今、日本では少子高齢化が進む中、「東京一極集中」などといわれるほどに東京には人口が集まり続け、地方では過疎化が深刻化しているという現状があります。
地方自治体では、移住・定住を促進させようと力を入れており、独自の支援策を打ち出したり、イベントなどを通して地域に触れるきっかけをつくるなど、地域の人口減少に歯止めをかけるべく模索をしています。しかし、「移住」だけでは減少し続ける人口に歯止めをかけることができない…というのが現状かもしれません。
そんな中、注目されているのは「関係人口」という考え方。
地域に移住した“定住人口”、観光に訪れた“交流人口”とも異なり、移住・定住はしなくとも継続的に地域やその地域の人たちと関わる人たちを指します。地域の外から多様な人々が関わるので、地域にとっても新しい風を吹き込むことになり、地域の担い手不足といわれる地方の課題解決につながると期待されています。
継続的に地域と関わるきっかけに。
茨城県による移住促進事業の一環として、茨城と関わることで地域の良さを知り、継続的に地域と関わりを持つことを期待した関係人口創出プロジェクトとして2018年からスタートしたのが「if design project~茨城未来デザインプロジェクト~」(イフ デザイン プロジェクト)です。
「if design project」とは、茨城県・株式会社リビタ・茨城移住計画の官民連携のもと、さまざまな分野で活躍する講師陣からの講義、フィールドワーク、企画ワークショップなど、約3ヶ月のプログラムを通して、受講生がチーム単位で茨城県の魅力を発掘し、企画・デザインを提案するプロジェクトです。
実は茨城県、全国都道府県魅力度ランキングで6年連続最下位。(2018年時点)
しかし、決して魅力がないということではなく、まだまだ掘り起こしきれていない、数多くのポテンシャルや魅力が眠っている県とも言えます。
そんな魅力を掘り起こすべく、地域を良くしようと活動を続ける地元企業3社(パートナー企業)のリアルな現状や茨城の資源について、フィールドワークを通して学び、異なるバックグラウンドを持つ参加者と共に、課題解決の企画を行っていきます。
第2期(現在募集中)の3テーマ:海×地域
第2期(現在募集中)の3テーマ:酒×地域
第2期(現在募集中)の3テーマ:農×地域
このプロジェクトの特徴としては、地域との関わりを深くしていくサポートがあるということです。県内の事情に詳しいローカルプレイヤーが間に立って、情報収集や人脈づくりをサポートします。また、多方面で活躍する方々をメンターとして招き、経験に基づいたレクチャーなどさまざまな情報を参加者がインプットする時間も設けられています。
課題毎にチームに別れて、「もし自分たちだったら何をやるか」「何ができるか」検討し、茨城の未来をデザインしていきます。プロジェクトの最終回には、受講生が時間をかけてつくりあげたプランを各パートナー企業に提案します。
また、3ヶ月のプロジェクト期間以後も、受講生とパートナー企業や地域との関係性が持続していくことを目指します。
「if design project」の企画・運営のプロジェクトマネージャーとしてこのプロジェクトの立ち上げから関わっている、(株)リビタの増田亜斗夢さんが1期目となった2018年を振り返ります。
「このプロジェクトは、フィールドワークから始まり、講義、企画ワークショップなどを9~12月の間、月1で実施します。プロジェクト開始から約3カ月後には最終プレゼンを迎えるわけですが、各プログラム間(1カ月の間)にも、参加者のみなさんが自主的に平日の夜や休日にも集まり、最終プレゼンのギリギリまで企画を練っていたり、プレゼン資料を作成していたのが印象的でしたね。また、チームによっては、事前にプレゼンに向けた検証をしたチームもありました。僕らが想定する以上の動きや盛り上がりがあり、嬉しかったですね」
プロジェクト終了以降も、関係者やフィールドワークなどでお世話になった方たちにブラッシュアップしたプランを提案したチームもあるのだとか。参加者が継続的に茨城に関わろうとする前向きな動きが見られるのを間近でみていて、自身も茨城県出身である増田さんも手応えを感じているのだそう。
