関東平野の北端に位置し、新幹線や高速道路が複数交差する交通の要衝・高崎市。群馬県最大の商業都市でありながら、農業地帯や山々にも近く、都市機能と自然環境のバランスに恵まれたまちだ。
新幹線通勤とリモートワークを組み合わせ、フルタイムで働きながら子育てにも向き合う末續仁美さん。東京でのキャリアを続けながら高崎に暮らす、その日常を尋ねた。
末續仁美さん
東京都→高崎市(2023年移住)
福島県出身。都内の企業に勤務し、書籍編集の仕事に携わる。コロナ禍をきっかけにリモートワークが可能となり、自然豊かな環境での子育てを希望して高崎市へ移住。現在は週1~2回の出社と在宅勤務を組み合わせた働き方で、東京と高崎を行き来する生活を送っている。夫と子ども、愛犬、愛猫とともに高崎での暮らしを満喫中。
午後6時。
パソコンを閉じたら、窓の向こうに山がある。
東京の仕事はそのまま、暮らしは高崎へ。
東京に住んでいた頃は生活の中心が仕事になりがちでした。高崎に移ってからは、周囲の環境が穏やかなこともあり、仕事とプライベートの切り替えがしやすくなったと感じています。仕事中は集中し、終業後や休日にふと外に目を向けると、山々に囲まれたきれいな景色が広がり、心が緩みます。この心地よいバランスを大切にしながら働いていけたらと思っています。
――東京から離れて暮らそうと思ったきっかけは?
末續さん|以前から夫は、「自然が豊かなところに住みたい」と話していました。ただ、私たちは二人とも東京に会社があるので、現実的には難しいと考えていたんです。とはいえ、東京に住んでいた頃から、週末になるとキャンプや登山を楽しむために、群馬や千葉、神奈川の山間部などに足を運んでいました。移動距離が長いので、行きも帰りも必ず渋滞に巻き込まれてしまうんですよね。どうせ毎週のように郊外に行くなら、いっそその近くに住んでもいいのかもしれないと思うようになりました。
そんな中、コロナ禍をきっかけにリモートワークが広まり、思い切って移住を決断しました。そのタイミングで夫はフリーランスになり、現在は夫婦ともに高崎と東京を行き来しながら働いています。
――移住先の候補地は他にもありましたか?
末續さん|千葉、軽井沢、つくば、鎌倉、丹沢、相模原など、1年ほどかけていろいろな地域を見て回りました。出社を考えると、東京からのアクセスの良さは外せない条件でしたし、在来線の乗り継ぎはできるだけ避けたかったので、東京まで直通で行ける場所が理想でした。
新幹線が使える、もしくは在来線1本で、1時間程度で行けるエリアに絞りつつ、福島にいる両親に育児のサポートをお願いすることがあるため、実家から行き来しやすい距離であることも重視しました。
最終的には、高崎市か、つくばエクスプレスが通っている茨城県つくば市の二択に。どちらも何度も現地を見に行きました。
――高崎に決めた理由は何でしたか?
末續さん|洗練された雰囲気のあるつくばにも惹かれましたが、高崎は都市機能がありながら、山の存在をより身近に感じられたんです。軽井沢も近いし、秩父や新潟などのレジャースポットにも出やすい。夫も高崎を気に入っていましたね。
防災面から見ても、群馬県は比較的地震が少なく、津波の心配がないことは大きな安心材料になりました。
――東京と行き来する生活をしてみて、いかがですか?
末續さん|ありがたいことに新幹線通勤をさせていただいているのですが、必ず座れますし、移動時間を仕事に充てられるので、とても助かっています。片道約50分の間に、いろいろな業務を進めることができます。
難点を挙げるとすれば、新幹線の終電が早いこと。会社の会食などがあると、途中で抜けなければならないこともあります。ただ、同じ部署のメンバーも週1〜2回程度の出社なので、働き方の違いを強く意識することはなく、今のところ無理なく続けられています。

末續さんは移住にあたって高崎市の移住支援金を申請。子育て世帯は金額も加算される。
――オフィスと在宅で、仕事の内容に違いはありますか?
末續さん|今は編集の仕事なので、東京に出社する日は、打ち合わせや会食、取材など対面で行う業務が中心になります。また、印刷所から届いた校正紙に赤字を入れる作業など、実際にオフィスにいなければできない仕事も、そのタイミングでまとめて行います。在宅勤務の日は、オンラインでの打ち合わせやパソコンを使った編集作業がメインです。
ランチタイムは外食して気分転換することも。外食できる場所は意外と多くて楽しんでいます。
――プライベートで満足度が上がったと感じることは?
末續さん|まず思い浮かぶのは、食べ物のおいしさです。私はフルーツが大好きなのですが、周辺には果樹園が多く、季節ごとにさまざまな果物を楽しめます。冬から春にかけてはイチゴ、春にはサクランボ、初夏は桃、秋にはブドウや梨など、1年を通して旬の味覚が身近にあります。農園で直接購入できるので、東京では高価なシャインマスカットなども、手頃な価格で味わえるのが嬉しいですね。
また、新潟に近いこともあり、海産物の品ぞろえが充実しているスーパーや、JAの直売所もあります。選択肢が多いのは楽しいし、質の良い食材が手に入るので、健康面でも良い変化を感じています。

