結農園
みんなのふるさとをつくる

千葉県いすみ市 結農園

忙しない日々の中で、
ふとしたときに思い出して恋しくなる場所。
「結農園」の関谷夫妻が目指したのは
「また会いたい」と思える、
“第2の田舎”のような場所だった。

 

「ふるさと」をつくりたい
夫婦で選んだ就農の道

千葉県いすみ市。九十九里浜の南端にあるこの町は、粘土質の土のおかげで米や野菜がおいしく育つ農業が盛んな町。この地に移住し、米農家として新規就農した関谷啓太郎さん・早紀さん夫妻は『結農園』を立ち上げて今年4年目を迎える。三重県にある農業法人へ就職し、米づくり一本でやってきた啓太郎さんと東京都生まれの早紀さん。二人はどのようにして出会い、夫婦で就農することを決めたのだろう?

「もともと農業に興味があり、大学時代にインターンシップで農業法人へ行くことになりました。そこで先輩社員として仕事を教えてくれたのが彼だったんです」。東京の大学に通っていた早紀さん。自然豊かな三重での農業体験は都会で暮らす彼女にとって全てが新鮮だった。「私は東京出身で、いわゆる自分の田舎という場所がありません。農業体験のときに地元の方が優しく迎えてくれて、ここが自分の田舎のように思えた。東京は私にとって少し窮屈だったけど、ここなら自分らしくいられるような気がしたんです」。農家の仕事の大変さ、喜び、人の温かさ。そして、啓太郎さんの農業に対する熱い思いに強く感動したという彼女。まさかの出会いがきっかけとなり、遠距離交際を経て結婚へ。いずれは独立して自分たちのペースで農業をしたいと考えていた啓太郎さんは、10年勤めた農業法人を退職し、早紀さんと二人で就農に向けて動き出した。

 

いすみ市への移住
新天地での米づくり

いすみ市との出会いは、啓太郎さんの地元・千葉県内で就農先を探しているときだった。東京へのアクセスもよく、小さな農家でも自分のペースで農業ができることなど、二人にとって好条件が揃っていた。

それから1年間はアパートで暮らしながら田んぼ・住居探しと資金集め。就農者の中には条件に合う田んぼと住居、その両方を探すのに苦労し農業を始めるまでに2〜3年かかるパターンや、諦めて辞めてしまう人もいる。しかし、二人が暮らす古民家と田んぼは幸いにもトントン拍子で決まった。

「この場所をたまたま車で通ったとき、里山の風景にひと目惚れしたんです。お米をつくるなら絶対ここが良いね! って。すると地元で知り合った方がたまたま家と田んぼを紹介してくれることになって……。本当にラッキーでした」。三重の農業体験で見た風景とこの場所が重なったという早紀さん。いすみ市へ来てちょうど1年。二人の就農は順調にスタートした。

最初の数年は二人で別の仕事と掛け持ちしながらの農業だった。「お米は売値が安いので、量をたくさんつくらないと米づくりだけでは生活できないんです」。農家として10年のキャリアを持つ啓太郎さん。しばらくは農業だけでは食べていけないことを見越して、1年前から地元農家の元へ働きに出ていた。それから少しずつ農地を広げ、あと少しで農業だけで生活できるところまで来ている。

 

自分たちの感じた優しさを
みんなにも届けたい

「こうして順調に米づくりができているのは近所の農家さんたちのおかげです。田植え機、トラクター、コンバイン……。新しく購入すると莫大な金額になる機械のほとんどは譲ってもらったり、安く売ってもらったり。移住して間もない僕たち夫婦を、皆さんは本当に心暖かく、家族のように迎え入れてくれました」。二人が暮らす大野地区の農家はほとんどが70代前後で、辞めていく人も多かった。ただ、素晴らしい土壌があるのに後の担い手がいないことに危機感を持っていたそう。地域の農家にとって、関谷夫妻はまさに期待の星だったのだ。

縁もゆかりもない場所での新規就農。人との繋がりに助けられて来た二人はこの感動をたくさんの人に伝えたいと、農業体験や田舎体験など様々なイベントを始めた。「地元の人たちの温かさを知って、私たちもそんな存在になれたらいいねって。人の温もり、そして田舎の心地よさを多くの人に届けていきたいです」。東京で生まれ、自分の田舎がなかった早紀さんはそう言った。田舎がない人も、訪れると〝ふるさと〟を感じられる存在へ。かつて機械がまだなかった時代、一人では到底終わらない農作業を集落の農家が協力してこなしていた風習を「結」と呼んでいた。いすみの地で感じた「結」のような強い関係を多くの人とも築きたい。そして都会と田舎を結ぶふるさとのような存在でありたい。結農園の「結」の字にはそんな思いが込められている。

 

移住者の先輩とのコラボで
生まれた数々の企画

ほぼ月に一回ペースで開催される結農園の農業・里山体験は、いすみ市内でシェアハウスやカフェを営む『星空スペース』とのコラボ企画として行なわれている。

「体験イベントをやりたいけど何から手を付けよう……? と考えていたとき、一緒にやろうと声をかけてくれたのが、星空スペースの三星夫妻でした。私たちは農業しかできないけど、三星夫妻のカフェと農業がタッグを組むことでできることが大幅に広がりました」と早紀さん。移住者の先輩でもある三星夫妻との出会いは二人のいすみでの暮らしをおもしろい方へと引っ張ってくれた。現在では彼らとの体験イベントを通して、さらに参加者同士で仲良くなり新しいつながりも生まれている。「度々は来れないかもしれないけど、ここでの体験をふと思い出して癒されてくれたら嬉しいです」と啓太郎さんは話してくれた。

体験イベントはすべてが一回から参加できる。関谷夫妻の優しい笑顔にぜひ一度、会いに行ってほしい。

 

文・編集:本郷結花  写真:荒川慎一

                   

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