第1期フィールドワークの様子
第1期フィールドワークの様子
単年のプロジェクトで課題解決に向けた提案をして終わってしまえば、その時点で地域との関係も途絶えてしまうかもしれません。そんな中、「if design project」の参加者が継続的に茨城に関わろうとするのは、プロジェクトを通してより茨城を身近に感じられる仕組みが整えられているからこそなのでしょう。
増田さんは、それぞれ異なる特徴を持つ3つのテーマについて考えることに狙いがあるといいます。
「自分のテーマに関わることだけではなく、他チームの情報も吸収することでより茨城の魅力を多面的にみることができるようにするため、あえて異なるテーマでチームをつくりました。地方の現状って、決して一側面だけではなく、その地域の産業や産品、資源・アクティビティ等、多様な側面を捉えることで多くの学びが得られると思っています。その学びが、企画を生み出すにしても予期せぬ効果や可能性があるのではないかと思ったんです」
メンターからの講義の様子
フィールドワーク後の懇親会
1期目の開催となった2018年度は、「スポーツ×地域」「食×地域」「山×地域」の3つのテーマでチームをつくり、最終日のプレゼンまで取り組んでいきました。
「スポーツ×地域」チームは、Jリーグクラブ「水戸ホーリーホック」をパートナー企業として、「廃校を活用したクラブハウスやスポーツを軸とした地方創生プラン」をテーマに、「(クラブハウスがある)城里町にしかつくれないフットボールパーク構想」を提案。
「食×地域」チームは、栗の生産から加工・販売をする「あいきマロン」をパートナー企業として、「”笠間の栗”の地域ブランドの確立と総合的なブランディング」をテーマに、「”笠間の栗”の認知を高める・おいしい栗の学校構想」を提案。
「山×地域」チームは、カフェ経営や観光情報を発信する日升庵がパートナー企業となり、「歴史と伝統ある筑波山における新たな人の誘引策」をテーマに、「筑波山の魅力を伝えるプラットフォームづくり」を提案。
三者三様のプランを提案し、当日にWEBやアプリ、ムービーや3Dプリンターでつくったプロダクトまで用意してきたチームもありました。
チームで活動することで、見えてくる面白さ
今回は「スポーツ×地域」と「山×地域」のテーマでそれぞれ参加された坂本さん、人見(ひとみ)さんのお二人にも、参加してみてどのようなプロジェクトだったのかお話を伺いました。
写真左:坂本さん、写真右:人見さん
-どのようなきっかけや動機から、昨年プロジェクトに参加されたのでしょうか?
(坂本)もともとリビタの社員の方たちと交流があったことがきっかけで、このプロジェクトの話を聞きました。私が茨城県出身だったことや、テーマや、場所、それから茨城移住計画の方も友人だったことなど、関わるヒト、コト、モノが私にとってピタリとはまって、縁を感じたのがきっかけでしたね。プロジェクトの場所となった城里町は、以前私が仕事で関わったこともあって。当時、横浜に住んではいましたが、茨城の人脈もあったというのもあって、二拠点生活もできたら面白いと思っていたところだったので参加を決めました。
(人見)私も、茨城県出身なんです。でも学生時代は都会への憧れもあって「早く県外に出たいなー」と思っていましたね(笑)。ところが、社会人になって、週末に帰るようになったときに「改めて見た地元の自然はいいな」と感じたんです。私は仕事と家庭で多忙に過ごすうちに少し疲れてしまっていて。仕事以外で何か自分ができることで生活を充実させ、豊かな生き方をしたいと思っていました。そんな中、たまたまFacebookでプロジェクトの存在を知り、月1の各プログラムも週末に集まるという頻度であれば無理なくできるし、自分のできる範囲で貢献できればと思い、参加を決めました。
-お2人とも、茨城県出身だったのですね。平日は仕事をしながら、週末にチームで集まるエネルギーに驚かされますが、このプロジェクトはどんな点がよかったでしょうか?
