群馬県 移住者インタビュー
【VOL.15 板倉町|吉野宏明さん 】
農作業の後は、都内のイベントへ。
やりたい仕事も趣味も手放さない移住

群馬県最東部に位置し、東京への通勤者も多く暮らす板倉町。日本有数のキュウリ生産地として知られるこの町で、独立就農して4年目を迎えた吉野宏明さん。実は板倉町に移ることを決めた背景には、農業を始めるほかに“もうひとつの理由”があったそうで…。

お話を伺いました。

吉野宏明さん

東京都→板倉町(2018年移住)

福岡県久留米市で生まれ育ち、東京大学進学に伴い上京。卒業後、同大の大学院に進んだが、自身の将来に迷いを感じて農家を志す。町内の企業に勤めながら農業を学び、2023年にキュウリ農家として独立。

午後1時。

一日の仕事を終え推し活で東京へ。

マイペースこそ至上。

子どもの頃から何をするにもマイペースで、他人が何をしていても気にしないし、周りが自分のことをどう思っていても気にならない性格でした。今も「無理はせず、マイペース」が人生のテーマです。ベテラン農家さんには「それじゃダメだよ」と叱られてしまうかもしれませんが、やる時はやる、やらない時はやらないと決めて、無理なことはしません。


異例の転身を果たした吉野さん。農家の減少が著しい中、「地元の人たちが歓迎してくれて嬉しかった」と語る。

――ご経歴を拝見する限り、東大の研究から農家に転身した理由を聞かれることが多いのでは?

吉野さん|そうですね(笑)。大学ではシアノバクテリアという細菌を用いて植物の光合成で発生する電子の動きを調べる研究をしていました。ただ、研究そのものは好きだったのですが、研究結果を論文などにまとめたりするのが苦手で、このまま研究者の道を進むのは合わないと感じてしまったんです。そこから何かをつくる仕事がしたいと思うようになって、農業に興味を持ちました。

――ということは、場所ありきではなく、目的が先にあった移住だったんですね。

吉野さん|はい。でも、農業の経験はゼロだったので、まずはどこかで学ぼうと関東圏で新規就農の支援を行っている企業を探しました。そこで見つけたのが、板倉町でカット野菜の製造を行う富士食品工業株式会社です。入社して4年ほど務める中で、契約農家さんに出向する機会をいただき、農業の基礎を一から学びました。

その農家さんはキャベツとレタスを主に生産していましたが、この地域にはキュウリ農家も多く、自立を考えた時に「キュウリならハウス一棟からでも始められる」と思ったんです。そう考えると、わざわざ別の土地に移る必要はないと思い、板倉に腰を据えることを決めました。


独立後は農協の青年部やキュウリ農家の集まりに参加して生産技術を磨いている。

――就農の準備はスムーズに進みましたか?

吉野さん|国の就農準備資金を活用しながら、運よく引退される農家さんのハウスを借りることができたので、初期費用をだいぶ抑えて始めることができました。今は13アールのビニールハウスでキュウリを中心に、冬場はレタスも栽培しています。


ハウスの中ではイヤフォンで好きな音楽を聴きながら作業をすることが多いそう。

――「無理はせず、マイペース」がモットーでも、一人で農業をしているとその通りいかないことも多いのでは?

吉野さん|確かに、キュウリが収穫期を迎える夏場は、常時40℃を超えるハウスの中で作業することになりますし、時間的にも一杯一杯になることがあります。その時期は福岡から母が手伝いに来てくれるので助かっています。

実は今住んでいる家は、一人暮らしのアパートに二人で何ヶ月も住むのは大変だろうと両親が買った“吉野家の別荘”で、僕は親に家賃を払って住まわせてもらっているんです(笑)。


3月に種をまき、7月から収穫を迎えるキュウリ。収穫期以外は基本的に“ワンオペ”だ。

――吉野さんが移住したことで、今ではお母さまが群馬県の関係人口になっているということですね。

吉野さん|そうなりますね。実家は久留米市でも街なかにあるので、板倉に来た時は「こっちは空が広い」とよく言っています。向こうでは車の運転をしないのに、こちらでは運転を楽しんでいて、来るたびに近所でおいしいお店を見つけているようです。今年は明和町の梨をおみやげに持って帰りました。


収穫されたキュウリ。出荷の箱詰めは母の仕事で、親子のコンビプレーで最盛期を乗り切る。

――なるほど、それでは繁忙期以外の時間は自分のペースで過ごせるんですね。

吉野さん|実はもうひとつの作物にレタスを選んだのも、マイペースが保てるからというのが一番の理由なんです。

レタスの栽培は、キュウリの収穫期に比べると一日の作業量が20分の1くらいになる時もあるので、冬場はハウスの開け閉めだけして、あとは一日じゅうゴロゴロ過ごすこともありますね。

休みの時はスマホでゲームをしたり、家が広くなったのでプロジェクターでサブスクの映画を観たり。あと、福岡に住んでいた頃から声優の田村ゆかりさんのファンで、出演しているラジオのイベントやライブを見るために東京まで出かけることが楽しみです。

――先ほど関東の中で移住地を探したと伺いましたが、もしかしてそれも推し活のため?

