高知県 四万十町 地域おこし協力隊 現役隊員 西村咲希さん
活動内容:『土佐大正駅前にぎわい拠点《まちなか案内処》』の運営などによるにぎわい創出
瀬戸内海に面した山口県柳井市に生まれた西村咲希さんは、地元の高校を卒業したあと高知県の大学(環境系の学部)に進学。卒業後は、大阪に本社を置くゼネコンに就職した。1年目は大阪勤務、2〜4年目は東京に転勤し、ゴミ処理場の解体やトンネル工事などの現場監督として働いた。内勤の日もあったが、月の半分以上は建設現場に出向く日々。会社勤めが6年目に入ったとき、このまま東京で働き続けることに疑問を持ち始めたという。
「現場の仕事が好きでした。しかし、毎日通勤電車に1時間ほど揺られて通ううちに、このまま東京にいていいのかなと思い始めました。」
高校時代から「誰かの助けになりたい」と思っていた西村さん。大学在学中は、青年海外協力隊に興味をもっていたという。心の片隅でくすぶっていたその思いに火をつけたのが、高知県の移住セミナーの情報だった。
「学生時代を過ごした、自然豊かで、人も大らかな高知県のことが忘れられませんでした。そこで、〝地域おこし協力隊になって高知に戻ろう〟と決意して、東京で開かれた四国4県の移住セミナーに参加しました。会場では高知県の5団体ほどの自治体職員の方と地域おこし協力隊についての話をしたのですが、四万十町の担当者が、隊員としてのミッションをしっかり伝えてくださり、とてもイメージがよかったことから四万十町への移住を決めました。」
西村さんは2020年6月に四万十町に協力隊として着任。東京ではワンルーム暮らしだったが、四万十町では平屋の一軒家にひとり住まいとなった。
お世話になっている人たちと四万十川に架かる橋で記念撮影
山間部の地域振興から、中心商店街の振興へ
四万十町は、清流として有名な四万十川の中流にある人口16,000人ほどの町である。地域おこし協力隊はこれまでに多数着任し、2022年2月現在、20人の協力隊が活動しているとのこと。西村さんの同期は9人。
「各協力隊に町職員1人が必ず付いてくれて、相談しながら活動できるので戸惑うことはありませんでした。加えて、先輩の協力隊がたくさんいたおかげで、地域の人たちも協力隊のことをよくわかっていてくれて応援してくださいました。」
西村さんのミッションは、四万十町の中央部に位置する大正地域北部にある山間部の地域振興だった。西村さんが着任した2020年は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で色々なイベントが中止となったが、地元神社の伝統行事など、実施されるものもあった。西村さんは、そうした地元行事の模様をSNSで情報発信した。また、山中を流れる川で釣ったアマゴを料理して地域に配ったり、森の中でハーブを使ったサウナ体験会を実施するなど、新しい体験プログラムの開発のために、自ら山間部の暮らしを体験し、地域の人たちと交流した。
2年目の2021年4月からは、大正地域の中心部にある商店街の振興を担当することになった。JR予土線の土佐大正駅前に広がる商店街で、空き店舗も増えているが、現在も飲食店、履き物店、電気店など10軒ほどが営業しているという。
「私は、商店街の入口にある『土佐大正駅前にぎわい拠点《まちなか案内処》』の運営を担当しています。ここは7年ほど前にオープンした施設で、観光案内所、休憩所を兼ねたにぎわいづくりの拠点です。隣には4年前に協力隊OBがゲストハウスを開業しました。私は、拠点で接客などを担当しながら、商店街全体の活性化をめざしてイベントの企画や運営などを行っています。」
左)西村さんが運営を任されている「土佐大正駅前にぎわい拠点《まちなか案内処》」の内部
右)年末には手作りした門松を《まちなか案内処》に飾る。中央が西村さん
駅と写真映えするスポットで若者を呼べないか
かつて林業で栄えていた大正地域のシンボルは土佐大正駅の駅舎だ。木製の美しい三角屋根を一目見たいと、観光客が1日上下線で8本しか運行しない列車や車を使って駅舎を訪れる。ここに来てすぐの大型連休には、駅前広場で3日間限定の軽食を販売した。
「駅を利用する観光客に、さっと買って食べられるものをということで企画しました。販売したのは地元のおかあさんの手作りパン、私が作ったおにぎり、移住者の方が淹れるコーヒーの3種類でしたが、列車の利用客とともに、駅前を車で通る人たちにも好評でした。」
そのほか西村さんが、「これまでになかったことができないか」と考えて実現したのが、写真映えするスポットづくりだ。
「若い人たちが来て撮った写真をSNSで拡散してくれることを狙って、駅前の駐輪場の壁に、150本の風車を飾りました。大正地域の公園にある石でできた大きな風車からヒントを得ました。カラフルな風車が好評で、たくさんの方に来ていただきました。」
駅舎は四万十町役場の管理になっていることから、列車の運行の妨げにならない範囲であれば自由に使うことができる。構内には協力隊の先輩が地元の子どもたちと描いた絵も飾られ、楽しいスペースになりつつある。西村さんは、かつて売店だったスペースを期間限定のカフェとして活用できないか思案中だという。
左)三角屋根が美しい土佐大正駅の外観。西村さんは駅舎をさまざまなかたちで活用したいと考えている
右)風車を飾るベース部分は仲間たちと1ヶ月かけて作った
自分の中から湧き上がってくるものを大事にしたい
四万十町内の窪川地域と大正地域では、それぞれが隔月で地域マルシェを開いている。西村さんも着任1年目から、このマルシェでお菓子やおにぎりなどを出品して、いずれオープンしようと思っているカフェの商品づくりの参考にしているという。
「協力隊1年目は、成果を出さなければと必死でした。でも2年目に入った頃から、自分の中から湧き上がってくる気持ちを大事にして、楽しみながらやろうと思えるようになりました。任期終了後は、協力隊で学んだことを活かし、学生時代からの〝誰かの助けになれたら〟という思いをここで形にしたいと思います。」
隔月で開いている地域マルシェでは、西村さんが作るスイーツのほか、おにぎりも販売している。
高知県 四万十町 地域おこし協力隊 現役隊員
西村咲希さん
1992年、山口県柳井市生まれ。大学時代を高知県で過ごし、卒業後は大阪府の建設会社に就職したが、東京に転勤後に都会でのライフスタイルに疑問を持ち、大学時代に過ごした高知への移住を決めた。2020年6月、高知県四万十町に地域おこし協力隊として着任。JRローカル線の駅前にある「まちなか案内処」で、地元商店街のにぎわい創出に取り組んでいる。
四万十町地域おこし協力隊 大正 https://www.facebook.com/shimantotaisho.nigiwai
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省