに、地域と企業の掛け合わせで起きる無限の可能性があると思います」とTURNSプロデューサーの堀口がまとめて、トークセッションは終了となりました。
企業のさらなる地域活動への参画をつなぐのは、やはり人と人とのつながりという「古くて新しいリレーションシップ」。外から地域に飛び込む人、それを地域側で受け入れて動く人と人とのつながりが、「企業×地域」の新しい未来を開いていくのです。
文・深水央