群馬とつながる。わがまちのキーパーソン
【VOL.7 藤岡市|星野 潤さん×岩本 哲さん】
二人の若手宿主が語る、
観光以上の来訪者を引き寄せる鬼石地区の魅力

ふるさと回帰支援センターが発表する「移住希望地ランキング」で毎年上位にランクインする群馬県。県南西部の藤岡市鬼石(おにし)地区で宿泊施設を営み、地域と関係人口を結ぶ“鎹(かすがい)”のような役割を担っているのが、岩本哲さんと星野潤さん。自身も移住者である若き宿主のお二人に、観光に留まらない来訪者を引き寄せる鬼石の魅力を語ってもらった。

お話を伺いました。

星野 潤さ

群馬県前橋市生まれ。世界各国や日本各地で放浪の旅をした後、東京や京都で暮らし、2019年に地域おこし協力隊として藤岡市に移住。3年間の任期後も藤岡市に残り、鬼石地区に民泊施設「暮らす宿・ほしのいえ」を開業。「ほしの糀」代表として糀づくりから味噌の製造・販売を行うほか、「発酵案内人」を名乗り、味噌作りなどのワークショップを開催している。

岩本 哲さ

群馬県伊勢崎市生まれ。ワーキングホリデーでニュージーランドに長期滞在した後、東京・品川のゲストハウスに勤務。2017年、自然に魅せられた鬼石地区に移住し、2020年にゲストハウス「さんと宿(す)」をオープンした。宿名でもあるニックネームの「サントス」は、本名の「さとし」を外国風にもじった、品川での修業時代のあだ名に由来する。

 

世界の旅を経て、鬼石の自然に魅せられ移住を決意

岩本さん「キールさんが鬼石の移住第一世代だとすると、僕たちや山猫バイオリン工房の金子さんは、それに続く第二世代。そして、最近移住してきたスリランカカレー店の木村さんや、ライフパレットカフェを開業したお二人、古谷デザインの古谷さんたちを、僕らの間では“サードウェーブ”って言っています」

星野さん「地方移住という言葉がクローズアップされるようになって、今でこそ人気の移住地として注目されている鬼石ですが、最初の頃の移住者は“よそ者感”が強かったそうで、第二世代までの人たちが地元に馴染んでそういう壁を無くしてくれました。今は地域の人たちが移住者を見守ってくれている空気があって、先輩移住者と新しい移住者の関係も良く、とても良い循環が生まれていると思います」


宿主として鬼石を訪れる人たちを迎えている岩本さん(右)と星野さん(左)。定員を超える宿泊客があった時には助け合う間柄だ。

ほぼ同時期に鬼石地区に移ってきた岩本さんと星野さん。「サントス」の愛称で親しまれる岩本さんは、かつてニュージーランドに、星野さんはオーストラリアにワーキングホリデーで長期滞在し、現在はともに宿泊施設を営むなど共通点が多い。そんな彼らが鬼石に惹かれた理由とは。

岩本さん「鬼石に遊びに来た時に見た神流湖の風景が、なんとなくニュージーランドの景色に似ていたんです。湖の背景に山があって、その上に青空が広がる景色がとても壮大で」

星野さん「僕も自然の豊かさに惹かれました。鬼石は山がすごく近いし、何より川が綺麗。水が綺麗な場所というのは、田舎暮らしをする上で欠かせない条件だったので」

「鬼石でゲストハウスを始めたい」という岩本さんの熱い思いに呼応した地元の人たちや大工さんらのサポートがあってオープンできたという「さんと宿」。館内には地域の人から譲り受けた木材や家具が多数使われている。

 

地元の人と外部のゲストが一体になって盛り上がる「鬼石夏祭り」

岩本さんが冒頭で話した「キールさん」とは、2008年に鬼石に移ってきたアメリカ人アーティスト、キール・ハーン氏のこと。彼が運営する「シロオニスタジオ」では、世界中から集まったアーティストが鬼石に滞在し、地域住民と交流しながら作品制作に取り組むアーティスト・イン・レジデンスの取り組みが行われている。

