【福島県川俣町】「このまちのファンを増やして、地域のつながりを作りたい」地元の移住相談員が夢見る「あの頃」

川俣町は福島県の中通りに位置するまち。日本有数の絹織物の産地であり、養蚕を広め伝えた「小手姫(おてひめ)伝説」が残るなど、その歴史のはじまりは飛鳥時代にまで遡る。現在は「川俣シルク」の他、絹織物のはた屋旦那衆が娯楽としていた闘鶏用のシャモを食用とした「川俣シャモ」などの名産品が知られている。東日本大震災の際は町内の一部が計画的避難区域に指定され、2017年に解除された。

そんな川俣町で生まれ育ち、現在は川俣町移住・定住相談支援センターの相談員として働いている菅野優奈さんに、川俣町への想いを聞いた。

小さい頃に経験した震災。大人になるにつれて、その意味を実感するように

生粋の川俣人である菅野さんは、小学2年生の時に東日本大震災を経験した。当時住んでいた地域は福島の中ではそれほど大きな被害があったわけではなく、まだ子どもだったこともあり、それほどはっきりとは覚えていない。しかし、近隣の山木屋小学校に通う児童たちが避難してきたことは覚えているという。

山木屋地区は川俣町の南東部に位置し、東京電力福島第一原発の事故で避難指示区域に指定された場所。指示を受け避難してきた山木屋小学校の子どもたちは、菅野さんが通う小学校のランチルームを借りて授業を行っていた。

「普段の授業はわたしたちと別々で、運動会などのイベントや体育の授業は一緒にやっていました。でも、あまり話す機会はなく、『違う学校の人たちがいるなあ』くらいの認識で。深く考えたこともなければ、仲良くなることもなくて、当時はまだぼんやりとしたイメージしかなかったんです」

それから時間が経ち、高校生になった頃。かつて避難してきた山木屋の人たちと友達になったことで、少しずつ、自分たちが成長過程で経験してきたことについて話をするようになっていった。といっても、「そんなに深い話をしたわけではない」と菅野さんは言う。

「『お互い知ってたけど、なんか今まで話してなかったね』とか、それくらいの会話です。でも、そういうやり取りを通して、少しずつ、避難することや避難を受け入れることの大変さに気付いていったんです。その頃から徐々にまちについて考えるようになりました」

それまで菅野さんの中では、山木屋の人たちは「山木屋の人たち」という概念のようなものでしかなかった。しかし高校に入って友達になった人が山木屋出身だったことで、「山木屋の人たち」は、自分と同じように名前や生活を持った身近な個人なのだと理解できるようになった。

こうした経験は、ある程度人生を重ねてきた大人であれば身に覚えがあるだろう。日々目や耳にする災害のニュースは多くの人にとって単なるニュースや数字でしかないが、その中に知人が含まれていると知った瞬間、単なるニュースや数字から自分ごとになる。自分と同じように人生を持った個人がその背景にいることがリアルになる。

こうした経験を経て、菅野さんの中では、言語化以前の意識のレベルで、川俣町や福島の復興への想いが育っていった。

相談員の仕事を通して新たに知る川俣町

高校を卒業し、しばらくアルバイトをした後、移住・定住相談支援センター相談員の募集があることを知って応募。2022年1月から正式に相談員として働くことになった。菅野さんが川俣町のために何かをしようと具体的な行動を起こしたのはこれが初めてだ。

「まちのために何かしたかったので、川俣町にそういう仕事があるならやってみようかなと思ったんです。都会に行くのも好きだけれど、住むのは川俣がいい。川俣のことが好きなんです。友達がたくさん川俣に残っているから。わたしにとってまちの魅力は人の魅力なんです」

相談員の仕事は楽しいという。移住を検討する人は年代も性別も仕事もさまざまで、それぞれに抱えている事情が異なる。そうしたいろんな話を聞くことが面白いのだという。相談者が本当に聞きたいことや知りたいことを把握するのは簡単ではないが、少しずつ慣れてきた。これまで気付いていなかった川俣町の魅力にも、改めて気付かされるようになった。

「川俣町は、四季の移り変わりがはっきりしています。山に囲まれているので、春は桜でいっぱいになり、夏は緑が豊かに繁り、秋には紅葉がきれいで、冬は寒くて田んぼに天然のスケートリンクが作られます」

ずっと川俣町で暮らしてきた菅野さんは、これだけ四季がはっきりしていることが当たり前ではないのだと、相談員の仕事を始めてから知った。

「それから、仕事を通して車で運転する機会も増えたので、今まで知らなかった川俣町のいろんなところに行くようになって、まちのことをたくさん知ることができるようになりました。そんなところもこの仕事の魅力です。福島市にも30分くらいで行けるんですよ。最近はひとりでドライブするのが楽しいです」