吉野さん|その通り、自分がやりたい仕事と趣味を両立させられるからです。ここなら東京まで普通列車でも2時間以内で行けますし、埼玉の大宮にも近いですからね。ハウスの作業を午前中に終わらせて、そこからライブに行くこともできるんですよ。午後から東京まで行ってライブを見ても、その日のうちに帰ってこられる。年に6回くらいは何らかのイベントに行っています。

――本当に自分らしい暮らしを構築されていますね。今後の目標は?

吉野さん|今、この隣の敷地に8アールのハウスを新設する計画を進めています。資金には、群馬県の農業経営力向上事業の支援金を活用する予定です。

大学院時代、研究者が研究資金の補助金を得るのにとても苦労しているのを間近で見てきたので、行政の支援制度には正直ハードルの高さを感じていました。でも、就農準備資金の申請の時も今回も、役場の方がとても親身にサポートしてくださって、本当に助かりました。

すべてが順風満帆というわけではありませんが、今後も試行錯誤を続けながら地道にやっていきたいと思っています。


現在整備を進めているハウス建設予定地。

――最後に、暮らしの面で感じる板倉町の良さを教えてください。

吉野さん|板倉町は、人のつながりも、生活に必要な施設との距離もちょうど良く、住みやすい環境だと思います。自家用車は欠かせませんが、車があれば買い物や病院などもすぐ行けますし、東武線も走っているので、東京へのアクセスも便利です。

僕が住んでいるエリアは板倉の中でも新興住宅地なので、比較的新しい住民が多く、アパートも多くて人の入れ替わりが激しいので、地域のしがらみが少ないんです。そのぶん、地域に溶け込みやすいと思います。それでいて、農業を始める人を歓迎してくれる雰囲気があるので、就農を考えている方にはとてもおすすめの環境ですよ。

吉野さんが活用した支援制度

就農を目指すにあたり、吉野さんが活用したのは、国の新規就農者育成総合対策。研修期間中の生活費や、独立に向けた準備資金として年間最大150万円が支援される制度です。

さらに現在は、隣接する敷地に新しいハウスを建てる計画が進行中で、その資金として群馬県の農業経営力向上事業を活用する予定。この事業は、経営の安定化や規模拡大を目指す農家を対象に施設整備や機械導入を支援する制度で、「次のステップに進みたい」と考える農業者を力強く後押ししています。

支援制度の充実に加え、町役場担当者の丁寧なサポートも心強い存在。群馬県は、これから就農を目指す人にとって、まさに“始めやすく、続けやすい”環境といえるでしょう。

※本記事に記載している制度内容は、2026年2月時点の情報をもとにまとめています。吉野さんが実際に活用された当時の内容とは異なる場合があります。

※制度の名称・補助内容・要件は変更・終了している可能性があります。

 

編集後記

独立農家の目標と趣味の推し活を両立させるために、板倉町を選んだ吉野さん。移住というと、仕事や近所付き合いなど、「いろいろがんばらなければならない」と自分にプレッシャーをかけてしまいがちですが、吉野さんの話を聞いていると、もっと自由でいいのだと感じさせられます。支援制度を上手に活用しながら足場を固め、自分のペースで暮らしを楽しむ姿から、「焦らず、自分らしく生きていけばいい」というメッセージを受け取ったような気がしました。

 

ぐんまトリビア

住宅を建てやすい板倉町

板倉町は群馬県内で持ち家比率が最も高い自治体だ。2020年度における町の可住地面積は99.9%と県内1位(※1)で、住宅地の平均価格は東京都の26分の1以下(※2)と割安。広い家を持つなら最適な環境といえる。吉野さんのように、まずは賃貸で暮らしに慣れながらマイホームの取得を検討するのもありだろう。
※1 出典:総務省統計局 統計でみる都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系)
※2 出典:国土交通省 令和4年地価公示


板倉町の農業について

広大な平原と水源に恵まれた板倉町では農業が盛ん。そのうち吉野さんも育てるキュウリは、算出額で群馬県内1位、全国でも第5位(※3)という板倉町の主要農産物だ。また、古くから「群馬の米蔵」と呼ばれ、主にコシヒカリの生産で有名。町内には公営の貸し農園「ふれあいファームいたくら」もあり、お試しで農業を始めたい人におすすめ。
※3 出典:農林水産省 令和2年市町村別農業産出額(推計)データベース(詳細品目別)

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