子どもたちに、世界とつながる喜びを
東日本大震災と福島第一原発事故の発災から15年目の節目を迎えた大熊町。「ゼロからのまちづくり」を掲げてきたこの町には近年、多種多様な企業や人材が集まり、先進的な取り組みが次々と生まれています。
2023年に東京から拠点を移した『in the Rye株式会社』もそのひとつ。代表の沖野昇平さんは、“世界中の人と出会って友だちになる”をコンセプトにした教育プログラム「ミーツ・ザ・ワールド」を企画・運営し、大熊町の子どもたちに世界とつながる楽しさを伝えています。
「地方の子どもたちは都市部に比べ外国人と関わる機会が少なく、外国を“自分には関係がない遠い場所”だと感じてしまう傾向があります。でも、きっかけさえあれば世界に目を向ける子どもはたくさんいる。その出会いをつくるのが僕の仕事です」。
沖野さんが大熊町でグローバル教育に力を入れる背景には、自身の経験があります。神奈川県出身の沖野さんは、中学時代に交換留学プログラムでトロントへ行き、多言語、多国籍な環境に大きな刺激を受けました。そしてその数年後、大学受験の真っ只中に東日本大震災が起こります。
「あの頃は毎日悲しいニュースばかりを目にし、毎日泣きながら勉強をしていました」と当時を振り返る沖野さん。大学合格の翌週には三陸地方でボランティア活動を始め、その後大学院を卒業するまでの10年間、被災地に通い復興に力を尽くしました。学生時代に専攻していたのが子どものコミュニケーションの発達を研究する心理学だったこともあり、被災地で子どもたちと関わることも多かった沖野さん。
ある日、忘れられない言葉を耳にします。
「頑張って勉強しても、こんな田舎では何の意味もない」。
この言葉を聞いた沖野さんは、「生まれた場所で子どもたちの将来が決まってしまうようなことがあってはならない。頑張れば誰もが世界に挑戦できることを知ってほしい」と「ミーツ・ザ・ワールド」事業を構想し、in the Ryeを起業しました。
「学び舎 ゆめの森」がつなぐ未来

起業当初は東京を拠点に活動していましたが、大熊町の教育関係者と知り合う機会があり、公立の学校でありながら、0歳から15歳までが同じ校舎で学ぶことのできる『学び舎 ゆめの森』の存在を知ります。
「ここなら自分の事業を町の未来にも役立てられるかもれない」。
そんな可能性を感じ、大熊町でチャレンジすることを決意。2023年に移住しました。
「ゆめの森ができたことで、大熊町は“教育移住”の面でも注目されるようになり、転入する家庭が増え、生徒数は2年で4倍になりました。そんな町でグローバル教育に携われることを誇りに思います」。
現在、沖野さんは小学生と中学生のクラスを隔月で交互に担当。毎回3カ国の外国人ゲスト招き、さまざまなテーマで子どもたちと交流してもらっています。ゲストのほとんどは日本に留学中の大学生。互いに学び合う関係性だからこそ、子どもたちも臆さずにコミュニーションでき対話が深まるのだとか。取材の日は「私たちのインターネット利用について」をテーマにゲストとディスカッションしました。
「外国語をうまく話すことよりも、相手との会話が成り立ったという達成感の方が大切。『もっと話したい』と感じてくれたら、語学 はいっそう楽しくなり、外国への好奇心も自 然と育つはずです」。
「ミーツ・ザ・ワールド」は、地方に暮らす子どもたちの体験格差、教育格差を埋め、世界に羽ばたく人材へと育てるというミッションを掲げた事業。沖野さんは大熊町をそのモデルケースにしたいと意気込みます。
目下の目標は「大熊町を留学率ナンバー1の自治体にすること」。
「中学生15人中5人がオーストラリアへ派遣されました。授業を通じ、子どもたちの意識が世界へ向いているのを実感します。どんどん世界に飛び出して、自分の可能性を見つけてほしいです」。
チャレンジを応援する大熊町
そんな沖野さんは、プライベートでは大熊町で出会ったパートナーと昨年結婚し、町内で新婚生活を送っています。結婚式は会場準備から段取りまですべてを自分たちの手でゼロからプロデュースし、町民200人が参列する一大イベントになりました。こうした経験からも、大熊町の「新しいチャレンジを積極的に 応援する風土」に居心地の良さを感じている という。
「前例のない企画だったのにも関わらず、 自分たちのアイデアに耳を傾け、しかもそれ ぞれができることを持ち寄ってバックアップ までしてくれる。大熊町ではいつも誰かがチャレンジしているから、自然にお互いのやりたいことを応援し合う環境が生まれているのだと思います。それが本当に居心地良くて。小さな町ですが、本当に大きな可能性を秘めていると感じています」。

また、沖野さんは自然豊かな環境を題材に「くまみっけ」というカードゲームも制作。これは、沖野さんが散歩中に撮影した昆虫や動植物の写真をカード化したもので、数人で対戦したり、互いにクイズを出しあったりして遊べるよう設計されています。これが子どもたちに大人気。昨年開催された「大阪万博」でも浜通りのユニークな取り組みとして紹介され、大きな反響を呼びました。現在カード化されているのは200種ですが、まだ1500枚ほど写真があるそうで、「今年は“2026年エディション”としてリニューアル予定」だそうです。
仕事も暮らしも楽しみながらアイデアをかたちにしていく沖野さん。これからの大熊町にどんなことを期待しているのでしょうか。
「多国籍、多文化、多業種が根付く、シンガポールのような町にしていけたらいいなと思います。ゲストで来てくれた外国人もみんな大熊町を好きになって、また来たいと言ってくれるんです。移住してくる外国人が増えたら、授業だけでなく本当に“身近で外国人と会える町”になるかもしれませんね」。
そう言って、にこやかに笑う沖野さん。その目が見据える未来は、大熊町に“世界に開かれた町”という新たな価値をもたらすに違いありません。
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