(坂本)10人1チームとなって企画をしていったんですが、バックボーンも性格もそれぞれ違う中で、チームとしてきちんとやり遂げることができるのだろうかという思いは当初あったのですが…。回を重ねるごとにチームがまとまっていくんですよね。いつの間にか仲良くなってて。参加者それぞれの個々のスキルを見ることができたり、家庭を持っている参加者も多くいましたが、その状況下でも熱心に取り組んでいるのは刺激にもなりました。でも堅苦しくはなくて「仕事と遊びの間」みたいな感じで、楽しく参加できるのがよかったなと思っていますね。
(人見)そうですね。人っていうところでいくと、私の「山×地域」チームは学生がいたのが新鮮で面白かったです。学生から年上の人まで多様な人たちが集まっている中でも、年齢に関係なく、みんながフラットな立場で議論ができて、良いチームになりましたね。仕事の関係でもなく、ただの友人でもない。同じテーマで仕事や課題解決を生み出していくことに関心がある人たちが集まっているので、自然と議論も盛り上がっていくんです。お酒をみんなで飲んだら、より仲も深まりますしね(笑)。チームがよくなっていく過程が面白かったです。
-地域課題に対して意識が高く熱量のある方たちが集まるからこそ、少々気合いを入れて参加しないとやり遂げられないのではというイメージを持っていましたが、年齢も仕事も立場もバラバラな人たちが集まってできるチームだからこその楽しさもあるんですね。
(人見)私は、かえって気合いを入れ過ぎたりしなくていいと思います。自分でハードルを上げてしまうと身構えて、自分が行動するのに二の足を踏み続けることになってしまいそうな気がするので。単に参加しているだけにならないためにも、アクションしたいと思ったり、実現したいと思うことは大事だとは思いますが、知識がなくて分からないことも、少しずつ知っていけばいいというスタンスで参加してみると、色々なものが吸収できたり見えてくるのではないかと思います。
(坂本)「贅沢な遊び」という感覚で、楽しんでみるといいですね。チームで取り組むからこそ、自分で何ができるのかを再発見できる。参加者という立場でありながら、茨城県出身の私としては東京にいる友人たちを茨城に招待することもできたりと、地方の良さに気づく人を一人でも多くつくれたことが楽しかったです。
坂本さんは、このプロジェクトをきっかけに城里町から打診を受けて地域おこし協力隊になり、チームの企画だけではなく自身の活動が拡がっています。また、人見さんは筑波山周辺で開催されたイベントに合わせて、その地域の空き蔵を「山×地域」の参加者と一緒になって活用し、ご本人の得意料理でもあるスパイスから丁寧につくるカレーを提供するなどして、地域の人たちや訪れる人に楽しんでもらえる企画を実施しました。
お話を伺ったお2人は、たまたま茨城県出身という共通点がありましたが、参加者のうち半分ほどは、茨城県にこれまで縁のなかった県外からの参加者なのだそう。仕事や普段属しているコミュニティとも異なる多種多様な人たちが集まり、一つの課題に向かって取り組んだ結果、さまざまな形で継続的に地域と関わる動きが生まれています。一人ではなかなか踏み出せなかったことも、チームでならやり遂げられる。参加することで、より自分の世界が広がっていきます。
地域だけではなく、関わる人たちの行動も変えていく
「各チームの動きを見ていて『素直に楽しそうで羨ましい』と思いましたね」と話してくれたのは、茨城県庁の担当者である、小森さん。参加者が前向きに地域と関わっていこうとする様子をみていて、小森さん自身にも変化が生まれたといいます。
「このプロジェクトとは全く異なりますが、県庁内でも課題解決型のプロジェクトが立ち上がった際に、『if design project』の参加者の盛り上がりや熱量に後押しされ、自ら手を挙げて参加しました(笑)。また、県庁内でも『if design project』の反響は大きくて、スキームや運営体制などに関する問い合わせがあり、部局間連携が進むなど良い効果が出ています」