娘さんとイチゴ狩りへ。高崎市は北関東屈指の果樹産地で、旬の味覚がすぐそばにある。梨・プラム・桃などは県内トップクラスの生産量を誇り、梅は東日本一。
末續さん|食以外では、レジャー環境の充実も大きいですね。冬にはスキー場で子どもとそり遊びをしますが、日帰りで無理なく出かけられます。公園も多く、遊び場に困ることはありません。まだ子どもと登山には行けていませんが、近くに山がたくさんあるので、これからが楽しみです。高崎では渋滞も少なく、移動のストレスがないことも含めて、レジャーの満足度が上がりました。

スキー場が日帰り圏内に。移動時間が短くなったぶん、遊びの時間も子どもの笑顔も増える。

市内には子どもが思い切り遊べる広い公園も数多く整備されている。
――子育ての環境については、どのように感じていますか?
末續さん|ありがたいのは、保育園に入りやすい点です。高崎市では毎月、保育園の募集と受け入れが行われています。定期的に状況を確認していれば、どこかしらに空きが見つかることが多く、比較的入園しやすい印象です。
また、四季の移ろいを身近に感じられることも、子どもにとっても良い環境だと思います。季節ごとの旬の食べ物や収穫される作物を自然と学べますし、周囲には緑も多く、秋には落ち葉拾い、夏はプール、春には桜を楽しむなど、日常生活の中で季節を感じられます。
一方で、教育の選択肢については、他の都市部と比べるとやや限られていると感じる面もあります。
――ご近所付き合いや地域の雰囲気について教えてください。
末續さん|周りの皆さんには良くしていただいています。お隣の方が畑をされていて、採れたての野菜を分けていただいたり、町内清掃の際にお話ししたりと、自然なかたちで交流があります。
地域の運動会にお誘いいただき、綱引きに参加したこともありました。さまざまな地区から人が集まるため、会場は活気に溢れていて、子どもも多く、子育て世代がたくさん暮らしている印象を受けました。もちろんご高齢の方もいらっしゃいますが、高齢化が進んでいる雰囲気はあまり感じません。
新しい家もたくさん建っていて、地域全体にほどよい活気があると思います。いわゆる田舎特有の距離感やしがらみのようなものを感じたことはないですね。
――高崎でこれからやってみたいことはありますか?
末續さん|今は子育てと仕事で手一杯なので難しいのですが、家庭菜園にもう一度チャレンジしたいですね。移住したばかりの頃、ご近所さんからブロッコリーの苗をいただいて育ててみたことがあるんです。無事に収穫できたのですが、次は別の作物を育てようと考えているうちに、あっという間に畑が雑草に覆われてしまいました(笑)。もう少し時間に余裕ができたら、庭の手入れも含めて、もう少し丁寧な暮らしを楽しめるようになりたいですね。

高崎市内には古墳が多く点在しており、古くから住みやすい土地だったことがうかがえる。
末續さん|今は賃貸住宅に住んでいますが、広めの土地を購入して新居を建てているところです。高崎は駅から少し離れると自然が豊かで、手頃な価格の土地を見つけやすいんです。私たちが選んだ土地は見晴らしが良いので、家族や友人たちと庭でバーベキューを楽しむのを今から楽しみにしています。
そうした都心部ではなかなかできない暮らしを、これからも少しずつ実現していきたいですね。
編集後記
キャリアも子育ても食の楽しみも、どれかを諦めるのではなく、すべてをどう両立させていくか。末續さんの暮らしからは、そのヒントが見えてきます。
リモートワークと新幹線通勤を組み合わせ、東京での仕事や人とのつながりを保ちながら、高崎では自然や季節の恵みを日常の中に取り込む。特別なことをしているわけではないけれど、その積み重ねが、暮らしの豊かさにつながっているように感じます。
都会的な働き方を手放さず、自然に近い場所で暮らす。高崎は、そんな「両立したい」という思いを、やさしく受け止めてくれるまちなのかもしれません。
ぐんまトリビア
パスタのまち、高崎
高崎は市内にパスタ専門店が150軒近くある「パスタの聖地」。毎年11月にはその頂点を決めるイベント「キングオブパスタ」が開催される。末續さんはカフェダイニング「シトラスタイム」のパスタがお気に入り。
気軽に温泉三昧
高崎の暮らしに欠かせない魅力の一つが、身近に楽しめる「温泉」。市内には10か所以上の源泉があり、日常的に天然温泉を楽しめる。末續さんの娘さんも温泉大好きで、親子でよく出掛けているそう。