あの頃みたいに、まちをもっと賑やかに

川俣町で暮らすメリットは「ちょうどいい田舎暮らし」ができることだと菅野さんは言う。豊かな里山と清流に囲まれて四季を色濃く感じられる土地でありながら、福島市まで車で30分という近さに加え、スーパーやドラッグストアなどが複数あるなど、生活に必要なまちの便利さも持ち合わせている。さらに言えば、世界一長いシャモの丸焼きに挑む「川俣シャモまつり」や国内最大級のフォルクローレ(ラテンアメリカの民族音楽)の音楽祭「コスキン・エン・ハポン」など、まちをあげたユニークなイベントでも賑わう。

コスキン・エン・ハポンのパレードの様子(川俣町提供)

そんな川俣町の魅力を伝えるために、菅野さんは、移住検討者向けに町内ツアーを始めようとしている。

「もともと、川俣の外から来ている同僚向けに『川俣にはこんな場所があるよ』と案内する散歩をしていたんです。それを同僚だけでなく、移住を検討している人に向けてもやれないかなと思って」

菅野さん自身、同僚向けの「散歩」を通して、知らなかったお店や、知ってはいたが訪問したことがなかった場所に足を運び、そうした場所で出会ったまちの人たちと交流することで、まちとの出会いやつながりを増やしてきた。その喜びや面白さを、移住を検討している人や川俣町に興味を持ってくれている人に伝えたいというわけだ。

この11月からは、1泊約2千数百円程度程度で2階建ての戸建に泊まれる「かわまた暮らし体験住宅」の利用もスタートし、気軽に川俣町での移住体験ができるようになった。この施設を利用して、まち歩きツアーを積極的に進めていくつもりだ。


かわまた暮らし体験住宅(川俣町提供)

菅野さんの当面の目標は、川俣町のファンを作ること。

「川俣のことを好きになってくれる人を増やしたいし、地域の人たちがもっとつながるまちになればいいなと思っています。わたしが小学生だった頃は、もっとまちにお店があって、商店街に活気があったイメージでした。あの頃みたいに、まちが賑やかになれば」

東日本大震災から10年以上が経ち、まちの人口は3,000人程度減少しているという。「あの頃」の川俣町を取り戻すのは、決して簡単な仕事ではないだろう。しかし菅野さんは、今の仕事にやりがいを感じている。

「高校生の頃からいろんなバイトを経験したけれど、今の仕事がいちばん大変で、いちばん楽しいです」


菅野優奈(かんの・ゆな)さんプロフィール

現在、川俣町移住・定住相談支援センター相談員。川俣町生まれ、川俣町育ち。
川俣中学校出身、学法福島高等学校卒業。2022年1月から相談員の仕事に携わる。

文/山田宗太朗 写真/鈴木宇宙


◎川俣町コメント

川俣町は、福島県北部の阿武隈山地西斜面の丘陵地帯、県庁所在地の福島市からも車で約30分の四方を富士山が見える北限の山、「花塚山」を代表とする里山に囲まれている、そんな場所にあります。
古くは江戸城御用達の川俣シルクを生産し、明治から昭和にかけて当時の輸出花形商品である「羽二重」を織り出すなど、川俣の絹織物が当時の経済を支えていました。機織旦那衆の娯楽であった闘鶏をルーツとして改良が進められた地鶏「川俣シャモ」は、噛むほどに味わい深く、今では多くの人に愛される特産品となっています。
近年は、電子部品や機械部品の製造業を主力産業とする一方、30年以上続くトルコギキョウや震災後近畿大学の支援のもと栽培を始めた復興の花アンスリウム、また、ミニトマトや川俣シャモなどの一次産業も盛んです。秋には日本最大の中南米音楽の祭典「コスキン・エン・ハポン」が開催され、地元はもとより県内外からたくさんのフォルクローレ愛好家が集い、町中が中南米音楽の活気で溢れます。また、NHK連続テレビ小説「エール」の主人公のモデルとなった昭和の作曲家古関裕而氏が青春時代を過ごした町としても注目されています。これからも川俣町は、受け継いできた独自の伝統や文化を守りつつ、新しいモノを取り入れながら、誰からも選ばれるまちづくりを進めていきます。

◎川俣町への移住のお問い合わせ
移住に関するご相談、お問い合わせは、お気軽に「川俣町移住・定住相談支援センター」までご連絡ください。相談員一同、ご連絡をお待ちいたしております。

・川俣町 移住・定住ポータルサイト【かわまた暮らし】
https://www.kawamata-gurashi.jp

・移住定住相談窓口
川俣町移住・定住相談支援センター
住 所:〒960-1492 伊達郡川俣町字五百田30番地(川俣町役場西分庁舎1階)
TEL:080-7355-2122
メール:iju@kawamata-kurashi.jp


ふくしま12市町村移住支援センター
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世帯最大200万円、単身最大120万円を給付します。
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