こうした国際交流が盛んな土地において、関係人口という文脈で二人が象徴的なイベントとして挙げるのが、毎年7月に行われている「鬼石夏祭り」だ。

藤岡市の三大夏イベントのひとつ「鬼石夏祭り」。2日間にわたって山車が町を練り歩き、人口約6千人の地区に毎年2万人近い人が訪れる。

岩本さん「その時期は外国から来たアーティストの人たちも太鼓の練習に毎日参加して、本番のお囃子でも山車に乗って太鼓を叩くんです」

星野さん「鬼石は夏祭りを中心に一年が回っているような地域ですからね。山車は僕らのような住民でも一定の曲目を叩けるようにならないと乗れる場所じゃないんですよ。僕らの子どもたちも練習に参加しているから、そのすごさが一層分かります」

地域おこし協力隊を卒隊後も藤岡市に根を下ろすことを決めた星野さん。「暮らす宿・ほしのいえ」を拠点に、農のある暮らしの実践と発信を行っている。自家製の米麹や味噌の製造・販売も手がける。

岩本さん「きっと彼らもキールさんからその重みを教わっているから、本気で盛り上げてくれる。地域の人たちと一緒に山車を引いて、真剣に太鼓を叩いて、ジャパニーズカルチャーを目いっぱい楽しんでいます。昔は地域の人しか中に入れない空気があったと聞きますが、今は外の人も巻き込みながら祭り文化を残していこうというパッションをものすごく感じます」

 

立ち上げから関わり、5年越しで“奇跡”が実現した「鬼Rock!」

二人が任命を受けている藤岡市移住定住支援員としての活動や、月に一度開催される「鬼石マルシェ」の出店など、接点の多い二人。その中で、2025年の秋が6度目の開催になった音楽フェス「鬼Rock!」は、運営側として特に力を入れてきたイベントのひとつ。


第6回「鬼Rock!」の様子。当日は法螺貝吹きの練り歩きや地元ゆかりのアーティストの演奏、チアダンスクラブの元気なパフォーマンスなど、多彩なプログラムで大いに盛り上がった。

岩本さん「移住して最初の年に、鬼石マルシェに出店している主婦の方々から『鬼石で音楽フェスをやりたいね』という話があって。『それなら僕らも手伝います』と言って、うちで最初の企画会議をやったら、いつの間にか中心メンバーになっていました(笑)。地域の人が主役のフェスをコンセプトに据えて毎年規模を大きくしてきて、一昨年からは鬼石夏祭りに参加している5つの町がお囃子を披露してくれることになりました」

星野さん「5町が同じステージに揃うなんて、地元感覚からすると奇跡的。初開催の時から交渉してきてやっと実現できたことだけど、やっぱり全部の町を迎えるのは裏方の僕たちには、ものすごい緊張感があるよね」

「一度泊まった方がリピートで来てくれると嬉しい」と岩本さん。宿泊客とはSNSで継続的につながりを持ち、鬼石の関係人口創出に貢献している。

岩本さん「そうですね。どの町も伝統と誇りがあって、中途半端なものを見せられないという気持ちで本番前に何度も練習をしてきてくれるので、本当にありがたいし、身が引き締まる思いです。一昨年はフェスが終わった後に近所のコミュニティセンターの前を通ったら、中から皆さんの笑い声が聞こえてきて、『あ~、楽しんでもらえてよかった』ってホッとしたのを覚えています」

星野さん「去年は1,000人くらいの人が来てくれて、本当に理想的な形になりつつあります。今のところは地元からの来場者が中心ですが、今後は外の方にも来てもらって、もっともっと大きなイベントになるよう盛り上げていきたいです」

 