自治体のプロモーションはこれまでにも全国各地で実施されていますが、関係人口と移住促進の参考事例にできるようなポートフォリオができたと、小森さんは振り返ります。
2期目となる今回の「if design project」は、現在参加者を募集中で、9月14日からスタート。「海」「農」「酒」をテーマにプロジェクトが立ち上がります。そこに、チームの企画をサポートするメンターや、現地のアテンドなどを積極的に行ってくれるローカルプレイヤーという心強いサポートのもと、パートナー企業の課題に対する企画を考えていきます。
最後に、リビタの増田さんが「if design project」への想いを語ってくれました。
「パートナー企業に提案をして、しっかりとその提案を実現させることが必要だとは思いますが、それと同じくらいに約3カ月をかけて地域との関係性を深めていくことも重要だと考えています。このプロジェクトをきっかけに、さらに地域を知ろうとしたり、茨城との多様な関わり方を発見できたりしてもらえたらと思っています。実際に昨年度も、坂本さん、人見さんを含めて多くの受講者が自分なりの関わり方を見つけてくれたと思っています。地域にとって、そして参加者や企画・運営をする私たちにとっても、色々な可能性や拡がりが生まれてくると良いですね」
「if design project」は、茨城の未来をデザインすることに関わることができるのと同時に、参加者自身にとっても自分の未来をデザインすることに繋がっていくようです。
都心からも近く、魅力をまだまだ伝えきれていない伸びしろのある茨城県で、地域の課題に向き合い、チームで活動することで新たな自分を発見していく、実践型のプロジェクトに、あなたも参加してみませんか?
文:草野明日香 写真:矢野航(theC内取材写真) 写真提供:リビタ
\詳細・エントリーフォームはこちら/
https://if-design-project.jp/
\7/25(木) if design projectの公式説明会も行われます/
https://www.facebook.com/events/641015209637296/
- if design project第二期メンバー募集
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開催日 2019年9月14日(土) 〜2019年12月15日(日) 定員 20名程度 参加費 3万円 参加費補足 ・選考の上、結果をご連絡させていただき、指定の口座に受講料をお支払いただきます。
・会場等までへの交通費、企画書制作費、企画関連費用等については別途自己負担となること、予めご了承ください。主催 【主催】茨城県庁【運営事務局】リビタ、茨城移住計画【協賛】常陽銀行 参加方法 FAQもよくお読みになった上でエントリーフォームより、お名前、ご連絡先、職業、志望動機、参加を希望するテーマなどの必要事項を入力し、送信してください。応募者多数の場合は、記入事項を加味し、選考の上参加可否を決めさせていただきますので、予めご了承ください。
※申込み締め切り│2019年8月25日24:00までお問い合わせ先 ご質問がある場合は、FAQをご覧いただくか、以下までお気軽にご連絡くださいませ。
メールアドレス│info-ifdp@rebita.co.jp選考結果発表 2019年9月6日まで(エントリーフォームにご入力いただいたご連絡先にてお知らせいたします)
実施期間 2019年9月~2019年12月
参加条件 下記スケジュール(DAY1〜4)通りに参加できる方
※全4回全てに参加できることが条件となります。【DAY1】9/14(土)フィールドワーク
会場:プレアトレ土浦、茨城県各地
【DAY2】10/12(土)講義+ワークショップ
会場:theC(東京都千代田区内神田1-15-10)
【DAY3】11/9(土)講義+ワークショップ
会場:theC(東京都千代田区内神田1-15-10)
【DAY4】12/15(土)発表
会場:シティラボ東京(東京都千代田区内神田1-15-10)