次は自分たちが“ここでしかできない体験”を伝える立場に

そのほか、それぞれの取り組みとして岩本さんはタケノコ掘りや梅の収穫など周囲の環境を活かした田舎暮らし体験ツアーを、星野さんは味噌作りのワークショップを行っている。最後にその活動への思いも語ってくれた。

築80年の古民家をリノベーションした星野さんが営む「暮らす宿・ほしのいえ」。ワークショップでは、10年以上味噌作りを続けている星野さんの技術に、地域の伝統を加えた知識を伝えている。

星野さん「サントスは鬼石のフィールドを使うのがすごくうまいなって感じるし、鬼石の面白い人や場所を本当に隅々までよく知っているよね」

岩本さん「宿を立ち上げたのがコロナ禍の時期だったので、人の流れが戻ってきた時にお客さんから何を聞かれても答えられるよう、地域の中をとにかく歩いてみたんです。例えば、実がなってもほったらかしの柿の木を見つけて、それが干し柿のワークショップにつながったり。チェックインの時にお客さんと話して、その方に合いそうな人やコトを思いつくことも多いので、星野さんにも突然予定を聞いちゃうことがよくありますよね」

星野さん「確かに、前日に相談が来ることもあるね(笑)。僕の方は、宿や近くの施設に出張して味噌作りを教えています。もともとこのあたりは『味噌街道』と呼ばれていて、隣の甘楽町や上野村には『轟みそ』や『十石みそ』という特産の麦味噌があるほど味噌蔵が多い土地なんです。僕が作っているのは主に米味噌ですが、地元産のお米や大豆を使った味噌作りで、地域の伝統を伝えていければと思っています」

岩本さん「これまでの旅を振り返ってみると、泊まったところがどういう宿だったかということよりも、その宿の人が料理を作ってくれたり、地元の人しか知らないような場所に連れていってくれたりしたことの方が記憶に残っています。だから今度は、僕たちがそういう体験を与えられる側になっていきたいですね」

香港の学生を対象とした鬼石の街歩きプログラムを、二人が協働して実現した。

藤岡市に興味を持つ方へのメッセージ

星野さん 鬼石は都心へのアクセスにも便利な環境なので、二拠点居住や在宅と通勤を組み合わせたハイブリッドな働き方をする方にもおすすめの場所です。スーパーやコンビニも普通にあるので不便じゃないですし、先輩移住者やアーティスト・イン・レジデンスで来るアーティストも多いので、何か新しいことを始めたい方にはぴったりな環境だと思います。

岩本さん 藤岡市に興味を持ってくださる方には、「近くに温泉もあるし、おいしい食べ物も多いし、リラックスできる場所ですよ」とお伝えしています。僕らの宿に泊まってもらえれば、きっと興味を持ってもらえる人や体験につなげますので、ぜひ一度お越しください。


暮らす宿・ほしのいえ

養蚕農家だった築80年の古民家をリノベーションした体験型宿泊施設。薪ストーブのあるリビングや、かつての養蚕室をシックに改装した談話室など心落ち着く空間が広がる。味噌や糀づくりなどのワークショップやアーティストによるイベントも開催されるほか、移住を検討する人に向けた地域案内も行っている。

群馬県藤岡市譲原1006
電話:090-6178-8550
インスタグラム:@hoshinoie_kurasu_yado


鬼石ゲストハウス さんと宿(す)

昭和建築をリノベーションした素泊まりのゲストハウス。宿泊者同士の交流の場でもあるコモンルーム、共同キッチン、エアコン完備のドミトリーと個室を合わせた3部屋、ウッドデッキを備え、ゆったりとくつろげる。宿主の岩本さんが、群馬や鬼石の魅力を楽しむための滞在のヒントや、地域の人・場所を紹介してくれる。

群馬県藤岡市鬼石414-2
電話:080-7684-0480
ホームページ:https://024santos.com/
インスタグラム:@onishi.guesthouse.santos


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